Soranoha

ひとつ目、ふたつ目、三つ目

ひとつめ、ふたつめ、みつめ

グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール、グリム ヴィルヘルム・カール

昔 むかし、ひとりの女の人がいました。この人には、三人の娘むすめがありました。

いちばん上の娘は、ひたいのまんなかに、目がひとつしかありませんでした。それで、みんなから、ひとつ目、とよばれていました。

二番めの娘は、ふつうの人間とおなじように、ふたつの目をもっていました。それで、ふたつ目、とよばれていました。

いちばん下の娘は、目が三つありました。それで、三つ目、とよばれていました。この娘の三番めの目は、やっぱり、ひたいのまんなかにくっついていました。

さて、ふたつ目だけは、ちょっと見たところ、ほかの人間とすこしもかわりありません。それで、きょうだいからも母親からも、きらわれていました。みんなは、ふたつ目に向むかって、しょっちゅう、こういうのです。

「おまえは、なんだい。目がふたつあって、まるで、いやしい人間どもとおんなじじゃないの。あたしたちのなかまじゃないよ。」

こういっては、みんなで、ふたつ目をいじめるのです。着きるものも、ひどい服ふくしかやりませんし、食べるものも、自分たちの食べのこしたものしか、やらないのです。こうして、みんなは、ふたつ目にひどいことばかりしました。

あるときのことです。ふたつ目は、野原にでてやぎの番をするように、いいつかりました。けれども、おなかがすいてたまりません。むりもないのです。姉さんも妹も、ほんのわずかの食べものしかやらないのですからね。

ふたつ目は畑の畦あぜにすわって、しくしく 泣なきだしました。ふたつの目から、涙なみだがあふれてきました。やがて、涙はふたつの小川となって、ながれ落おちました。泣き悲かなしみながら、ふたつ目は、ふと 目をあげてみました。すると、すぐそばに、ひとりの女の人が立っています。

「ふたつ目や。おまえ、なにを泣いているの。」と、その女の人がたずねました。

ふたつ目は答えました。

「だって、泣かずにはいられませんもの。あたしはふつうの人間とおなじように、目がふたつあります。それで、姉さんからも妹からも、お母さんからもきらわれて、みんなにいじめられてばかりいるんです。それに、着きるものもお古しかもらえませんし、食べるものだって、みんなの食べのこしたものしかもらえないんです。今日なんて、あんまりすこしでしたから、おなかがすいてすいてたまらないんです。」

すると、その女の人がいいました。

「ふたつ目や、涙なみだをおふきなさい。わたくしがいいことを教えてあげますから、これからは、そんなに、おなかがすいてたまらないようなことはないでしょう。

おまえのやぎに、こういいなさい。『メエメエ やぎさん、テーブルだして』。

そうすれば、きれいな布のかかったテーブルが、すーっと、おまえのまえにでてきますよ。テーブルの上には、びっくりするほどおいしいごちそうが、たくさんたくさん、ならんでいます。おまえは、それをおなかいっぱい、食べていいんですよ。そして、食べ終おわったら、『メエメエ やぎさん、テーブルさげて』と、いいなさい。

そうすれば、テーブルは、すーっと消きえてなくなりますからね。」

こういい終わると、女の人の姿すがたは消えてしまいました。

(あの女の人のいったことは、ほんとかしら。まあ、いいわ。ためしてみよう。だって、おなかがすいてたまらないんですもの。)

ふたつ目はこう考えて、女の人のいったとおりに、いってみました。

「メエメエ やぎさん、テーブルだして」

と、どうでしょう。こう、いい終わるかいい終わらないうちに、もう、白い布のかかったテーブルが、目のまえにあらわれたではありませんか。テーブルの上には一枚のお皿さらがのっていて、それに、ナイフと、フォークと、銀ぎんのスプーンがついています。そして、そのまわりには、見たこともないようなすてきなごちそうが、どっさりならんでいます。そのごちそうはまだあたたかで、ホカホカと湯気ゆげをたてています。まるで、たった今、台所からもってきたみたいです。ふたつ目は、自分の知っているお祈いのりのなかで、

「神さま。いつでも、わたしたちのお客きゃくさまになってくださいませ。アーメン。」

という、いちばん短みじかいお祈りを、おおいそぎでとなえました。

そして、さっそく、そのごちそうにかぶりつきました。

おなかがいっぱいになると、ふたつ目は、女の人におそわったとおり、

「メエメエ やぎさん、テーブルさげて」

と、いいました。

とたんに、テーブルも、それから、テーブルの上にのっていたものも、すーっと消きえてしまいました。(まあ、なんて、すてきなお給仕きゅうじぶりでしょう。)と、ふたつ目は思いました。もう、うれしくてうれしくて、にこにこしていました。

日が暮くれてから、ふたつ目は、やぎをつれて帰ってきました。せともののお皿さらに、ふたつ目の食事がはいっていました。姉さんと妹がいれておいてくれたのです。でも、今日は、ふたつ目は、それに手をつけませんでした。

あくる日も、ふたつ目は、また、やぎをつれて野原にでました。お弁当べんとうにもらってきた、パンのきれっぱしには手をつけないで、そのままにしておきました。

いちどめも、二どめも、姉さんと妹は気がつきませんでした。でも、そういうことがたびたび重かさなると、とうとう、みんなも気がついて、

「ふたつ目ったら、へんねえ。ごはんにちっとも手をつけないわ。今までは、やったものは、なんでも食べてしまったのに。なにかいいものを見つけて、どこかで食べてるのにちがいないわ。」

と、いいました。

こう思うと、ふたりとも、ほんとうのことを知りたくてなりません。

「そうだわ。ふたつ目が、こんど、やぎを野原につれていくとき、あたしがいっしょについていく。」と、ひとつ目がいいました。

ひとつ目は、よく見はっていて、野原でふたつ目がなにをするか、そしてだれか、飲のみものや食べものを、もってきてくれる人がありはしないか、見ていようというのです。

ふたつ目が、いつものように野原にでかけようとすると、ひとつ目がそばによってきて、

「あたしも、野原へいっしょに行くよ。おまえがちゃんとやぎの番をして、草をたくさん食べさせているかどうか、見ていてやるよ。」と、いいました。

けれども、ひとつ目がおなかのなかでなにを考えているかは、ふたつ目には、ちゃんとわかっていました。それで、ふたつ目は、やぎを、たけの高い草むらのなかに追おいこんでおいてから、

「ねえ、ひとつ目姉さん。ここにすわりましょうよ。あたし、なにか歌をうたってあげるわ。」

と、いいました。

ひとつ目は腰こしをおろしました。なれない道を歩いたうえに、お日さまにかんかん照てりつけられたので、すっかりくたびれて、ねむくなっていました。ふたつ目は、

「ひとつ目ねえさん、おきてるの。

ひとつ目ねえさん、ねているの」

と、くりかえしくりかえし、うたいました。そのうちに、ひとつ目は、たったひとつしかない目をとじて、ぐうぐう 寝ねてしまいました。こうなれば、もうなにをしても、見つけられる心配しんぱいはありません。そこで ふたつ目は、

「メエメエ やぎさん、テーブルだして」

と、いいました。そして、でてきたテーブルの上のごちそうを、おなかいっぱい、食べたり飲のんだりしました。それから、

「メエメエ やぎさん、テーブルさげて」

と、いいました。すると、あっというまに、なにもかも消きえてしまいました。

そこで、ふたつ目は、ひとつ目を起おこして、いいました。

「ひとつ目姉さん、あなたはやぎの番をするっていってたのに、ねむってしまったのね。これじゃ、やぎはどこへでもにげられるわよ。もう ぼつぼつ、うちへ帰りましょうよ。」

それから、ふたりはうちへ帰りました。ふたつ目は、今日も、お皿さらには手をつけませんでした。でも、ひとつ目には、ふたつ目がどうしてごはんを食べようとしないのか、わけがわかりません。ですから、ひとつ目は、母親になんにも話すことができませんでした。それで、いいわけをして、

「あたし、野原でねむってしまったの。」と、いいました。

あくる日、母親は、こんどは三つ目にむかって、

「今日は、おまえがいっしょにお行き。ふたつ目が、外でなにか食べるかどうか、そうして、だれか食べものや飲みものをもってきてやるかどうか、よく気をつけて見ているんだよ。こっそり食べたり飲んだりするのに、きまっているんだから。」と、いいました。

そこで、三つ目は、ふたつ目のところへ行って、

「今日は、あたしがいっしょに行くわ。あんたがちゃんとやぎの番をして、草をたくさん食べさせているかどうか、見ているわ。」と、いいました。

けれども、三つ目がおなかのなかで考えていることぐらい、ふたつ目には、ちゃんとわかっています。それで、やぎを、たけの高い草むらのなかに追おいこんでおいてから、

「ねえ、三つ目ちゃん。ここにすわろうよ。あたし、なにかうたってあげるわ。」と、いいました。

三つ目は腰こしをおろしました。うんと歩いたうえに、お日さまに照てりつけられたので、すっかりくたびれて、ねむくなっていました。

ふたつ目は、また、このまえとおなじ歌をうたいはじめました。

「三つ目ちゃん、おきてるの」

ところが、そのつぎに、

「三つ目ちゃん、ねているの」

と、うたわなければいけないのに、つい、うっかりして、

「ふたつ目ちゃん、ねているの」

と、うたってしまいました。そして、それを、なんどもなんども、くりかえして、

「三つ目ちゃん、おきてるの。

ふたつ目ちゃん、ねているの」

と、うたいつづけました。

それを聞いているうちに、三つ目の、三つある目のうち、ふたつはまぶたが合あわさって、ねむってしまいました。ところが、三番めの目だけは、おまじないをかけられなかったものですから、ねむりませんでした。けれども、三つ目は、この目もつぶって、ねむっているようなふりをしました。でも、それは三つ目のはかりごとだったのです。ほんとうは細ほそく目をあけて、なにもかも、ちゃんと見ていたのでした。

ふたつ目のほうでは、三つ目が、ぐっすり寝ねてしまったものと思いました。そこで、いつもの文句もんくをとなえました。

「メエメエ やぎさん、テーブルだして」

ふたつ目はテーブルに向むかって、すきなだけ、食べたり飲のんだりしました。それから、こんどは、テーブルが消きえてなくなるように、

「メエメエ やぎさん、テーブルさげて」

と、いいました。

ところが 三つ目は、なにからなにまで、すっかり見ていたのです。それから、ふたつ目は、三つ目のところへ行って、三つ目を起おこして、いいました。

「まあ、三つ目ちゃんたら、寝ねてしまったの。さぞ、いい番ができたでしょうねえ。さあ、もううちへ帰りましょうよ。」

こうして、ふたりは家に帰りました。ふたつ目は、今日もまた、なんにも食べません。それを見て、三つ目は母親にいいました。

「あのなまいきなやつが、どうして、なんにも食べないのかわかったわ。あいつったら、野原へ行くとね、やぎにむかって、『メエメエ やぎさん、テーブルだして』っていうのよ。そうすると、すーっとテーブルがあらわれてくるわ。そのテーブルには、びっくりするくらいのごちそうが、いっぱいならんでるのよ。うちで食べるものなんか、くらべものにもならないわ。

それから、おなかがいっぱいになると、こんどは、『メエメエ やぎさん、テーブルさげて』っていうの。そうすると、みんな消きえてなくなっちまうわ。あたし、ちゃあんと見たんだから。

あいつにおまじないをかけられて、ふたつの目はねむったの。でも、いいぐあいに、ひたいのまんなかの目だけは、ねむらずにいたのよ。」

それを聞くと、母親はねたましい気持ちでいっぱいになりました。で、思わず、

「おまえって子は、あたしたちよりも楽らくをしようってのかい。そんなお楽しみをいつまでもさせるもんか。」と、どなりつけました。

母親は、すぐさま、牛や羊ひつじをころす包丁ほうちょうをもってきて、やぎの心臓しんぞうめがけて、ぐさりとつきさしました。やぎはばったりたおれて、死しんでしまいました。それを見ると、ふたつ目は、悲かなしくて悲しくてたまりません。表おもてにでていって畑の畦あぜにすわって、わあわあ 泣なきだしました。

すると、いつかの女の人が、ふいに目のまえにあらわれてきて、

「ふたつ目や。なにを泣いているの。」と、たずねました。

「だって、泣かずにはいられませんもの。あなたの教えてくださった文句もんくをとなえますと、あのやぎさんは、毎日 毎日、おいしいごちそうをだしてくれたんですよ。それなのに、そのやぎさんが、お母さんにころされてしまったんですもの。あたし、これからはまた、おなかがすいてすいて、つらい思いをしなくちゃなりません。」

と、ふたつ目は答えました。すると、女の人がいいました。

「ふたつ目や。それでは、あたしがいいことを教えてあげましょう。姉さんと妹にたのんで、ころされたやぎの腹はらわたをもらっておいで。そして、それを、門のまえの地面じめんのなかにうめなさい。そうすれば、今に、しあわせになれますよ。」

こういうと、女の人の姿すがたは消えてしまいました。

そこで、ふたつ目はうちに帰ると、姉さんと妹にむかって、

「ねえ、お願ねがい。あたしのやぎのどんなところでもいいから、すこしわけてちょうだい。いいところでなくてもいいわ。腹わただけでいいのよ。」と、いいました。

それを聞くと、姉さんも妹も、にやにやわらって、

「そんなものだけでいいんなら、やるよ。」と、いいました。

こうして、ふたつ目は腹わたをもらいました。そして、夜になると、女の人から教おそわったとおりに、こっそり門のまえにうずめました。

あくる朝、みんないっしょに起おきました。みんなで門の外へでてみますと、これはまた、どうしたというのでしょう。それはそれはふしぎな美うつくしい木が一本、はえているではありませんか。銀ぎんの葉はがしげっていて、葉のあいだからは、金のりんごが、キラキラ 光っています。きっと、世界じゅうさがしてみても、こんなに美しくて、尊とうといものはないでしょう。

けれども、こんなところに、こんなりっぱな木が、どうして、ひと晩ばんのうちにはえたのでしょう。だれにも、わけがわかりませんでした。ただ、ふたつ目だけは、その木がやぎの腹はらわたからはえでたのに、気がつきました。なぜって、その木のはえているところは、ちょうど ふたつ目が、腹わたをうずめたところでしたもの。そのとき、母親がひとつ目に向むかって、

「おまえ、ちょっとのぼって、あの実みをとってきておくれ。」と、いいました。

ひとつ目は、さっそく、木にのぼっていきました。ところが、その金のりんごをつかもうとすると、枝えだが、するっと 手からにげていってしまいました。なんどもなんども、やってみましたが、いくらやってもおんなじです。どんなに体をひねってみても、手をのばしてみても、どうしても、りんごはひとつもとれないのです。

そのようすを見ると、母親は、こんどは三つ目に向かって、

「三つ目や。こんどは、おまえがのぼってごらん。おまえなら目が三つもあるから、ひとつ目よりは、まわりがよく見えるだろう。」と、いいました。

そこで、ひとつ目がすべりおりてきて、かわりに、三つ目がのぼっていきました。でも、三つ目も、やっぱり うまくいきません。三つ目が、どんなにねらいをつけても、金のりんごは、にげていってしまうのです。

とうとう、母親はがまんできなくなって、自分で木にのぼっていきました。けれども、母親も、ひとつ目や三つ目とおんなじです。どうしても、りんごをつかむことができません。

そのとき、そばから、ふたつ目が、

「こんどは、あたしがのぼってみるわ。もしかすると、うまくいくかもしれないから。」

と、いいました。

それを聞くと、姉さんと妹は、

「ふたつ目のおまえなんかに、なにができるもんかい。」と、大きな声でいいました。

でも、ふたつ目は、かまわずにのぼっていきました。と、どうでしょう。金のりんごは、にげるどころではありません。向こうからひとりでに、ふたつ目の手のなかに、はいってくるではありませんか。ふたつ目は、それをつぎつぎともぎとりました。そして、まえかけをいっぱいにして、おりてきました。ところが、母親は、それをみんなとりあげてしまいました。

ほんとうなら、これだけのことをしたのですから、母親もひとつ目も三つ目も、みんなで、このかわいそうなふたつ目を、まえよりも、大事だいじにしてやらなければなりません。それなのに、ふたつ目だけが、りんごをうまくとることができたものですから、ねたましくてたまらないのです。それで、みんなは、まえよりももっと、ふたつ目をいじめるようになりました。

ある日、みんながいっしょに、この木のそばに立っていました。すると、ひとりの若わかい騎士きしが、通りかかりました。

「ふたつ目、早く 早く、その下におはいり。おまえがいると、あたしたちが恥はじをかくじゃないの。」

ふたりのきょうだいは、こうさけぶと、木のそばにあった空あきだるを、おおいそぎで、ふたつ目の頭の上に、すっぽりとかぶせてしまいました。そして、ふたつ目がもいでおいた金のりんごも、いっしょに そのなかへおしこみました。

まもなく、騎士が近づいてきました。見ると、それはそれはりっぱな人でした。騎士は馬をとめて、金と銀ぎんとでキラキラしている美うつくしい木を、うっとりとながめていました。それから、ふたりのきょうだいに向むかって、

「この美しい木はだれのものかね。わたしに、これをひと枝えだ折おってくれれば、ほしいものをなんでも、お礼れいにあげよう。」と、いいました。

すると、ひとつ目と三つ目は、すぐに、

「この木はあたしたちのものでございます。ひと枝折ってさしあげましょう。」と、答えました。

ふたりは、すぐに枝を折ろうとしました。ところが、ふたりが、いっしょうけんめい、枝やりんごをつかまえようとしても、そのたびに、枝もりんごもにげていってしまうのです。どうしても、折りとることができません。そのようすを見て、

「この木は、おまえたちのものだということだが、おまえたちに、枝ひとつ折れないというのは、まことにふしぎだな。」と、騎士はいいました。

それでも、ふたりのきょうだいは、

「この木はあたしたちのものでございます。」と、いいはりました。

ところが、ふたりがこんなことをいっているとき、ふたつ目が、たるの下から、金のりんごをふたつ、三つ、外へころがしました。りんごは、騎士の足もとへ、ころころと ころがっていきました。ひとつ目と三つ目がうそばかりついているので、ふたつ目がおこって、こんなことをしたのです。

りんごを見ると、騎士はびっくりして、たずねました。

「そのりんごは、どこからころがってきたのかね。」

ひとつ目と三つ目は、

「じつは、あたしたちには、もうひとり きょうだいがおります。ただ、そのものは、ほかのいやしい人間とおなじように、目がふたつしかございません。それで、お目にかけるわけにはまいらないのです。」と、答えました。

けれども騎士きしは、そのふたつ目に、ぜひ会あいたいと思いました。それで、

「ふたつ目や。でてきなさい。」と、よびました。

その言葉を聞くと、ふたつ目は安心あんしんして、たるのなかからでてきました。

騎士は、ふたつ目がたいそう美うつくしいのにびっくりして、

「ふたつ目、おまえなら、この木の枝えだを、折おってくれることができるだろうね。」と、いいました。

「はい、折ってさしあげることができると思います。この木はあたくしのものでございますから。」と、ふたつ目は答えて、木にのぼりました。

そして、美しい銀ぎんの葉はと、金の実みのついている枝を一本、折ってきて、騎士にわたしました。

そこで、騎士はいいました。

「ふたつ目や。お礼れいには、なにをあげようかね。」

「あたくしは、朝早くから夜おそくまで、おなかがすいて、のどがかわいてたまりません。そのうえ、苦くるしみと悲かなしみの、絶たえたことがございません。もしも、あなたさまがあたくしをおつれくださって、この苦しみからすくってくださいますなら、どんなにかうれしゅうございます。」

と、ふたつ目は答えました。

そこで、騎士はふたつ目をだきあげて、自分の馬にのせ、父親のお城しろにつれて帰りました。

騎士は、ふたつ目に美しい服ふくを着きせ、すきなだけ、食べたり飲のんだりさせました。そればかりではありません。ふたつ目を、すっかり すきになりましたので、ふたつ目と結婚けっこんすることにしました。やがて、ふたりのご婚礼こんれいの式しきがあげられました。だれもかれも おおよろこびでした。

さて、ふたつ目が、美しい騎士につれられていったのを見ると、姉さんと妹は、もう、ふたつ目のしあわせがうらやましくてなりません。

(でも、いいわ。まだ、あのふしぎな木がのこっているんだもの。あの金の実をとることはできないけれど、みんながあの木のまえに立ちどまって、それから、あたしたちのところへやってきて、ほめてくれるわ。今に、あたしたちにだって、運うんが向むいてくるかもしれないわ。)と、ふたりは考えました。

ところが、あくる朝になってみますと、どうでしょう。その木はかげもかたちもないのです。これで、ふたりののぞみは、だめになってしまいました。

一方いっぽう、ふたつ目は、自分の小さな部屋へやから、表おもてをながめました。と、その木が、お部屋のまえにはえているではありませんか。ふたつ目は、うれしくて、思わずとびあがりました。その木は、ふたつ目のあとに、ついてきたのでした。

ふたつ目は、ながいこと、しあわせに暮くらしました。

あるとき、みすぼらしい女がふたり、ふたつ目のお城しろへやってきました。女たちは、

「なんでも、けっこうです。どうか、おめぐみください。」と、お願ねがいしました。

ふたつ目は、ふと、その顔をながめました。と、どうでしょう。自分の姉さんのひとつ目と、妹の三つ目ではありませんか。ふたりは、今は、すっかり落おちぶれていました。そこらを歩きまわっては、人の家のお勝手かってで、食べものを、めぐんでもらわなければならない身みの上に、なっていたのです。

でも、心のやさしいふたつ目は、ふたりを、よろこんでむかえました。そして、いろいろと親切しんせつに、世話せわをしてやりました。ですから、姉さんも妹も、若わかいころ、ふたつ目に、さんざんひどいことをしたのを、心から後悔こうかいしました。

底本 / Source edition

底本:「グリムの昔話(2)林の道編」童話館出版
2000(平成12)年12月10日第1刷発行
2015(平成27)年5月20日第15刷発行
底本の親本:「グリム童話全集 10 かえるの王さま」実業之日本社
1964(昭和39)年
入力:sogo
校正:木下聡
2024年5月11日作成
青空文庫作成ファイル:
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TEI
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プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール、グリム ヴィルヘルム・カール「ひとつ目、ふたつ目、三つ目」(新字新仮名)、底本『グリムの昔話(2)林の道編』童話館出版、2000年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 061554_001091, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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