Soranoha

土をまるくもった おはか

つちをまるくもった おはか

グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール、グリム ヴィルヘルム・カール

ある日、お金かねもちのお百ひゃくしょうさんが 庭にわにでて、じぶんの麦むぎばたけや くだものばたけを、ながめていました。

麦むぎは、すくすく のびています。くだものは、木に すずなりになっています。やねうらのものおきには、きょねん とりいれた麦むぎが、山のようにつまれています。はりが、ささえきれないくらいです。

お百ひゃくしょうは、こんどは かちく小屋ごやにはいっていきました。なかには、よくふとったお牛うしもいます。あぶらののっため牛うしもいます。かがみのように つやつやした馬うまもいます。

おしまいに、お百ひゃくしょうは、じぶんのへやにもどってきました。こんどは、そこに、いくつもおいてある 鉄てつのはこをながめました。そのはこのなかには、お金かねがはいっているのです。

お百ひゃくしょうが、こうして そこにたって、じぶんのもっているものを、うれしそうにながめていたときです。きゅうに、とんとんと、はげしく 戸とをたたく音おとがきこえました。

でも、それは、へやの戸とを たたく音おとではありません。お百ひゃくしょうの心こころの戸とを、たたく音おとだったのです。心こころの戸とは、すぐに あきました。

おやっ、だれかが お百ひゃくしょうによびかける声こえが、きこえます。

「おまえは、そんなに たくさんのものをもっていながら、それをつかって、うちのものに しんせつにしてやったことがあるかね。

まずしい人たちがこまっているときに、たすけてやったことがあるかね。おなかのへっている人に、じぶんのパンを わけてやったことがあるかね。

おまえは、じぶんのもっているものだけで、まんぞくしていたかね。それとも、もっともっと ほしいと、おもったかね。」

お金かねもちの心こころは、たちどころに、こう こたえました。

「わたしは、なさけしらずの ひどい男でした。うちのものにも、いちども よいことをしてやったことは、ありません。まずしい人がくると、そっぽをむいてしまいました。

神かみさまのことは、かんがえたこともありません。ただ、じぶんのものをふやそうとして、むがむちゅうでした。この世よの中のものが、ぜんぶ、わたしのものだったとしても、まだまだ たりないような気きもちだったでしょう。」

お百ひゃくしょうは、この心こころのへんじをきくと、すっかり こわくなりました。ひざが、がたがた ふるえてきました。もう、たってはいられません。その場ばに、べったり すわりこんでしまいました。

そのとき、またもや、とんとんと 戸とをたたく音おとがしました。

でも こんどは、へやの戸とをたたく音でした。

おとなりの人がやってきたのです。その人はびんぼうでした。ところが、子どもがたくさんいるので、今いまは、その子どもたちに、ごはんも ろくろく たべさせてやることができない ありさまでした。

(おとなりは金かねもちだ。しかし、なさけをしらない男だ。それは、おれも ちゃんと しっている。たぶん、おれをたすけてはくれないだろう。しかし、うちの子どもたちは、パンをほしがって ないている。しかたがない。おもいきって たのんでみよう。)

びんぼうな人は、こう かんがえて、お金かねもちのところへ やってきたのです。

「あなたは、ごじぶんのものを、そうかんたんには くださらないかたです。しかし、わたしは、もう、どうにも ならなくなっているのです。子どもたちは はらぺこでいます。どうか、麦むぎを六キログラムばかり、かしてください。」

と、びんぼうな人はたのみました。

お金かねもちは、ながいこと、まずしい男の顔かおをみつめていました。

そのうちに、お金かねもちの心こころのなかに、ようやく やさしいお日さまのひかりが、さしてきました。けちんぼでかたまっていた 心こころのこおりが、ひとしずくずつ とけはじめたのです。

「おまえに、たった 六キログラムばかりかすのは、ごめんだよ。十二キログラムなら、ただであげよう。そのかわり、ひとつ たのみがあるがね。」

と、お金かねもちはこたえました。

「どんなことをすれば いいんですか。」

と、まずしい男はたずねました。

「わたしが死しんだら、わたしのおはかで、三ばんのあいだ 番ばんをしてもらいたいんだよ。」

お金かねもちから、こう いわれると、びんぼうなお百ひゃくしょうさんは、なんだか うすきみわるくなりました。でも、今いまは、こまりきっているのです。なんでも しょうちするよりほか、ありません。

びんぼうなお百ひゃくしょうさんは、お金かねもちのいうとおりに やくそくをして、麦むぎをもらって、家いえにかえりました。

お金かねもちは、まるで、さきにおこることを、ちゃんと しっていたみたいです。

三日みっかたつと、ぽっくり 死しんでしまったのです。どうして、そんなに きゅうに 死しんだのかは、だれにもわかりませんでした。でも、お金かねもちのために かなしむ人は、ひとりもありませんでした。

お金かねもちが おはかにうめられたとき、びんぼうな男は、あのやくそくのことをおもいだしました。できれば、そんなやくそくは とりけしにしてもらいたいところです。

でも、まずしい男は、こう かんがえました。

(あの人は、わたしには しんせつにしてくれた。あの人が麦むぎをくれたから、はらぺこの子どもたちも、おなかいっぱい たべられたんじゃないか。それに、そういうことがなくても、いったん やくそくしたことは、どこまでも まもらなくちゃいけない。)

日がくれると、びんぼうな男は、ぼちへでかけていきました。そして、土をまるくもった おはかの上に、こしをおろしました。あたりは、しーんと しずまりかえっています。ただ、お月つきさまが、おはかをてらしているばかりです。

ときどき、ふくろうが そばをとんでは、かなしそうな声こえでないています。

お日さまがのぼると、まずしい男は、なにごともなく ぶじに 家いえにかえってきました。

二日ふつかめのばんも、おなじように、おだやかにすみました。

三日みっかめのばんは、おはかへいかないうちから、なんだか、気きにかかってしかたがありません。どうも、なにか わるいことがおこりそうなのです。

おはかにいってみると、ぼちのへいのところに、みたこともない男が ひとり、たっていました。男は、もう わかくはありません。顔かおには、きずあとがいっぱいあります。目はするどく、火のようにもえていて、あたりを ぎろぎろ にらみまわしています。男は、ふるいマントを すっぽり かぶっています。足あしにはいている、馬うまにのるときの ながぐつだけしかみえません。

「おまえさん。そんなところで、なにをさがしているんだね。こんな さびしいぼちにいて、こわくはないのかい。」

と、びんぼうなお百ひゃくしょうさんは、その男にはなしかけました。

「なにもさがしちゃいない。だが、なにもこわくもない。ほれ、わかい男が、ぞっとすることをおぼえたくて たびにでたが、けっきょくは むだだったって はなしがあるだろ。おれは、そのわかい男みたいなもんさ。

もっとも、そのわかいのは、王おうさまのおひめさまを およめさんにもらって、おまけに、ものすごくたくさんの金かねも 手にいれたが、おれのほうは、年ねんから年ねんじゅう びんぼうさ。じつをいや、おれは、これでも、もとは へいたいだった。こんやは、よそへいってもとまるところがないから、ここで 夜よをあかそうってわけさ。」

と、その へいたいだったという男は、こたえました。

「おまえさん。こわくないんなら、おれは、これから あのおはかの番ばんをするところだが、そばにいて 手つだってくれないかい。」

と、まずしいお百ひゃくしょうさんはいいました。

「番ばんをするのは へいたいのやくめだ。ようし、いいことだろうと わるいことだろうと、たとえ なにがおこっても、ふたりでいっしょに ひきうけようぜ。」

と、へいたいはこたえました。

「たのんだぜ。」

びんぼうなお百ひゃくしょうさんは、こう いって、へいたいといっしょに、おはかの上にこしをおろしました。あたりは、しーんと しずまりかえっていました。

ところが、まよなかになると、きゅうに、ヒューヒュー という すさまじい音おとが、空そらになりひびきました。と、おもうまもなく、番ばんをしているふたりの目のまえに、あくまが、すがたをあらわしました。

「やい。そこをどけ ごろつきども。そのはかのなかにいるやつは おれのものだ。おれは、そいつをつれにきたんだ。どかないと、きさまの首くびったまを ねじるぞ。」

と、あくまは、ふたりに どなりつけました。

「おっと まった。赤あかい羽はねのだんなよ。あんたは、おれの隊長たいちょうじゃあない。だから、あんたのいうことなんか きかなくってもいいのさ。いいか、おれはな、こわいってことをしらない男だ。さあ、とっとと かえんな。おれたちゃ、ここにすわったがさいご、うごかないんだからな。」

と、へいたいはいいました。

(こいつらみたいな くずどもには、金かねをやるのがいちばんいい。)

と、あくまはかんがえました。そこで、きゅうに、ことばをやさしくして、いかにもなれなれしそうに さそいかけました。

「おまえさんたち。さいふにいっぱい 金貨きんかをいれてあげるから、それをもらって、うちへかえったら どうだい。」

「ふん、なるほど。だが、さいふにいっぱいの金貨きんかくらいじゃ しようがない。おれのながぐつのかたっぽうに はいるだけの金貨きんかを、くれるっていうんなら、おとなしく ひきあげてもいい。」

と、へいたいはこたえました。

「そんなに たくさんの金貨きんかは、今いま、ここにもっていない。しかし、とってこよう。となりの町まちに、金かねをとりかえるのを しょうばいにしている男がいる。そいつは、おれの友ともだちで なかよしだから、きっと、それくらいの金貨きんかなら だしてくれるだろう。」

と、あくまはいいました。

あくまが すがたをけすと、へいたいは、左ひだりのながぐつをぬいで、いいました。

「おい、あの炭すみやきやろうを うまく やっつけてやろうぜ。とっつぁん、おまえさんのナイフを かしてくれよ。」

へいたいは、ながぐつのそこを ナイフできりとりました。それから、ながぐつを、おはかのそばの、草ぼうぼうの みぞのふちにおきました。

「これで よしと。さあ、えんとつそうじやろうめ。いつでもこい。」

と、へいたいはいいました。

ふたりは、そこに こしをおろして、まっていました。まもなく、あくまがやってきました。みると、手てに、金貨きんかをいれた 小さなふくろをもっています。

「さあ、このなかに、ざーっと あけてくれよ。」

へいたいは、こう いいながら、ながぐつを、ちょっと もちあげました。そして、

「だがな、それだけじゃ たりないだろうぜ。」と、つけたしました。

あくまは、ふくろがからになるまで、金貨きんかを ながぐつのなかにあけました。ところが、金貨きんかは、ながぐつをするりとぬけて、どんどん 下におっこちてしまいます。ながぐつは、いつまでたっても からっぽです。

「まぬけあくまめ。そうれ たりない。たった今いま、おれがいったばかりじゃないか。もういっぺん ひきかえして、もっと たくさん とってきな。」

と、へいたいはどなりつけました。

あくまは、へんだなあ というように、頭あたまをふりました。けれども、また、どこかへいきました。一じかんばかりして、あくまはもどってきました。みると、こんどは、さっきのよりも ずっと 大きなふくろを、うでにかかえています。

「さあ、いっぱいいれな。だが、それだけじゃ、ながぐつはいっぱいになるまいよ。」

と、へいたいはどなりました。

金貨きんかは、チャリン チャリン 音おとをたてて、ながぐつのなかにながれこみました。ところが、ながぐつは、いつまでたっても からっぽです。あくまは、火のような目を ギョロギョロさせて、じぶんで、ながぐつのなかをのぞいてみました。

と、どうでしょう。ほんとうに からっぽです。

「おまえは、とんでもなく でかい足あしをしているんだなあ。」

と、さけんで、口をゆがめました。

「それじゃ おまえは、おれも、じぶんとおんなじに 馬うまの足あしをしている、とおもってるのか。いったい おまえは、いつから そんなに けちんぼになったんだ。さあ、もっと金貨きんかをもってきな。でなきゃ、このとりひきはやめにするぞ。」

と、へいたいはいいました。

あくまは、またも、ちょこちょこ はしっていきました。こんどは、なかなか もどってきません。ようやく、すがたをあらわしました。おもそうなふくろを かたにかついで、はーはー いきをきらしています。

あくまは、ふくろのなかの金貨きんかを、またまた ながぐつのなかにあけました。けれども、ながぐつは、やっぱり まえとおんなじで、ちっとも いっぱいにはなりません。あくまは、かんかんに おこりました。いきなり、へいたいの手てから、ながぐつをひったくろうとしました。

ちょうど そのとき、朝あさのお日さまのひかりが、空そらに ぱっと さしました。と、あくまは、きゃっ とさけんだかとおもうと、いちもくさんに にげていってしまいました。おかげで、おはかのなかの お金かねもちのあわれなたましいは、あくまに とられないですんだのです。

まずしいお百ひゃくしょうさんは、山のような金貨きんかを へいたいとわけようとしました。ところが、へいたいは、こう いいました。

「おれのぶんは、びんぼうな人たちに やってくれ。おれは、おまえさんのうちへ いくよ。おれたちは、のこりの金かねで、神かみさまの きめてくださったあいだだけ、なかよく のんびり、くらそうじゃないか。」

底本 / Source edition

底本:「グリムの昔話(1)野の道編」童話館出版
2000(平成12)年10月20日第1刷発行
2014(平成26)年8月20日第14刷発行
底本の親本:「グリム童話全集 6 ブレーメンのおんがくたい」実業之日本社
1964(昭和39)年
入力:sogo
校正:木下聡
2024年8月4日作成
青空文庫作成ファイル:
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TEI
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プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール、グリム ヴィルヘルム・カール「土をまるくもった おはか」(新字新仮名)、底本『グリムの昔話(1)野の道編』童話館出版、2000年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 061535_001091, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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