Soranoha

三まいの 鳥のはね

さんまいの とりのはね

グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール、グリム ヴィルヘルム・カール

むかし むかし、ひとりの王おうさまがいました。王おうさまには、三人の王子おうじがありました。

ふたりの王子おうじはりこうで、気きがきいていました。ところが、三ばんめの王子おうじは、ろくに口もきかない ぼんやりでした。それで、みんなから、おばかさん、とよばれていました。

王おうさまは、年としをとって 体からだもよわってきました。これでは、いつ 死しぬかもしれません。

(わしの死しんだあと、どの王子おうじに、国くにをつがせたらよいのかな。)

と、かんがえてみました。でも、かんがえが はっきりときまりません。

そこで、王おうさまは、三人の王子おうじにむかって、いいました。

「おまえたち、たびにいっておいで。だれでも よい。いちばん みごとなじゅうたんをもってかえったものを、わしの死しんだあと、この国くにの王おうさまにしよう。」

王子おうじたちが、どっちへいくかで けんかをはじめてはいけません。そこで、王おうさまは、三人を おしろの外そとへつれていって、鳥とりの羽はねを三まい、空そらへふきとばしました。

「いいかな。おまえたちは、それぞれ 鳥とりの羽はねのとんでいくほうへ、いくのだぞ。」

と、王おうさまはいいました。

一まいの羽はねは、東ひがしのほうへ とんでいきました。もう一まいは、西にしのほうへ とんでいきました。ところが、三まいめの羽はねだけは、まっすぐ 上にまいあがったのです。その羽はねは、とおくへとばないで、すぐ 地面じめんにおちてきました。

そこで、ひとりの兄にいさんは、右みぎのほうへいきました。もうひとりの兄にいさんは、左ひだりのほうへいきました。兄にいさんたちは、おばかさんをわらいました。なぜって、おばかさんは、三まいめの羽はねの おちてきたところに、いつまでも いなければならないんですからね。

おばかさんは、そこにすわりこんで、しょんぼりしていました。ふと 気きがつくと、羽はねのそばに、あげ戸どがあります。その戸とをあけてみると、かいだんがついています。

おばかさんは、そのかいだんをおりていきました。すると こんどは、また べつの戸とがありました。その戸とを、ドンドンと たたくと、なかで、こんなことをいっているのがきこえてきました。

「あおい ちっちゃな、むすめさん、

しわくちゃばあさん、

しわくちゃばあさんの 犬いぬっころ、

あっちも こっちも、しわっくちゃ、

外そとにいるのは だれだろ。はよ おみせ。」

戸とが、すーっと あきました。みると、でぶでぶの 大きなひきがえるが一ぴき、すわっています。そのまわりには、小さなひきがえるが、うじょうじょ います。

「おまえさん、なにがほしいんだね。」と、でぶのひきがえるがききました。

「いちばん きれいで、いちばん じょうとうのじゅうたんが、ほしいんだけど。」

と、おばかさんはこたえました。

すると、でぶのひきがえるは、わかいひきがえるをよんで、いいました。

「あおい ちっちゃな、むすめさん、

しわくちゃばあさん、

しわくちゃばあさんの 犬いぬっころ、

あっちも こっちも、しわっくちゃ、

大きなはこを もってきな。」

わかいひきがえるは、はこをもってきました。でぶのひきがえるは、はこをあけました。なかから、一まいのじゅうたんをとりだして、おばかさんにくれました。

なんともいえないほど うつくしい、みごとなじゅうたんです。この世よの中では、とうてい だれにも おることができないような、りっぱなじゅうたんです。おばかさんは、ひきがえるに おれいをいって、上にのぼっていきました。

ところで、ふたりの兄にいさんは、まえから、いちばん下のおとうとを まぬけだ、とおもっていました。

(あいつなんかには、なんにも みつかりっこない。なんにも もってきやしないさ。)

と、きめこんでいました。しかも、ふたりは、

「そんなものをさがすのに、ほねをおるなんて ばかくさい。」

と、いうしまつ。ばったり であった ひつじかいのおかみさんから、ごわごわの毛布もうふをはぎとって、それを、王おうさまのところへ もってかえってきました。

ちょうど、そのとき、おばかさんもかえってきました。おばかさんは、王おうさまのまえに、うつくしいじゅうたんを さしだしました。

王おうさまは、それをみると、びっくりしました。

「これほど みごとなじゅうたんを もってきたとは、かんしんだ。

では、やくそくどおり、この国くには、いちばん下の王子おうじのものとするぞ。」

と、いいました。ところが、ふたりの兄にいさんが、だまってはいません。

「いいですか。あのばかものは、なにをやらせても、どこか ぬけているんですよ。あんなのが、王おうさまになれるもんですか。どうか、もうひとつ、あたらしいもんだいをだしてください。」と、お父さんに、うるさく たのみました。

そこで、王おうさまは、こう いいました。

「いちばん うつくしいゆびわを もってかえったものに、この国くにをゆずるとしよう。」

王おうさまは、また 三人のきょうだいを、おしろの外そとへつれていきました。

そして、三まいの鳥とりの羽はねを、空そらにふきとばしました。

三人は、それぞれ、その羽はねのとんでいくほうへ、でかけることにしました。

ふたりの兄にいさんは、こんども、ひとりは 東ひがしへ、ひとりは 西にしへ、いきました。

おばかさんの羽はねだけは、まっすぐ上に まいあがりました。それからまた、いつかの戸とのそばへ、おちてきました。おばかさんは、またもや、あの でぶのひきがえるのところへ、おりていきました。

「いちばん うつくしいゆびわが、ほしいんだけど。」と、ひきがえるにはなしました。

でぶのひきがえるは、すぐに、大きなはこをもってこさせました。はこのなかから、ひとつのゆびわをとりだして、おばかさんにやりました。そのゆびわは宝石ほうせきで、きらきらひかっています。なんともいえない うつくしさです。この世よの中では、かざりものをつくる どんなしょくにんでも、とうてい つくれそうもない、うつくしいゆびわです。

いっぽう、ふたりの兄にいさんは、おばかさんが、金きんのゆびわを さがすつもりでいるのをみて、げらげら わらいました。そのくせ、じぶんたちは なんにもしません。ただ、車くるまのふるいわから、くぎをぬきとってきただけでした。

そして、それを 王おうさまのまえに、もっていったのです。

おばかさんのほうは、金きんのゆびわを、王おうさまにさしだしました。

そこで、お父さんは、またまた、

「国くには、いちばん下の王子おうじのものとする。」と、いいました。

ふたりの兄にいさんは、またしても しょうちしません。いつまでもいつまでも、王おうさまに、うるさくせがみました。

王おうさまも、とうとう まけて、さいごに もういちど、三つめのもんだいをだしました。

「いちばん きれいなよめを、つれてかえってきたものに、国くにをゆずろう。」

王おうさまは、こう いうと、こんどもまた、三まいの鳥とりの羽はねを、空そらにふきとばしました。

羽はねは、まえの二かいとおなじように、とびました。

そこで、おばかさんは、すぐに、でぶのひきがえるのところへ おりていって、

「こんどは、いちばん きれいなおよめさんを、つれてかえるんだよ。」と、いいました。

「おやおや、いちばん きれいなおよめさんだって。それは、すぐには あげられないよ。でも、きっと あげるから、あんしんしておいで。」

こう いうと、でぶのひきがえるは、ふしぎなものをくれました。なんと それは、なかをくりぬいたにんじんを ひっぱっている、六ぴきのはつかねずみです。

おばかさんは、すっかり しょげてしまいました。

「こんなもの、なんにもなりゃしないよ。」と、いいました。

「まあまあ、そういわずに、わたしの 小さいひきがえるを、一ぴき そのなかへいれてごらんよ。」と、でぶのひきがえるはいいました。

おばかさんは、まるくかたまっている 小さなひきがえるのなかから、いいかげんに、一ぴき つかみだしました。そして、それを、にんじんのなかにいれてみました。

ところが、いれたとたんに、そのひきがえるが、びっくりするほど うつくしいおひめさまに、かわってしまったではありませんか。しかも、そればかりではありません。にんじんは馬車ばしゃになりました。六ぴきのはつかねずみは、六とうの馬うまにかわったのです。

おばかさんは、おひめさまにキスをしました。それから、六とうの馬うまに 馬車ばしゃをひかせて、おひめさまを、王おうさまのところへつれていきました。

兄にいさんたちは、あとから もどってきました。ふたりとも、うつくしいおよめさんをさがすために、ほねをおったりは しませんでした。ただ、いきなりであった お百ひゃくしょうの女を、つれてきたのです。

王おうさまは、おひめさまを ひと目みただけで、

「わしの死しんだあと、この国くには、いちばん下の王子おうじのものだ。」と、いいました。

ところが、ふたりの兄にいさんは、またまた もんくをいいだしました。王おうさまの耳みみが きこえなくなるくらいの大声おおごえで、わめきたてるのです。

「おばかさんが 王おうさまになるなんて、そんなこと しょうちできません。」

そして、こんなことをいいだしました。

「広間ひろまのまんなかに わをぶらさげて、そのわを、つれてきた女たちに とびぬけさせてください。うまくとびぬけた女を つれてきたものがかち、ということにしてください。」

ふたりは、おなかのなかで、こう かんがえていたのです

(百ひゃくしょう女なら、うまく とぶだろう。体からだがじょうぶだからな。しかし、あんな きゃしゃなおひめさまが とんだりしたら、いっぺんに 死しんじまうだろう。)

年としとった王おうさまは、このとびくらべも おゆるしになりました。

まっさきに、ふたりの百ひゃくしょう女がとびました。ふたりとも、うまく わをとびぬけました。ところが、体からだが どたどた しています。で、とんだひょうしに、どたりと たおれて、ぶかっこうなうでと足あしとを、おってしまいました。

こんどは、おばかさんのつれてきた、うつくしいおひめさまがとびました。まるで、めじかのように、かるがると とびぬけました。これでは もう、もんくのつけようが ありません。こうして、おばかさんは、王おうさまのかんむりをいただいて、ながいあいだ かしこく 国くにをおさめました。

底本 / Source edition

底本:「グリムの昔話(1)野の道編」童話館出版
2000(平成12)年10月20日第1刷発行
2014(平成26)年8月20日第14刷発行
底本の親本:「グリム童話全集 6 ブレーメンのおんがくたい」実業之日本社
1964(昭和39)年
※表題は底本では、「三まいの 鳥《とり》のはね」となっています。
入力:sogo
校正:木下聡
2023年12月20日作成
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書誌 / Bibliography
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グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール、グリム ヴィルヘルム・カール「三まいの 鳥のはね」(新字新仮名)、底本『グリムの昔話(1)野の道編』童話館出版、2000年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 061531_001091, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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