Soranoha

有効な日曜日

ゆうこうなにちようび

中谷 宇吉郎

八月七日はたいへん有効な日曜日だった。

六日の土曜日は忙しい日で、旅行の準備をしながら、この百回の隨筆の原稿を少し書き溜めたりするのに、夕方の六時頃までかかった。それから夕飯を食べて、九時半羽田發の日航機に乘った。

氣流の状態が非常によかったので、ビールを一本飮んで、ぐっすりと寢込んだ。そして眼が覺めたら、ウェーキ島に着いていた。ここで一時間止まるので、その間に休憩所で朝飯を食べて、又飛行機に乘った。

氣象状態は益々良いので、まるで飛行機は空中の一點に止まっているようである。見渡す限りの靜かな太平洋一面、遙か下方に小さい積雲が一杯に散らばっている。何時まで經っても、全く同じような姿である。そのまま夕方になって、ハワイに着いた。途中で「唯今日附變更線を通過しましたから、又八月六日に戻ります」というアナウンスがあった。それでハワイ着は八月六日土曜日の午後八時ということになった。

ハワイで三時間待つ間に、飛行場の食堂で、たいへん立派な御馳走が出た。窓の外には大きい椰子の木がたくさん立っている。情緒は滿點である。夜中近く十一時にハワイを立って、今度は桑港である。二晩目なので少し疲れたらしく、またぐっすり寢た。夜明けごろ一寸目が覺めたら、東の空が眞紅に燃えて、如何にも太平洋の夜明けらしい感じがしたが、そのままうつらうつらしていた。そして十一時に桑港についた。七日の日曜日の午前十一時である。

この日は、午後半日從兄のSのところで、積る話をしたり、風呂へはいったり、晝寢をしたりして、夜の九時にシカゴ行の飛行機に乘り込んだ。寢てばかりいるので我ながら可笑しいが、また寢込んでしまって、ステュワーデスに起されたら、飛行機はもうシカゴ飛行場の上に來ていた。八月八日月曜日の午前六時十分である。

乘合自動車が待っていてくれたので、すぐ乘ったら、七時半にはもう娘たちの住んでいるエヴァンストンに着いてしまった。ところが家がしまっている。飛行場へ出迎えに行ったのと、行きちがいになったらしい。

仕方なく荷物を隣にあずけて、昨年まで仕事をしていた雪氷研究所に行った。今度の會議出席の途中、この研究所で一ヵ月ばかり補足實驗をしたかったので、連絡はしておいた。それで皆喜んで迎えてくれた。それからすぐ實驗の手配にとりかかった。

考えてみると、土曜日の夕方まで東京で用をたしていて、月曜日の朝にはもうシカゴで仕事にとりかかれたのであるから、大變有効な日曜日だった。

底本 / Source edition

底本:「百日物語」文藝春秋新社
1956(昭和31)年5月20日発行
入力:砂場清隆
校正:木下聡
2026年4月2日作成
青空文庫作成ファイル:
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書誌 / Bibliography
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中谷 宇吉郎「有効な日曜日」(旧字新仮名)、底本『百日物語』文藝春秋新社、1956年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 061500_001569, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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