Soranoha

続生活の組織

ぞくせいかつのそしき

中谷 宇吉郎

二世の日本人で、シカゴ大學を出て、今インランド・スチール會社につとめている男がいる。たいへん拔擢されて、入社後數年でもう課長になっている。

その男が今度家を新築したというので、お祝い旁々、昨日の土曜日に、家を見にいった。ミシガン湖畔の砂丘地帶で、環境のよい住宅區域にあった。家も全部デュラルミン・サッシュを使ったハイカラな近代住宅である。

まことに結構な話で、一應お祝いはいったが、一つ腑に落ちない點があった。いくら大會社で拔擢されたといっても、大學を出て四五年で、こういう自分の家が建てられることが、不思議であったからである。

聞いてみたら、これは月賦であるという。しかも三十年月賦で、毎月の拂い分は百ドル。この種の家にしては、家賃よりも安いくらいである。三十年はずい分長いが、家賃よりも安ければ、途中で放棄しても損はないし、また轉任の時は、權利の買い手はいくらもあるという話であった。

三十年というような月賦が存在することは、國の安定を立證するばかりでなく、生活の組織がよく出來ていることも意味する。この長期にわたって、生活の設計が出來ることが、個人の富の蓄積をもたらし、同時に國力の充實にも役立っているように思われる。

この時聞いた話では、インランドでは、この夏五百人の臨時職員を採り、このうち大學生のアルバイトが約三百人いたそうである。二ヵ月半働かして、一人八百五十ドル近く拂ったそうで、これだけあれば、あと一學年即ち九ヵ月の下宿料は出る。まことに結構な話である。

ところで、夏の間だけ、五百人もの臨時職員を採って、何をさせるのかというに、それは職員や職工が、夏休みをとる。その穴埋めをして貰うのである。

どんな職工でも、少し長くつとめていると、夏には二週間、多いのは三週間も、有給の休暇が貰える。これは贅澤というよりも、普段の拘束九時間、實働八時間の勞働が、非常に芯の疲れる仕事であるから、能率を上げるための必需品なのである。

それで國全體としてみると、勤勞者は一年中、勤務時間中は一分の休みもなく働いて、大いに生産能率を上げる。そのかわり年に一度、二三週間の休暇を貰って、山や海へ出かけて、氣分の轉換をし、また精氣をとり戻す。即ちレクリエーションをする。

その休暇の留守中は、學生に働いてもらって、社の生産を維持する。學生はそれで學資が得られる、とまあこういうふうに、巧く出來上っているわけである。一言で言えば、生活の組織がよく出來ているといっていいであろう。

底本 / Source edition

底本:「百日物語」文藝春秋新社
1956(昭和31)年5月20日発行
入力:砂場清隆
校正:木下聡
2025年8月17日作成
青空文庫作成ファイル:
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中谷 宇吉郎「続生活の組織」(旧字新仮名)、底本『百日物語』文藝春秋新社、1956年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 061460_001569, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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