むかし昔、あるところにわがままな子どもがあって、おかあさんのしておくれとおっしゃることを、なんにもしませんでした。それだものですから、神さまがこの子どもに<ruby><rb>愛想</rb><rt>あいそ</rt></ruby>をつかして、子どもを病気にかからせました。お医者さまはどうすることもできず、すこしたって、子どもは小さな<ruby><rb>寝台</rb><rt>ねだい</rt></ruby>の上で息をひきとってしまいました。

ところが、子どもがいよいよお<ruby><rb>墓</rb><rt>はか</rt></ruby>のなかへうずめられて、その上に<ruby><rb>土</rb><rt>つち</rt></ruby>がかけられると、いきなり、かわいい<ruby><rb>腕</rb><rt>うで</rt></ruby>がにょっきりと出て、まっすぐに上へのびました。みんなしてその腕をなかへ入れて、その上に新しい土をかけましたが、なんの<ruby><rb>役</rb><rt>やく</rt></ruby>にもたたず、かわいい腕は、なんべんでも、にゅうっと出るのです。

これをきくと、おかあさんは自分でお墓へ行って、<ruby><rb>笞</rb><rt>むら</rt></ruby>でその腕をぶたずにはいられませんでした。おかあさんが腕をぶってやりましたら、腕はひとりでになかへひっこんで、これで、子どもはやっと土の下で<ruby><rb>楽々</rb><rt>らくらく</rt></ruby>となりました。

註　両親を打つと、死後に墓の中から手がはえるという俗信があります。第十六世紀の代表的職人詩人ハンス・ザックスの寓話詩「子どものしつけのおそろしい話」には、バイエルンのインゴルシタットのある家庭で、男の子を甘やかして育てたためにその子がわがままになって、母親をなぐったことがあり、その子が死ぬとお墓から手が出て、どうしてもひっこまない、そこで、大学の先生がたや坊さんたちの助言で、母親が出かけて行って、その手を笞で十八時間もなぐりつづけ、手が血だらけになったらやっとひっこんだ、という実話がうたわれています。