Soranoha

選後感〔第二十六回芥川賞選後評〕

せんごかん〔だいにじゅうろっかいあくたがわしょうせんごひょう〕

坂口 安吾

「広場の孤独」は甚だ好評を得た作品のようですが、私は感心しませんでした。

日本の左翼文学がそうであったと同じように、自分の側でない者に対する感情的で軽々しいきめつけ方は、特に感心できません。つまり、この作者が人間全体に対している心構えの低さ、思想の根の浅さ、低さだろうと思います。文学はいつもただ「人間」の側に立つべきで、特定の誰の側に立つべき物でもありません。

また「ドラマ性の欠如」という点も挙げられます。お金持の異国の老人なぞ、もしもそのような人間があってこの主人公夫妻らしきものとそれぞれのツナガリがあるような事実があるとすれば、ドラマの主点は当然そちらへ置かれなければならない。しかるに、そうでないというのは、全てが「とってつけたようで」この作品の人物はみんな傍系的でしかない。広場の孤独なぞという説明も、血の通ったところのない空々しいものとしか受けとれませんでした。他の候補作品にも「賞」に価するものは見受けられませんでした。

これは候補作品ではありませんが安岡章太郎氏(前回の候補作「ガラスの靴」の作者)の作品が二ツ目にとまったので読みましたが、小品ながら、どちらも筋の通ったものだと思いました。前作一ツの場合とちがって、三ツ並べてみると、安心のできる作者だとは思いましたが、「宿題」(文学界二月号)も特に力作、傑作というわけではないので、強いて芥川賞にスイセンしたいとは思いません。

底本 / Source edition

底本:「坂口安吾全集 12」筑摩書房
1999(平成11)年1月20日初版第1刷発行
底本の親本:「文藝春秋 第三〇巻第三号(三月特別号)」
1952(昭和27)年3月1日発行
初出:「文藝春秋 第三〇巻第三号(三月特別号)」
1952(昭和27)年3月1日発行
入力:持田和踏
校正:円野
2022年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
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プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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坂口 安吾「選後感〔第二十六回芥川賞選後評〕」(新字新仮名)、底本『坂口安吾全集 12』筑摩書房、1999年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 061220_001095, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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