Soranoha

三拍子

さんびょうし

中野 鈴子

夜中の十二時頃、おくさんが寝室からのぞく

もう寝ていいですよ

足も頭も出てしまう夜具

見たこともない短いふとんの中へ

たおれるように

夜中に、二、三度はね起き

はなれた部屋まで時計を見にゆき

広いエンガワ 広いタタミ

掃除 めしたき

赤ん坊を背中にくくり

破れたふとんを片っ端から解いて洗って綿を入れ

縫いはじめては手をはなし

買い物に走り

洗い物は朝と晩 五本のサオにいっぱい

光がななめにとどく台所の

調理台の片隅に 踏台に腰かけ

おはちの底をかきあつめてようやく茶わんにいっぱい

主人たちの数々の御馳走の影さえみえぬ

何を食べればいいのか

仕方なく立ち上がり

足は棒のように 胸板がうすくなったように

目まいのようにつまずく

最初 雇主はいった

子供もない 亭主もない

そんな人をさがしていたのだ

その上 田舎から出てきた 三拍子揃うていますわ

どうもコブ(子供のこと)のついているのはねえ

五十過ぎのおくさんはあふれるようににこにこした

得意ででもあるかのように

白髪のかみを光らせ 体をそらせている主人

奥様の胸はまだふっくらとして 指はなめらかに 口ベニも赤く

子供はぞろぞろ だみ声と キンキン声と かみの長い 夜のおそい大学生が

お父さま お母さま

一人の女の塗りつぶされた身の上が

一人の女をニコニコさせている

雇主はわたしのうなじにつり竿を垂れ じっとしている。

底本 / Source edition

底本:「中野鈴子全詩集」フェニックス出版
1980(昭和55)年4月30日初版発行
底本の親本:「中野鈴子全著作集 第一巻」ゆきのした文学会
1964(昭和39)年7月10日発行
※底本のテキストは、著者自筆稿によります。
入力:津村田悟
校正:かな とよみ
2024年6月16日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

この表示について / About this rendering

記録は下にリンクした署名済みの TEI ファイルです。このページはそれを読むための一つの形です。読みが複数ある箇所は一つだけを本文に示し、もう一方は語の title に残しています。 / The record is the signed TEI file linked below. This page is one way of reading it. Where the text has more than one reading, the page shows one of them and keeps the other on the word itself, in its title text.

リリース / Release
913b24012e1626b47bebf5a14fd31773728229efdb088f1ceb934717c1ac800c
TEI
/works/061028_001637/tei
プレーンテキスト / Plain text
/works/061028_001637/plaintext
書誌 / Bibliography
/works/061028_001637/

中野 鈴子「三拍子」(新字新仮名)、底本『中野鈴子全詩集』フェニックス出版、1980年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 061028_001637, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite