外から砂鉄の臭ひを持つて来る海際の午後。 象の戯れるやうな濤の呻吟は 畳の上に横へる身体を 分解しようと揉んでまはる。 私は或日珍しくもない原素に成つて 重いメランコリイの底へ沈んでしまふであらう。 えたいの知れぬ此のひと時の衰へよ、 身動きもできない痺れが 筋肉のあたりを延びてゆく…… 限りない物思ひのあるやうな、空しさ。 鑠ける光線に続がれて 目まぐるしい蝿のひと群が旋る。 私は或日、砂地の影へ身を潜めて 水月のやうに音もなく鎔け入るであらう。 太陽は紅いイリュウジョンを夢みてゐる、 私は不思議な役割をつとめてるのではないか。 無花果樹の陰の籐椅子や、 まいまいつむりの脆い殻のあたりへ 私は蝿の群となつて舞ひに行く。 壁の廻りの紛れ易い模様にも ちよつと臀を突き出して止つて見た。 窓の下に死にゆくやうな尨犬よ。 私はいつしかその上で渦巻き初める、 ……………… ……………… 砂鉄の臭ひの懶いひとすぢ。