Soranoha

今日はよく晴れ上がって

きょうはよくはれあがって

中野 鈴子

今日はよく晴れ上がって

村じゅうの苗代に種がまかれた

鍬では切れない土のかたまり 切り株の切れ端を深く埋める

手で埋めて撫でてゆく

きれいに水をはって消毒した種をまく

雨のふらない風の吹かない晴れた日にまく

わたしは外へ立ちながら苗代の人だかりの方をながめていた

いろりの場所ほども耕されたらと笑われながら田圃に入り

足りないところは田圃を売り

病気の母を放っておき 湯もわかさず

破れた傘もそのままにして

わたしは少しずつ上手になっていった

田圃は減ってゆく

わたしは痩せながら四十が五十になってゆき

田圃と労働を愛していった

つかれたと思うひまもなく田圃に熱中した

熱中しながら愛していった

田圃と自分のはたらき

善意といい 真実といい

不労所得の中でのふるまいは空まわりに過ぎないと知った

田圃を愛する 仕事を愛する

愛すれば愛するほど痩せてゆくことの問題の持ってゆく

ゆきどころが見えるようにかんじることもできた

印を捺して金を借りる責任を持つ

金の出どころ 利息の行方など

自分の汗がいろいろの智恵をしぼり出す汗ともなってゆくことも知ることができた

競うように苗を植えてゆくそとめ

そとめさんらは酒をのむ

また来年もきますざという

うすをすって俵に米をはかるとき

はじめて稲を刈るとき

わたしはいそいそとかおをほてらし

頭にとどく稲束を背中にかついで小屋に運ぶ

雨の漏る屋根にはワラを刺し

小さい手に鍬の柄は細く

汗のためには眼鏡もはずし

一途に愛を深めていた

いましょんぼりと垣根にもたれてながめている

わたしの苗代に人の種がまかれた

ふたつの手術がわたしを田圃へ入らせない

底本 / Source edition

底本:「中野鈴子全詩集」フェニックス出版
1980(昭和55)年4月30日初版発行
底本の親本:「中野鈴子全著作集 第一巻」ゆきのした文学会
1964(昭和39)年7月10日発行
初出:「ゆきのした 第十七号」
1956(昭和31)年8月発行
入力:津村田悟
校正:かな とよみ
2024年12月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
/works/060986_001637/tei
プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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中野 鈴子「今日はよく晴れ上がって」(新字新仮名)、底本『中野鈴子全詩集』フェニックス出版、1980年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 060986_001637, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite