Soranoha

妹

いもうと

中野 鈴子

妹は出かけて行った

一か月に一回の面会を 三か月のばして やっと出かけて行った

タンスの底の しめっぽくなっているきものを引っぱり出し

右と左のびっこの足袋をはいて――

妹はモチ米を一斗さげて行った

米を代えて汽車賃をつくるためだった

停車場 汽車の中 歩く道にもヤミ米テキハツの警官が立っている

妹は

一斗の米をふた包みにし、軽い風呂しき包みにみせかけ奥さん風に停車場を降りた

いま降りた乗客に むらがるようにケイカンが飛びかかっていた

ケイカンは妹にもとびついた ケイカンにつれられ

拇印を押し 妹はモチ米一斗をとりあげられた

彼女は目まいをしながら外へ出た

電車をのりかえ

妹は

刑務所の門を入った

面会室に夫はほほえんで立っていた

彼女は唇のふるえるのをつよくおさえ 目を上げて夫を見た

百日目にみる夫のかおは青ぶくれて 目がかすんでいるように

そして

青ぶくれたかおが笑っている

夫はいった

汽車賃ができたのか?

米は大分とれたか?

彼女はほほえもうとした

夫は笑っている 青ぶくれて

青ぶくれて 風せん玉をはり

壁の中に一人でいる

囚われて三度目の冬を控え

はりめぐらした とりでの中に

夫は笑っている

どんよりした目を輝かすように――

稲を刈り 稲をしき

モミをすり

百日を着たままでねむり

ヒビ アカギレに爪は割れ

みのりのすくないモチ米を 売るために作り

売って汽車賃をつくろうとし

百日を待ちつつ働き

正月のモチ米をへらして

それで子供のシャツ くつ下

アメ玉の一つを買わんと

夏の頃より

百日を待ちつつ働き――

底本 / Source edition

底本:「中野鈴子全詩集」フェニックス出版
1980(昭和55)年4月30日初版発行
底本の親本:「中野鈴子全著作集 第一巻」ゆきのした文学会
1964(昭和39)年7月10日発行
※底本のテキストは、著者自筆稿によります。
※誤植を疑った箇所を、親本の表記にそって、あらためました。
入力:津村田悟
校正:かな とよみ
2024年11月3日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

この表示について / About this rendering

記録は下にリンクした署名済みの TEI ファイルです。このページはそれを読むための一つの形です。読みが複数ある箇所は一つだけを本文に示し、もう一方は語の title に残しています。 / The record is the signed TEI file linked below. This page is one way of reading it. Where the text has more than one reading, the page shows one of them and keeps the other on the word itself, in its title text.

リリース / Release
913b24012e1626b47bebf5a14fd31773728229efdb088f1ceb934717c1ac800c
TEI
/works/060981_001637/tei
プレーンテキスト / Plain text
/works/060981_001637/plaintext
書誌 / Bibliography
/works/060981_001637/

中野 鈴子「妹」(新字新仮名)、底本『中野鈴子全詩集』フェニックス出版、1980年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 060981_001637, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite