<ruby><rb>或</rb><rt>あ</rt></ruby>る肉体は、インキによつて<ruby><rb>充</rb><rt>み</rt></ruby>たされてゐる。

傷つけても、傷つけても、常にインキを流す。

二十年、インキに浸つた魂の貧困！

或る魂は、自らインキにすぎぬことを誇る。

自分の存在を<ruby><rb>隠蔽</rb><rt>いんぺい</rt></ruby>せんがために

象徴の<ruby><rb>烏賊</rb><rt>いか</rt></ruby>は、好んでインキを射出する。

或る蛇は、常に毒液を蓄へてゐる。

至大の恐怖に駆られると、蛇は<ruby><rb>噛</rb><rt>か</rt></ruby>みつく。

致命の毒を対象に注入しながら

自らまた力尽きて<ruby><rb>斃</rb><rt>たふ</rt></ruby>れる<ruby><rb>旱魃</rb><rt>かんばつ</rt></ruby>の河！

或る蛇の技術は、自己防衛とその喪失、

夏夕の花火、一瞬の竜と天上する。

或る貝は、海底に幻怪な宮殿を築く。

あらゆる苦悩は重く、不幸は塩辛く、

利刃に刺された傷口は甘く涙を流す。

或る真珠の涙は、清雅な<ruby><rb>復讐</rb><rt>ふくしう</rt></ruby>である。

<ruby><rb>奸黠</rb><rt>かんかつ</rt></ruby>な商売の金庫に光空しく死せども、

美しい夫人の手に彼の涙は輝く。

或る植物は、常にじめじめした湿地に生え、

その身をあまりに<ruby><rb>夥多</rb><rt>くわた</rt></ruby>なる液汁に包む。

深夜、或る暗い空洞から空洞へ注ぎこまれ、

その<ruby><rb>畸形</rb><rt>きけい</rt></ruby>なる尻尾を振つて<ruby><rb>游泳</rb><rt>いうえい</rt></ruby>する

或る菌はしばしば死と復讐の神である。

漠雲の中<ruby><rb>哄笑</rb><rt>こうせう</rt></ruby>する、目に見えぬものは神である。