Soranoha

より美しく―より和やかに

よりうつくしくよりなごやかに

原 民喜

ペン・クラブの一行と別れて、私はまだ廣島に滞在しているわけだが、今朝は久振りで泉邸や常盤橋から饒津の方を歩いてみた。泉邸の川岸には頭に白い手ぬぐいをかむって何か働いている人の姿を見かけた。常盤橋の踏切の付近では道路をなおしている人たちを見た。

廣島は絶えず今も刻々に復興の途上にあるのだろう。だが、鶴羽根神社の靜かな濠のところまで來ると、私はこのあたりに眞赤な死体や眞黒い顏の火傷者がごろごろしていた時の情景をすぐ思い出す。昔の松の並木をしのばすように、松らしい大木の幹がたった一本道路に残っていたのも私にとっては胸をつぶすような感じがした。

こんどのペン・クラブの人たちには、廣島はもう以前ほど凄惨な印象は與えなかったかもしれない。それほど廣島はすでに廃虚の姿から更生されている。だが、やはり、この土地を訪ねてみてよかったと遠來の客はみんないっていた。私もいよいよ明日は東京へ帰るのだが、この次にまた廣島を訪ねる時は、この土地がもっと美しいもっと和やかな街になっていることを祈っておく。

なお二、三の文学グループから座談会の申込みもあったが、何しろ修学旅行のように忙しい日程だったので、意にそうことができなかったのをわびておく(日本ペンクラブ会員・廣島市幟町出身)

底本 / Source edition

底本:「中國新聞」中國新聞社
1950(昭和25)年4月21日
初出:「中國新聞」中國新聞社
1950(昭和25)年4月21日
※「こんどのペン・クラブの」と「なお二、三の文学グループから」の行が改行天付きになっているのは、底本通りです。
※「遠来の客はみんないっていた。私もいよいよ」は、底本では「遠来の客はみんないっていた(改行)私もいよいよ」となっています。
入力:竹井真
校正:城月理央
2020年7月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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TEI
/works/060516_000293/tei
プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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原 民喜「より美しく―より和やかに」(新字新仮名)、底本『中國新聞』中國新聞社、1950年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 060516_000293, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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