## お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さま

こどものとき　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、<ruby><rb>千菊丸</rb><rt>せんぎくまる</rt></ruby>という　なまえでした。

ある　はるの<ruby><rb>日</rb><rt>ひ</rt></ruby>の　ことです。<ruby><rb>千菊丸</rb><rt>せんぎくまる</rt></ruby>は　うばに　つれられて　きよみずでらに　おまいりに　いきました。

おてらの　にわは　さくらの　<ruby><rb>花</rb><rt>はな</rt></ruby>が　まんかいでした。

はらはらと　ちる　さくらの　はなびらの　したでは、おばあさんや　お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さんに　つれられた　<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>どもたちが、あそびたわむれています。

「きれいだなあ　ばあや。」

しばらく　<ruby><rb>花</rb><rt>はな</rt></ruby>に　みとれていた　<ruby><rb>千菊丸</rb><rt>せんぎくまる</rt></ruby>は、ふと、むこうの　いしだんの　ところに　いる　おや<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>づれの　こじきを　みて、ふしぎそうに　たちどまりました。

きたない　きものを　きた　こじきの　<ruby><rb>母</rb><rt>はは</rt></ruby>おやが、<ruby><rb>五</rb><rt>いつ</rt></ruby>つか<ruby><rb>六</rb><rt>むっ</rt></ruby>つぐらいの　<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>どもを　そばに　すわらせて、おもちゃを　やっているのでした。

やがて　<ruby><rb>千菊丸</rb><rt>せんぎくまる</rt></ruby>は　うばの　<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>を　ひいて、たずねました。

「ばあや、あれなあに。」

「おや<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>の　こじきです。まずしいので　さんけいの　<ruby><rb>人</rb><rt>ひと</rt></ruby>に　ものを　もらって　たべているのです。」

「そうじゃあないの、ばあや、<ruby><rb>千菊</rb><rt>せんぎく</rt></ruby>は　あの　おんなの　こじきは　あの　<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>どもの　なんじゃと　きいているのだよ。」

「あれは、お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さんと　<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>どもです。」

「ふうーん。」

と、<ruby><rb>千菊丸</rb><rt>せんぎくまる</rt></ruby>は　いかにも　ふしぎそうです。

「こじきにも　お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまが　あるの、ばあや。」

「はい。こじきにも　お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまが　いますよ、<ruby><rb>千菊</rb><rt>せんぎく</rt></ruby>さま。」

「ふしぎだ　なあ。」

<ruby><rb>千菊丸</rb><rt>せんぎくまる</rt></ruby>は　かわいい　くびを　かしげて、しばらく　じっとして　いましたが、

「あんな　きたない　こじきにも　お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまが　あるのに、<ruby><rb>千菊</rb><rt>せんぎく</rt></ruby>に　　どうして　お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまが　ないのだろう。ばあや、どうして　<ruby><rb>千菊</rb><rt>せんぎく</rt></ruby>には　お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまが　ないの。」

と、ばあやの　<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>を　ぎゅっと　にぎりしめて　いいました。

「ええ、<ruby><rb>千菊</rb><rt>せんぎく</rt></ruby>さまには……<ruby><rb>千菊</rb><rt>せんぎく</rt></ruby>さまには……。」

うばは、はたと　こたえに　つまって　しまいました。

と　いうのは、つぎの　ような　ふかい　わけが　あるからでした。

## <ruby><rb>父</rb><rt>ちち</rt></ruby>は　てんのう

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　うまれたのは　おうえい<ruby><rb>元</rb><rt>がん</rt></ruby>ねん、いまから　ざっと　五<ruby><rb>百</rb><rt>ひゃく</rt></ruby>六十<ruby><rb>年</rb><rt>ねん</rt></ruby>ばかり　まえの　ことです。

お<ruby><rb>父</rb><rt>とう</rt></ruby>さまは　ごこまつてんのうで、お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまは　いよのつぼね　と　いいました。

ほんとうならば　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんも　てんのうの　おうじさまとして、きゅうていで　そだてられる　はずでしたが、お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまが、わるものの　ざんげんで　てんのうの　おそばに　いられなくなったので、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんも　お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまとも　わかれて　<ruby><rb>京</rb><rt>きょう</rt></ruby>のみやこの　かたほとりに、うばと　ふたりで　すむことに　なったのです。

お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまも　<ruby><rb>京</rb><rt>きょう</rt></ruby>のみやこに　すんでいましたが、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　うまれたばかりで　お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまと　わかれわかれに　なったので、お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまの　あることさえ　しりませんでした。

それで　みんな　お<ruby><rb>父</rb><rt>とう</rt></ruby>さまも　お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまも　あるのに、じぶんだけ　うばと　ふたりきりなのは　どうしてだろうと、いつも　かなしく　おもって　いたのでした。

それが　こじきのおやこの　むつまじい　ありさまを　みて、きゅうに　むねが　こみあげてきたのでした。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが、あんまり　かなしそうに　お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまの　ことを　きくので、うばも、

「いっそ　お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまが　おなじ　<ruby><rb>京</rb><rt>きょう</rt></ruby>のみやこに　いることを　はなして、お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまに　おあわせして　あげようか。」

と、おもいましたが、また　おもい　なおして、

「いやいや、それはいけない。」と、そっと　なみだを　ぬぐって、

「<ruby><rb>千菊</rb><rt>せんぎく</rt></ruby>さま、<ruby><rb>坊</rb><rt>ぼっ</rt></ruby>っちゃまにも　お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまが　あります。けれども、いまは　とおいとおい　ところに　いらっしゃるので、とても　あえません。」と、いいました。

「まろにも　お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまがあるの！」

はじめて　お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまの　ことを　きいた　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、きらきらと　めを　かがやかして、きっと　うばの　かおを　みあげると、

「ばあや、まろは　どんな　とおい　ところにも　いく。お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまに　あわして　ください。」と、ねだりました。

「とても、<ruby><rb>千菊</rb><rt>せんぎく</rt></ruby>さまの　いけるところでは　ありません。」

うばも　こまって　しまいました。そして、

「<ruby><rb>千菊</rb><rt>せんぎく</rt></ruby>さまが　これから　うんと　がくもんして、えらい<ruby><rb>人</rb><rt>ひと</rt></ruby>に　なったら、きっと　お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまが　あいにきて　くださります。」と、その<ruby><rb>日</rb><rt>ひ</rt></ruby>は、やっと　なだめて　かえりました。

## <ruby><rb>雪</rb><rt>ゆき</rt></ruby>のあさ

こういう　わけですから、うばも　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　りっぱな　<ruby><rb>人</rb><rt>ひと</rt></ruby>に　そだてたいと　とても　しんぱいしました。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>どもの　ときから　一をきいて　十をしる、と　いうほど　りこうな　<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>でしたが、また　<ruby><rb>大</rb><rt>たい</rt></ruby>へんな　いたずらっ<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>でした。

それが　うばの　しんぱいの　たねでした。

ある　<ruby><rb>春</rb><rt>はる</rt></ruby>の<ruby><rb>日</rb><rt>ひ</rt></ruby>の　ことでした。

<ruby><rb>京</rb><rt>きょう</rt></ruby>のみやこに　めずらしく　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>ゆきが　ふりました。

いたずらッ<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>の　<ruby><rb>千菊丸</rb><rt>せんぎくまる</rt></ruby>は　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>よろこびです。まるで　<ruby><rb>犬</rb><rt>いぬ</rt></ruby>ころの　ように　はだしで　にわに　かけだしたり、ゆきを　なげつけたり、まどを　やぶくやら、ろうかを　ゆきだらけに　するやら　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>あばれです。

うばが　みるに　みかねて、

「<ruby><rb>千菊</rb><rt>せんぎく</rt></ruby>さま、そんなに　いたずらを　する　<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>は、りっぱな　<ruby><rb>人</rb><rt>ひと</rt></ruby>に　なれません。」

と、たしなめて、

「そんなひまが　あったら　ちと　べんきょうなさい。むかし、すがわらのみちざね　と　いう　えらいかたは、七つのとき　りっぱな　うたを　おつくりに　なりました。<ruby><rb>千菊</rb><rt>せんぎく</rt></ruby>さまも、おうたでも　おつくりなさい。」

「うたを　つくるより、<ruby><rb>雪</rb><rt>ゆき</rt></ruby>なげの　ほうが、おもしろいわい。」

「いけません。<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>きくなって、ごてんに　あがっても、うたが　つくれないようでは　はじを　かきます。」

それをきくと、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　きゅうに　まじめに　なって、

「ばあや、その　みちざねの　つくった　うたは、どんな　うた　だい。」

と、ききました。

「うるわしき　べにの　いろなる　うめのはな

わこが　かおにも　つけべかりけり

と、いうのです。うめの<ruby><rb>花</rb><rt>はな</rt></ruby>を　みて　おうたいに　なったのです。」

うばが　いうと、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、ちょいと、おどけた　かおをして、

「そんな　うたなら、いくらでも　つくれらあ。」

「まあ、<ruby><rb>千菊</rb><rt>せんぎく</rt></ruby>さまに　できますかしら。」

「できるよ。ばあや、おどろくな。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、これは　どうだい、といいながら、

ふる<ruby><rb>雪</rb><rt>ゆき</rt></ruby>が　おしろいならば　<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>にといて

おくろの　かおに　つけべかりける

と、すらすら、と、うたいました。

「まあ！」と、うばは　びっくりしました。

すがわらのみちざねの　つくったうたの、いみは　こうです。

むかし　きゅうちゅうに　いる、わかい<ruby><rb>人</rb><rt>ひと</rt></ruby>は、おとこでも　うすく　おしろいや　ほおべにを　つけていました。

<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">わこ</span>　と　いうのは　わたし　と　いうことです。みちざねは<ruby><rb>赤</rb><rt>あか</rt></ruby>い、うめの<ruby><rb>花</rb><rt>はな</rt></ruby>を　みて、あの　うつくしい　うめの<ruby><rb>花</rb><rt>はな</rt></ruby>の　いろを　わたしの　かおに　つけたい　と　うたったのです。

それで、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　うたですが、おくろ　と　いうのは　うばの　ことで、この　うばの　かおは　くろいので、みんなが　うばのことを「おくろさん、おくろさん。」と、よんでいました。

それで　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、<ruby><rb>白</rb><rt>しろ</rt></ruby>い　ゆきを　うばの　くろい　かおに　つけてやろうと、ふざけたのでした。

「まあ、ひどい。」

うばは、あきれてしまいましたが、この　あたまの　よさには、すっかり　かんしんしてしまって、

「<ruby><rb>千菊</rb><rt>せんぎく</rt></ruby>さまは、きっと　えらくなります。」と、<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>よろこびでした。

## <ruby><rb>六</rb><rt>むっ</rt></ruby>つの　ひな<ruby><rb>僧</rb><rt>そう</rt></ruby>

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、<ruby><rb>六</rb><rt>むっ</rt></ruby>つのとき　いなり<ruby><rb>山</rb><rt>やま</rt></ruby>の　きたに　ある　あんこくじと　いう　おてらに　はいって、ぼうさんに　なることに　なりました。

これは　おかあさまの　いよのつぼねの　かげながらの　とりはからい　でした。

と　いうのは、そのころは　くにが　みだれていて、さむらいや　きゅうてい　の　ひとたちも　おたがいに　ねたみあい　うたぐりあって　いましたが、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまは、もし　じぶんを　ざんげんして、きゅうていを　おいはらった　ひとたちが、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　ねらって、ころして　しまったりするかも　しれないと　しんぱい　したからです。

けれども　ごこまつてんのうの　おん<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>として　うまれた　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　なんとかして、えらくしたいと　おもいました。

そのころ、えらくなるには　さむらいに　なるか、おぼうさんに　なるかしか、なかったのです。

それで、お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまは　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　さむらいに　して、ころしたり　ころされたり　するよりは　おぼうさんに　しよう、と　うばにも　はなして、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　あんこくじの　ひなそうに　したのでした。

あんこくじの　ひなそうに　なった　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、しゅうけんと　いう　なまえを　もらって、まいあさ　おしょうさまから　おきょうを　ならいましたが、りこうなので　すぐおぼえます。

ことに　その　とんちの　いいことは、<ruby><rb>大人</rb><rt>おとな</rt></ruby>も　したを　まく　ばかりでした。

あんこくじには、<ruby><rb>七</rb><rt>なな</rt></ruby>つ　<ruby><rb>八</rb><rt>やっ</rt></ruby>つ　ぐらいの　こぞうが　十にんばかりも　いました。<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　そのなかで　いちばん　としした　でしたが、いちばん　りこうで、とんちが　ありました。

つぎに、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　とんちばなしを　しましょう。

## みずあめと　どくやく

ある<ruby><rb>日</rb><rt>ひ</rt></ruby>の　ことです。<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぞうたちが　みんなで　ひたいを　あつめて　ひそひそばなしを　していました。

「おしょうさまが　わたしたちに　かくれて、まいにち　こっそり　<ruby><rb>水</rb><rt>みず</rt></ruby>あめを　なめて　いるよ。」

「みずあめ――あまいだろうなあ。なめたいなあ。」

「どこに　あるの。」

「おしょうさまの　いまの　とだなの　うえに、ほら、かべつちいろの　かめが　あるだろう。あの　なかに　あるんだよ。」

「ほんとに　みたのかい。」

「ほんとさ。」と　いって、<ruby><rb>目</rb><rt>め</rt></ruby>を　くるくる　まわして　みせたのが、てつばいと　いう、いたずら<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぞうです。てつばいは　いかにも　てがらがおに、

「わたしが　ゆうべ　しょうじの　かみに　あなを　あけて、おしょうさまの　みずあめを　なめて　いるのを、そっと　のぞいて　みたんだもの。」

「ふーん。」と、<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぞうたちは　したなめずりを　しました。すると　てつばいは、

「おしょうさまだけ　なめるなんて　ずるいや。わたしらにも　すこし　なめさせて　もらおうではないか。」

と、いいだしました。

「そう　しよう、そう　しよう。」

みんな　さんせいです。

「だれか　いって　おしょうさまに　たのんで　こいよ。」

「おこられるよ。いやだよ。」

みんな　しりごみ　します。

「しゅうけん、おまえ　いってこいよ。」

てつばいは、いちばん　とししたの　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんに　おしつけようと　しました。

「それが　いい、それが　いい。しゅうけん　いってこいよ。」

みんな　そう　いいます。

「うん　そうか。それでは　ちょっと　いって　きいてくる。」

いたずらっ<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>でも　とんちが　あっても、まだ　むじゃきな　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、すぐ　たちあがって、おしょうさまの　へやに　でかけていきました。

おしょうさまは　ぼんやり　にわを　ながめていました。

「おしょうさま。」

と、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　しきいの　そとに　<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>を　つきました。

「なんじゃ。」

と、おしょうさまが　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　ふりかえりました。

「おしょうさま、みずあめを　なめさせて　ください。」

「なんじゃと。」

「たなの　うえの　かべつちいろの　つぼの　なかにある　みずあめを、すこしずつで　いいですから　わたしたちに　なめさせて　ください。」

おしょうさまは　びっくりして、まじまじと　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　みつめました。

「たれが　そんな　ことを　いった。」

「みたものが　あります。おしょうさま、<ruby><rb>大人</rb><rt>おとな</rt></ruby>の　おしょうさま　ばかり　なめて、<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>どもの　わたしたちに　なめさせない　なんて、おしょうさま　ずるいや。」

「うん、そうか。ゆうべ　しょうじに　あなを　あけたのは　おまえじゃな。」

「わたしでは　ありませんが、たしかに　おしょうさまが　みずあめを　なめているのを　みたものが　あります。」

「うん、そうか。」

おしょうさまは　<ruby><rb>一</rb><rt>ひと</rt></ruby>つ、こらしめて　やろうと　おもって、

「みんなを　ここに　よんでこい。」と、いいました。

そんな　こととは　おもいも　よらない　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、さっそく　みんなの　ところに　もどってきて、

「おーい、みんな、こいよ。おしょうさまが　みずあめを　くださるぞっ！」と、<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>ごえに　さけびました。

「そうか。くださるか。」

「みんな　いこう。」

<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぞうたちは　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>よろこびで、おしょうさまの　へやに　とんでいきました。

ずらり　おしょうさまの　まえに　ならんだ　<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぞうたちを、じろり　みわたした　おしょうさんは、

「みんなに　いって　おくことがある。よく　きいておけ。」と、おごそかに　いいました。

これは　へんだぞ……<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぞうたちは　かおを　みあわせまた。おしょうさまは　いいました。

「じつは　この　かめの　なかにある　みずあめの　ような　ものは、ほんとうは、みずあめでは　なくて、てんじくから　とうらいした　ちゅうふうの　くすりじゃ。」

てんじくは　いまの　インドです。ぶっきょうの　わたってきた　ところです。この　くすりは　ぶっきょうと　いっしょに　にっぽんに　わたって　きたのでしょう。

「あれッ！」と、みんな<ruby><rb>目</rb><rt>め</rt></ruby>を　ぱちくり　させました。

「いいか。あれは　ちゅうふうの　くすりじゃ。ちゅうふうという　びょうきは　<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>どもには　かからぬ、わしの　ような　ろうじんにだけ　ある　びょうきじゃ。いいか、よく　きけ。あの　くすりは、ろうじんの　ちゅうふうには　よく　きくが、<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>どもが　なめたら　いのちが　なくなる。まちがっても　あの　くすりを　なめたりするでは　ないぞ。」

「へんな　ことに　なった　もんだなあ。」

「わかったか――わかったな。」

「はい。」

「わかったら、でて　いって　よろしい。」

へんだなあ　と、おもいながら　みんな　はんぶん　べそを　かいて、おしょうさまの　へやを　でて　いきました。

## <ruby><rb>死</rb><rt>し</rt></ruby>ぬ　つもりで！

なかでも　いちばん　へんだなア、と　おもったのが、いちばん　りこうな　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんでした。

つぎの<ruby><rb>日</rb><rt>ひ</rt></ruby>　おしょうさまは、どこかの　ほうじに　でていって、るすでした。

「よし、この　あいだに　あの　かめの　なかの　ものが　みずあめか　どくか、ためしてみよう。」

いたずらものの　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　したなめずりを　して　おしょうさまの　へやに　しのびこんで　いきました。

さっそく　たなの　まえに　たちましたが、あいにく　たなが　たかくて、<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>どもの　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんには　てが　とどきません。<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　そばに　あった　ちゃだんすを　ひきずってきて、どっこいしょ、と　そのうえに　のると、かめに　りょうてを　かけ、そろそろと　ひきおろそうと　しました。

が、かめが　おもいものですから　つるりと　てが　すべって、あッ　と　おもう　まも　あらばこそ、かめは　どしーんと、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　ぼうずあたまの　うえに　おちました。

「しまったッ！」

そう　さけんだ　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、かめと　いっしょに　すってんころりと　ちゃだんすの　うえから　ころげおちました。

その　ひょうしに、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　あたまから、どろどろと　みずあめを　かぶって　しまいました。が、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　みずあめの　なかに　つかりながら、ぺろぺろと　みずあめを　なめています。

「あまい　あまい。」

やっぱり　ちゅうふうの　くすりだなんて　うそだ。くすりなら　にがい　はずだ！　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　むちゅうです。

が、はらいっぱい　みずあめを　なめてから、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、「これは　しまった　ことをした。」と、あおく　なりました。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　そっと　なめて、しらないふりを　しているつもりだったのに、こんなに　ありたけ　こぼして　しまっては、おしょうさんに　わかって　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>めだまを　くうに　きまっている！　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>あわてに　あわてて　こぼれた　みずあめを　ふきとりましたが、とても　<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>どもの　ちからでは　ふききれません。

そればかりではなく、ふと　みると、そばには　おしょうさまの　たいせつに　している　おちゃのみぢゃわんが　こなごなに　こわれて　いるのでした。

すると　うんの　わるいときには　しかたの　ないもので、そこに　ガラリと　へやの　しょうじが　あいて、おしょうさまが　かえってきました。

「わっ！」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　あめだらけの　あたまを　かかえると、これを　みた　おしょうさまは、

「しゅうけん、なに　しとるのじゃ。」と、<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>ごえで　しかりました。

「は、はい、はい。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　<ruby><rb>目</rb><rt>め</rt></ruby>を　しろくろ　させています。

「なにを　しとると　いうのじゃ。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　わーんと　なきだして　しまいました。なきながら　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　あたまには、一つの　とんちが　おもい　うかびました。

「おしょうさま、おしょうさま。わたしは　おしょうさまのだいじな　だいじな　おちゃわんを　こわして　しまいました。それが　かなしくて　わたしは　<ruby><rb>死</rb><rt>し</rt></ruby>んで　おわびしようと　おもって、こんなに　たくさん　おしょうさまの　くすりを　いただきましたが、ちっとも　しねません。」

そう　いうと、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　りょうてで　かおを　おおって、まえよりも　はげしく　わんわん　なきだしました。

「なに、ちゃわんを　わったと……。」

「そうです。おしょうさまの　おるすの　あいだに　おへやを　そうじして　おこうと　おもって、おちゃわんを　わりました。おしょうさま、ああ、わたしは　しにたい、しにたい。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　そう　いいながら、また　こぼれた　みずあめを　ぺろぺろと　なめました。

おしょうさまは　あきれかえって、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　みつめていました。そんなことは　うそに　きまっています。

「うそじゃ。」

と、おしょうさまは　しかりました。

「ちがいます。うそでは　ありません。」

「そうか。」

じっと　かんがえこんだ　おしょうさまは、とつぜん　あっはっはっは……と、わらいだして　しまいました。そして、いいました。

「しゅうけん、わしが　わるかった。これは　わしが　おまえたちを　だました、ほとけの　ばちと　いう　ものじゃ。」

それを　きくと、こんどは　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　おしょうさまの　まえに　りょうてを　ついて、

「おしょうさま、わたしが　わるうございました。わたしは　うそを　つきました。」

と、あやまりました。

「いいや、しゅうけん。はじめに　うそを　ついたのは　わしじゃ。わるいのは　この　わしじゃ。」

「いいえ、わたしが　わるうございました。」

「いや、わるいのは　わしじゃ。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんと　おしょうさまは　こんどは　おたがいに　じぶんが　わるい、と　いいっこです。

「わかった、わかった。」

おしょうさまが、とうとう　まけて　しまいました。そして、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんに、

「しゅうけん、おまえの　とんちには　おどろいた。これからは　わるいことを　するなよ。わるいと　きづいて　さっそく　あやまったのは、いい　こころがけだ。」と、やさしく　いいきかせました。

## かたわれの　<ruby><rb>月</rb><rt>つき</rt></ruby>

なにしろ　<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>どもですから、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　たべものと　なると、むちゅうに　なることが　あります。

そのとしの　としの　くれの　ことでした。

くれの　ことなので、おしょうさまは　<ruby><rb>今日</rb><rt>きょう</rt></ruby>は　<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぞうたちを　みんな　つれて　たくはつに　でかけました。

「しゅうけん、<ruby><rb>今日</rb><rt>きょう</rt></ruby>は　おまえが　るすばんだ。きを　つけて　おるすを　するんだよ。」

おしょうさまは　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんに　るすばんを　いいつけました。

すると、おしょうさまたちが　でかけて　だいぶ　たってからの　ことです。

「ごめん　ください。ごめん　ください。」

と、おしょうさまの　おへやの　ほうで　ひとの　こえがしました。

「おや、さっそく　おきゃくさまだな。」

たった　ひとり、あとに　のこされて　ぼんやり　していた　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、さっそく　とびだして　いきました。

「<ruby><rb>今日</rb><rt>きょう</rt></ruby>は、おしょうさんは　るすかな。」

うらぐちに　たって　いるのは、あんこくじの　だんかの　もとべえさんでした。

おいものとんやの　もとべえさんは、かずおおい　だんかの　なかでも　いちばん　この　おてらに　よくして　くれる　だんかです。<ruby><rb>今日</rb><rt>きょう</rt></ruby>も　たくさんの　おもちを　ついて、でっちの　ちょうまつに　せおわせて　きたのでした。まるい　まるい　まんげつの　ように　まるい　かがみもちです。

「これは　これは、もとべえさんですか。あいにく、おしょうさまは　たくはつに　でかけて　おるすです。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　ていねいに　いうと、もとべえさんは、

「それは　かまいません。<ruby><rb>今日</rb><rt>きょう</rt></ruby>は　としの　くれで、おもちを　ついたので、もって　きました。どうぞ、おしょうさまが　おかえりに　なりましたら、ほとけさまに　あげてください　と　いって　ください。」

と、いって、でっちの　ちょうまつに　せおわせてきた　たくさんの　おもちを　おいて　いきました。

「うまそうだなア。」

つつみを　といて、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　ちょっと　さわってみると、おもちは　まだ　ほっかりと　あたたかくて、まるで　ごむまりの　ように　ぷかぷか　していました。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　ごくん　と、つばを　のみこみました。むちゅうで、一つの　おもちに　かじりつきました。

「うまいなア。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　おもわず　にっこりした　ときです。がたがたと　おもてに　ひとの　あしおとがして、おしょうさまたちが　かえってきました。

「あっ、たいへんだ。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　あわてて　おもちを　のみくだそうとします。が、あんまり　たくさん、いっぺんに　おもちを　くちの　なかに　いれたので、なかなか　のみくだすことが　できません。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　<ruby><rb>目</rb><rt>め</rt></ruby>を　しろくろ　させて　いると、さきに　きた　あにでしが、

「しゅうけん、また　いたずらを　したな。おしょうさまに　みつかると　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>めだまだぞ。」

と、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　せなかを　たたいてやりました。

「うわあ、くるしい。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　やっと　おもちを　のみくだした　ときでした。あとから　はいってきた　おしょうさまは　この　ようすを　みて　くすくす　わらいながら、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　まえに、かけた　かがみもちを　だして、

「しゅうけん、しゅうけん、十五やの　<ruby><rb>月</rb><rt>つき</rt></ruby>は　まんまるなのに　これは　どうしたことだ。」

と、なぞを　かけました。

すると　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、にこりとして、

「くもに　かくれて　ここに　はんぶん。」

と、こたえながら　じぶんの　はらを　ゆびさしました。

これは　一つの　うたになります。

十五やの　<ruby><rb>月</rb><rt>つき</rt></ruby>は　まんまる　なるものを

くもがくれして　ここに　はんぶん

おしょうさまのは　かみの　く、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　は、しものくです。

おしょうさんは、この　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　とんちに　すっかり　かんしんして　しまって、

「しゅうけん、でかした　でかした。」

と、<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>を　たたいて　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　ほめ、

「さあ、おもちを　たくさん　あげるから、みんなで　たべなさい。」

と、たくさんの　おもちを　くれました。

「しゅうけん、うまく　やったな。また　たのむぞ。」

あにでしたちも　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>よろこびで、おもちに、ぱくつきました。

## <ruby><rb>皮</rb><rt>かわ</rt></ruby>もんどう

あんこくじの　おぼうさんに　なって　二三ねん　たった　ときでした。

はたやじくさい　という　ひとが、まいばんの　ように　あそびに　きて、おしょうさまと　おそくまで　はなしあったり、ごや　しょうぎを　していきました。

このひとは　ながさきで　うまれたのですが、お<ruby><rb>父</rb><rt>とう</rt></ruby>さんは　オランダ<ruby><rb>人</rb><rt>じん</rt></ruby>でした。いまで　いえば　アイノコです。その　お<ruby><rb>父</rb><rt>とう</rt></ruby>さんが、オランダに　かえる　とき、にしきを　おる　ほうほうを　おしえて　いきました。じくさいは　きょうとに　きて　はたやを　ひらいて、<ruby><rb>大</rb><rt>たい</rt></ruby>へん　はんじょうしました。

これが、いまでも　なだかい　<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">にしじんおり</span>の　もとです。

「あれ、じくさいの　やつ、また　きたよ。」

ある<ruby><rb>夜</rb><rt>よ</rt></ruby>、あにでしの　てつばいが　げんかんの　ほうを　みながら、そう　いいました。

「ほんとだ。こんやも　また　おそくまで　いるんだろうな。あいつが　くると、わしらが　いつまでも　ねられなくて　よわるよ。」

<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぞうたちは　おゃきくさまの　いるうちは　ねるわけに　いかないので、じくさいが　くると、みんな　いやがるのでした。

「なんとかして　あの　じくさいめが、こない　ように　する　くふうは　ないものかなあ。」

<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぞうたちは　みんなで　こんな　そうだんを　はじめました。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんも　これは　どうかんです。ついと、みんなの　まえに　すすみでると、

「わたしが　じくさいさんの　こなくなる　まじないを　しましょう。」

と、いいだしました。

「ほんとに　そんなことが　できるかい。へんな　ことを　すると、また　おしょうさまから　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>めだまだよ。」

あにでしたちは　しんぱいそうです。

「だいじょうぶです。もし　しくじったら、みんな　わたしが　つみを　きます。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　とても　じしんが　ありそうです。

「それじゃ、たのむよ。うまく　やってくれよ。」

よくじつの　ゆうがたの　ことです。<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、もう　じくさいさんが　やってくるころだな、と　おもいながら、はんしを　五まいも　つぎたして、すみ　くろぐろと、<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>きな　じで、

<ruby><rb>皮</rb><rt>かわ</rt></ruby>を　きたるもの　てらの　なかに　はいるべからず

と、かいて、げんかんに　はりつけました。

まもなく、せかせかと　げたの　おとを　させながら、じくさいさんが　やってきました。

アイノコの　じくさいさんは　いつでも、けものの　かわで　つくった　どうぎを　きているのです。

「どうするかな、じくさいさん。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんや　<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぞうたちは　しょうじの　かげに　かおを　あつめて、じっと　じくさいさんの　ようすを　のぞいていました。

おしょうさまと　なかよしの　じくさいさんは、いつでも　あんないも　こわず、ずかずかと　げんかんを　はいってきます。

ふと　みると、げんかんに　なにか　かいてあります。

「おや、なんだろう。」

じくさいさんは、たちどまって、じっと、はりがみを　ながめて　いましたが、すぐ　ハハハ……と　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>ごえで　わらって、

「ははは……<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぞうども、わしが　いつも　よる　おそくまで　いるもんだから、こんな　いたずらを　しおったな。」

と　いうと、そのまま　おくに　はいろうと　します。

そのとき　いきなり　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　とびだしました。

「この　はりがみが　みえないのですか、じくさいさん。」

「ははあ、これは　しゅうけんぼうずかい。はりがみは　よみましたよ。」

じくさいさんは、にやにや　わらって　います。

「よんだなら、なぜ　はいってきた。」

「<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぞうさん、どうして　かわを　きたものが　はいって　いけないのかね。」

「おてらに　けだものの　かわを　きて　くると　けがれます。これは　ほとけさまの　おしえです。かえって　ください。」

「はっはっは……<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぞうさん、あんたは、りこうものだと　ききましたが、やっぱり　まぬけですね。」

「どこが　まぬけです。」

「では、ききますが、てらにも　じこくを　しらせる　たいこが　ありましょう。たいこは　けだものの　かわを　はって　あるでしょう。わたしも　けものの　かわを　きて　いますから、たいこの　ように、ずっと　おくまで　とおりますよ。はい、ごめんなさい。」

じくさいさんは　そう　いうと、ちらと　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　からかうような　わらいを　みせて、おくに　いこうとしました。

すると　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、なにを　おもったか、ちょこちょこと　じくさいさんに　さきまわりして、ほんどうから　たいこの　ぱちを　もって　くると、いきなり　じくさいさんの　はげあたまを　ぽかぽかと　たたきました。

「これ、なにを　する、<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぞうさん。」

じくさいさんは、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　にらみつけて　おこりました。が、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　すましたもので、

「じくさいさんは、たいこの　ように　おくに　とおると　いったでは　ありませんか。たいこと　おなじなら　いくら　たたかれても、もんくは　ないでしょう。」

と、いって、また　ポカリ。

「まいった。」

すると　じくさいさんは　きゅうに　あともどりすると、ぬいであった　げたを　つかんで、はだしで　にげていきました。

「うまい、うまい、しゅうけん――ああ、むねが　すーッと　した。」

あにでしたちは　<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>を　たたいて　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>よろこびです。

## この　<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">はし</span>　わたるな

つぎの　<ruby><rb>日</rb><rt>ひ</rt></ruby>、じくさいさんの　おつかいが　おしょうさまに　てがみを　もって　きました。ひらいて　みると、

「ゆうがた、ごちそう　したいから、しゅうけんさんを　つれて　あそびに　きてください。」と、かいて　あります。

おしょうさまは、にこにこ　わらいながら、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　よんで、

「しゅうけん、じくさいさんが、こんな　てがみを　よこしたよ。きっと　きのうの　かたきうちを　するつもりだよ。」

と、いいました。

「ははあ、じくさいさん　よっぽど　くやしかったと　みえますね、おしょうさま。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんも　にこにこ　しています。

ゆうがた　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　おしょうさまに　つれられて、じくさいさんの　いえに　でかけました。

じくさいさんの　いえは　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>きな　おやしきで、やしきの　まえに　おがわが　ながれ、そのかわに　はしが　かかっていました。

おしょうさまと　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　そのはしを　わたろうとすると、どうでしょう、つぎのような　たてふだが　たっていました。

この　はし　わたるな

「おやおや、やっぱりだね、しゅうけん。」

おしょうさまは　そう　いって　うしろの　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　ふりかえりました。

「つまんないこと　かいてありますね。」

しかし、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　おどろきません。

「おしょうさま、まんなかを　わたって　いきましょう。」

「だって、はしを　わたっては　いけない、と　かいてあるでは　ないか。」

「だから、まんなかを　わたるのです、おしょうさま。この　たてふだには、わざと　はしを　かんじで　かかないで、はしと　かなで　かいて　あります。これが　なぞを　とく　かぎですよ、おしょうさま。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　そう　いうと、すたすたと　はしの　まんなかを　わたっていきます。

じくさいさんは　いえの　まえまで　でて、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　どうするだろう、と　ながめていました。

すると　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんと　おしょうさまが、へいきな　かおで　はしを　わたって　きたので、

「しゅうけんさん、おまえさんは　あの　たてふだが　みえなかったのかね。」

と、いいました。

「いいえ。わたしは　このとおり　<ruby><rb>二</rb><rt>ふた</rt></ruby>つの　めが　ちゃんと　そろって　いますから、たてふだは　よく　みてきました。」

「なに、みてきた。――では、なぜ　はしを　わたってきましたか。」

「いいえ。はしの　ほうを　わたっては　いけないと　かいて　ありましたから、まんなかを　わたって　きました。じくさいさん、この　はしは　はしの　ほうが　くさって　いるんですか。そうでしたら、あぶないから　はやく　なおしておいて　ください。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　すました　かおで　いうので、じくさいさんは、また、

「まいった。」

と、おもわず　ひたいを　たたいて、おしょうさまに、

「しゅうけんさんの　とんちには、おとなの　わたしも　とても　かないません。」と　いって、したを　まいてしまいましたが、すぐ　おもいかえして、

「でも、しゅうけんさん、こんどは　まけませんよ。しゅうけんさんとの　とんちきょうそうは　これからですよ。」

と、いいながら　にこにこして、おしょうさまと　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　ざしきに　あんないしました。

さて、じくさいさんは　どんな、なんもんを　ようい　しているのでしょう？

## したから　うえに　さがるもの

りっぱな　へやに　たくさんの　ごちそうが　はこばれてきました。

くいしんぼうの　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　ごくごくと　のどを　ならして、

「どれから　さきに　たべようかな。」

と、おぜんの　うえを　にらんでいました。

すると　じくさいさんは、ゆうゆうと　おちつきはらって、

「さて、しゅうけんさん、わたしが　これから　なんもんを　だしますから、りっぱに　こたえてください。もし、しゅうけんさんが　わたしの　なんもんに　こたえられなかったら、<ruby><rb>今日</rb><rt>きょう</rt></ruby>の　ごちそうは　おあずけにします。」

と、いじの　わるいことを　いいだしました。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　くやしそうに　じろりと　じくさいさんの　かおを　にらみつけましたが、ぐっと　がまんして、

「さっきの　かたきうちですか。だめですよ　じくさいさん、おやめに　なった　ほうが　よいでしょう。」

やせがまんを　いいます。

「なあに、こんどこそ　しゅうけんさんを　ぎゅう　というめに　あわしますよ。」

じくさいさんは、そう　いって　おいて、

「しゅうけんさん、したから　うえに　さがるものは　なあに……。」

と、いって、

「さあ、しゅうけんさん、ごちそうばかり　ながめて　いないで　はやく　こたえて　ください。」

「ははあ、そんなこと　わけも　ありません。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　にこりと　して、すらすらと、つぎの　ような　うたを　よみました。

ふじだなの　みずに　うつりし　ふじの　はな

したより　うえに　さがるなりけり

「はい　どうです、じくさいさん。では、いただきますよ。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　うたいおわると　さっそく　ごちそうを　ぱくつきました。

「えらい、えらい。やっぱり　わたしは　しゅうけんさんに　かないません。さあ、たくさん、めしあがってください。」

じくさいさんは　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>よろこびで　いいました。

こんなふうに　まけても　かっても　こだわらないで　よろこんで　いるのが、ぜんしゅうと　いう　しゅうしの　えらい　ところです。

## びょうぶの　とら

そのころは、ぶっきょうの　なかでも　ぜんしゅうが　とても　さかんでした。

ぜんしゅうを　しんこうする　ひとたちは、もんどうが　<ruby><rb>大</rb><rt>だい</rt></ruby>すきでした。

それで、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　とんちは　たちまち　<ruby><rb>大</rb><rt>だい</rt></ruby>ひょうばんに　なって、

「あんこくじの　しゅうけん　という　<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぼうずは　<ruby><rb>大</rb><rt>たい</rt></ruby>へんに　とんちが　すぐれて　いるそうだ。」

と、いう　うわさが、ぱっと　<ruby><rb>京</rb><rt>きょう</rt></ruby>の　まちじゅうに　ひろがりました。

そして、そのことが　いつか　しょうぐんけにも　きこえました。

ときの　しょうぐんは　あしかが　三だいしょうぐんの　よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>です。<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　はなしを　きいた　よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>は、

「ほほう、それは　おもしろい。では　<ruby><rb>一</rb><rt>ひと</rt></ruby>つ　その　しゅうけんと　いう　<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぞうを　よんで、ごちそう　して　やろうでは　ないか。」

と、いって、つぎの<ruby><rb>日</rb><rt>ひ</rt></ruby>　さっそく　あんこくじに　つかいを　よこして、

「あす　<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぞうの　しゅうけんを　つれて　きんかくじに　きなさい。」

と、いいました。

よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>は　そのころ　あたまを　そって　ぶつもんにはいり、<ruby><rb>天山</rb><rt>てんざん</rt></ruby>と　いいましたが、きんかくじを　たて、そこに　すんで　いたのでした。

むかしは　ぶしが　としを　とると、おてらを　たてて　ぼうずに　なり、いんきょ　することが　はやったものです。

しょうぐんさまから　まねかれる　ことは　<ruby><rb>大</rb><rt>たい</rt></ruby>へんな　めいよですから、おしょうさまは　さっそく　しゅうけんを　つれて　きんかくじに　いきました。

ふたりは　すぐ　りっぱな　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>ひろまに　とおされました。

<ruby><rb>上</rb><rt>じょう</rt></ruby>だんの　まんなかに　よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>が　すわっています。その　みぎと　ひだりには、えらい　さむらいたちが　ずらりと　ならんでいます。おしょうさまは　しずかに　<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>をついて、

「おめしにより、しゅうけんを　つれ　さんじょう　いたしました。」と、いいました。

「おお　ごくろうじゃった。」

よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>は　おしょうさまの　うしろで　あたまを　さげている　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　じろりと　ながめ、

「くるしゅうない。あたまを　あげい。」

「はい。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　あたまを　あげて、あからがおの　ずんぐり　ふとった　よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>を　じっと　みあげました。

すると　よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>は　とつぜん　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんに　いいました。

「しゅうけん、おまえは　なかなか　とんちの　よい　<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぞうじゃと　きくが、どうじゃ、おまえの　よこに　ある　その　びょうぶに　かいて　ある　トラは、まるで　いきて　いるようじゃろう。」

「はい。おおせの　とおりで　ございます。」

「ところが、そのトラが　まいばん　そのびょうぶから　ぬけだして、いたずらを　するので　ほとほと　こまるのじゃ。ついては　そのほう　ただちに　そのトラを　しばって　わしの　もとに　つれてまいれ。」

よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>は　なんもんを　だしました。

おしょうさま　はじめ　そこに　いる<ruby><rb>人</rb><rt>ひと</rt></ruby>は、みんな　あっけに　とられて、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　この　なんもんに　どう　こたえるか　じっと　みつめていました。

ところが　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　へいきのへいざで、にこにこ　わらいながら、

「はい、しょうち　いたしました。」と、さらりと　こたえました。

これには　こんどは　なんもんを　だした　よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>のほうが、あっけに　とられました。

「ただちに　めしとるのじゃぞ。」

「はい、わけが　ありません。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>に　かるく　あたまを　さげると、びょうぶの　まえに　たって　いき、ころもの　したから　<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>ぬぐいを　だして　きりきりと　はちまきをし、いかにも　トラを　つかまえそうな　かっこうをして、

「しょうぐんさま、おなわを　おかしください。」

「おお、たれか　しうゅけんに　なわを　かしてやれ。」

けらいは　すぐ　なわを　もって　きて、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんに　わたしました。

どうするのだろう？　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　ほんきで　えに　かいた　トラを　なわで　しばる　つもりでしょうか。

いならぶ　<ruby><rb>人</rb><rt>ひと</rt></ruby>たちも　<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>に　あせを　にぎり、じっと　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　ようすを　ながめています。

が、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　へいきで　じっと　びょうぶの　なかのトラを　にらんで　いましたが、ふと　よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>の　ほうを　むいて、

「よういは　できました。すぐ　しばりますから、どうぞ　たれかに　この　トラを　びょうぶの　なかから　おいださしてください。」

と、いいました。

「う、う、うむ……なんと、その　トラを　おいだせと　もうすか。」

よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>は　おもわず　うなりました。

「はい、おいだして　くだされば　しゅうけん　ただちに　しばります。はやく　ごけらいに　いいつけて　おいだしてください。」

「う、う、うむ。」

よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>は　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>きな　<ruby><rb>目</rb><rt>め</rt></ruby>だまを　ぎろりと　むきだして　いつまでも　うなっています。

これは　はっきりと　よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>の　まけです。そう　おもった　よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>は、すぐ、

「いや、あっぱれじゃ。いかにも　そちの　とんち　みあげた　ものじゃ。」

と、ひざを　たたいて　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　とんちに　かんしんし、

「それ、ものども　しゅうけんに　ごちそうを　だしてやれ。」と、けらいに　いいつけました。

おしょうさまと　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　まえには　<ruby><rb>山</rb><rt>やま</rt></ruby>もりどっさりの　ごちそうが　たくさん　はこばれてきました。<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　にこにこ　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>よろこびで　ごちそうに　ぱくつきました。

## さかなと　にくと　おさけと　かたな

が、よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>は　も<ruby><rb>一</rb><rt>ひと</rt></ruby>つ　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　とんちを　ためして　みようと　おもって　いたのでした。

ぜんしゅうでは　さかな　にく　からいもの、おさけ　などを　たべたり　のんだり　することを　きんじています。そういう　ものを　てらの　なかに　もってくる　ことさえ　きんじていました。

ところが、いま　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　<ruby><rb>目</rb><rt>め</rt></ruby>の　まえに　はこばれた　ごちそうには、さかなも　にくも　ありました。

おしょうさまは　ごく　したしいところでは　さかなも　にくも　たべますが、いまは　しょうぐんさまの　まえなので　たべようか　たべまいか　ためらっていましたが、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんと　きたら　そんなこと　へいちゃらで、<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>あたりしだい　むしゃむしゃ　たべました。

すると　よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>が　いいました。

「こりゃ、しゅうけん、おいしいか。」

「はい、わたくしは　くいしんぼうですから、おいしくて　たまりません。」

「ほう。では、<ruby><rb>一</rb><rt>ひと</rt></ruby>つ　きくが、しゅっけは　にくや　さかなを　たべても　いいのかな。わしは、しゅっけは　なまぐさものは　たべないものだ、と　きいていたが……。」

「はッ！」

と、いって　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　しばらく　かんがえこみました。それから　にこりとして、

「しょうぐんさまも　たべて　おいでですね。」

「おお。わしは　さむらいじゃ。にくも　さかなも　たべる。」

「でも、しょうぐんさまも　あたまを　ぼうずに　して　いらっしゃいますね。」

「そうだ。わしも　ぶつもんに　はいったのじゃ。」

「そうすると　やはり　ぼうさんの　なかまいりを　したのでしょう。」

「その　とおりじゃ。」

「おなじ　ぼうさんなら　しょうぐんさまも　さかなや　にくを　たべては　いけないのでは　ないでしょうか。」

「うむ、うむ……わしは　しかし　ほんとうの　ぼうさんではない。」

「なまぐさぼうず　ですか。なまぐさぼうずなら　いたしかた　ありません。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　ぎゅうっと　まず　よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>を　とっちめました。すると　よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>は、

「すると　おまえも　なまぐさぼうずかな。」

と、ぎゃくしゅう　して　きました。

「いいえ、ちがいます。」

「へいきで　なまぐさを　たべる　ところを　みると、なまぐさぼうず　だろう。」

「いいえ、わたしのは　ちがいます。」

「どう　ちごう。」

「にんげんの　のどには、しょくどうと　きどうと　ございます。」

「ほう、<ruby><rb>二</rb><rt>ふた</rt></ruby>つ　あるか。」

「このみちは、とうかいどうと　かまくらかいどう　みたいな　ものです。」

しょくどうは　たべものを　たべるみち、きどうは　くうきを　すったり　はいたり　するみち――みなさんは、のどに　二ほんの　くだなど　ないことは　ちゃんと　しっているでしょう。しかし　これは　とんちもんどうですから、また　べつです。

「ほう。」

よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>は　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>め　なにを　いいだすか、と　にこにこしています。

「かいどうならば、もちやも　とおれば、さかなやも　とおります。とうふやも　にくやも　とおります。」

「かいどうなら　とおるじゃろうな。」

「はい。それで、わたしの　かいどうを　ただいま　さかなやと　にくやと　とうふやが　とおった　わけで、けっして　にくや　さかなが　ひとりで　とおった　わけでは　ございません。」

「ははあ、<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぞう　うまく　にげたな。」

よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>は　おもわず　にっこりと　しましたが、すぐ　ぎゅっと　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　にらみつけて、ぐっと　そばの　かたなを　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんに　つきつけると、

「これ　しゅうけん、かいどうならば　ぶしも　とおるであろう。すみやかに　この　ぶしを　とおしてみよ。」

さあ　<ruby><rb>大</rb><rt>だい</rt></ruby>なんだいです。かたなを　とおしたら、しんで　しまいます。が、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　へいきで、

「いや、むやみ　やたらには　おとおし　できません。」

「なぜじゃ。」

「おそれながら　もうしあげます。ただいまは　よのなかも　しずかでは　ありますが、まだまだ　かたなを　さした　とうぞくも　おれば、しょうぐんさまに　<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>むかい　しようと　ねらっている　ものも　あるかも　しれません。さかなやや　にくやや　とうふやは　そんな　わるい　ことを　しませんが、かたなを　さした　ぶしは、いちいち　しらべないと　とおす　ことは　できません。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　まんまと　いいのがれて　しまいました。ことに　よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>に　<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>むかいするものが　あるかも　しれない。それを　しらべないで　とおす　わけには　いかない、と　いったのが、とても　よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>の　おきにいったので、よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>は、

「しゅうけん、でかしたッ！」

と、<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>よろこびで、

「しゅうけん、これからも　よくよく　がくもん　して　りっぱな　そうりょに　なれよ。それ、しゅうけんに　ほうびを　とらせよ。」

と、けらいに　めいじて　たくさんの　ごほうびを　しゅうけんに　あたえました。

## ほんとうの　ぼうさん

しかし　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　こんな　とんちもんどう　ばかりして　いたのではありません。

おしょうさまに　ついて　ねっしんに　がくもんに　はげんで　いました。それで、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　ほんとうの　にんげんの　みち、ほんとうの　ぼうさんの　みち、と　いうものも　だんだん　わかって　いきました。

あるときの　ことでした。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　おしょうさまの　おつかいで　まちを　とおりますと、

「もしもし、あなたは　あんこくじの　<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぞうさんでは　ございませんか。」

と、ひとり　みしらぬ　おばあさんが　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　よびとめました。

「はい、そうです。あんこくじの　しゅうけんです。なにか　ごようでしょうか。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　おどろいて　たちどまると、おばあさんは　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　おがむように　して、

「やっぱり　ほとけさまの　おみちびきです。」と、いいます。

が、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　なんの　ことか　わかりません。

「どうしたのですか、おばあさん。」

「はい、はい。じつは　けさ　はやく　おじいさんが　なくなったのです。どうぞ　いんどうを　わたして　いただけないでしょうか。もしも　おねがいが　できれば、ほとけも　うかばれます。」

「でも、おばあさん、それでしたら　あなたの　だんなでらに　おねがい　したら　よくは　ありませんか。」

「それが　だめなので　ございます。わたしの　いえは　おじいさんの　ながわずらいで、一もんの　おかねもありません。けさ　おてらに　いんどうを　わたして　ください　とたのみに　いきましたら、おてらさんでは、わたしが　おふせを　だせないことを　しっていて、きて　くれません。どうぞ　おねがいします。」

おばあさんは　かなしそうに　なみだを　ながして　ぴたりと　じべたに　すわり、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんに　<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>をあわせて　たのみました。

「そうですか。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　ぐっと　むねが　あつく　なりました。おばあさんが　かわいそうなのと、それよりも　おふせが　だせないからと　いって、おきょうも　あげてやらない　その　てらの　ぼうさんに　たいする　いきどおり　のためでした。

ぶっきょうの　もとを　ひらかれた　おしゃかさまは　おうじの　みぶんを　すてて、<ruby><rb>山</rb><rt>やま</rt></ruby>に　はいり、こじきのような　くらしを　しながら、だれにでも　おんなじに　おきょうを　よんで　くれました。

ところが　そのころの　ぼうさんの　なかには　おかねもちや、えらいひとにばかり　こびへつらって、たくさんの　おかねを　もらい、ぜいたくを　することばかり　かんがえている　ぼうさんが　たくさん　いました。

そんなことは　ぼうさんと　しては、いちばん　わるいことです。ほんとうの　ぼうさんの　みちを　みっちりと　こころの　なかに　いれている　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、はらわたが　にえかえるほど　いやな　きもちになりました。

「ああ、なげかわしい　ことだな。」

そう　おもうと、

「そうですか。それは　こまりましょう。それでは　わたしが　おきょうを　よんで　あげましょう。」

と、いって、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　すぐ　おばあさんと　いっしょに　おばあさんの　いえに　いきました。

なるほど、おばあさんの　いえは　ひどい　いえでした。やねも　かべも　くずれかかり、ちょっとの　かぜにも　ふっとんで　しまいそうな　きたない　いえです。

「さあ　おばあさん、おきょうを　よんで　あげましょう。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　ねんごろに　おきょうを　あげてやりました。おばあさんは、

「あなたは　いきぼとけさまだ。」

と、いって　よろこびました。

## <ruby><rb>口</rb><rt>くち</rt></ruby>と　<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>

さて　また　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　とんちばなしに、うつりましょう。

ある<ruby><rb>日</rb><rt>ひ</rt></ruby>の　ことです。おしょうさまが、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　よんで、

「しゅうけん、ほんどうの　おとうみょうを　けして　きなさい。」

と、いいつけました。

「はい。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　すたすたと、ほんどうに　いって、ふっ　ふと、おとうみょうを　ふきけしました。

すると、これを　みていた　おしょうさまが、また、

「しゅうけん、しゅうけん、ちょっと　おいで。」と、よびました。

「はい、なんで　ございますか。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　おしょうさまの　まえに　くると、おしょうさまは、

「しゅうけん、いま　おまえは　なにで　おとうみょうを　けした？」と、ききました。

「はい、<ruby><rb>口</rb><rt>くち</rt></ruby>で　ふきけしました。」

「それは、いけません。<ruby><rb>口</rb><rt>くち</rt></ruby>は　いろいろな　ものを　たべるところです。<ruby><rb>口</rb><rt>くち</rt></ruby>の　なかは　きたなく　なっています。その<ruby><rb>口</rb><rt>くち</rt></ruby>で、おとうみょうを　ふきけしては、ほとけの　ばちが　あたります。おまえも　もう、まるまるの　<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>どもでは、ありません。そのくらいの　ことは　おぼえて　おきなさい。」

「…………」

はい、と　こたえるかと　おもいのほか、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　いかにも　わからない　という　かおつきで、

「では、おしょうさま、おきょうも　<ruby><rb>口</rb><rt>くち</rt></ruby>で　よんでは　なりませぬか？」

「なぜじゃ。」

「ただいまの　おはなしですと、<ruby><rb>口</rb><rt>くち</rt></ruby>は　きたないから　おとうみょうを　ふきけしては　いけないと　おっしゃいましたが、その　きたない　<ruby><rb>口</rb><rt>くち</rt></ruby>で、とうとい　おきょうを　よんでは、なおさら　ほとけの　ばちが　あたりは　しないか、と　しんぱいです。」

「うむ、なるほど……。」

おしょうさまも、これには　へんじの　しようが　ありません。

しかし、これは　けっして　へりくつでは　ありません。どんな　ことも　こういう　ぐあいにして、わるいところが　あらためられて　いくのです。

## でるか　はいるか

ひさしぶりで、じくさいさんから　てがみが　きました。

「なかなか　あつい<ruby><rb>日</rb><rt>ひ</rt></ruby>が　つづきます。こんなときは、とんちもんどう　でもして　あつさを　しのぐに　かぎります。どうぞ、おししょうさまと　いっしょに　あそびに　きてください。そのかわり、ごちそうは　たくさん　ようい　しておきます。」

「おしょうさま、じくさいさんから　こんな　てがみが　きましたよ。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　おしょうさまの　へやに　とんで　いきました。

「ほう、よしよし。それでは　さっそく　でかけるとしよう。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんと　おしょうさまは　そろって　じくさいさんのいえに　でかけました。

こんどは、はしの　たてふだも　ありません。

「じくさいさん、<ruby><rb>今日</rb><rt>きょう</rt></ruby>は　どんな　なんもんを　よういしているかな。」

どこから　なにが　とびだすかも　わかりません。<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　ようじん　おさおさ　おこたりなく、いえに　はいりました。

が、<ruby><rb>今日</rb><rt>きょう</rt></ruby>の　じくさいさんは、とても　きげんが　よくて、なかなか　なんもんを　だしません。

そのうち　めしつかいたちが　どんどん　おいしい　ごちそうを　はこびました。

と、ひとりの　めしつかいが、いま　へやを　でて　いこうと　して、しきいを　またいだ　ときです。

「これこれ、ちょっと　まちなさい。」

と、じくさいさんが　その　めしつかいを　よびとめました。

「はい。」と　いって、めしつかいは　しきいを　またいだまま　たちどまりました。

すると　じくさいさんは　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんに　むかって、

「しゅうけんさん、あの　めしつかいは、へやを　でますか、それとも　もどって　きますか？」

と、ききました。

ははん、きたなと　おもった　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、ぽんぽんと　<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>を　たたいて、

「じくさいさん、いま　なった　<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>は　みぎですか、ひだりですか？」

と、いいました。

「はははあ……。」

じくさいさんは　なにも　いわないで　わらっています。

これで、もんどうは　じくさいさんの　まけです。

みなさん　わかりますか。

<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>を　たたいて　なった　ほうは　みぎと　こたえても、ひだりと　こたえても、りょうほうです、と　こたえても　いいでしょう。

ですから、みぎ、と　こたえれば、ひだりです、と　いうかも　しれません。

じくさいさんの　よびとめた　めしつかいも、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが、

「でる。」

と、こたえれば、もどって　くる　つもりです。

「もどる。」

と、こたえれば、でていく　つもりです。

へんじの　しようが　ありません。へんじの　しようが　ないでは　ないか、と　いうことを、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>を　たたいて　こたえたのです。

## とりの　もんどう

この　もんどうだけで　ごちそうが　おわりました。

三にんで　えんがわに　でて　にわを　ながめて　いると、ひとりの　こどもが　ちょこちょこと　めの　まえに　でてきました。

その　こどもは　みぎてに　<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>とりを　いちわ　にぎって　いました。それを　みた　じくさいさんは、そしらぬ　ふりで、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんに　はなしかけました。

「しゅうけんさん、あの　<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>どもの　<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>に　にぎられている　<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>とりは、しんで　いますか、いきて　いますか？」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　にこにこして、すーっと　たちあがりました。そして、さっき　じくさいさんの　めしつかいが　したように　へやの　さかいの　しきいを　またいで、

「じくさいさん、わたしは　へやを　でますか、もどりますか？」

と、いいました。

それをみた　じくさいさんは、わらいながら、

「わたしの　まけです。」

と、いって　おじぎを　しました。

これも　さっきの　もんどうと　おんなじことで、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>どもの　<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>に　にぎられた　<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>とりを、

「いきて　いる。」

と、いえば、にぎりころす　つもり、

「しんで　いる。」

と、いえば、

「ほれ、この　とおり　いきて　いる。」

と、いきた　まま　だして　みせる　つもりに　ちがいないのです。

## 十三ねん<ruby><rb>目</rb><rt>め</rt></ruby>

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　いつか　十八さいに　なっていました。すると　ある<ruby><rb>日</rb><rt>ひ</rt></ruby>、おしょうさまが　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　よんで、

「しゅうけん、おまえも　いつの　<ruby><rb>間</rb><rt>ま</rt></ruby>にか　十八に　なりましたね。」

と、しんみりと　いいました。

「ええ、おかげさまで　いつか　十八に　なりました。おししょうさまの　もとに　まいりましたのは、<ruby><rb>六</rb><rt>むっ</rt></ruby>つの　ときで　ございますから、いつの　まにか　十三ねん　たちました。まるで　ゆめの　ようです。」

と、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんも　しんみりしました。おしょうさまは、

「ついては　しゅうけん、おまえに　おりいって　<ruby><rb>話</rb><rt>はな</rt></ruby>したいことが　あるのだがね。」

「はい、なんでしょうか？」

「じつは　ね、しゅうけん、わしは　もう　おまえに　おしえる　ことが、なんにも　なくなったのだ。わしの　もっている　がくもんは、みんな　のこらず　おまえに　おしえつくして　しまったのじゃ。このうえは　たれか　わしより　えらい　かたに　おまえを　おたのみして、おまえに　もっと　もっと　がくもんを　ふかめて　もらいたいのじゃ。」

「はい。」

「十三ねんも　いっしょに　いた　おまえと、いまさら　わかれるのは　わしも　つらい　ことじゃが、おまえの　がくもんの　ためには　これも　いたしかた　ないことじゃ。」

「はい。」

「ついては、ここに　さいごんじの　おしょうに　てがみが　かいてある。さいごんじの　おしょうは　てんかに　かくれない　がくもんの　ふかい　おしょうじゃ。この　てがみをもって、これから　すぐ　さいごんじに　いきなさい。さいごんじの　おしょうには　もう　よく　<ruby><rb>話</rb><rt>はな</rt></ruby>してある。」

「はい、おししょうさま、ありがとうございます。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　その<ruby><rb>日</rb><rt>ひ</rt></ruby>　さっそく　さいごんじに　いきました。

さいごんじの　おしょうさまは、あんこくじの　おしょうさまの　そえてがみを　みて、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　へやに　とおすと、

「しゅうけんと　いう　<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぞうは　おまえか？」

と、どなりつける　ように　いいました。

「はい、しゅうけんと　もうします。よろしく　おねがい　いたします。」

「おまえは　<ruby><rb>大</rb><rt>たい</rt></ruby>へん　けんか　こうろん、とんちもんどうが　すきだそうだが、ほんとか？」

「いや、おしょうさま、わたしは　けんかも　こうろんも　すきでは　ありません。」

「なに、すきでない。それじゃあ　おんなみたいに　よわむしか？」

「でも　ありません。」

「では、けんか　こうろんは　すきじゃろ？」

「ほんとは　すきですが、しない　ことにして　おります。」

さいごんじの　おしょうさまは、じょうひんで　きだてのやさしい、まえの　あんこくじの　おしょうさまとは　まるで　はんたいで、かみなりの　ような　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>ごえで　がみがみいう　ひとでした。<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　じろりと　みおろして、

「おまえを　でしに　するまえに、<ruby><rb>一</rb><rt>ひと</rt></ruby>つ　きいておこう。」

と、もんどうを　はじめました。

## あたまは　<ruby><rb>石</rb><rt>いし</rt></ruby>

「おまえは　いま　けんか　こうろんは　せぬ、と　いったな。」

「はい、もうしました。」

「では、ひとに　つばや　たんを　はきかけられても、けんかを　せぬか。」

「はい、おしぬぐって　じっと　だまり、おこらない　しゅぎょうを　したいと　おもいます。」

「ほう、それでよい。それが　おまえに、ほんとうに　できるか？」

「はい、できます。できる　ように　しゅぎょう　いたします。」

「そうだ。こちらが　ただしいのに、つばや　たんを　はきかける　ような　やつは、いわば、ハエみたいなものじゃ。にんげんでは　ない。そんな　やつを　あいてに　けんか　こうろん　すれば、こちらが　ばかに　なる。」

「はい。」

「では、あいてが　ぽかりと　あたまを　なぐって　きたら、どうする。」

「がまん　します。」

「いや、ただ　がまんする　だけでは　いけない。そんな　やつには、いくらでも　なぐらせて　やるがいい。わけの　わからん　やつがなぐった　ときは、じぶんの　あたまを　あたまと　おもうな。<ruby><rb>石</rb><rt>いし</rt></ruby>だと　おもえ。」

「<ruby><rb>石</rb><rt>いし</rt></ruby>だと　おもうのですか？」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、にがい　くすりを　のんだような　かおをしました。

「そうじゃ。わしの　あたまは　<ruby><rb>石</rb><rt>いし</rt></ruby>じゃ。おまえの　<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>は　さぞ　いたかったろうと　あいてを　ながめ、あいてを　あわれんで　やるのじゃ。」

「はい。」

こんどの　さいごんじの　おしょうさまは、こんなふうに　てっていした　こころを　もっており、そのころ　がくもんも　おこないも、<ruby><rb>天下</rb><rt>てんか</rt></ruby>一だと　いわれていた　えらい　ぼうさんでした。おしょうさまは、

「おまえは　なかなか　できている。どうじゃ、わしの　ところで　しんぼう　できそうか。」

「いたします。」

「それでは　<ruby><rb>今日</rb><rt>きょう</rt></ruby>から　そうじゅん　と　<ruby><rb>名前</rb><rt>なまえ</rt></ruby>を　かえろ。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　こうして、その<ruby><rb>日</rb><rt>ひ</rt></ruby>から　さいごんじの　<ruby><rb>小</rb><rt>こ</rt></ruby>ぞうに　なりました。

## <ruby><rb>米</rb><rt>こめ</rt></ruby>がない

「そうじゅん、さっそくだが　でしいりと　きまったら、めしを　たいて　もらおう。」

でしいりが　きまると、おしょうさまは　さっそく　しごとを　いいつけました。

「はい。こめびつは　どこに　ありますか？」

「だいどころに　ある　はずじゃ。」

だいどころに　いって　みると、こめびつは　あるが、こめびつの　なかには　おこめが　<ruby><rb>一</rb><rt>ひと</rt></ruby>つぶも　ありません。

「おしょうさま、おこめが　ありません。」

「ないなら、どこからか　さがして　こい。」

<ruby><rb>大</rb><rt>たい</rt></ruby>へんな　ことに　なったものです。

こんどの　おしょうさまは　がくもんや、がくもんを　かんがえる　じかんが　おしくて、たくはつに　でて、おこめを　もらうのも　わすれて　いるのでした。<ruby><rb>三日</rb><rt>みっか</rt></ruby>も、<ruby><rb>四日</rb><rt>よっか</rt></ruby>も　ごはんを　たべないで、じっと　がくもんを　して　いることが　ありました。

<ruby><rb>今日</rb><rt>きょう</rt></ruby>も　あさから　なんにも　たべないで、みずばかり　のんで　いたのです。

そのときは　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　すぐ　きんじょの　いえに　いって、おこめを　もらって、おしょうさまに　ごはんを　たいて　あげましたが、そんな　ぐあい　ですから、がくもんでは　<ruby><rb>京</rb><rt>きょう</rt></ruby>のみやこで　いちばんだ　と　いわれる　さいごんじの　おしょうさまも　ころもは　ぼろぼろ、みちを　あるくときは　みぞの　わきで　ひろった　<ruby><rb>竹</rb><rt>たけ</rt></ruby>のぼうを　つえに　ついて　あるくので、みちで　あそんでいる　<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>どもたちは、

「やーい、こじきぼうず。」と、はやしたてる　ほどでした。

おてらの　なかも　ぼろぼろ――それでも、おしょうさまの　おへやには　<ruby><rb>本</rb><rt>ほん</rt></ruby>が　<ruby><rb>山</rb><rt>やま</rt></ruby>のように　つまれて　いました。

つぎの<ruby><rb>日</rb><rt>ひ</rt></ruby>、おしょうさまは、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　へやに　つれていって、

「そうじゅん、これを　よめ。」

と、かべに　はってある　かみを　ゆびさしました。

そこには　むそうこくし　と　いう　えらい　ぼうさんのかいた、ぼうさんの　わけかたが　はって　ありました。

<ruby><rb>上</rb><rt>じょう</rt></ruby>とうの　ぼうず――もうれつに　しゅぎょうして、ほんとうの　ぼうずの　みちに　たっした　ぼうず。

<ruby><rb>中</rb><rt>ちゅう</rt></ruby>とうの　ぼうず――しゅぎょうが　ふつうで、ものわかりの　いい　ぼうず。

<ruby><rb>下</rb><rt>か</rt></ruby>とうの　ぼうず――おてらの　しきたりだけを　まもって　いる　ぼうず。

この　<ruby><rb>下</rb><rt>か</rt></ruby>とうの　ぼうずが　<ruby><rb>二</rb><rt>ふた</rt></ruby>つに　わかれて　いました。

一、<ruby><rb>本</rb><rt>ほん</rt></ruby>は　たくさん　よんでも、うたなどばかり　つくって　ほとけの　おしえを　わすれた　ぼうず。これは　あたまを　そった　ただの<ruby><rb>人</rb><rt>ひと</rt></ruby>。

二、ごちそうばかり　ほしがって、かってなことを　しているぼうず。

「せけんには　<ruby><rb>下</rb><rt>か</rt></ruby>とうの二の　ぼうず　ばかり　おおいですね、おしょうさま。」

それを　よんで　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　いいました。

「そうだよ。十にんの　うちの　八にんまでは　<ruby><rb>下</rb><rt>か</rt></ruby>とうの　二だ。」

「あんこくじの　おしょうさまは　どのくらいでしょう。」

あんこくじは　まえの　おてらです。

「そうだね。まず、<ruby><rb>中</rb><rt>ちゅう</rt></ruby>とう　かね。」

「よしみつ<ruby><rb>公</rb><rt>こう</rt></ruby>は　<ruby><rb>下</rb><rt>か</rt></ruby>とうの　二ですね。」

「まだ、<ruby><rb>下</rb><rt>か</rt></ruby>とうの　二にも　いかないよ。」

「おしょうさまは　どのくらい　ですか？」

「おれか。おれは　<ruby><rb>上</rb><rt>じょう</rt></ruby>とうに　はいりかけて　いる　ところだ。おまえも　ぼうずに　なったからには、<ruby><rb>上</rb><rt>じょう</rt></ruby>とうの<ruby><rb>上</rb><rt>じょう</rt></ruby>に　ならなくては　いけないよ。」

「はい！」

## かたい　けっしん

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　さいごんじで　<ruby><rb>四</rb><rt>よ</rt></ruby>ねんかん。みっちり　しゅぎょう　しました。

さすがの　おしょうさまも、もう　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんに　おしえることが　なくなってしまいました。

「そうじゅんは　いくつに　なったな。」

ある<ruby><rb>日</rb><rt>ひ</rt></ruby>、おしょうさまが　いいました。

「二十一さいに　なりました。」

「もう、ひとりだち　しても　いい　ころだな。わしは　もうおまえに　なにも　おしえる　ことが　なくなったよ。」

「おししょうさまの　ごおんは　けっして　わすれません。」

ひとりだちして　どこかの　じゅうしょくに　なれ、と　すすめられましたが、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、

「いいえ、もっと　がくもん　します。」

と、いって、しばらく　さいごんじに　とどまっていました。

すると、そのとしの　十二がつに、おしょうさまが　ぽっくり　なくなりました。みんなが、

「そうじゅんさん、おしょうさまの　あとを　ついで、さいごんじの　じゅうしょくに　なって　ください。」

と、たのみました。が、もっと　もっと　べんきょうしたい　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、

「わたしは　まだまだ　しゅぎょうが　たりません。とても　あの　がくもんの　ふかい　おしょうさまの　あとを　つぐことなどは　できません。」

と、いって、さいごんじを　でていきました。

## わかれを　つげて

まだ　お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまが　じょうぶで、<ruby><rb>京都</rb><rt>きょうと</rt></ruby>の　はずれに　すんでいました。さいごんじを　でた　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、ひさしぶりに　<ruby><rb>母</rb><rt>はは</rt></ruby>の　もとを　たずねていきました。

「お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さま、わたしは　びわこの　ほとりに　しゅぎょうに　いきます。しばらく　おわかれに　まいりました。」

「びわこの　どこに　いく　つもりじゃ。」

「かそうさまの　おでしに　して　いただきたいと　おもいます。」

かそう　という　ぼうさんは　むらさき<ruby><rb>野</rb><rt>の</rt></ruby>の　<ruby><rb>大</rb><rt>だい</rt></ruby>とくじ　という　りっぱな　おてらの　じゅうしょく　でしたが、そのころの　だらくした　ぼうさんばかり　いる　<ruby><rb>京都</rb><rt>きょうと</rt></ruby>を　のがれ、びわこの　かただの　ほとりに、みすぼらしい　いおりを　たてて、そこで　ふかい　しゅぎょうを　している、よにも　まれな　とくの　たかい　ぼうさんでした。

「それは　けっこうです。でも　おまえは　どなたかの　てがみを　いただいて　いますか？」

お<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さまは　たずねました。

「いいえ。」

「それでは　むずかしいのじゃないか。かそうさまは　めったに　でしを　とらぬと　もうします。」

「でしに　してくださらなければ、いおりの　まえに　ざぜんを　くんで、しんでも　うごかぬ　かくごです。」

「そうですか。それほどの　けっしんが　あるなら、かそうさまも　きっと　でしに　してくださるでしょう。」

それから　<ruby><rb>三日</rb><rt>みっか</rt></ruby>めの　ことです。<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、かそうさんの　いおりを　たずね、でしに　してください、と　たのみましたが、でしの　<ruby><rb>一人</rb><rt>ひとり</rt></ruby>に、あっさりと　ことわられ、かそうさんには　あうことも　できませんでした。

その<ruby><rb>夜</rb><rt>よ</rt></ruby>の　ことです。<ruby><rb>月</rb><rt>つき</rt></ruby>あかりの　したで　ひとりの　としよりの　りょうしが、びわこで　あみを　かけていますと、なにか　とても　おもいものが　あみに　かかりました。

あみを　ひきあげて　みると、おもいのも　そのはず、わかい　ぼうさんの　したいでした。

かそうおしょうに　もんぜんばらいを　くった　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが、かなしみの　あまり、びわこに　みを　なげたのでした。

まだ　しんぞうの　こどうが　ありました。

しんせつな　りょうしは　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　いえに　つれてきて　かいほうして　くれたので、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　いきかえりました。

「どうして　みなげなど　したのです。」

じいさんと　ばあさんが　ききました。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　わけを　はなしますと、じいさんと　ばあさんは、

「それでは　しばらく　わたしの　いえに　とまっていて、ねっしんに　たのみなさい。」と、いってくれました。

「ああ、わたしは　かそうさまの　ゆるしを　うけるまでは、いおりの　まえで　しぬまで　ざぜんを　くむ　つもりだったのに、こんな　ことでは　とても　だめだ。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　そう　おもいかえして、それからも　なんども　なんども　かそうさんの　いおりを　たずねましたが、そのたびに　おいかえされました。

## <ruby><rb>雪</rb><rt>ゆき</rt></ruby>の　あさ

としも　あけて　一<ruby><rb>月</rb><rt>がつ</rt></ruby><ruby><rb>七日</rb><rt>なのか</rt></ruby>の　あさでした。

よるから　ふりだした　ゆきは、あたり　いちめん　まっしろに　しています。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　あさから　びわこの　ほとりに　でて、

「どうぞ　かそうさまが　でしに　してくださるように。」

と、ねがいながら　ざぜんを　くんで　いました。

すると、ひょっと　きが　つくと、<ruby><rb>目</rb><rt>め</rt></ruby>の　まえに、まゆの　ながい　としおいた　おしょうさんが　たっていて、じっと　うつくしい　みずうみの　けしきを　ながめて　いました。

「あッ！　かそうさまだ。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、おもわず　そう　さけんで、おしょうさまの　まえに　<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>をつき、

「どうぞ　わたしを　でしに　してください。」

と、たのみました。

「おまえは　そうじゅんと　いったな。」

かそうさんは　いいました。そうじゅんが　いのちがでけで　でしに　してくれと　たのんで　いることを　しって　いました。

「びわこに　みを　なげた　そうじゃな。」そんな　ことまで　ちゃんと　しって　いました。

「はい。」

「<ruby><rb>京</rb><rt>きょう</rt></ruby>で　しゅぎょう　したと　いうが、だれの　もとで　まなんだ。」

「さいごんじの　おしょうさまに　四ねんかん　まなびました。」

「そうか。さいごんじの　おしょうに　ついたか。さいごんじの　おしょうも　おしいことを　したな。」

「はい。」

「さいごんじの　おしょうも　がんこ　だったが、わしは　もっと　がんこじゃ。おまえは　うわさに　きいておろう。」

「はい、ぞんじて　おります。」

「しんぼう　できるか？」

「どんな　しんぼうでも　いたします。」

「そうか。ゆきの　なかは　さむい。それでは、いおりの　なかに　はいろう。」

「はッ！　ありがとう　ございます。」

こうして、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　やっと　かそうさんの　でしに　して　もらうことが　できました。

## からすの　こえ

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　五ねんあまり、この　かそうさんの　もとで　しゅぎょうして　いました。

そのあいだに　こんな　ことが　ありました。

いつか、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　たすけてくれた　あの　としよりの　りょうしは　そのあとも　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　めんどうを　みていて　くれましたが、ある　<ruby><rb>月</rb><rt>つき</rt></ruby>あかりの　うつくしい　<ruby><rb>夜</rb><rt>よる</rt></ruby>の　ことでした。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが、その　りょうしの　<ruby><rb>舟</rb><rt>ふね</rt></ruby>に　のせてもらって　びわこの　うえで　ざぜんを　くんで　いますと、そらの　どこかで　からすの　なきごえが　しました。

「あッ！」

ざぜんを　くんで　いる　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>の　しずかな　こころの　そこに、その　からすの　こえが　しみわたって　きました。

「ああ、わしは　なんと　いけない　こころを　もって　いたのだろう。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、きゅうに　こころの　<ruby><rb>目</rb><rt>め</rt></ruby>が　あいたように　さとりを　ひらきました。

どんな　さとりを　ひらいたのでしょうか。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、これまで　うつくしい　ころもを　きて、ごちそうを　たべ、ほとけの　みちに　はずれた　おこないをしている　ぼうさんたちを、おこったり　けいべつ　したりしていました。

すみとおった　びわこの　うえで、なんの　こだわりもない　からすの　なきごえを　きいた　ひょうしに、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは「ああ、それは　いけない　ことだ。」と、おもいあたったのです。

ひとの　わるい　ところを　みて、ぶつぶつ　いったり、けいべつしたり　することは、いけない　ことだ。そんな　ことに　きを　かけず、じぶんさえ　ほんとうの　みちを　あるいて　おれば　よい。そして、じぶんが　ほんとうの　みちを　あるくことで、ほかの　ひとが　かんしんして、ひとりでに　ほんとうの　みちを　あるくように　なってくれるのが、ほんとうの　ほとけの　みちだ。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　そう　さとったのでした。

これは、ほとけの　みち　だけではなく、にんげん　みんなの　ほんとうの　みちでしょう。

## <ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>と　いう　なまえ

また　ある<ruby><rb>日</rb><rt>ひ</rt></ruby>の　ことでした。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　やはり　あの　としよりの　りょうしの　<ruby><rb>舟</rb><rt>ふね</rt></ruby>に　のせてもらって、うつくしく　すんだ　びわこの　うえで、がくもんの　ことを　かんがえて　いました。

すると、どこからとも　なく、うつくしい　かなしい　うたごえが　ながれて　きました。

ふと　みると、みずうみの　ほとりで、ひとりの　こじきが　びわを　ひいて、うたを　うたって　いるのでした。

うたの　きょくは、うつくしい　しなの　まいこが、<ruby><rb>王</rb><rt>おう</rt></ruby>さまに　しりぞけられたのを　かなしんで、あまさんに　なる、と　いう、あわれな　うたでした。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　その　きょくを　きいて、ひとの　うんめいの　かなしさに　うたれ、しみじみと　かんげき　しました。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　ふねから　あがると、さっそく　そのことを　おしょうさまの　かそうさんに　はなしました。

すると、おしょうさまは　だまって　へやに　ひっこむと、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>　と　かいた　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>きな　<ruby><rb>字</rb><rt>じ</rt></ruby>を、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんに　わたしてくれました。

それまで　そうじゅん　と　いっていた　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　それから　<ruby><rb>名</rb><rt>な</rt></ruby>を　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>　と　あらため、それを　いっしょう　かえなかったと　いわれます。

## たびに　でる

こうして、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　かそうさんの　もとで、いろいろだいじな　べんきょうを　しましたが、五ねん<ruby><rb>目</rb><rt>め</rt></ruby>の　あるよの　ことです。

あんなに　きびしい　おしょうさまが、その<ruby><rb>夜</rb><rt>よ</rt></ruby>は　にこにこして、

「<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>、おまえは　わしの　もとにきて　五ねん　あまりになるな。」

と、はなしかけました。

「はい、ゆめの　ように　すぎました。」

「わしは　おまえに　わしの　がくもんの　すべてを　おしえた。また　おまえの　こころは　どんなに　わるい　ぼうずと　まじわっても、もはや　けっして　けがれる　ことの　ない、ふかい　ところに　たっした。もう　おまえは　この　いおりを　そつぎょうして　いいぞ。」

「はい。みな　おしょうさまの　ごおんで　ございます。」

「ついては、おまえに　<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">さしょう</span>を　あたえたい。」

<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">さしょう</span>と　いうのは、いまの　そつぎょうしょうしょと　おなじものです。わしの　もとで　五ねんあまり　こっくべんれいして、ぶっきょうの　おうぎに　たっしたと　いう　しるしです。

かそうさまの　さしょうは、どんな　りっぱな　てらの　じゅうしょくにも　なれる　<ruby><rb>高</rb><rt>たか</rt></ruby>い　ねうちの　あるものです。

が、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　いいました。

「おしょうさま、ありがとうございます。でも、わたしは　ごじたい　いたします。」

「いらぬか？」

おしょうさまは　やさしく　いいました。

「はい……。」

「<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>よ。おまえは　わしの　あとを　ついで、<ruby><rb>大</rb><rt>だい</rt></ruby>とくじの　じゅうしょくに　なって　もらわねばならぬ。それには　この　さしょうが　いるのじゃ。」

かそうさまは　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　じぶんの　あとつぎにして、むらさき<ruby><rb>野</rb><rt>の</rt></ruby>の　<ruby><rb>大</rb><rt>だい</rt></ruby>とくじの　じゅうしょくに　しようと　して　いたのでした。

「はい。おしょうさまの　おなさけに　そむくようで　こころが　いたみますが、わたしは　てらの　じゅうしょくには　なりたく　ございません。てらの　じゅうしょくに　なれば、いろいろ　わずらわしい　<ruby><rb>人</rb><rt>ひと</rt></ruby>とも、また　えらい<ruby><rb>人</rb><rt>ひと</rt></ruby>とも　つきあわねば　なりません。そう　すると　わたしの　こころは　けがれます。それよりも　わたしは　いっしょう　ひとの　みちを　さぐり、ほとけの　みちを　たずねる　きゅうどうしゃと　して　おくりたいと　おもいます。」

かそうさまは　それを　きくと、

「そうか。<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>、よく　いった。わしも　そのみちを　あゆみたいと　おもった　くらいじゃ。<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>よ、おもう　みちを　あるくが　よい。」

と、いって、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　はげまして　くれました。

ある<ruby><rb>日</rb><rt>ひ</rt></ruby>、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　おしょうさまの　ゆるしを　えて　どこへとも　しれぬ　たびに　でました。

## てんぐの　どうじょう

たびに　でた　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、いつか　えちぜんのくにの　たけう　と　いう<ruby><rb>町</rb><rt>まち</rt></ruby>を　あるいて　いました。

えちぜんの　くには、いまの　ふくいけん　です。

このまちに　ありた　はやと　という　けんじゅつの　せんせいが　いて、<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>きな　どうじょうを　かまえて　いました。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、まちの　ひとから、この　けんじゅつの　せんせいは、うでは　りっぱだが、こころが　わるく、いつも　うでを　はなに　かけては、まちの　ひとに　めいわくを　かけ、まちの　ひとから　はなつまみに　されて　いると　いうことを　ききました。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　ひょっこりと　その　どうじょうの　まえを　とおりかかりました。

「ああ、ここが　うわさにきく　てんぐの　どうじょうか。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　そう　つぶやいたとき、どうじょうの　まどから　くびを　だした　ひとりの　もんじんが、ふしぎそうに　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　すがたを　ながめました。

たびに　でた　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　いつも　<ruby><rb>木刀</rb><rt>ぼくとう</rt></ruby>を　こしに　さし、<ruby><rb>尺八</rb><rt>しゃくはち</rt></ruby>を　ふいて　いたと　いうことです。もんじんは　<ruby><rb>木刀</rb><rt>ぼくとう</rt></ruby>を　こしに　さした　こじきぼうずを、ふしぎに　おもったのです。

その　もんじんが<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　ひとりごとを、ききつけて、

「おい、ぼうず、てんぐの　どうじょうとは　なんだ。」

と、さけんだので、ほかの　もんじんも　たくさん　まどぎわに　あつまってきて、

「なんだ、なんだ。」

と、さわぎだしました。

「あの　ぼうずが　へんな　ことを　いいやがったんだよ。」

「けしからん　ぼうずだな。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　たちどまって、にこにこ　もんじんたちを　ながめて　いましたが、なにを　おもったか、ずかずかと　どうじょうの　げんかんに　はいって　いって、

「たのもう。」

と、こえを　かけました。すると　<ruby><rb>目</rb><rt>め</rt></ruby>つきの　わるい　もんじんが　でてきて、

「これは　たびの　ぼうさん、どちらから　おいでか？」

「うん、あちらから　きた。」

「いや、うまれた　ところは　どこかと　きいているのだ。」

「ははは、ききかたが　まちがって　いる。ぼうずには　うまれた　<ruby><rb>土地</rb><rt>とち</rt></ruby>が　ないものじゃ。むりに　いえば　てんじくからか。」

もんじんは　むっとしました。

「ここは　きよき　どうじょうじゃ。こじきぼうずなどの　くる　ところではない。なにか　ほしければ　だいどころに　まわれ。」

「なるほど。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　くるりと　むきを　かえて、どうじょうの　かってぐちに　まわりました。そして　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>ごえで　いいました。

「この　どうじょうは、よこぐるまを　おしては　まちの　ひとを　くるしめ、<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>もうけを　して　いるそうじゃから、かねもちだろう。わしは　はらが　へった。ごちそうを　たのむ。」

ほかの　もんじんが　でてきましたが、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さん　ずうずうしく　どなって　いるので、かんかんに　おこって、

「せっかくだが、ここは　ぶげいの　どうじょうだ。こじきぼうずに　めぐむ　ものなど　ない。はらが　へったら　めしやに　いけ。」

「なにか　ほしかったら、かってぐちに　まわれと　いったぞ。」

この　さわぎを　ききつけて　おくにいた　せんせいが、

「なんじゃ、そうぞうしい。」

「せんせい、こじきぼうずが　めしを　くわせろ、と　いっています。せんせいの　ことを　てんぐと　いっています。」

「だいどころに　とおして、めしを　くわしてやれ。」

もんじんは　せんせいが　そう　いうので、

「ぼうさん、こちらに　きて　ください。」

「それは　かたじけない。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　わらじを　ぬいで、どんどん　どうじょうにはいり、かみざに　ある　せんせいの　ざぶとんに、どっかと　あぐらをかいて、

「ちょっと　ことわって　おくが、わしは　まずいものは　きらいじゃ。たんと　おいしいものを　もって　まいれ。」

「ぼうさん、そこは　ちがいます。だいどころに　きて　ください。」

「いや、ここの　ほうが　よい。」

もんじんは　また　せんせいの　へやに　きて、

「せんせい、こじきぼうずが　せんせいの　ざぶとんに　すわって、いばって　います。」

「そうか。」

なにか　わけが　ありそうだと　おもったらしく、せんせいが　どうじょうに　でてきて、

「これこれ、どうじょうには　どうじょうの　れいぎがある。かってなことを　しては　いかん。」

「もんくを　いう　まえに　ごちそうを　たのむ。」

どうじょうの　せんせいも　おこって　しまいました。

「あまり　かってな　ことを　すると、すてては　おかんぞ。」

「どう　なさろうと　いうのじゃ。」

せんせいは　ふと　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　さしている　<ruby><rb>木刀</rb><rt>ぼくとう</rt></ruby>を　みて、

「おや、ぼうさんは　けんじゅつを　なさるか？」

「いや、いたさぬ。」

「では、その<ruby><rb>木刀</rb><rt>ぼくとう</rt></ruby>は　なんの　ために　おもちじゃ。」

「よのなかの　にせものに　みせる　ためじゃ。」

「にせもの？」

「そう。よのなかには　この　<ruby><rb>木刀</rb><rt>ぼくとう</rt></ruby>の　ような　にせものが　たくさんいる。こうして　こしに　さして　いると、かたなのように　みえるが、<ruby><rb>木刀</rb><rt>ぼくとう</rt></ruby>は　かたなの　にせものじゃ。」

「わしを　にせものだと　いうのか？」

「おまえも　そう　おもうだろう。」

「くそぼうずッ！」

と、せんせいは　まっかに　なって　おこりました。いきなり　そこに　あった　<ruby><rb>木刀</rb><rt>ぼくとう</rt></ruby>を　とりあげると、やっと　ばかりに　ふりあげ、

「ぼうず、もいちど　いってみろ。ただでは　おかぬぞ。」

が、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　へいぜんと　しています。

「にせもの、どこからでも　うって　こい。」

もんじんたちは、ああ、かわいそうに、この　こじきぼうず　あたまを　たたきわられるだろう、と　じっと　みつめています。

が、ふしぎな　ことに　じっと　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　にらんで、<ruby><rb>木刀</rb><rt>ぼくとう</rt></ruby>を　ふりあげて　いる　せんせいの　てが、ぶるぶると　ふるえだし、ひたいから、じわじわ　あぶらあせが　ながれだして　きました。

「なぜ　うたぬ。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　はらの　そこから　いいました。すると、さすがは　うでの　ある　ぶげいしゃです。じぶんの　わるいことを　さとったか、がらりと　<ruby><rb>木刀</rb><rt>ぼくとう</rt></ruby>を　すてて、

「うたれるのは　わたしで　ございます。」と　いうと、ぴたりと　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　まえに　りょうてを　つきました。

「ぼうさま、あなたは　かねがね　れんにょ<ruby><rb>上人</rb><rt>しょうにん</rt></ruby>から　うけたまわって　おります　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さまでは　ござりませぬか？」

「ほう、そなたは　れんにょの　しんじゃか？」

「はい、この　あたりの　ものは、みな　れんにょ<ruby><rb>上人</rb><rt>しょうにん</rt></ruby>の　しんじゃに　ござります。」

れんにょ<ruby><rb>上人</rb><rt>しょうにん</rt></ruby>は　そのころ　<ruby><rb>名</rb><rt>な</rt></ruby>の　きこえた　えらい　ぼうさんでした。この　たけうの　まちから　十りばかり　はなれた、しばたこの　ほとりの　よしざき　と　いう　まちに　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>きな　おてらを　たて、この　あたりの　ひとたちから、いきぼとけと　いわれて　いました。

れんにょは　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんより　二十二さいも　わかいのですが、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんとは　なかよしでした。

「そうか、れんにょの　しんじゃなのに、きさまが　はなつまみもの　とは、わけが　わからぬ。」

「もうしわけ　ありません。」

「うでを　みがくだけでは　だめじゃ。こころを　みがけ。」

「はい、<ruby><rb>目</rb><rt>め</rt></ruby>が　さめました。」

ありた　はやとは　もんじんたちに　いいつけて　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんに　たくさん　ごちそうを　だし、

「<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さま、おねがいが　ござります。」

「なんじゃな。」

「この　どうじょうの　どの　<ruby><rb>木刀</rb><rt>ぼくとう</rt></ruby>でも　よろしゅうございますから、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さまの　<ruby><rb>木刀</rb><rt>ぼくとう</rt></ruby>と　とりかえて　いただきとう　ございます。」

「こんな　ものを　なんに　いたす。」

「ぶつぜんに　かざって、まいにち　おがみ、こころを　みがきます。」

「そうか。それは　よい　こころがけじゃ。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、ごちそうを　たべ、<ruby><rb>木刀</rb><rt>ぼくとう</rt></ruby>を　ありた　はやとにあたえると、また　どこともなく　でていきました。

## かさ　もんどう

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　かんとうの　ほうへ　むかって　たびを　つづけて　いる　ときの　ことでした。

「<ruby><rb>下</rb><rt>した</rt></ruby>にい――<ruby><rb>下</rb><rt>した</rt></ruby>にい。」

と　いう　やかましい　かけごえが　きこえて、うしろから　だいみょうぎょうれつが　やってきました。

「ああ、うるさいものが　やってきたな。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、まつなみきの　そばの　いしの　うえに　こしかけて、ひとやすみ　しました。

すると、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　まえを　とおりすぎようと　した　とのさまが、かごの　なかから、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　ようすを　みて　けらいの　ものに　いいました。

「これこれ、あの　おぼうさんは、この　あついのに　かさも　もたずに　おきのどくな　ようす、たれか　かさを　<ruby><rb>一</rb><rt>ひと</rt></ruby>つ　おぼうさんに　あたえよ。」

「はっ。」

かしこまった　けらいの　ひとりが、さっそく　かさを　もって　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　ところに　とんで　きました。

「おぼうさん、とのさまの　おおせで、かさを　もって　まいりました。この　あついのに、かさなしでは　さだめし　おあついことで　ございましょう。どうぞ　この　かさを　かぶってください。」

すると、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　さだめし　よろこぶだろうと　おもいの　ほか、

「それは　まことに　かたじけないが、わしは　うまれおちるとから、あおぞらを　かさに　かぶっているから、せっかくの　おことばだが　おかえし　いたします。とのさまに　よろしく　もうして　ください。」

と、<ruby><rb>手</rb><rt>て</rt></ruby>を　ふって、えんりょもなく　ことわって　しまいました。

けらいの　ものは　あきれかえって　しばらく　ぼんやりと　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　かおを　みつめて　いましたが、いらないと　いうのですから、むりにとも　いえないので、

「なんと、がんこな　ぼうずだろう。」と、おもいながら、とのさまの　ところに　かえって、そのことを　はなしました。

とのさまは　しぶいかおをして　けらいの　いうことを　きいて　いましたが、やがて　にこりとして、

「あおぞらが　かさか。なるほど　おもしろい　ことを　いう　ぼうさんだな。そんなことを　ずけずけ　いう　ぼうさんなら、きっと　ただの　ぼうさんでは　あるまい。そそうの　ないように　いたせ。」

と、けらいを　いましめて、そのまま　いきすぎて　しまいました。

ゆうがたに　なって、とのさまが　やどやに　とまると、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　いつ　ぎょうれつを　ぬいた　ものか、もう　ちゃんと　その　やどやに　とまって　いました。

「おやおや、あおぞらを　かさに　かぶって　あるく、と　いった　あの　ぼうさん、いつ　わしの　かごを　とおりぬけたものか、もう　ちゃんと　とまって　いるぞ。」

とのさまも　びっくり　しましたが、どうも　あの　ぼうさん　おもしろそうだ、<ruby><rb>一</rb><rt>ひと</rt></ruby>つ　よんで　みようと、けらいにいいつけて、

「これこれ、あの　ぼうさんを　おまねきしてこい。」

と、いいつけました。

「はい、これは　ありがたい。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　すぐ　しょうちして　のこのこと　とのさまの　へやに　はいろうと　しました。すると、とつぜん　へやの　なかから　とのさまが、

「おぼうさん、しばらく　おまちを　ねがいたい。」

と、こえを　かけました。

「なんじゃ。」

「おぼうさん、たとえ　おぼうさんとは　いえ、ひとの　ざしきに　はいるのに、かさを　かぶったままとは、ちと　しつれいでござろう。かさを　とって　おはいりください。」

もちろん　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　かさなど　かぶって　いません。しかし、さっき　みちばたで、あおぞらを　かさに　かぶっている、と　いったのですから　まだ　かさを　かぶって　いることに　なります。

それを　とのさまは　もんどうにして　いったのでした。

が、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　そんな　ことでは　へこたれません。

「いや、いわれるまでもなく　かさを　とって　はいりたいのは　やまやまだが、なにぶんにも　わしの　かさは、あまり　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>きすぎるので　ぬいでも　おくところが　ない。しつれいとは　おもうが　このままに　する。」

なるほど、あおぞらでは　とっても　おくところが　ないだろう。とのさまは　これを　きくと、

「おぼうさんは　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんで　ござろう。」

と、いいました。

「ははあ、ばけの　かわが　はげたか。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　おもしろそうに　わらって　います。

とのさまは、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんに　たくさんの　ごちそうを　だして、いろいろ　はなしを　ききましたが、そのなかに　こんな　はなしが　ありました。

「<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さん、よのなかには　ゆうれいと　いうものが　いるでしょうか。わたしは　はなしには　きいて　いますが、まだ　みたことが　ありません。ゆうれいは　ほんとに　いるのでしょうか？」

と、とのさまが　ききました。

「ははは……よく　きかれる　ことじゃが、わしは　とちゅうに　ぶらぶら、と　こたえることに　して　いる。」

「とちゅうに　ぶらぶら　とは、どう　いう　ことですか。」

「それがな、ゆうれいと　いう　やつは、ひとの　こころの　もちかたで、でたり　でなかったりする。だから、でると　いえば　でる。でないと　いえば、でない。つまり　とちゅうで　ぶらぶら……」

## <ruby><rb>正月</rb><rt>しょうがつ</rt></ruby>の　しゃれこうべ

あるとしの　<ruby><rb>正月</rb><rt>しょうがつ</rt></ruby>の　がんじつの　ことでした。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、しゃれこうべを　たけの　さおに　つきさして、<ruby><rb>京</rb><rt>きょう</rt></ruby>の　<ruby><rb>町</rb><rt>まち</rt></ruby>を　あるきまわりました。<ruby><rb>町</rb><rt>まち</rt></ruby>の　ひとは、

「いやな　ぼうずだな。」

「この　おめでたい　お<ruby><rb>正月</rb><rt>しょうがつ</rt></ruby>に、しゃれこうべを　もちあるく　なんて、なんて　ぼうずだろう。」

と、<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>さわぎを　しました。

そのうち　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　四じょう　むろ<ruby><rb>町</rb><rt>まち</rt></ruby>の　<ruby><rb>京都</rb><rt>きょうと</rt></ruby>いちばんの　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>がねもち　ぜにきゅうの　いえに　あらわれました。

<ruby><rb>元日</rb><rt>がんじつ</rt></ruby>の　ことですから、しゅじんの　きゅうべえは　いえの　ものを　みんな　あつめて、とそを　いわい、おぞうにを　たべていました。

すると　そこに、しゃれこうべを　もった　うすぎたないぼうずがあらわれたのですから、きゅうべえは　びっくりして、

「やい、この　きちがいぼうずめ。」と、おこりました。すると　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、おきょうでも　よむような　ふしを　つけて、

かどまつは　めいどの　たびの　一りづか

めでたくも　あり　めでたくも　なし

と、うたい、つづけて、

<ruby><rb>正月</rb><rt>しょうがつ</rt></ruby>の　ぎしきは　<ruby><rb>死</rb><rt>し</rt></ruby>ぬる　ことはじめ

どんどは　<ruby><rb>火</rb><rt>か</rt></ruby>そう　<ruby><rb>二十日</rb><rt>はつか</rt></ruby>　ほねあげ

と、うたって、<ruby><rb>目</rb><rt>め</rt></ruby>を　ぱちくりしている　きゅうべえを　しりめに、さっさと　どこかへ　いって　しまいました。

なんと　いっても、お<ruby><rb>正月</rb><rt>しょうがつ</rt></ruby>は　めでたい　ときです。その　めでたい　ときに、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　どうして　そんなことをして、ひとを　いやがらせたのでしょう。

それは、こういう　わけでした。

そのころ　<ruby><rb>京都</rb><rt>きょうと</rt></ruby>の　まちは　<ruby><rb>大</rb><rt>たい</rt></ruby>へん　ぜいたくに　なっていました。それ　ばかりでなく、かねかしとか、よくないものが　はびこって、たかい　りしを　とっては　ひとびとを　くるしめて　いました。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　それを　いましめようと　したのでした。

ことに　ぜにや　きゅうべえは、かねかしの　なかでも　いちばん　たちの　わるい　やつで、きゅうべえから　かねを　かりた　ひとは、みな　くるしんで　いました。それで、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　きゅうべえの　いえには　わざわざ　たちよって、しゃれこうべを　つきつけ、

「おまえは、かね　かねと　いって、びんぼうにんから　たかい　りしを　まきあげ、じぶんだけ　ぜいたくをして　ひとを　くるしめて　へいきで　いるが、おまえが　いくら　かねを　ためても、しんで　しまえば、この　しゃれこうべと　おんなじに　なるのだよ。かねは　あのよに　もって　いかれない。ちと　こころを　あらためなさい。」

と、いましめようと　したのでした。

## とのさまの　そうしき

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが、<ruby><rb>大</rb><rt>だい</rt></ruby>ぶ　としとってからの　なかの　よい　ともだちに、にながわ　しんざえもん　と　いう<ruby><rb>人</rb><rt>ひと</rt></ruby>が　ありました。

しんざえもんは　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　えらさに　かんしんして、わざわざ　じしゃぶぎょう　と　いう　たかい　やくめを　やめ、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　しんじゃに　なった　ひとでした。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんと　しんざえもんさんが　いろいろな　はなしを　していると、ひとりの　ぶしが　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　いおりを　たずねて　きて、

「わたしは　うえむら　ないき　と　いうものの　けらいですが、このたび　とのさまが　しにました。その　ゆいごんに　わしが　しんだら　ぜひ　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんに　いんどうを　わたして　もらえ、と　ありました。どうぞ　ぜひ、ほとけさまに　いんどうを　わたして　ください。」

と、たのみました。<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、すぐ、

「しょうちした。」

と、こたえましたが、すぐ　あとから、

「けれど、わしは　おともが　おおいぞ。それに、わしの　ともは、ひとりに　ついて、ぜに　一かんずつ　もうしうける　ことに　なって　いる。それを　しょうち　して　くださるか？」

と、つけたしました。

「はい、かしこまりました。それでは　よろしく　おねがいいたします。」

と、いって　けらいは　かえりました。

それを　そばで　きいていた　にながわ　しんざえもんは　ふしぎそうにして、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんに　いいました。

「あなたは　よくの　ないかただと　おもって　いましたが、あんがい　よくが　ふかいのですね。」

「まあ、いいよ。しんざえもん、みておれ。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　ただ　にこにこと　わらって、しんざえもんの　ことばを　ききながして　いましたが、すぐ、

「さあ、しんざえもん、おまえにも　ぜに　一かん　もらって　やるぞ。ついて　こい。」

と　いって、たちあがりました。

しんざえもんさんも、ははあ　これは　なにか　わけが　あるな、と　きづきましたから、だまって　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんに　ついて　いきました。

五じょうの　はしを　わたって、むこうの　かわらに　でると、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、<ruby><rb>一</rb><rt>ひと</rt></ruby>つの　こじきの　こやに　たちよりました。

「もくさん　もくさん、ちょいと　たのみじゃ。ぜに　もうけじゃ。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　ここの　こじきと　しりあいと　みえて、そう　よびました。

こじきの　もくさんが　でて　きました。<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、

「なん<ruby><rb>百</rb><rt>びゃく</rt></ruby>にんでも　いいから、おまえの　しって　いる　こじきを　みんな　あつめて　くれ。」

「なんですか、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さん。」

「うえむら　ないきの　そうしきじゃ。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　わけを　はなして、

「あれは　かねもちだから、うんと　かねを　もらって　やるのだ。」

「それは　おもしろいですね。では、さっそく　あつめましょう。」

こじきの　もくさんは、そこらじゅうの　こじきを　よびあつめ、<ruby><rb>京都</rb><rt>きょうと</rt></ruby>じゅうの　こじきを　みな　かりあつめました。

かぞえて　みると　三<ruby><rb>百</rb><rt>びゃく</rt></ruby>五十五にん　あつまりました。

「さあ、それでは　たのむ。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　三<ruby><rb>百</rb><rt>びゃく</rt></ruby>五十五にんの　こじきを　ぞろぞろ　つれて、とのさまの　やしきに　のりこみました。

いくら　ともが　おおいと　いっても、三<ruby><rb>百</rb><rt>びゃく</rt></ruby>五十五にんも　くるとは　おもいも　かけなかった　とのさまの　やしきでは、びっくりして　しまいましたが、かずを　きめて　やくそくしたわけでは　ありませんから、しぶしぶ、三<ruby><rb>百</rb><rt>びゃく</rt></ruby>五十五にんの　こじきに、ぜに　一かんずつを　はらいました。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　おかしさを　かくして、しずかに　いんどうを　わたしました。

じひも　せず、あくじも　なさず　しぬ　ものは、ほとけも　ほめず　えんまも　とがめず。

しんだ　とのさまは　ただ　かねを　ためるのが　たのしみで、じひの　こころを　もたないで　ゆうめいでした。そんな　ひとの　かねなら、こじきに　やった　ほうが　いいと、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　こういう　ことを　したのですが、つづけて　こう　いいました。

だいみょうも　こじきも　おなじ　<ruby><rb>月</rb><rt>つき</rt></ruby>は<ruby><rb>月</rb><rt>つき</rt></ruby>、<ruby><rb>水</rb><rt>すい</rt></ruby>、<ruby><rb>火</rb><rt>か</rt></ruby>、<ruby><rb>風</rb><rt>ふう</rt></ruby>の　うつけもの<ruby><rb>奴</rb><rt>め</rt></ruby>らッ！

にんげんは　とのさまも　こじきも　おなじ　にんげんだ、と　いったのです。そう　いった　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　<ruby><rb>目</rb><rt>め</rt></ruby>には　なみだが　あふれて　いました。

## たった　一<ruby><rb>日</rb><rt>にち</rt></ruby>だけの　ようし

しょうぐんや　ぶしや　えらいひとに　こび　へつらうことの　きらいな　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、いつも　まずしいものの　みかたでした。

いつも　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんと　したしく　して　いる、みえいどうという　おうぎやの　ろうじんふうふが、ある<ruby><rb>日</rb><rt>ひ</rt></ruby>　とつぜん　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんを　たずねてきて、

「<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さん、ながく　おつきあい　いただきましたが、このたび　わけあって　みせを　やめ、くにに　かえる　ことになりました。」

と、いいました。

「ほう、おかねが　たまったので、くにに　かえって　しずかに　くらす　つもりかい。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　そう　いいましたが、けっして　そうでは　ないことを　しって　いました。ろうじんふうふは、<ruby><rb>目</rb><rt>め</rt></ruby>に　なみだを　ため、

「とんでも　ございません。しゃっきんが　たまって、みせを　やって　いけなくなりました。」

「それは　きのどくじゃ。しゃっきんは　どの　くらいか？」

「<ruby><rb>百</rb><rt>ひゃく</rt></ruby>りょうで　ございます。みせを　うると、その<ruby><rb>百</rb><rt>ひゃく</rt></ruby>りょうが　かえせます。」

「ほう、<ruby><rb>百</rb><rt>ひゃく</rt></ruby>りょうかな。」

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、じっと　かんがえこみましたが、ぽんと　ひざを　うって、

「いい　ことが　ある。どうじゃな　みえいどうさん、わしを　おまえさんがたの　ようしに　して　くださらんか。<ruby><rb>二人</rb><rt>ふたり</rt></ruby>が　いなかに　かえっても　いちもんなしでは　こまるじゃろう。わたしが　その　しゃっきんを　かえして　あげよう。」

「と、とんでもない。あなたさまの　ような　かたを　わたしどもの　ような　ものの　ようしだ　なんて。」

ろうじんふうふは　びっくりして　しまいました。<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　わらって、

「まあ、わたしに　まかして　おきなさい。」

と、いうと、つぎのあさ　はやく　のこのこと、みえいどうに　でかけて　いって、

「みえいどうさん、ふでと　すずりを　かして　ください。」

「どうなさります。」

「いいから　かしてください。」

ろうじんふうふから　ふでと　すみを　かりると、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、

「さあ、わたしは　<ruby><rb>今日</rb><rt>きょう</rt></ruby>から　あなたがたの　むすこです。どうぞ　ゆうがたまで　あそんで　きて　ください。」

と、いって、ろうじんふうふを　あそびに　だして　やりました。

そのあとで、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　とだなから　かみを　なんまいも　だして　つぎたし、

「<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>は　<ruby><rb>今日</rb><rt>きょう</rt></ruby>から　みえいどうの　ようしに　なりました。その　ひろうに、<ruby><rb>今日</rb><rt>きょう</rt></ruby>　一にちだけ　おうぎを　かって　くださった　かたに、むりょうで　きごうします。」と　かいて、みせの　まえに　はりだしました。

きごうと　いうのは　じを　かく　ことです。

さあ、おうぎを　かえば、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんが　ただで　じを　かいてくださると　いうので、<ruby><rb>大</rb><rt>たい</rt></ruby>へんな　ひょうばんに　なりました。

ゆうがた、ろうじんふうふが「<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さん　どうなすったかな。」と、おもいながら　かえって　きた　ときには、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　わきには　<ruby><rb>山</rb><rt>やま</rt></ruby>の　ように　おかねが　つみかさなって　いました。<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、

「みえいどうさん、はい　おかね。」

と、いうと、

「では、わたしは　これで　りえんして　もらいますよ。」

さっさと　いおりに　かえって　しまいました。

みえいどうさんは　しゃっきんを　はらっただけでなく、それからは　ゆたかに　くらすことが　できました。

## てんのうの　おつかい

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　やましろのくに（いまの、きょうとふ）たまぎむら　と　いう　ところに、しゅうおんあん　と　いう　<ruby><rb>小</rb><rt>ちい</rt></ruby>さな　いおりを　たててもらって　すんで　いました。<ruby><rb>京都</rb><rt>きょうと</rt></ruby>の　<ruby><rb>町</rb><rt>まち</rt></ruby>の　ちかくです。

すると　ぶんめい六<ruby><rb>年</rb><rt>ねん</rt></ruby>（一四七八<ruby><rb>年</rb><rt>ねん</rt></ruby>）二がつ二十二<ruby><rb>日</rb><rt>にち</rt></ruby>の　ことでした。あまがさきの　こうとくじ　と　いう　おてらの　じゅうしょくの　じゅうちゅう　と　いう　おしょうさんが　ごつちみかどてんのうの　つかいと　して、この　しょうおんあんに　きました。

<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんに、<ruby><rb>大</rb><rt>だい</rt></ruby>とくじの　じゅうしょくに　なって　もらいたいと　いう　つかいでした。

「はい、てんのうの　いいつけと　あれば、おうけいたしたく　おもいますが、<ruby><rb>一</rb><rt>ひと</rt></ruby>つ　おねがいが　あります。わたしは　くさぶきの　<ruby><rb>小</rb><rt>ちい</rt></ruby>さな　いおりに　すむことを　たのしみに　して　います。<ruby><rb>大</rb><rt>だい</rt></ruby>とくじの　じゅうしょくに　なっても、つねづねは　この　いおりに　すむことを　おゆるしくだされば　おうけ　いたします。」

てんのうの　めいれいと　あれば、うけない　わけには　いきませんが、そんな　<ruby><rb>大</rb><rt>おお</rt></ruby>きな　てらに　すんで、えらい　ひとと　あったり、つきあったり　するのは、<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんの　こころと　はんする　ことです。

「しょうち　して　います。いま　<ruby><rb>大</rb><rt>だい</rt></ruby>とくじの　じゅうしょくに　なるような　とくの　たかい　かたは、あなたの　ほかにありません。」

「もったいない　ことです。」

<ruby><rb>大</rb><rt>だい</rt></ruby>とくじの　じゅうしょくに　なってからも　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは　おししょうさまの　かそうさまが、やはり　<ruby><rb>大</rb><rt>だい</rt></ruby>とくじの　じゅうしょくで　ありながら、びわこの　そばの　<ruby><rb>小</rb><rt>ちい</rt></ruby>さな　いおりに　すんで　いたように、いつまでも　この　たまぎむらの　いおりに　すみ、おおやけの　ことが　あるときだけ、<ruby><rb>大</rb><rt>だい</rt></ruby>とくじに　いくことに　して　いました。

そして　<ruby><rb>一休</rb><rt>いっきゅう</rt></ruby>さんは、<ruby><rb>日本</rb><rt>にほん</rt></ruby>一　とくの　たかい　おしょうさんと　して、ひとびとに　したわれながら、八十八さいのとし、ついに、たまぎむらの　<ruby><rb>土</rb><rt>つち</rt></ruby>となりました。

（おわり）