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        <title type="main" xml:lang="ja">薔薇夫人</title>
        <title type="reading" xml:lang="ja-Hira">ばらふじん</title>
        <author><persName xml:lang="ja"><surname>江戸川</surname><forename>乱歩</forename><idno type="aozora-person-id">001779</idno></persName><persName xml:lang="ja-Hira"><surname>えどがわ</surname><forename>らんぽ</forename></persName><persName xml:lang="ja-Latn"><surname>Edogawa</surname><forename>Ranpo</forename></persName></author>
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        <bibl><title>江戸川乱歩と13の宝石</title><publisher>光文社文庫、光文社</publisher><date>2007（平成19）年5月20日</date><note type="input-edition">2007（平成19）年5月20日初版1刷</note><note type="proof-edition">2007（平成19）年5月20日初版1刷</note></bibl>
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      <refsDecl xml:id="source-spans"><p>A note of type source-span has an xml:id of the form source-START-END, giving the extent in UTF-8 bytes of the decoded primary text identified in sourceDesc. <ptr target="https://w3id.org/soranoha/ns/tei"/></p></refsDecl>
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        <div>
          <head n="2" source="#source-616-652"><seg source="#source-616-619">一</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-656-1087">青山浩一は、もと浜離宮であった公園の、海に面する芝生に腰をおろして、そこに停泊している幾つかの汽船を、ボンヤリと眺めていた。うしろに真赤な巨大な太陽があった。あたりは見る見る夕暮の色をおびて行った。ウイーク・デイのせいか。ときたま若い二人づれが通りかかるほかには、全く人けがなかった。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-1087-1305">伯父のへそくりを盗み出した五万円は、十日間の旅行で遣いはたしてしまった。ポケットには、辛うじて今夜の家賃に足りるほどの金が残っているばかりだ。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-1305-1634">温泉から温泉へと泊りあるいて、二十一才の彼にやれることは、なんでもやって見たが、どれもこれも、今になって考えると、取るに足るものは一つもなかった。あの山、この谷、あの女、この女、ああつまらない。生きるに甲斐なき世界。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-1634-1870">伯父の家へは二度と帰れない。勤め先へ帰るのもいやだ。自転車商会のゴミゴミした事務机と、その前にたち並んでいる汚れた帳簿を思い出すだけでも、吐き気を催した。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-1870-2289">暮れて行く海と空を、うつろに眺めていると、またあの幻が浮かんで来た。空いっぱいの裸の女、西洋の絵にある聖母と似ているが、どこかちがう。もっと美しくなまめかしい。情慾に光りかがやいている。青年は、あの美しい女に呑まれたいと思った。鯨に呑まれるように、腹の中へ呑まれたいと思った。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-2289-2798">本当をいうと、彼は少年時代から、この幻想に憑かれていた。夢にもよく見た。中学校の集団旅行で、奈良の大仏を見たときには、恍惚として目がくらみそうになった。鎌倉の大仏はもっと実感的であった。あの体内へはいった時の気持が忘れられないで、ただそれだけのために、三度も四度も鎌倉へ行ったほどだ。あの中に住んでいられたら、どんなによかろうと思った。</seg></p>
        <p>「いよいよ、おれもせっぱつまったなあ。自殺する時が来たのかな」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-2893-3174">青山浩一は、絶えず心の隅にあったことを、口に出して云って見た。彼には、温泉めぐりをしているあいだも、この金を遣いはたしたら自殺だという想念が常にあった。その想念には何か甘い味があった。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-3174-3363">じっと前の海を見つめていたが、飛び込む気には、なれなかった。いよいよのどたんばまでには、まだ少しあいだがあると思った。その一</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-3363-3381"><rb>寸</rb><rt>すん</rt></ruby><seg source="#source-3381-3539">のばしが、目覚し時計の音をきいてから、蒲団の中にもぐっているように、何とも云えず物憂く、ここちよかった。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">もう海と空の見さかいがつかぬほど、暗くなっていた。汽船たちのマストの上の燈火が、キラキラと美しくきらめき出した。「ひとりぼっちだなあ……」たまらない孤独であった。今朝上野駅について、浅草と有楽町で、映画を二つ見た。映画館の群衆は、自分とは全く違った別世界の生きもののように見えた。それから、銀座通りを、京橋から新橋まで、三度ほど行ったり来たりした。じっとしていられなかったからだ。そこを通っている人達も、まるで異国人であった。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-4183-4234">少し寒くなって来た。秋だ。落葉の</seg><seg type="annotated-text" source="#source-4240-4291"><seg source="#source-4234-4240">期節</seg><note type="gloss"><seg source="#source-4264-4276">〔ママ〕</seg></note></seg><seg source="#source-4291-4545">に近づいていた。浩一は立上ると、うつろな顔で歩き出した。あてどもなく、足の向くままに歩いていると、賑かな新橋の交叉点に出た。やっぱり心の奥では群衆を恋しがっていたのだ。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">歩道の群衆にまじって、その人むれの中に溶けこんで消えてしまいたいと思いながら、尾張町の方へ歩いていた。「こうして、永遠に歩いていられたら」と願った。しかし、夜が更けると銀座は電車のレールの目立つ廃墟になることを知っていた。それが恐ろしかった。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-4913-5155">群衆と同じように、ショーウインドーを覗きながら歩いていたが、目には何も映らなかった。キラキラした、彼とは何の縁もない品物が、無意味に並んでいるにすぎなかった。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-5155-5679">ふと、彼は立ちどまった。鋭く網膜に焼きついたものがあったからだ。明るいショーウインドーの前に立ちどまっていた顔、西洋人のように大柄な美しい洋装の婦人であった。彼がまだ悪事を働かない前、やはり銀座で、行きずりに二度あったことがある。二度ということをハッキリ覚えていた。どこか贅沢な家庭の奥さんらしいが、その顔と姿に、忘れられないようなものがあった。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-5679-5963">浩一は、殆んど無意識にその婦人のあとをつけていた。相手に気づかれたって平気だと思っていた。そんなことは、もうどうでもよかった。婦人には連れはなかった。のんきらしく、ノロノロと歩いていた。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-5963-6199">町角に洋菓子のようにきれいな喫茶店があった。婦人は、どうしようかと、ちょっと迷ったあとで、その店へ入って行った。青年も糸で引かれるように、あとに従がった。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-6199-6381">婦人は奥まった、そばに客のいないテーブルについたので、浩一も〔そ〕の方へ歩いて行って、すぐとなりのテーブルに腰かけた。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-6381-6545">婦人は尾行されたことを、とっくに知っていたのかも知れない。いきなり青年の顔を正面から見て、ニッコリ笑った。</seg></p>
        <p>「前に二三度お目にかかったわね。あたし、よく覚えているでしょう」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-6643-6942">浩一は思わずドキマギした。こんな親しげな口を利いてもらえるとは、全く予期しなかった。それに、先方でこちらをよく記憶していてくれたことがわかって、ジーンと耳鳴りがした。顔が赤くなったのが意識された。</seg></p>
        <p>「こちらへ、いらっしゃらない？　あなたの目、今日は変よ。何かあったんじゃない？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-7064-7168">顔で、となりの椅子へ来るように合図されたので、浩一はそこへ移った。</seg></p>
        <p>「ねえ、何かあったんでしょう。あなたの目、孤独の目よ、生き甲斐がないって目よ。ねえ、どうかしたの？　失職したんじゃない？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-7353-7503">婦人が物を言ったり、身動きしたりするたびに、いい匂いが漂って来た。彼女のきれいな歯ぐきと、バラ色の</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-7503-7524"><rb>脣</rb><rt>くちびる</rt></ruby><seg source="#source-7524-7589">から、その匂が漏れてくるように感じられた。</seg></p>
        <p>「失職よりも、もっと悪いことです」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-7642-7710">浩一は、低い声で、すてばちのように呟いた。</seg></p>
        <p>「悪いことって？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-7739-7897">婦人は、口で笑いながら、ちょっと眉をしかめて見せた。そのしかめた顔が、浩一には恐ろしく魅惑的に見えた。</seg></p>
        <p>「どろぼうです。盗んだんです」</p>
        <p>「マアーっ」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-7964-8071">婦人は息を引いて見せたが、その実、大して驚いているようでもなかった。</seg></p>
        <p>「そして、その金を遣いはたしてしまったんです」</p>
        <p>「じゃあ、せっぱつまってるのね。それで、そんな目をしているのね。あなた自殺しそうだわ。ね、ここじゃ駄目だから、あたしのうちへいらっしゃい。ゆっくり相談しましょう。いいでしょ。今のあなたは、どこへでもついて来る心境だわ。そうでしょう」</p>
        <p>「ほかの人に会いたくないんです」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-8542-8616">浩一は婦人の夫や子供や召使のことを考えていた。</seg></p>
        <p>「もちろん、そんなこと分かっているわ。あたしは家族なんてないのよ。ひとりぼっちで、アパートにいるのよ」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-8771-8917">婦人は飲み物を半分ほど残したまま、立上ってカウンターの方へ行くので、浩一もそのあとにつづいた。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">婦人は横丁で車を拾って、「麹町一口坂の都電停留〔所〕のそば」と命じた。車の中では殆んど口を利かなかった。浩一は二人の服地を通して伝わって来る柔い温味に、気を奪われていた。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-9177-9396">それは高級ホテルのようなアパートであった。小さな窓のある監理人の部屋の前を通って、階段を上ると、二階の広い廊下のはじに婦人の部屋があった。婦人は</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-9396-9417"><rb>手提</rb><rt>てさげ</rt></ruby><seg source="#source-9417-9573">から鍵をとり出してドアを開き、電燈のスイッチをおしたが、フックラとした肘掛椅子と長椅子、赤い模様の立派な</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-9573-9600"><rb>絨氈</rb><rt>じゅうたん</rt></ruby><seg source="#source-9600-9707">、それが居間で、次の部屋が寝室らしく、立派なベッドのはじが見えていた。</seg></p>
        <p>「ちょっと、手を洗って来ますから、そこに掛けてて」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-9784-9882">婦人は寝室の中へ姿を消した。そちらに浴室もあるらしく思われた。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-9882-10056">十分ほど待たせて出てきた時には、黒ビロードのナイトガウンのようなものと着がえていた。そして、小さな銀盆の上に洋酒の</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-10056-10071"><rb>壜</rb><rt>びん</rt></ruby><seg source="#source-10071-10277">とグラスを二つのせたのを持っていた。浩一に向き合った椅子にかけて、グラスに手ぎわよく洋酒をつぎ、その一つを彼の方にさし出しながら、突然、</seg></p>
        <p>「あなたご両親は？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-10309-10332">とたずねた。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-10332-10826">ビロードのガウンには、真赤な絹の裏がついていた。身動きをするたびに、それがめくれて、つややかな二の腕や足が見えた。ガウンの下には何も着ていないらしく、からだ全体の線が、柔かいビロードごしに、そのまま眺められた。なんてすばらしいからだだろうと思った。ふと、あの聖母に似て、聖母よりもなまめかしい裸女の巨像が、浩一の頭をかすめた。</seg></p>
        <p>「両親なんてないのです」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-10864-10948">グラスの強い酒が、浩一ののどをカッとさせた。彼はおとぎ</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-10948-10966"><rb>噺</rb><rt>ばなし</rt></ruby><seg source="#source-10966-11172">の主人公でもなったような気持だった。おとぎ噺の中では、或いは映画の画面では、浩一に当る青年は、どんなしぐさをするのだろうと思ったりした。</seg></p>
        <p>「ぼくは、親も兄弟もないんです。伯父の世話で大きくなったのですが、その伯父もひとりものなんです。伯母は早くなくなったのです。この伯父とぼくは全く気が合わないのです。ぼくは自転車の卸しをする店に勤めていたんですが、その店もゾッとするほど、いやなんです。それで、やけくそになったんです」</p>
        <p>「それで、お金を盗んだの？」</p>
        <p>「伯父のへそくりです。伯父の全財産です。伯父は紙袋を貼る機械を一台持っていて、やっと暮らしているのです。コツコツためた、伯父にとっては命よりもだいじな金です。ぼくは、伯父が隠していた銀行の通帳とハンコを探し出したのです。五万円ほどありました……」</p>
        <p>「それを遣いはたしたのね。楽しかった？」</p>
        <p>「いつも自殺する一歩前でした。そういう楽しさはありました」</p>
        <p>「盗んでから、どのくらいになるの？」</p>
        <p>「十日ほどです」</p>
        <p>「よくつかまらなかったのね」</p>
        <p>「伯父は警察にたのまなかったかも知れません。へそくりをとられて、伯父は病気になるほど驚いたでしょう。ほんとうに病気になって、今でも寝ているかも知れません。しかし、伯父はぼくを実子のように愛しているので、警察に云わないで我慢しているような気がします。あわれな伯父です」</p>
        <p>「可哀相に思うの？」</p>
        <p>「可哀相です。しかし、ぼくはあの人の顔を二度と見たくありません。ゾッとするほど嫌いなのです」</p>
        <p>「かわってるのね。一等親しい人が、一等きらいなのね。……お友達は？」</p>
        <p>「ありません。みんなぼくとは、ちがう人間です。ぼくの気持のわかるやつなんて、ひとりもいません。奥さん、あなただって、ぼくの気持、わかりっこありませんよ」</p>
        <p>「まあ、奥さんだなんて。あたし、奥さんに見えて？」</p>
        <p>「じゃあ、なんです」</p>
        <p>「あなたと同じ、ひとりぼっちの女よ。まだ名前を云わなかったわね。あたし、相川スミエっていうの。親から譲られたお金で、勝手な暮らしをしているのよ。あなたのお友達になってあげるわ。あんまりひとりぼっちで、可哀相だもの」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-13628-14023">婦人は立上って、浩一のかけている長椅子に席をかえた。そのとき、バンドをしめていないガウンの前が、フワッと胸までひらいて、桃色の全身が、チラリと見えた。やっぱり下には何も着ていなかった。その一目が、浩一を電気のように撃った。全身のうぶ毛が総毛立つような気がした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-14023-14376">婦人の手が自分の肩を抱いているのを感じた。浩一は両手で顔をおさえて、長いあいだ黙っていた。やがて、彼の肩が妙にふるえ、両手の中から、少女が笑っているような声が漏れた。そして、手の指のあいだから、キラキラ光るものが、にじみ出して来た。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-14376-14462">婦人は黙ってそれを見ていた。したいようにさせておいた。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-14462-14596">浩一はやっと泣きやんで、涙にぬれた顔をあげた。そして、低い鼻声で、恥かしそうに云った。</seg></p>
        <p>「なぜ泣いたかわかりますか。…………あなたが好きだからです」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-14688-14750">彼は激情のためにブルブルふるえていた。</seg></p>
        <p>「もういいのよ。泣かないで。あなたの気持よくわかるわ。あたしだって、好きよ。涙にぬれた顔、まるで違うように見えるわ。美しいのよ。あなた、自分の美しさを知っていて？……あなたのような人に会ったの、はじめてよ」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-15061-15126">婦人は浩一の髪の毛を、もてあそんでいた。</seg></p>
        <p><seg source="#source-15126-15176">（以下二百字詰原稿用紙七枚脱落）</seg></p>
        <p><seg source="#source-15176-15202">目色でわかった。</seg></p>
        <p>「九時カッキリよ。わけがあるの。忘れないで」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-15270-15366">ドアの外まで見送って、彼女はそれを彼の耳のそばに、くりかえして</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-15366-15428"><rb><g ref="#gaiji-3-1-14-94" source="#source-15366-15413">咡</g></rb><rt>ささや</rt></ruby><seg source="#source-15428-15441">いた。</seg></p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-15441-15502" style="padding-inline-start: 8em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-15462-15498"><seg source="#source-15462-15465">二</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-15502-15592">宮城圭助は、碌々商会の皆川常務が要談をすませて立去るのを、</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-15592-15619"><rb>鄭重</rb><rt>ていちょう</rt></ruby><seg source="#source-15619-16098">に送り出してから、半分ほどになった葉巻を、灰皿の中におしつぶし、パンパンと、ほこりを払うように両手を打ち合せた。それから、帽子掛けの鏡の前に立って、ちょっとネクタイを直し、鼠色の合外套に袖を通し、ソフトを両手で丁寧にかむってから、デスクに引返し、一番下のひきだしから、大きな革鞄をだいじそうに取出して、小脇にかかえた。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-16098-16260">社長室のドアをひらいて出ると、社員達はまだ仕事をしていた。多くは机にかじりついていたが、今そとから帰って、</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-16260-16278"><rb>鞄</rb><rt>かばん</rt></ruby><seg source="#source-16278-16374">の中から書類を取出して、立ったまま調べている男もいた。煙草の煙を</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-16374-16398"><rb>濛々</rb><rt>もうもう</rt></ruby><seg source="#source-16398-16769">と吹き出しながら、立話しをしているものもあった。実際社長は、そのあいだを、ニコニコしながら、出口の方へ歩いて行った。べつに社員達に云いのこすこともなかった。宮城貿易商社は、アメリカのスコット商会とうまくやっているので、社運は上昇線をたどっていた。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-16769-16858">立話しをしていた社員の一人が、社長を追って近づいて来た。</seg></p>
        <p>「社長、今日はどちらへ？　この間、愛子さんが恨んでいましたぜ。たまには…………」</p>
        <p>「コラコラ、社長に向かって何を申すか、ひかえていろ」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-17060-17114">二人とも低い声ではあったが、他聞を</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-17114-17129"><rb>憚</rb><rt>はば</rt></ruby><seg source="#source-17129-17551">かるようでもなかった。社長が三ヶ所に妾宅を持っていることは、社内で知らぬものもなかった。社外にも響きわたっていた。宮城社長は、社員のお世辞を叱って見せたが、むろん怒っている顔ではない。商売上ではなかなかのやり手だが、女好きでお人よしの、社員にとっては、心のおけない好社長であった。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-17551-17658">ビルの石段をおりると、運転手がリンカーンのドアをひらいて待っていた。</seg></p>
        <p>「河田町」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-17675-17779">手近の別宅である。午後五時少しすぎ、車は河田町の四つ角でとまった。</seg></p>
        <p>「帰ってくれたまえ。いつもの通り、朝は迎えに来なくてもいい」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">宮城社長は、わざと別宅の一丁も手前で、車をとめさせる習慣であった。彼は車が遠ざかるのを見定めてから、例の鞄をかかえて、別宅とは逆の方角へ歩き出した。町角を四つほどすぎて、大通りに出ると、通りかかった小型自動車を呼びとめて「市ヶ谷駅」と命じた。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-18239-18703">市ヶ谷駅で降りた時には、いつの間にかソフトがハンチングに変っていた。そのまま駅の手洗所に入って、合外套をぬぐと、それを小さくたたんで、鞄の中へ入れた。折りたたんだソフトも、そこにはいっていた。それから、近くの駅までの切符を買い、電車には乗らないで、駅の別の出入口から町に出て、今度は中型のタクシーを拾った。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-18703-18906">次に水道橋駅の手洗所から出て来たときには、ズボンが折目のとれた古い薄茶色のギャバジンに変り、靴もいやに派手な型のものに一変していた。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-18906-19232">今度は車にのらないで、神田まで歩いて、映画館に入り、そこの手洗所で、上衣をとりかえた。ワイシャツも脱いで、太い茶色の横縞のあるジャケツを着た。それから、大型のコンパクトのようなものを取出して、ちょっとお化粧をした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-19232-19565">そして、映画館の別の出入口から町に出たときには、宮城貿易商社の社長は、よたもんの親方に一変していた。髪をわざとモジャモジャにし、ハンチングの冠り方一つにも、うまくその役柄を出していた。ちょっとしたつけひげ、目立たない目の</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-19565-19580"><rb>隈</rb><rt>くま</rt></ruby><seg source="#source-19580-19708">、脣のどす黒い色、その顔からは宮城圭助を思い出させるものが、すっかり消えうせていた。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-19708-19974">再び小型タクシーを拾って、神田駅へ。そこの一時預り所に鞄をあずけてから、近くの飲み屋横町へ急いだ。手のこんだ変装のために一時間以上を費したので、もうあたりは真暗になっていた。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">飲み屋の軒を並べた横町の一軒、ブルウ・エンゼルに入ると、店にはまだ一人の客もなく、ガランとしていた。カウンターにいた男ボーイが、「いらっしゃい」と、あいさつした。宮城は、それにちょっとうなづいて見せて、奥の階段を二階へ上って行った。二階は主人の住いとして、客は上げないことになっていた。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-20408-20507">二階は二間で、一方は六畳の畳敷き、一方は四畳半にベッドを置いて、</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-20507-20522"><rb>合</rb><rt>あい</rt></ruby><seg source="#source-20522-20854">の仕切りに血のような色のカーテンが深く垂れていた。六畳の方には、腰かけるとビーンと音がして、ゼンマイの針金が尻にこたえる古ソファ、それに籐椅子が二脚と、汚れた丸テーブル、大きな桃色のシェードをかけた、薄暗い電気スタンド。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-20854-21009">宮城が籐椅子にかけると、カーテンの向うで何かしていたマスターの孝ちゃんが、ジャンパー姿で顔を出した。</seg></p>
        <p>「きょうはお早いのね。お待ちかねでしょう」</p>
        <p>「ウン、七時までに来るはずだったね。おれ、腹がへってるんだ。へんなものはいらない。いつものサンドイッチがいい。それとスコッチ。早くしてくれ」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">マスターは「あいよ」と答えて、階段をギシギシいわせながら降りて行ったが、じきに銀メッキの盆の上にサンドイッチの皿と、ウイスキーの瓶とグラスを二つそろえて持って来た。</p>
        <p>「さあ、いっぱい」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-21566-21823">宮城はマスターについでやって、自分もグラスに半分ほど、グイとやってから、サンドイッチをつまんだ。脣をペチャペチャ云わせる下品なたべかただ。なかなか芸がこまかいのである。</seg></p>
        <p>「ねえ、園田の親分、またちょっと苦しいのですよ。ね、お願い」</p>
        <p>「ふん、もうかい。ちかごろヒンパンだな」</p>
        <p>「親分も、ここをヒンパンにお使いになるでしょう」</p>
        <p>「うん、わかった。サア、きょうはこれだけ」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-22116-22274">園田と呼ばれる宮城は、ズボンのポケットから、無造作に札束を一握り取出して、マスターの孝ちゃんに渡した。</seg></p>
        <p>「用事がすんだら、あれを出してくれ。例のおもちゃさ」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-22354-22473">マスターは黙って寝室にはいり、押入れをあけて小型の自働拳銃を取り出して来た。</seg></p>
        <p>「きょうも使うんですか」</p>
        <p>「ここで人殺しはしないだよ。ちょっと見せびらかすだけさ。たまはちゃんとはいっているがね」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-22645-22923">二人でウイスキーの壜を半分にしたころ、下から合図があって、待っていた客がやって来た。オズオズと階段を上る音。やがて、顔を出したのは、三十才前後の、ちょっと愛くるしい洋装の女であった。</seg></p>
        <p>「さあ、どうぞ、こちらへ」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-22964-23161">孝ちゃんが、表情を押し殺して、神妙らしく、その婦人を長椅子にかけさせた。園田は見向きもしないで、グラスをチビリチビリやっている。</seg></p>
        <p>「河合さんが、こちらへ来るようにおっしゃいましたので、園田さんというお方は…………」</p>
        <p>「おれだよ」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-23309-23374">園田が向き直って、女の顔をジロジロ見た。</seg></p>
        <p>「で、今度のことを見のがしてくれって、いうんだね」</p>
        <p>「ええ、園田さんにお目にかかれば、許して下さると伺いましたので」女はせいいっぱいの勇気で物を云っている。何かよほど後暗い、ひけ目があるのだ。</p>
        <p>「それで、見のがし代は？」</p>
        <p>「わたくし、お金が自由になりませんので、やっとこれだけ」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-23790-23864">園田はオズオズさし出す札束に目もくれなかった。</seg></p>
        <p>「金じゃあ駄目だよ」</p>
        <p>「では、何をさしあげれば…………」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-23949-24122">園田が目まぜをすると、マスターは立上って、部屋を出て行った。あとにピッタリドアがしまる。そして、階段のきしむ音。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-24122-24248">園田はチラッ、チラッと女の顔を盗み見ながら、ピストルをおもちゃにしていた。カチッと</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-24248-24272"><rb>弾巣</rb><rt>だんそう</rt></ruby><seg source="#source-24272-24361">をひらいて、実弾がはいっていることを見せびらかしたりした。</seg></p>
        <p>「お前さんに愛人ができていることを、ご亭主に知らせれば大変なことになる。愛人の方にも細君がある。だから、どうすることもできないんだ。そこがつけ目だよ。君はおれのいうことは、何でも聞かなきゃなるまい。証拠はすっかり揃っているんだ。私立探偵の河合は、おれの子分だからね。これをバラせば、お前さんは身の破滅だ。わかったね」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-24837-24971">女は真青になって、ふるえていた。来なければよかったと後悔しても、もうおっつかないのだ。</seg></p>
        <p>「お前さん、ジーキルとハイドってのを知ってるかね。おれは、本当は心がけのいい人間だが、ハイドになると仕末におえねえ。人殺しなんか平気だぜ。ジーキル博士は薬を呑んだが、おれは薬なんか要らない。ちょっと手品を使えば、いつだってハイドになれる。血に餓えたハイドだ。慈悲もなさけもないハイドだ」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-25402-25590">園田は歯ぐきをむき出しにして、ゲラゲラと笑った。自分が今、どんなに凶悪な面相をしているかと思うと、嬉しくてたまらなかった。</seg></p>
        <p>「因果なこったが、そうして、お前さんのような美しい女が、真青になってブルブルふるえ、おれを悪魔のように憎んでいるのを見ると、こたえられないんだ」</p>
        <p>「じゃ、わたくし、どうすればいいんですの？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-25876-26163">キッと上げた目に涙がふくらんで、今にもこぼれそうだった。その目が憎悪に燃えていた。かよわい女の怒り、これが園田にとっては、この上もない愉しみであった。猫には抵抗する鼠ほどおいしいのである。</seg></p>
        <p>「ハイドはね、その人のいちばんいやがることをさせて、見物するのが好物なんだ」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-26279-26446">園田は冗談のように、ピストルの筒口を女の胸に向けて、凶悪無残の相好を作りながら、低い力のこもった声を出した。</seg></p>
        <p>「服を脱ぐんだ。何も着ていないお前さんが見たいんだ」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-26526-26839">礼儀というものにしばられたこの良家の妻が、どれほど困惑するか、どんなに恥しい、気まずい思いをして、一枚一枚彼女の服を脱ぐか、その、身も捻じれんばかりの醜態を、園田はピストルを構えながら、じっと待っていた。</seg></p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-26839-26900" style="padding-inline-start: 8em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-26860-26896"><seg source="#source-26860-26863">三</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-26900-27124">青山浩一は、約束の夜、九時丁度に、相川スミエの高級アパートを訪ねた。云われた通り、入口では何の挨拶もせず、階段を上って、見覚えの部屋の前に戻った。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-27124-27393">彼は床屋に行き、風呂にはいって、すがすがしく変っていた。おれのような青年に、どうして、これほどの幸運がやって来たのかと、ふしぎでたまらなかった。期待ではちきれそうになっていた。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-27393-27830">鍵はかけてないかも知れない。はじめは軽く、次には強くノックして見た。返事がない。ひっそりと静まりかえっている。ノッブを廻して押して見たが、ひらかない。やっぱり鍵がかかっているのだ。まさか、いないのではあるまい。逢引の作法に従って、合鍵を使わせるために、わざと息を殺しているのかも知れない。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">鍵をとり出して、ドアをひらいた。彼女がドアの横の壁に身を隠していることを予期したので、少しずつ、用心ぶかくひらいた。何の手ごたえもない。「スミエさん」小声で呼んで見た。シーンとしている。室内にはいって、うしろ手にドアをしめた。</p>
        <p>「スミエさん、ぼくです」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-28212-28259">今度は少し大きい声を出した。</seg></p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-28259-28289" style="padding-inline-end: 0em; text-align: right">
        <p><seg source="#source-28277-28289">（未完）</seg></p>
      </div>
    </body>
    <back>
      <div type="source">
        <note type="source-attribution" source="#source-28297-28427"><seg type="source-line">底本：「江戸川乱歩と13の宝石」光文社文庫、光文社</seg><lb/><seg type="source-line" style="padding-inline-start: 3em">2007（平成19）年5月20日初版1刷発行</seg></note>
        <note type="transcriber-note" source="#source-28427-28902"><seg type="source-line">※〔　〕内の補足、（　）内の注記は、編者による加筆です。</seg><lb/><seg type="source-line">※底本のテキストは、著者自筆稿によります。</seg><lb/><seg type="source-line">入力：宇間比利央</seg><lb/><seg type="source-line">校正：持田和踏</seg><lb/><seg type="source-line">2022年6月26日作成</seg><lb/><seg type="source-line">青空文庫作成ファイル：</seg><lb/><seg type="source-line">このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫（https://www.aozora.gr.jp/）で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。</seg></note>
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      <note type="parser-completion" n="true">The n attribute is true when no parser diagnostic of error severity was raised for this source. What the converter could not interpret is recorded in the interpretation-problem and parser-diagnostic notes.</note>
      <note type="source-decoding">windows-31j</note>
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</TEI>