むかしむかし、心の高ぶった、わるい王さまがいました。この王さまは、わしの力で、世界じゅうの国々をせいふくしてやろう、わしの名前を聞いただけで、あらゆる人間をふるえあがらせてやりたいものだ、と、こんなことばかり考えていました。

王さまは、火と刀を持って、国から国へと進んで行きました。王さまの兵隊たちは、畑の穀物をふみにじり、農家に火をつけました。赤いほのおは、めらめらと燃えあがって、木々の葉を焼きはらいました。あとには、まっ黒こげの<ruby><rb>枝</rb><rt>えだ</rt></ruby>に、焼けた木の実が、ぶらさがっているばかりでした。

かわいそうに、おかあさんたちは、生れたばかりの、はだかの赤んぼうをかかえて、まだ、ぶすぶすと<ruby><rb>煙</rb><rt>けむり</rt></ruby>のあがっている、かべの<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">かげ</span>にかくれました。ところが、兵隊たちは、すみからすみまで、さがしまわりました。うまく、おかあさんと子供を見つけると、まるで<ruby><rb>悪魔</rb><rt>あくま</rt></ruby>のように、よろこびました。どんなにわるい悪魔でも、これ以上にひどいことはできなかったでしょう。ところが、王さまときたら、こんなことをしても、あたりまえのことのように平気でいるのでした。

王さまの力は、一日、一日と、強くなりました。王さまの名前を耳にすると、だれもかれもが、ふるえあがりました。王さまのすることは、いつもうまくいきました。<ruby><rb>占領</rb><rt>せんりょう</rt></ruby>した町からは、黄金や、たくさんの宝物を、持ってかえってきました。王さまの都には、世界じゅうの宝が、山と積みあげられました。これほどの宝は、どんな都にも見られません。

王さまは、りっぱなお城や、お寺や、アーケードなどを、つぎからつぎへと、たてさせました。そのすばらしいありさまを見た人たちは、みんな口をそろえて、

「なんという、えらい王さまだ」と、ほめそやしました。

もちろん、こういう人たちは、よその国の人たちの受けている、苦しみのことなどは、考えてもみませんでした。焼きはらわれた町から聞えてくるため息や、なげき悲しむ声には、耳をもかたむけなかったのです。

王さまは、黄金の山をながめ、りっぱな建物をながめました。そのたびに、大ぜいの人たちと同じように、こう思いました。

「わしは、なんというえらい王さまだ。しかし、もっともっと、手に入れねばならん。もっともっと、いろいろなものを！　わしと同じ力を持っているものが、あってはならん。まして、わし以上の力を持っているものが、あってはならん！」

そこで、またもや、となり近所の国々に、戦争をしかけました。どの国をも、かたっぱしから、せいふくしていきました。王さまは、まけた国の王さまたちを、金のくさりでしばって、自分の車にゆわえつけました。こうして王さまは、町じゅうを、ふんぞりかえって乗りまわしたのです。そればかりではありません。食事のときには、王さまや、おつきの家来たちの足もとに、まけた国の王さまたちを、はわせておきました。そして、パンくずを投げてやっては、それを食べさせたのです。

王さまは、自分の像を、広場や、お城の中に、たてさせました。でも、それだけでは、まだたりません。こんどは、お寺の中の、神さまの<ruby><rb>聖壇</rb><rt>せいだん</rt></ruby>の前にも、たてさせようとしました。けれども、<ruby><rb>坊</rb><rt>ぼう</rt></ruby>さんたちはいいました。

「王さま。あなたは、えらいお方です。しかし、神さまは、もっとおえらいのです。こればかりは、わたしたちにはできません」

「よろしい」と、わるい王さまは言いました。「それでは、わしは、神さまをもせいふくしよう」

こう言うと、心のおごった、ばかな王さまは、空を飛んでいくことのできる、一そうの船を作らせました。その船は、クジャクの<ruby><rb>尾</rb><rt>お</rt></ruby>のように、美しい色をしていました。そして、何千という、目のようなものを持っていました。ところが、その目というのは、じつは、<ruby><rb>鉄砲</rb><rt>てっぽう</rt></ruby>をうつための、穴だったのです。

王さまは、船のまんなかにすわって、ただ、<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">ばね</span>を<ruby><rb>押</rb><rt>お</rt></ruby>しさえすればよかったのです。そうすれば、何千というたまが、いっせいに、とび出すしかけになっていたのです。しかも、そのあとには、すぐまた、あたらしい<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">たま</span>が、こめられるようになっていました。

強いワシが、何百<ruby><rb>羽</rb><rt>ぱ</rt></ruby>も、船の前に結びつけられました。いよいよ、船はお日さまめがけて、飛びあがりました。地球は、たちまち、ずっと下のほうになりました。さいしょのうちは、山や森のあるところは、すきおこされた、畑のように見えました。ちょうど、みどり色の草が、ほりかえされた芝土から、頭を出しているようなぐあいです。それから、ひらたい地図みたいになって、やがて、<ruby><rb>霧</rb><rt>きり</rt></ruby>と雲の中に、すっかりかくれてしまいました。

ワシたちは、なおもぐんぐん高く、飛んでいきました。

いっぽう、神さまは、かぞえきれないほどたくさんいる天使たちの中から、たったひとりの天使を、おくってよこされました。すると、わるい王さまは、その天使めがけて、何千というたまを、うち出しました。たまは、天使にあたりました。けれども、天使のかがやくつばさにあたったとたん、はねかえって、雨あられのように落ちてきました。そのとき、天使の白いつばさから、血が一しずく、たった一しずく、したたりました。その一しずくの血は、王さまのすわっている、船の上に落ちました。

と、どうでしょう。その血は、火のかたまりのようになりました。しかも、何千キログラムもある、おもたいなまりのようになって、船をおさえつけました。船は、ものすごい速さで、地球めがけて落ちていきました。ワシたちの強いつばさも、うちくだかれてしまいました。

風は、王さまの頭のまわりを、ヒューヒュー、<ruby><rb>吹</rb><rt>ふ</rt></ruby>きまくりました。雲がむくむくと、まわりにわきあがってきました。しかも、それは、焼きはらわれた町々から、立ちのぼる煙があつまって、できた雲なのです。雲は、いろんな、おそろしい形になりました。何マイルもありそうな、大きなカニの形になって、ものすごいはさみを、王さまのほうへのばしてきます。そうかと思うと、いまにもころがってきそうな岩の形になったり、火をはくリュウの形になったりするのです。

王さまは、はんぶん、死んだようになって、船の中にたおれてしまいました。とうとう、船は、深い森の中に落ちて、しげった木の<ruby><rb>枝</rb><rt>えだ</rt></ruby>にひっかかりました。

「わしは、神さまをせいふくするのだ」と、王さまは言いました。「前に、そうちかった。いったんちかったことは、かならずやりとげてみせる」

王さまは、今度は、七年もかかって、空を飛ぶための船を作らせました。それから、いちばんかたい<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">はがね</span>で、いなずまをきたえさせました。これで、天国のお城のかべを、うちやぶろうと思ったのです。それから、せいふくした国々から、たくさんの兵隊をかりあつめました。ものすごい、大軍隊が、できあがりました。なにしろ、兵隊がひとりひとりならべば、二、三マイル四方の場所が、兵隊でうずまってしまったのですからね。

まず、大軍隊が、船に乗りこみました。王さまも、自分の船に乗ろうとして、船のそばへあゆみよりました。と、とつぜん、神さまは、ハチのむれを、王さまのところへ、おくってよこされました。といっても、ほんの小さなハチのむれです。ハチたちは、王さまのまわりをブンブン飛びまわって、顔といわず、手といわず、めちゃめちゃに、さしました。

王さまは、かんかんにおこって、刀を引きぬきました。しかし刀をうちふるっても、<ruby><rb>空</rb><rt>くう</rt></ruby>を切るばかりで、ハチたちにはすこしもあたりません。そこで、王さまは、

「上等のじゅうたんを持ってこい。わしのからだに、まきつけるんだ」と、家来に言いつけました。じゅうたんを、からだにまいていれば、いくらハチでも、<ruby><rb>針</rb><rt>はり</rt></ruby>をつきさすことはできまい、と思ったのです。

家来は、言いつけられたとおりにしました。ところが、一ぴきだけ、じゅうたんのうちがわにとまっていた、ハチがいました。そのハチが、王さまの耳の中にはいこんで、ちくりとさしたのです。と、たちまち、王さまの耳は、火のようにあつくなりました。毒は、頭の中にまではいりこみました。

王さまは、身をもがいて、じゅうたんをふりすてました。着物までも、ひきさきました。やばんで、らんぼうな兵隊たちの前で、王さまは、はだかのまま、<ruby><rb>踊</rb><rt>おど</rt></ruby>りまわりました。

兵隊たちは、気が<ruby><rb>狂</rb><rt>くる</rt></ruby>った王さまをばかにして、げらげら笑いころげました。なにしろ、神さまの国をせめようとして、たった一ぴきの、小さなハチのために、あっというまに、やっつけられてしまったんですからね。