Soranoha

ほんとにそのとおり!

ほんとにそのとおり!

アンデルセン ハンス・クリスチャン

「おそろしい話なのよ!」と、一羽いちわのメンドリが言いました。

そこは、町のはずれで、このお話のできごとのあったところとは、なんの関係もない場所でした。

「むこうの、トリ小屋で起った、おそろしい話なのよ。あたし、今夜は、とっても、ひとりでなんか、眠れそうもないわ。でも、あたしたちは、こうやってみんないっしょに、とまり木の上にかたまっているからいいけれど」

それから、メンドリは話しはじめました。すると、ほかのメンドリたちは、毛をさかだて、オンドリたちは、とさかを、だらりとたれました。ほんとにそのとおり!

それでは、はじめから、ちゃんと、お話しすることにしましょう。さて、その出来事のはじまりというのは、町のむこうはずれの、トリ小屋の中で起ったことなのです。

お日さまがしずむと、ニワトリたちは、とまり木に飛びあがりました。その中に一羽、まっ白な羽をした、足の短いメンドリがいました。卵もきちんきちんと、よく生みますし、メンドリとしては、どこからみても申し分のない、りっぱなメンドリでした。このメンドリが、とまり木に飛びあがろうとしながら、自分の羽をくちばしでつついたのです。すると、そのひょうしに、小さな羽が一枚、ぬけおちました。

「あら、羽が一枚ぬけたわ」と、そのメンドリは言いました。「でも、いいわ。あたしは、羽をつつけばつつくほど、きれいになっていくんですもの」

もちろん、これは、じょうだんに言ったことなのです。なぜって、このメンドリは、仲間の中でも、ほがらかなたちだったんですから。それに、さっきもお話ししたとおり、たいへんりっぱなメンドリだったのです。それから、このメンドリは眠ねむってしまいました。

あたりは、まっ暗でした。メンドリたちは、からだをすりよせて眠っていました。ところが、そのメンドリのおとなりにいたメンドリだけは、まだ眠っていませんでした。このメンドリは、聞いても聞かないようなふりをしていました。だれでも、この世の中を無事に、のんきに、暮くらしていこうと思えば、そんなふりをしなければならないものですがね。けれども、別のおとなりさんに、つい、こう言ってしまいました。

「ねえ、おまえさん。今言ったこと、聞いた? だれって、べつに名前は言わないけどね、この中に、自分をきれいにみせようとして、わざわざ、自分の羽をむしりとるメンドリが、一羽いるのよ。もし、あたしがオンドリだったら、そんなメンドリは、けいべつしてやるわ」

ニワトリたちのいるすぐ上に、フクロウのおかあさんが、だんなさんと子供たちといっしょに、すわっていました。この一家の人たちは、みんな早耳でしたから、いま、おとなりのメンドリが言ったことを、のこらず聞いてしまいました。みんなは、目をまんまるくしました。フクロウのおかあさんは、羽をばたばたさせながら、言いました。

「あんなこと、聞かないほうがいいわ。でも、いま、下で言ったこと、聞いたでしょう。あたしは、この耳でちゃんと聞きましたよ。あなたが元気でいるうちに、いろんなことを聞いておかなくちゃなりませんものね。

あそこにいるニワトリの中には、一羽だけ、いやなメンドリがいるんですよ。メンドリのくせに、自分が、メンドリであることを忘れてしまってね、自分の羽をみんなむしりとって、オンドリの気をひこうっていうんですからね」

「プルネー ギャルド オー ザンファン(子供たちに、気をおつけ)」と、フクロウのおとうさんが、フランス語で言いました。「そんな話は、子供にはよくないからね」

「でも、おむかいの、フクロウさんには話してやりましょう。あの人は、だれとおつきあいしても、評判のいいひとですからね」こう言って、フクロウのおかあさんは飛んでいきました。

「ホー、ホー、ホホー」と、二羽のフクロウは鳴きながら、おむかいの、ハト小屋にいる、ハトにむかって言いました。「お聞きになった? お聞きになった? ホホー。オンドリに見せようとして、羽をみんなむしりとってしまった、メンドリがいるんですって。まだ死にはしないけど、きっとそのうちに、こごえて死んでしまうわ。ホホー」

「どこで? どこで?」と、ハトがクークー鳴きました。

「おむかいの中庭でよ。あたしは、この目で見たもおんなじなの。へんな話をするようだけど、ほんとにそのとおり!」

「おい、聞いてくれよ、聞いてくれよ。ぜったいに、ほんとうの話なんだから」ハトはこう言って、クークー鳴きながら、鳥飼とりかい場へ飛んでいきました。

「一羽のメンドリがね、いや、話によると、二羽だというひともいるけどね。その二羽のメンドリがさ、ほかの仲間とはちがったかっこうをして、オンドリの気をひくために、羽をみんなむしりとっちゃったんだってよ。ずいぶん思いきったことを、やったもんじゃないか。そんなことをすりゃあ、かぜをひいて、熱を出して、死ぬのもあたりまえだよ。二羽とも、死んじまったんだってさ」

「起きろ! 起きろ!」と、オンドリが、大きな声で鳴きながら、板がこいの上に飛びあがりました。まだねむたそうな目つきをしていましたが、それでも、大きな声をはりあげて、鳴きました。

「かわいそうに、三羽のメンドリが、一羽のオンドリを好きになって、そのために、死んだんだとさ。みんな、自分の羽をむしりとってしまったんだ。じつに、なさけない話じゃないか。おれは、自分ひとりの胸にしまっておきたくない。みんなに知らせてやろう」

「みんなに知らせてやろう」と、コウモリは、チーチー鳴き、メンドリはコッコと鳴き、オンドリはコケッコ、コケッコと鳴きました。「みんなに知らせてやろう。みんなに知らせてやろう」

こうして、このお話は、トリ小屋からトリ小屋へとつたわって、とうとうしまいには、そのお話のでた、もとのところへ、もどってきました。そしてそのときには、

「五羽のメンドリがいてね」ということになっていました。「それが、一羽のオンドリを好きになって、だれが、そのために、いちばん気をつかって、やせてしまったかを見せようとしてさ、みんな、自分の羽をむしりとってしまったんだって。それから、血まみれになって、けりっこをしているうちに、とうとう、たおれて死んでしまったんだね。一家の不名誉ふめいよと、恥辱ちじょくは、このうえもないし、飼い主にとっても、大きな損害さ」

ところが、あのメンドリは、小さな羽が一枚ぬけおちて、なくなっただけなのですから、まさか、これが、自分の話とは知るはずもありません。それに、このメンドリは、りっぱなメンドリでしたから、こう言いました。

「あたし、そんなメンドリは、けいべつしてやるわ。でも、そういうひとたちって、ずいぶんいるものね。そういうことは、かくしておいてはいけないわ。ひとつ、この話が、新聞にのるようにしてやりましょう。そうすれば、国じゅうにひろまるわ。そのくらいの目にあったって、そのメンドリたちや、家族のものには、しかたがないことだわ」

こうして、このお話は新聞にのりました。それから、本にも印刷されました。ほんとにそのとおり! 小さな一枚の羽が、しまいには、五羽のメンドリになれるんですよ。

底本 / Source edition

底本:「人魚の姫 アンデルセン童話集※[#ローマ数字1、1-13-21]」新潮文庫、新潮社
1967(昭和42)年12月10日発行
1989(平成元)年11月15日34刷改版
2011(平成23)年9月5日48刷
入力:チエコ
校正:木下聡
2021年5月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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アンデルセン ハンス・クリスチャン「ほんとにそのとおり!」(新字新仮名)、底本『人魚の姫 アンデルセン童話集Ⅰ』新潮文庫、新潮社、1967年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 060150_000019, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite