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        <title type="main" xml:lang="ja">アヒルの庭で</title>
        <title type="reading" xml:lang="ja-Hira">アヒルのにわで</title>
        <author><persName xml:lang="ja"><surname>アンデルセン</surname><forename>ハンス・クリスチャン</forename><idno type="aozora-person-id">000019</idno></persName><persName xml:lang="ja-Hira"><surname>アンデルセン</surname><forename>ハンス・クリスチャン</forename></persName><persName xml:lang="ja-Latn"><surname>Andersen</surname><forename>Hans Christian</forename></persName></author>
        <respStmt><resp>翻訳者</resp><persName xml:lang="ja"><surname>矢崎</surname><forename>源九郎</forename><idno type="aozora-person-id">001891</idno></persName><persName xml:lang="ja-Hira"><surname>やざき</surname><forename>げんくろう</forename></persName><persName xml:lang="ja-Latn"><surname>Yazaki</surname><forename>Genkuro</forename></persName></respStmt>
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        <bibl><title>人魚の姫　アンデルセン童話集Ⅰ</title><publisher>新潮文庫、新潮社</publisher><date>1967（昭和42）年12月10日</date><note type="input-edition">2011（平成23）年9月5日48刷</note><note type="proof-edition">2011（平成23）年9月5日48刷</note></bibl>
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      <refsDecl xml:id="source-spans"><p>A note of type source-span has an xml:id of the form source-START-END, giving the extent in UTF-8 bytes of the decoded primary text identified in sourceDesc. <ptr target="https://w3id.org/soranoha/ns/tei"/></p></refsDecl>
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      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-698-725">ポルトガルから、</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-725-746"><rb>一羽</rb><rt>いちわ</rt></ruby><seg source="#source-746-986">のアヒルがやってきました。もっとも、スペインからきたんだ、という人もありましたがね。でも、そんなことは、どっちでもいいのです。ともかく、そのアヒルは、ポルトガル</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-986-1001"><rb>種</rb><rt>しゅ</rt></ruby><seg source="#source-1001-1150">と呼ばれました。卵を生みましたが、やがて殺されて、料理されました。これが、そのアヒルの一生でした。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-1150-1341">その卵から生れてきたものは、みんな、ポルトガル種と呼ばれました。ポルトガル種と言われるだけで、もうかなり重要なことなのです。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-1341-1640">さて、この一家の中で、今このアヒルの庭にのこっているのは、たった一羽きりでした。ここは、アヒルの庭とはいっても、ニワトリたちもはいってきますし、オンドリなどは、いばりくさって歩きまわっていました。</seg></p>
      <p>「あのけたたましい鳴き声を聞くと、気分がわるくなってしまうわ」と、ポルトガル種の<ruby type="furigana" rend="right" source="#source-1760-1775"><rb>奥</rb><rt>おく</rt></ruby>さんは言いました。「でも、見たところはきれいね。それは、うそとはいえないわ。アヒルじゃないけどもさ。もうすこし、自分をおさえりゃいいのに。だけど、自分をおさえるってことは、むずかしいことだから、高い教養がなくちゃできないわ。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">でも、おとなりの庭の、ボダイジュにとまっている、歌うたいの小鳥さんたちには、それがあるわ。あのかわいらしい歌いかたといったら！　あの歌の中には、なにかしら、しみじみとした調子があるわ。あれこそ、ポルトガル調よ！　ああいう歌をうたう小鳥が、一羽でも、わたしの子供になってくれたら、わたしはやさしい、親切なおかあさんになってやるわ。だって、そういう性質は、わたしの血の中に、このポルトガル種の血の中にあるんですもの」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-2736-3057">こんなふうに、ポルトガル奥さんが、おしゃべりをしていると、その歌をうたう小鳥が落ちてきました。小鳥は、屋根の上から、まっさかさまに落ちてきました。ネコに、うしろからおそわれたのです。でも、羽を一枚折られただけで、</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-3057-3069"><rb>逃</rb><rt>に</rt></ruby><seg source="#source-3069-3188">げだすことができたのです。そうして、このアヒルの庭の中へ、落ちてきたのでした。</seg></p>
      <p>「そりゃあ、あのならず者の、ネコらしいやりかただよ」と、ポルトガル奥さんは言いました。「あいつは、わたしの子どもたちが生きていたときから、ああいうふうなんだよ。あんなやつが、大きな顔をして、屋根の上を歩きまわっていられるんだからねえ！　ポルトガルなら、こんなことはないと思うわ」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-3607-3804">そして、その歌うたいの小鳥を、かわいそうに思いました。ポルトガル種でない、ほかのアヒルたちも、同じようにかわいそうに思いました。</seg></p>
      <p>「かわいそうにねえ」と、ほかのアヒルたちが、あとからあとからやってきては、言いました。</p>
      <p>「わたしたちは、自分で歌をうたうことはできないけれど」と、みんなは言いました。「でも、からだの中に、歌の下地というようなものを持っているわ。わたしたちは、それを口に出して言いはしないけど、みんなそう感じてはいるのよ」</p>
      <p>「それじゃ、わたしが言いましょう」と、ポルトガル奥さんは言いました。「わたしはね、この小鳥のために、なにかしてやりたいんですよ。それが、わたしたちの義務なんですもの」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-4512-4563">こう言うと、ポルトガル奥さんは、</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-4563-4587"><rb>水桶</rb><rt>みずおけ</rt></ruby><seg source="#source-4587-4862">の中にはいって、水をピシャピシャはねかしました。おかげで、歌をうたう小鳥は、頭から水をかぶって、もうすこしで、おぼれそうになりました。けれども、それは、親切な気持からしたことでした。</seg></p>
      <p>「これは、親切な行いというものよ」と、ポルトガル奥さんは言いました。「ほかのかたも、まねをなさるといいわ」</p>
      <p>「ピー、ピー」と、小鳥は鳴きました。羽根が一枚折れているので、からだを、ぶるっとふるわすことはできませんでした。でも、親切な気持から、水をかけられたのだということは、よくわかりました。「奥さんは、ほんとにおやさしいかたですね」と、小鳥は言いましたが、もう、水をあびるのは、たくさんでした。</p>
      <p>「わたしは、自分の気持なんて、考えてみたこともないわ」と、ポルトガル奥さんは言いました。「だけど、わたしは、どんな生き物をも愛しているわ。それは、自分でもよく知っていてよ。でも、ネコだけはべつ。わたしに、ネコを愛せと言ったって、それはだめだわ。だって、あいつは、わたしの家族のものを、二羽も食べてしまったんですもの。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">ところで、おまえさん、自分の家にいるつもりで、らくになさいね。すぐ、なれるわよ。わたし自身は、外国生れなのよ。そりゃあ、おまえさんだって、わたしの身のこなしや、羽のぐあいを見れば、おわかりだろうけどね。わたしの夫は、ここの土地のもので、わたしと同じ血すじじゃないの。だからといって、わたしは、いばったりはしないけど。――もし、ここで、おまえさんの気持をわかってくれるものがあるとしたら、それは、わたしのほかにはいないことよ」</p>
      <p>「あの奥さんの頭の中には、ほら<ruby type="furigana" rend="right" source="#source-6619-6631"><rb>吹</rb><rt>ふ</rt></ruby>き貝がはいってるのさ！」と、ふつうの、若いアヒルが言いました。このアヒルは、とんち者だったのです。ほかの、ふつうのアヒルたちは、「<ruby type="furigana" rend="right" source="#source-6826-6865"><rb>ほら吹き貝</rb><rt>ポルトラク</rt></ruby>」という音が、「ポルトガル」に似ているので、それを、たいそうおもしろがりました。そこで、みんなは、<ruby type="furigana" rend="right" source="#source-7012-7024"><rb>押</rb><rt>お</rt></ruby><seg source="#source-7024-7230">しっこをして、ガー、ガー、このひとは、ほんとにとんちがあるよ、と言いました。それからは、みんなは、歌をうたう小鳥と、仲よしになりました。</seg></p>
      <p>「ポルトガル奥さんは、まったく話がうまいんだよ」と、みんなは言いました。「わたしたちのくちばしには、大げさな言葉はないけども、同情する気持においては、負けやしないよ。わたしたちは、あんたのために、なんにもしていないときは、だまっていることにしているんだよ。それが、いちばんいいことだと、わたしたちは思っているんだもの」</p>
      <p>「おまえさんは、いい声をしておいでだね」と、みんなの中で、いちばん年とったアヒルが言いました。「おまえさんのように、ずいぶん大ぜいのひとたちを、よろこばせていたら、さぞかし、自分も楽しいだろうね。わたしにゃ、そんなことは、とってもできないよ。だから、わたしは、だまっているのさ。ほかのものが、ばかばかしいことを、おまえさんに言ってきかせるよりは、そのほうが、よっぽどましさ」</p>
      <p>「その子を、いじめないでちょうだい」と、ポルトガル奥さんが言いました。「休ませて、看護してやらなくちゃならないのよ。ねえ、歌をうたう小鳥さん、もう一度水をあびせてあげましょうか？」</p>
      <p>「いえ、いえ、それよりも、どうか、かわくようにさせてください！」と、小鳥はたのみました。</p>
      <p>「水あびする、なおしかただけが、わたしにはきくんだけどね」と、ポルトガル奥さんは言いました。「気ばらしも、いいものよ。もうすぐ、おとなりのニワトリさんたちが、お客に来るわ。その中には、回教どれいとおつきあいしていた、中国のメンドリさんも、二羽いるわ。あのひとたちは、たいそう教育もあるし、それに、よその国からきたひとたちだから、つい、わたしは、尊敬したくなってしまうのよ」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-9238-9480">やがて、そのメンドリたちが、やってきました。オンドリも、やってきました。オンドリは、きょうは、失礼なふるまいをしないように、たいそうぎょうぎよくしていました。</seg></p>
      <p>「きみは、ほんものの歌をうたう小鳥だね」と、オンドリは言いました。「そしてきみは、そのかわいらしい声で、そのかわいらしい声にふさわしいことを、なんでもやっているんだね。しかし、男性であることを、ひとに聞いてもらうのには、もっと機関車のような力を、持たなくちゃだめだね」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-9884-9980">二羽の中国のニワトリは、歌うたいの小鳥をひとめ見ると、すっかり</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-9980-10004"><rb>夢中</rb><rt>むちゅう</rt></ruby><seg source="#source-10004-10082">になってしまいました。小鳥は、水をあびたために、羽が</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-10082-10142"><seg source="#source-10082-10100">くしゃくしゃ</seg></hi><seg source="#source-10142-10273">になっていました。そのようすが、なんとなく、中国のひよこに似ているように思われました。</seg></p>
      <p>「まあ、かわいらしいこと！」と、ニワトリたちは言って、小鳥と仲よしになりました。そして、ひそひそ声で、上流の中国人たちの話す言葉をつかって、チーチーおしゃべりをはじめました。</p>
      <p>「わたしたちは、あなたとおんなじ種類なのよ。あのポルトガル奥さんにしたってそうだけど、アヒルさんたちは、みんな水鳥なのよ。あなただって、もう気がついているでしょう。わたしたちのことは、あなたは、まだ知らないわね。もっとも、わたしたちのことを知ってるものが、いったい、どのくらいあるでしょう！　そうでなくても、知ろうとつとめるものが、どのくらいあるでしょう！　ひとりも、いやしないわ。メンドリたちの中にだって、そんなひとはいないわ。わたしたちは、たいていのニワトリよりも、高い横木にとまるように、生れついているんだけどねえ。――</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-11327-11833">そんなことは、どっちだっていいわ。わたしたちは、ほかのひとたちのあいだにまじって、自分たちの静かな道を進んで行くのよ。ほかのひとたちは、わたしたちとは、考えがちがうわ。だけど、わたしたちは、いいほうばかりを見て、いいことだけを話しあうようにしているの。そうは言っても、なんにもないところに、なにかを見つけることは、できっこないけどね。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-11833-12114">わたしたち二羽と、オンドリさんのほかには、才能があって、しかも正直なひとなんて、わたしたちのトリ小屋には、だれもいなくってよ！　このアヒルの庭には、そんなひとは、ひとりもいやしないわ。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-12114-12216">ねえ、歌うたいの小鳥さん。あなたに忠告しておくけど、あそこにいる、</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-12216-12270"><seg source="#source-12216-12231">しっぽなし</seg></hi><seg source="#source-12270-12432">さんを信用しちゃいけないわよ。あのひとったら、ずるいんだから。それから、あそこの、羽に、ゆがんだ点々のある、</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-12432-12474"><seg source="#source-12432-12441">まだら</seg></hi><seg source="#source-12474-12641">さんはね、ものすごいりくつやで、おまけに負けん気なのよ。それでいて、言うことは、いつもまちがいだらけだわ。――</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-12641-12650">あの</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-12650-12704"><seg source="#source-12650-12665">でぶっちょ</seg></hi>のアヒルさんは、なんについてもわるく言うのよ。わたしたちの性質は、そういうのとはまるっきり反対よ。いいことが言えないんなら、だまっているべきだと思うわ。ポルトガル奥さんだけがすこしは教養もあって、つきあってもいいひとなのよ。だけど、あのひとは、すぐにかっとなりやすいし、それに、ポルトガルのことばっかし話しているんですもの」</p>
      <p>「あの中国のニワトリさんたちは、ずいぶんひそひそ話をしているねえ」と、アヒルの<ruby type="furigana" rend="right" source="#source-13309-13330"><rb>夫婦</rb><rt>ふうふ</rt></ruby>が言いました。「まったく、うんざりするよ。わたしたちなんか、あのひとたちと、まだ一度も話したことはないけど」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-13494-13658">そこへ、おすのアヒルが、やってきました。そして、歌をうたう小鳥を見ると、スズメだと思いこんでしまいました。</seg></p>
      <p>「うん、区別ができんね」と、おすのアヒルは言いました。「とにかく、どっちにしても、おんなじことさ。つまりは、おもちゃみたいなものだよ。そして、おもちゃは、やっぱり、おもちゃなのさ」</p>
      <p>「あのひとの言うことなんか、気にしないでいらっしゃい！」と、ポルトガル奥さんがささやきました。「あれで、仕事にかけちゃ、なかなか感心なひとなのよ。なにしろ、仕事をいちばん<hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-14185-14227"><seg source="#source-14185-14194">だいじ</seg></hi>にしているんだからね。さてと、わたしは、ひと休みするとしよう。わたしたちは、まるまるふとらなくちゃならないんだからね。そうすりゃ、死んでからリンゴとスモモをつめて、ミイラにしてもらえるのよ」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-14514-14577">こう言うと、ポルトガル奥さんは、日なたに</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-14577-14589"><rb>寝</rb><rt>ね</rt></ruby><seg source="#source-14589-14754">ころんで、かたほうの目をパチパチやりました。寝ごこちはたいへんよく、気分もたいへんよく、そのうえ、たいへんよく</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-14754-14769"><rb>眠</rb><rt>ねむ</rt></ruby><seg source="#source-14769-15071">れました。歌をうたう小鳥は、折れたつばさをそろえると、自分をまもってくれる、奥さんのそばにすりよって、寝ました。お日さまは、暖かく、キラキラとかがやいていました。そこは、ほんとうにすてきな場所でした。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">おとなりのニワトリたちは、そのへんを歩きまわっては、地面をひっかいていました。このニワトリたちは、ほんとうは、ただえさがほしくて、ここへやってきていたのです。そのうちに、中国のニワトリが、まず出ていき、つづいて、ほかのニワトリたちも出ていきました。あのとんち者の、若いアヒルは、ポルトガル奥さんのことを、あのおばあさんは、もうすぐ、また「アヒルっ子」になるぜ、と言いました。すると、ほかのアヒルたちが、おもしろがって、ガー、ガー、さわぎたてました。</p>
      <p>「アヒルっ子か！　あいつは、まったくとんち者だよ」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">それから、みんなは、また前のじょうだんの、「ほら吹き貝」をくりかえしました。そのようすは、ほんとにおもしろそうでした。それから、アヒルたちは、寝ころがりました。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-16070-16597">みんなは、しばらくのあいだ、じっとしていました。と、とつぜん、なにか食べ物が、アヒルの庭に投げこまれました。バチャッ、と音がしました。すると、いままで眠っていた連中が、みんないっせいにはね起きて、羽をバタバタやりました。ポルトガル奥さんも、目をさまして、ころげまわりました。そのひょうしに、歌をうたう小鳥のからだを、いやというほど、ふみつけました。</seg></p>
      <p>「ピー、ピー！」と、小鳥は鳴きました。「いたいじゃありませんか、奥さん」</p>
      <p>「なんだって、通り道なんかに、寝ているのさ！」と、奥さんは言いました。「そんなに神経質じゃだめだよ！　わたしだって、神経はあるよ。でも、わたしは、一度だってピーなんて鳴いたことはないよ」</p>
      <p>「おこらないでください」と、小鳥は言いました。「ピーって、つい、くちばしから出ちゃったんです」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-17131-17564">ポルトガル奥さんは、もう、そんなことは聞いてもいませんでした。いそいで食べ物のほうへかけて行って、おいしいごちそうをひろいました。奥さんが食べおわって、また横になったとき、歌うたいの小鳥がそばへやってきました。そして、かわいらしいと言われるように、いっしょうけんめい歌をうたいました。</seg></p>
      <div type="layout" source="#source-17564-17775" style="padding-inline-start: 2em">
        <p><seg source="#source-17599-17628">ピー　ピー　ピー！</seg></p>
        <p><seg source="#source-17628-17666">あなたの心のやさしさを、</seg></p>
        <p><seg source="#source-17666-17698">大空高く飛びながら、</seg></p>
        <p><seg source="#source-17698-17739">いつもわたしはうたいます。</seg></p>
      </div>
      <div>
        <p>「わたしはね、これから、食後のひと休みをするところなんだよ」と、奥さんは言いました。「おまえも、ここの習慣をおぼえなけりゃいけないよ。さあ、わたしは、ひと眠りしよう」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-18030-18318">歌うたいの小鳥は、すっかりびっくりしてしまいました。だって、自分では、すごくいいことをしたつもりでいたんですもの。しばらくして、奥さんが目をさますと、小鳥は、自分で見つけてきた、小さなムギの</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-18318-18354"><seg source="#source-18318-18324">つぶ</seg></hi><seg source="#source-18354-18590">をくわえて、立っています。そして、それを、奥さんの前に置きました。ところが、奥さんは、まだたっぷり、寝ていなかったものですから、気分がいらいらしていました。</seg></p>
        <p>「そんなものは、ひよっこにでも、やったらいいじゃないの」と、奥さんは言いました。「そんなところにつっ立って、わたしのじゃまをしないでおくれ」</p>
        <p>「奥さんは、ぼくをおこっているんですね」と、小鳥は言いました。「ぼく、なにかしたんでしょうか？」</p>
        <p>「したって！」と、ポルトガル奥さんは言いました。「そういう言いかたは、じょうひんじゃないよ。気をつけるんだね」</p>
        <p>「きのうは、ここには、お日さまが照っていたのに」と、小鳥が言いました。「きょうは、灰色にくもっている。ぼくは、悲しくてたまんない」</p>
        <p>「おまえは、時のかぞえかたも知らないんだね」と、ポルトガル奥さんは言いました。「まだ、一日たっちゃいないんだよ。そんなまぬけな顔をして、つっ立ってるもんじゃないよ」</p>
        <p>「奥さんが、そんなにおこって、こわい目つきで、ぼくをにらむところは、ぼくがこの庭の中へ落っこちたときに、にらんだ目つきにそっくりですよ」</p>
        <p>「はじ知らず！」と、ポルトガル奥さんは言いました。「おまえは、このわたしを、あのけだもののネコとくらべる気かい！　わたしのからだの中にはね、わるい血なんか、一てきも、ありゃしないんだよ。わたしは、おまえをひきとったんだから、おぎょうぎも、ちゃんと教えてやらなくちゃならないんだよ」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-20188-20319">こう言うと、奥さんは、小鳥の頭をつっつきました。小鳥はたおれて、死んでしまいました。</seg></p>
        <p>「おやまあ、どうしたんだろう！」と、ポルトガル奥さんは言いました。「これっぱかしのことで、死んでしまうなんて！　ほんとに、こんなことじゃ、この世の中には、むかないわね。わたしは、この小鳥にとっては、母親のようなものだった。それは、わたしも知っているわ。だって、わたしには、こころというものがあるんですもの」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-20780-20926">そのとき、おとなりのオンドリが、アヒルの庭の中に頭をつっこんで、機関車のような力で鳴きました。</seg></p>
        <p>「あなたの、その鳴き声を聞くと、命がちぢまるような思いがしますよ」と、ポルトガル奥さんは言いました。</p>
        <p>「こんなことになったのも、みんな、あなたのせいなんですよ。この子は、気をうしなってしまったんです。わたしだって、もうすこしで、そうなりそうでしたよ」</p>
        <p>「そんなのがたおれたって、たいして場所を取りはしないさ」と、オンドリは言いました。</p>
        <p>「もっと、ていねいな言いかたをしてください」と、ポルトガル奥さんは言いました。「この子は、声を持っていました！　歌を持っていました！　高い教養も、持っていました！　そして、やさしくって、かわいらしい子でしたよ。こういうことは、動物にも、人間と呼ばれるものにも、ふさわしいことですわ」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-21852-22346">まもなく、アヒルたちが、一羽のこらず死んだ小鳥のまわりに、集まってきました。アヒルたちは、はげしい情熱を持っています。いつも、ねたみか、同情かの、どちらかを、持っているのです。今、ここには、べつに、ねたむようなことは何もありませんので、みんなは、同情の気持をいだきました。あの、二羽の中国のニワトリたちも、やっぱりそうでした。</seg></p>
        <p>「こんなかわいい歌うたいの鳥は、もう二度と、わたしたちの仲間になることはないわ。この子は、まるで、中国のニワトリのようだったわ」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-22540-22827">こう言って、二羽とも、泣きました。そして、クックッと言いました。すると、ほかのニワトリたちも、みんな、クックッと言いました。けれども、アヒルたちは、目をまっかにして、歩きまわっていました。</seg></p>
        <p>「わたしたちは、こころを持っている」と、みんなは言いました。「それは、だれも、うそだとは言えない」</p>
        <p>「こころ！」と、ポルトガル奥さんは言いました。「そうよ、わたしたちは、こころを持っているわ。――ちょうど、ポルトガルで持っているのと、同じくらいに」</p>
        <p>「さあ、なにか食べ物でもひろうことを、考えようじゃないか」と、おすのアヒルが言いました。「そのほうが、ずっとだいじだからな。おもちゃの一つぐらい、こわれたって、そんなものは、まだいくらでもあるさ」</p>
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        <note type="source-attribution" source="#source-23502-23770"><seg type="source-line">底本：「人魚の姫　アンデルセン童話集※［＃ローマ数字1、1-13-21］」新潮文庫、新潮社</seg><lb/><seg type="source-line" style="padding-inline-start: 3em">1967（昭和42）年12月10日発行</seg><lb/><seg type="source-line" style="padding-inline-start: 3em">1989（平成元）年11月15日34刷改版</seg><lb/><seg type="source-line" style="padding-inline-start: 3em">2011（平成23）年9月5日48刷</seg></note>
        <note type="transcriber-note" source="#source-23770-24085"><seg type="source-line">入力：チエコ</seg><lb/><seg type="source-line">校正：木下聡</seg><lb/><seg type="source-line">2021年2月26日作成</seg><lb/><seg type="source-line">青空文庫作成ファイル：</seg><lb/><seg type="source-line">このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫（https://www.aozora.gr.jp/）で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。</seg></note>
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