Soranoha

なぞ

なぞ

グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール、グリム ヴィルヘルム・カール

むかし、あるところに、ひとりの王子おうじがおりました。王子は世よのなかを歩きまわってみたくなりましたので、忠義ちゅうぎな家来けらいをひとりだけつれてでかけました。

ある日のこと、王子は、とある森のなかにはいりこみました。そのうちに、日がくれてきました。けれども、まだ宿屋やどやが見つかりません。それで王子は、今夜はどこで夜よをあかしたものだろうかと、とほうにくれてしまいました。

と、そのとき、ひとりのむすめが小さい家のほうへ歩いていくのが、目にとまりました。そこで、近よってみますと、それはわかいきれいなむすめでした。王子はむすめに声をかけて、いいました。

「むすめさん、今夜ひと晩ばん、わたしと家来けらいとをとめてもらえませんかね。」

「それはまあ、おとめすることはできますけど。」

と、むすめはかなしげな声でいいました。

「おすすめはいたしませんわ。おはいりにならないほうがようございます。」

「どうしていけないのですか。」

と、王子おうじがたずねました。

むすめはため息いきをついて、こたえました。

「じつは、あたしのまま母はわるい術じゅつをつかいますし、それに、よそのかたにはしんせつにしないんですの。」

これをきいて、王子おうじは魔女まじょの家へきたことを知りました。けれども、もうまっくらで、これいじょうさきへいくことはできません。それに、べつにこわいとも思いませんでしたので、王子はなかへはいりました。

ばあさんは、炉ろばたのひじかけいすにこしかけていましたが、赤い目で旅たびの人たちをじろっとながめました。そして、

「よくきたね、こしをおろして、ゆっくりやすむがいい。」

と、しゃがれ声でいいました。けれども、そのようすはいかにもしんせつそうでした。

ばあさんは、ぷうぷう炭すみをふいて、小さなふかいなべをかけ、なにかを煮にはじめました。それを見ますと、むすめはふたりに気をつけるように注意ちゅういして、

「まま母はわるい飲のみものをつくっているんですから、どんなものでものんだり、食べたりしてはいけませんよ。」

と、もうしました。

ふたりは、あけがたまでぐっすりねむりました。

ふたりはでかけるしたくをすっかりととのえて、王子おうじははやくも馬にのりました。そのとき、ばあさんがいいました。

「ちょいとお待まち。でかけるまえに、おわかれの飲のみものをあげたいからね。」

ばあさんがその飲みものをとりにいっているあいだに、王子はでかけてしまいました。家来けらいのほうは、馬のくらをしっかりしめなければなりませんでしたので、ひとりだけあとにのこっていました。すると、そこへわるい魔女まじょが飲みものをもって、やってきました。

「これを、おまえさんのご主人しゅじんにもっていってあげておくれ。」

と、魔女まじょはいいました。

ところがそのとたんに、コップがわれて、なかの毒どくが馬にはねかかりました。と、どうでしょう、それはものすごい毒だったものですから、たちまち、馬はその場ばにたおれて、死しんでしまいました。

家来けらいは主人のあとを追おっていって、このできごとをのこらずものがたりました。そして、くらをこのまますてていくのもおしいからといって、ふたたびくらをとりにひきかえしました。ところが、死んだ馬のところまできてみますと、もう、カラスが一羽わ馬の上にとまって、死んだ馬をくっているのです。

「きょうのうちに、なにかもっといいことがないともいえない。」

家来けらいはこういって、そのカラスを殺ころして、もっていきました。

それから、ふたりは一日じゅう森のなかを歩きつづけましたが、それでも森のそとへでることはできませんでした。やがて、日のくれかかるころ、ふたりはようやく一軒けんの宿屋やどやを見つけて、なかへはいりました。

家来けらいは宿屋の亭主ていしゅにさっきのカラスをわたして、晩ばんのごちそうに料理りょうりするようにいいました。

ところが、ふたりは人殺ひとごろしの巣すのなかにとびこんだのです。ですから、くらやみにまぎれて、十二人の人殺しどもがやってきました。そいつらはこの旅たびの客きゃくを殺して、もっているものをうばいとろうというのです。けれども、しごとにかかるまえに、人殺しどもは、まず食卓しょくたくにつきました。宿屋の亭主ていしゅもあの魔女まじょも、そのなかまにくわわりました。そしてみんなで、さっきのカラスの肉にくをきざみこんでいれてあるスープをひとさらずつのみました。ところが、このカラスの肉には、馬の肉の毒どくがつたわっていたからたまりません。ひと口ふた口のみこむかのみこまないうちに、みんなはその場ばにたおれて死んでしまいました。

生きのこったのはただひとり、亭主ていしゅのむすめだけでした。このむすめは心のすなおな子で、こんなひどいことには、なんのかかりあいもなかったのです。むすめは旅たびのふたりに、扉とびらという扉をのこらずあけて、なかにつみあげてあるたくさんの宝たからものを見せました。けれども王子は、

「これは、おまえがみんなとっておきなさい。わたしはなにもいらないから。」

と、いって、家来といっしょにまた馬にのっていきました。

ふたりは長いこと歩きまわったのち、とある町へきました。その町には、美しいけれども、たいそう思いあがったお姫ひめさまが住んでいました。お姫さまは、もしじぶんにとけないようななぞをだすものがあったら、その人をじぶんのおむこさんにしよう、そのかわり、もしじぶんがそのなぞをといたら、その男はいやでも首くびを切られなければならないというおふれをだしていたのでした。

お姫さまは三日のあいだ考えることになっていたのですが、たいへんかしこいひとでしたので、だされたなぞは、いつもきめられた日のこないうちにちゃんとといてしまいました。

王子おうじがこの町へついたときには、すでに九人のものが、こんなふうにして命いのちをおとしていたのでした。だれもかれもが、お姫さまのあまりの美しさに目がくらんでしまって、じぶんの命をかけてもいいと思ったのです。

王子はお姫ひめさまのまえにでて、なぞをだして、いいました。

「ひとりがひとりも殺ころさないのに、十二人殺したものは、なんでしょう。」

お姫さまには、こればかりはなんだかわかりませんでした。いくら頭をひねって考えてみても、見当けんとうもつきません。なぞの本もいくさつかひらいてみましたが、本にも書いてはありません。つまり、お姫さまの知恵ちえがたねぎれになってしまったのです。

お姫さまはもうどうしていいかわからなくなりましたので、侍女じじょにいいつけて、王子の寝室しんしつにしのびこませました。侍女は、そこで王子が夢ゆめを見て、なにかいうのをきいてくるようにいいつかったのです。なぜって、お姫ひめさまは、ひょっとしたら、王子おうじがねごとをいって、なぞのことでもいいあかしはしないだろうかと考えたのです。

けれども、りこうな家来けらいは、主人しゅじんのかわりにじぶんがベッドのなかにはいってねました。そして、侍女じじょがそばまできますと、侍女が身みをつつんでいたマントをいきなりはぎとって、この女をむちでうって、追おいだしてしまいました。

二日めの晩ばんには、お姫ひめさまは侍女じじょをやって、うまくきけるかどうか、とにかくやってみるようにいいつけました。けれども、家来けらいはこんどもまたマントをはぎとって、やっぱり侍女をむちでうって、追いだしてしまいました。

そこで、王子おうじは、三日めの晩ばんはだいじょうぶだろうと思って、じぶんのベッドにねていました。ところがこんどは、お姫さまがじぶんでやってきました。みれば、お姫さまはうすネズミ色のマントを身みにまとっています。そして、お姫さまは王子のそばにこしかけました。

〔図〕fig59842_01.png

お姫さまは、王子がねむって夢ゆめを見ているのだと思いましたので、王子おうじに話しかけました。なぜって、こうすれば、よくみんながするように、王子も夢ゆめを見ながらへんじをしてくれはしないかと、ひそかにねがっていたからです。

ところが、王子は目がさめていたのです。そして、なにもかもこころえて、ちゃんときいていたのでした。

お姫ひめさまが、

「ひとりがひとりも殺ころさなかったのは、なんですか?」

と、たずねました。

すると、王子がこたえました。

「毒どくがかかって死しんだ馬を、食べたために死んだカラスだよ。」

お姫さまはさらにたずねました。

「それで、十二人を殺したのはなんですか?」

「それは、そのカラスを食べて、そのために死んだ十二人の人殺しのことだよ。」

お姫ひめさまはなぞのこたえがわかりますと、そっとぬけだそうとしました。ところが、王子がお姫さまのマントをしっかりおさえていたものですから、お姫さまはしかたなく、それをそのままおいていかなければなりませんでした。

あくる朝、お姫さまはなぞがとけたとおふれをだしました。そして、十二人の裁判官さいばんかんをよびだして、そのまえでなぞをといてみせました。

すると、なぞをだした王子おうじが、じぶんのいうこともきいていただきたい、とねがいでました。

「お姫ひめさまは、ゆうべわたくしのところへしのんでこられて、わたくしからのこらずきいてしまわれたのです。さもなければ、とけるはずがございません。」

と、いいました。

それをきいて、裁判官さいばんかんは口ぐちにいいました。

「では、その証拠しょうこをもってきなさい。」

そこで、家来けらいがマントを三着ちゃくもってきました。裁判官たちはお姫さまがいつもきている、うすネズミ色のマントを見ますと、

「このマントに金糸きんし、銀糸ぎんしのぬいとりをおさせなさいませ。そうすれば、お姫さまのご婚礼こんれいのマントになりましょう。」

と、いいました。

底本 / Source edition

底本:「グリム童話集(1)」偕成社文庫、偕成社
1980(昭和55)年6月1刷
2009(平成21)年6月49刷
入力:sogo
校正:チエコ
2020年12月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール、グリム ヴィルヘルム・カール「なぞ」(新字新仮名)、底本『グリム童話集(1)』偕成社文庫、偕成社、1980年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 059842_001091, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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