ある<ruby><rb>粉</rb><rt>こな</rt></ruby>ひきの男が、だんだん<ruby><rb>貧乏</rb><rt>びんぼう</rt></ruby>になりました。そして、とうとうしまいには、粉ひきの<ruby><rb>水車</rb><rt>すいしゃ</rt></ruby>と、そのうしろにはえている一本の大きなリンゴの木のほかには、なにひとつないようになってしまいました。

あるとき、粉ひきが森にはいって、たきぎをとっていますと、見かけたことのない、ひとりのおじいさんが粉ひきのところへやってきて、

「おまえは、なんでそんなにほねをおって木を切っているのだね。おまえが、水車のうしろに立っているものをわしにくれると<ruby><rb>約束</rb><rt>やくそく</rt></ruby>すれば、わしはおまえを<ruby><rb>金持</rb><rt>かねも</rt></ruby>ちにしてやろう。」

と、いいました。

（それは、あのリンゴの木のことにちがいない。）

<ruby><rb>粉</rb><rt>こな</rt></ruby>ひきはこう考えましたので、

「いいですよ。」

と、こたえて、その知らない男に<ruby><rb>証文</rb><rt>しょうもん</rt></ruby>を書きました。

すると、その男はあざけるようにわらいながら、

「三年たったら、またきて、わしのものをもっていくぞ。」

と、いって、それなりどこかへいってしまいました。

<ruby><rb>粉</rb><rt>こな</rt></ruby>ひきがうちへかえってきますと、おかみさんがむかえにでて、いいました。

「どうしたんだろうねえ、<ruby><rb>親方</rb><rt>おやかた</rt></ruby>。いったいどこから、お<ruby><rb>金</rb><rt>かね</rt></ruby>がだしぬけにうちんなかへはいってきたんだろうねえ？　そこらじゅうの<ruby><rb>箱</rb><rt>はこ</rt></ruby>が、きゅうに、みんなお金でいっぱいになってしまったじゃないか。だれももってきたわけじゃなし。どうしたわけなんだか、あたしにゃさっぱりわからないよ。」

すると、<ruby><rb>粉</rb><rt>こな</rt></ruby>ひきはこたえていいました。

「そりゃあ、森のなかでおれがであった、どこかの男のやったことさ。なにしろ、そいつはおれに<ruby><rb>宝</rb><rt>たから</rt></ruby>ものをうんとくれるって<ruby><rb>約束</rb><rt>やくそく</rt></ruby>をしたんだからな。そのかわり、おれは<ruby><rb>水車</rb><rt>すいしゃ</rt></ruby>のうしろに立ってるものをやるって<ruby><rb>証文</rb><rt>しょうもん</rt></ruby>を書いたんだ。あの大きいリンゴの木なら、やったってかまやしないさ。」

「まあ、おまえさん。」

と、おかみさんはぎょっとしていいました。

「それは<ruby><rb>悪魔</rb><rt>あくま</rt></ruby>だよ。そいつのいうのはリンゴの木じゃなくて、うちのむすめのことなんだよ。あの子はちょうど水車のうしろに立って、<ruby><rb>庭</rb><rt>にわ</rt></ruby>をはいていたんだもの。」

その<ruby><rb>粉</rb><rt>こな</rt></ruby>ひきのむすめというのは、まことに美しい、<ruby><rb>信心</rb><rt>しんじん</rt></ruby>ぶかい子でした。むすめは、それからの三年間というものは、<ruby><rb>神</rb><rt>かみ</rt></ruby>さまをうやまい、おこないをつつしんでくらしました。

いよいよ、<ruby><rb>約束</rb><rt>やくそく</rt></ruby>した<ruby><rb>期限</rb><rt>きげん</rt></ruby>がきれて、<ruby><rb>悪魔</rb><rt>あくま</rt></ruby>がむすめをつれていく日がきました。むすめはからだをきれいにあらって、チョークでじぶんのまわりにひとすじの<ruby><rb>輪</rb><rt>わ</rt></ruby>をかきました。

悪魔は、はやばやとやってはきましたが、むすめに近よることはできませんでした。悪魔は<ruby><rb>腹</rb><rt>はら</rt></ruby>をたてて、<ruby><rb>粉</rb><rt>こな</rt></ruby>ひきにいいました。

「むすめから水をみんなとりあげちまって、からだをあらえないようにしろ。でなきゃ、おれはむすめをどうすることもできないじゃないか。」

<ruby><rb>粉</rb><rt>こな</rt></ruby>ひきは、おそろしいものですから、いわれるとおりにしました。

あくる朝、<ruby><rb>悪魔</rb><rt>あくま</rt></ruby>がまたやってきました。けれども、むすめは両手を顔にあてて<ruby><rb>泣</rb><rt>な</rt></ruby>いていましたので、その手は<ruby><rb>涙</rb><rt>なみだ</rt></ruby>にぬれて、すこしもけがれがなく、きよらかでした。ですから、悪魔はまたしてもむすめに近よることができません。それで、悪魔は気のくるったようにおこって、粉ひきにいいました。

「むすめの両手を切っちまえ。でなきゃ、おれはむすめに手がだせねえ。」

<ruby><rb>粉</rb><rt>こな</rt></ruby>ひきはびっくりして、こたえました。

「自分のほんとうのむすめの手が、どうして切れましょう。」

すると、悪魔は粉ひきをおどして、

「おまえがおれのいうとおりにしなけりゃ、おまえはおれのものだ。おれはおまえをさらっていくぞ。」

と、いいました。

<ruby><rb>粉</rb><rt>こな</rt></ruby>ひきはこわくなって、いうとおりにすると<ruby><rb>悪魔</rb><rt>あくま</rt></ruby>に<ruby><rb>約束</rb><rt>やくそく</rt></ruby>してしまいました。そこで、むすめのところへいって、いいました。

「ねえ、おまえ、おとうさんがおまえの両手を切らないと、悪魔がおとうさんをつれていってしまうというんだよ。それで、おとうさんはこわくって、ついそうすると悪魔に<ruby><rb>約束</rb><rt>やくそく</rt></ruby>してしまったんだよ。おとうさんは、こまりきっているんだから、どうかたすけておくれ。おまえにひどいことをするのを、どうかゆるしておくれ。」

すると、むすめはこたえて、いいました。

「おとうさん、あたしのからだは、どうかおとうさんのいいようになすってください。あたしはおとうさんの子ですもの。」

むすめはこういって、両手をさしのべて、おとうさんに切らせました。

<ruby><rb>悪魔</rb><rt>あくま</rt></ruby>はまたまたやってきました。けれども、むすめは<ruby><rb>手首</rb><rt>てくび</rt></ruby>のない<ruby><rb>腕</rb><rt>うで</rt></ruby>を顔にあてて、長いことさめざめと<ruby><rb>泣</rb><rt>な</rt></ruby>きましたので、腕は<ruby><rb>涙</rb><rt>なみだ</rt></ruby>にぬれて、すこしのけがれもなく、きよらかでした。

これには、さすがの悪魔もとうとうこうさんして、むすめをうばいとる<ruby><rb>権利</rb><rt>けんり</rt></ruby>をすっかりなくしてしまいました。

<ruby><rb>粉</rb><rt>こな</rt></ruby>ひきはむすめにいいました。

「おとうさんは、おまえのおかげで、たいへんなお<ruby><rb>金</rb><rt>かね</rt></ruby>をもうけたんだよ。だから、おまえの生きているあいだは、おまえをうんとだいじにしてやるよ。」

けれどもむすめは、

「あたしは、ここにはいられません。どこかよそへまいります。きっと、なさけぶかい人たちが、あたしにいるだけのものはくれるでしょう。」

と、いいました。

それから、むすめは<ruby><rb>手首</rb><rt>てくび</rt></ruby>のなくなった<ruby><rb>腕</rb><rt>うで</rt></ruby>を<ruby><rb>背中</rb><rt>せなか</rt></ruby>にしばりつけてもらって、朝日がのぼるといっしょに<ruby><rb>旅</rb><rt>たび</rt></ruby>にでかけました。

一日歩きつづけていくうちに、とうとう、夜になりました。そのとき、むすめはある王さまのお<ruby><rb>庭</rb><rt>にわ</rt></ruby>にでました。お月さまのあかりですかしてみますと、そのお庭にある木には、美しいくだものがすずなりになっています。でも、そのなかへはいっていくことはできません。なぜって、お庭のまわりには<ruby><rb>堀</rb><rt>ほり</rt></ruby>がありますもの。

むすめは一日じゅう歩きどおしで、おまけに、ひと口も食べものを口にいれていないのです。いまはもう、おなかがすいてたまりません。それで、

（ああ、あのなかへはいっていって、あのくだものを食べたいわ。でないと、あたしおなかがへって、<ruby><rb>死</rb><rt>し</rt></ruby>んでしまうわ。）

と、思いました。

そこで、むすめはひざまずいて、神さまのみ<ruby><rb>名</rb><rt>な</rt></ruby>をよび、おいのりをしました。すると、とつぜん、<ruby><rb>天使</rb><rt>てんし</rt></ruby>があらわれて、お<ruby><rb>堀</rb><rt>ほり</rt></ruby>の<ruby><rb>水門</rb><rt>すいもん</rt></ruby>をとじてくれました。ですから、お堀はすっかりかわいて、むすめはそこをとおっていくことができました。

むすめはお<ruby><rb>庭</rb><rt>にわ</rt></ruby>にはいりました。<ruby><rb>天使</rb><rt>てんし</rt></ruby>もいっしょについていきました。むすめはくだもののなっている木を見ました。そのくだものというのは、ナシでした。けれども、そのナシはすっかり数がかぞえてあったのです。むすめはその木に近よって、ナシをひとつ口で木からとって食べました。こうして、おなかのへっているのをふさぎました。けれども、ひとつきりで、それいじょうは食べませんでした。

<ruby><rb>庭師</rb><rt>にわし</rt></ruby>がそれを見ていましたが、そばに<ruby><rb>天使</rb><rt>てんし</rt></ruby>が立っていたものですから、こわくって、あのむすめは<ruby><rb>幽霊</rb><rt>ゆうれい</rt></ruby>だろうと思って、だまっていました。人をよぶ<ruby><rb>勇気</rb><rt>ゆうき</rt></ruby>も、幽霊に話しかける勇気もなかったのです。

むすめはナシを食べおわりますと、おなかがいっぱいになりましたので、そこをでて、やぶのなかにかくれました。

そのお庭の<ruby><rb>持</rb><rt>も</rt></ruby>ち<ruby><rb>主</rb><rt>ぬし</rt></ruby>の王さまが、あくる朝、お庭におりてきました。ナシの数をかぞえてみますと、きょうはひとつたりません。そこで王さまは、

「ナシはどこへいったのだ。木の下におちてもいないのに、ひとつたりなくなっているぞ。」

と、<ruby><rb>庭師</rb><rt>にわし</rt></ruby>にいいました。

すると、<ruby><rb>庭師</rb><rt>にわし</rt></ruby>はこたえていいました。

「じつは、ゆうべ<ruby><rb>幽霊</rb><rt>ゆうれい</rt></ruby>がはいってまいりました。その幽霊は、手が両方ともありませんでしたが、口でナシをひとつ食べたのでございます。」

王さまは、

「その<ruby><rb>幽霊</rb><rt>ゆうれい</rt></ruby>は、どうして<ruby><rb>堀</rb><rt>ほり</rt></ruby>をわたってきたのだ。してまた、ナシを食べてから、どこへいったのだ。」

と、たずねました。

「だれですか、雪のように白い<ruby><rb>着物</rb><rt>きもの</rt></ruby>をきた人が天からおりてまいりまして、その人が<ruby><rb>水門</rb><rt>すいもん</rt></ruby>をとじて、水をとめてしまいましたので、<ruby><rb>幽霊</rb><rt>ゆうれい</rt></ruby>はお<ruby><rb>堀</rb><rt>ほり</rt></ruby>をとおってくることができたのでございます。その人は<ruby><rb>天使</rb><rt>てんし</rt></ruby>にちがいないと思いましたので、わたくしはおそろしくなって、たずねもいたさず、人もよばなかったのでございます。幽霊はナシを食べてしまいますと、またもとの道をもどっていきました。」

と、<ruby><rb>庭師</rb><rt>にわし</rt></ruby>はこたえました。

それをきいて、王さまはいいました。

「おまえのもうすとおりなら、今夜はひとつ、わしがおまえのそばで<ruby><rb>番</rb><rt>ばん</rt></ruby>をしてみよう。」

くらくなりますと、王さまはお庭におりました。王さまは<ruby><rb>坊</rb><rt>ぼう</rt></ruby>さんをひとりつれてきました。この人は<ruby><rb>幽霊</rb><rt>ゆうれい</rt></ruby>に話しかける<ruby><rb>役</rb><rt>やく</rt></ruby>だったのです。三人は木の下にこしをおろして、気をつけていました。

ま<ruby><rb>夜中</rb><rt>よなか</rt></ruby>ごろに、むすめがやぶからはいだしてきて、木のところへいって、ゆうべとおなじように口でナシをひとつ食べました。むすめのそばには、<ruby><rb>天使</rb><rt>てんし</rt></ruby>が白い<ruby><rb>着物</rb><rt>きもの</rt></ruby>をきて、立っていました。

そのとき、<ruby><rb>坊</rb><rt>ぼう</rt></ruby>さんがすすみでて、いいました。

「おまえは<ruby><rb>神</rb><rt>かみ</rt></ruby>さまのところからきたのか。それとも、人間の<ruby><rb>世</rb><rt>よ</rt></ruby>のなかからきたのか。おまえは<ruby><rb>幽霊</rb><rt>ゆうれい</rt></ruby>なのか、人間なのか。」

すると、むすめはこたえていいました。

「あたくしは<ruby><rb>幽霊</rb><rt>ゆうれい</rt></ruby>ではございません。神さまのほかは、みんなから見すてられているあわれな人間でございます。」

王さまはいいました。

「たとえ、おまえが<ruby><rb>世界</rb><rt>せかい</rt></ruby>じゅうのものから見すてられていても、わしは、おまえを見すてはしないぞ。」

王さまはむすめをじぶんのお<ruby><rb>城</rb><rt>しろ</rt></ruby>につれていきました。たいそう美しく、<ruby><rb>信心</rb><rt>しんじん</rt></ruby>ぶかいむすめでしたので、王さまは心のそこからこのむすめがすきになりました。そして、むすめに<ruby><rb>銀</rb><rt>ぎん</rt></ruby>の手をこしらえてやって、じぶんのお<ruby><rb>妃</rb><rt>きさき</rt></ruby>さまにしました。

それから一年たったとき、王さまは<ruby><rb>戦争</rb><rt>せんそう</rt></ruby>にいかなければならなくなりました。そこで、王さまは、わかいお妃さまのことをおかあさまにたのんで、こういいました。

「妃がお<ruby><rb>産</rb><rt>さん</rt></ruby>の<ruby><rb>床</rb><rt>とこ</rt></ruby>につきましたら、どうかくれぐれもいたわってやってください。そして、すぐにわたしに<ruby><rb>手紙</rb><rt>てがみ</rt></ruby>をくださいませ。」

やがて、お<ruby><rb>妃</rb><rt>きさき</rt></ruby>さまは美しい男の子を生みました。そこで、年をとったおかあさまは、いそいでそのことを手紙に書いて、うれしい知らせを王さまにおくりました。

ところが、その<ruby><rb>使</rb><rt>つか</rt></ruby>いのものが、とちゅうでとある小川の岸でやすみました。長い道のりを歩いて、くたびれきっていたものですから、使いのものはぐっすりねこんでしまったのです。

するとそこへ、あの<ruby><rb>悪魔</rb><rt>あくま</rt></ruby>がやってきました。こいつは、<ruby><rb>信心</rb><rt>しんじん</rt></ruby>ぶかいお<ruby><rb>妃</rb><rt>きさき</rt></ruby>さまをひどいめにあわせてやろうと、そのことばかり考えていたのです。そこで、さっそく、使いのもっている手紙をべつのとすりかえて、それには、お妃さまがみにくい子を生んだと書いておきました。

王さまはその手紙を読みますと、びっくりして、たいそうかなしみました。けれども、じぶんがかえるまで、お妃さまをだいじにいたわってやってもらいたい、とへんじの手紙を書きました。使いのものはその手紙をもってひきかえしましたが、まえとおなじ<ruby><rb>場所</rb><rt>ばしょ</rt></ruby>でやすみますと、またまたそのままねこんでしまいました。

そこへ、またも<ruby><rb>悪魔</rb><rt>あくま</rt></ruby>がやってきて、使いのポケットにべつの手紙をいれました。それには、お<ruby><rb>妃</rb><rt>きさき</rt></ruby>さまを子どももろとも<ruby><rb>殺</rb><rt>ころ</rt></ruby>してもらいたい、と書いてあったのです。

年よりのおかあさまは、この手紙をうけとって、ひどくびっくりしました。でも、どうしてもほんとうとは思えませんので、もういちど王さまに手紙を書きました。けれども、そのたびに、<ruby><rb>悪魔</rb><rt>あくま</rt></ruby>がにせの手紙とすりかえてしまいますので、くるへんじはいつもおんなじことばかりでした。しかもいちばんおしまいの手紙には、<ruby><rb>殺</rb><rt>ころ</rt></ruby>した<ruby><rb>証拠</rb><rt>しょうこ</rt></ruby>に、お<ruby><rb>妃</rb><rt>きさき</rt></ruby>さまの<ruby><rb>舌</rb><rt>した</rt></ruby>と目をとっておいてもらいたい、とさえ書いてあるではありませんか。

年よりのおかあさまは、なんの<ruby><rb>罪</rb><rt>つみ</rt></ruby>もないものの<ruby><rb>血</rb><rt>ち</rt></ruby>をながせといわれたのをかなしんで、<ruby><rb>泣</rb><rt>な</rt></ruby>きました。そこで、夜になるのを<ruby><rb>待</rb><rt>ま</rt></ruby>って、一ぴきのメジカをつれてこさせ、その<ruby><rb>舌</rb><rt>した</rt></ruby>と目とを切りとって、それをしまっておきました。それから、おかあさまはお妃さまにむかっていいました。

「わたしには、王さまのおっしゃるように、とてもあなたを<ruby><rb>殺</rb><rt>ころ</rt></ruby>させることはできません。でも、あなたもここに長くいるわけにはいきませんから、子どもをつれてひろい<ruby><rb>世</rb><rt>よ</rt></ruby>のなかへでておいでなさい。そして、ここへは二度とかえってこないようになさい。」

おかあさまは、お妃さまの<ruby><rb>背中</rb><rt>せなか</rt></ruby>に子どもをしばりつけてやりました。かわいそうに、お妃さまは、目をまっかに<ruby><rb>泣</rb><rt>な</rt></ruby>きはらして、たちさっていきました。

お<ruby><rb>妃</rb><rt>きさき</rt></ruby>さまは、とあるうっそうとした大きな森のなかにはいりました。そこで、お妃さまは<ruby><rb>地面</rb><rt>じめん</rt></ruby>にひざまずいて、<ruby><rb>神</rb><rt>かみ</rt></ruby>さまにおいのりをしました。すると、神さまの<ruby><rb>天使</rb><rt>てんし</rt></ruby>があらわれて、お妃さまをある小さな家へつれていってくれました。みれば、その家には、「ここには、だれでもただで住めます」と、書いた小さな<ruby><rb>看板</rb><rt>かんばん</rt></ruby>がかかっています。

そのとき、家のなかから、雪のように白いおとめがでてきて、

「よくいらっしゃいました、お妃さま。」

と、いって、お妃さまを家のなかへ<ruby><rb>案内</rb><rt>あんない</rt></ruby>しました。

おとめはひもをといて、お<ruby><rb>妃</rb><rt>きさき</rt></ruby>さまの<ruby><rb>背中</rb><rt>せなか</rt></ruby>から小さな男の子をおろしました。そして、お妃さまの<ruby><rb>乳房</rb><rt>ちぶさ</rt></ruby>にあてがって、お<ruby><rb>乳</rb><rt>ちち</rt></ruby>をのませました。それがすむと、こんどは、すっかりしたくのできている美しい、小さな<ruby><rb>寝床</rb><rt>ねどこ</rt></ruby>に、男の子をねかせました。そこで、かわいそうな女がたずねました。

「あたしがお<ruby><rb>妃</rb><rt>きさき</rt></ruby>だったことを、あなたはどうして知っていらっしゃるのですか。」

すると、白いおとめはこたえていいました。

「あたしは<ruby><rb>天使</rb><rt>てんし</rt></ruby>です。あなたと、あなたのお子さまのお<ruby><rb>世話</rb><rt>せわ</rt></ruby>をするように、<ruby><rb>神</rb><rt>かみ</rt></ruby>さまからつかわされたのです。」

こうして、お妃さまはこの家に七年のあいだいて、手あつい世話をうけました。そして、<ruby><rb>信心</rb><rt>しんじん</rt></ruby>ぶかいおかげで、神さまのおめぐみによって、切りとられたお妃さまの<ruby><rb>手首</rb><rt>てくび</rt></ruby>が、もういちど、もとのようにはえたのです。

いっぽう、王さまはやっと<ruby><rb>戦場</rb><rt>せんじょう</rt></ruby>からかえってきました。そして、まっさきに、<ruby><rb>妻</rb><rt>つま</rt></ruby>と子どもにあいたい、といいました。

それをきいて、年よりのおかあさまは<ruby><rb>泣</rb><rt>な</rt></ruby>きだして、いいました。

「あなたは、なんというひどいひとでしょう。わたしに、なんの<ruby><rb>罪</rb><rt>つみ</rt></ruby>もないふたりの<ruby><rb>命</rb><rt>いのち</rt></ruby>をうばえと書いてよこすなんて、あんまりではありませんか。」

そして、<ruby><rb>悪魔</rb><rt>あくま</rt></ruby>のすりかえた二<ruby><rb>通</rb><rt>つう</rt></ruby>の<ruby><rb>手紙</rb><rt>てがみ</rt></ruby>を王さまに見せて、なおもことばをつづけました。

「わたしは、あなたのいいつけどおりにしましたよ。」

こういって、その<ruby><rb>証拠</rb><rt>しょうこ</rt></ruby>に<ruby><rb>舌</rb><rt>した</rt></ruby>と目玉をだして見せました。それを見たとたん、王さまはかわいそうな<ruby><rb>妻</rb><rt>つま</rt></ruby>と子どもの<ruby><rb>身</rb><rt>み</rt></ruby>の<ruby><rb>上</rb><rt>うえ</rt></ruby>をかなしんで、おかあさまよりももっとはげしく<ruby><rb>泣</rb><rt>な</rt></ruby>きだしました。そのようすを見ますと、年よりのおかあさまはいじらしくなって、

「<ruby><rb>安心</rb><rt>あんしん</rt></ruby>なさい。<ruby><rb>妃</rb><rt>きさき</rt></ruby>はまだ生きています。じつは、わたしはメジカをこっそり<ruby><rb>殺</rb><rt>ころ</rt></ruby>させて、ここにある<ruby><rb>証拠</rb><rt>しょうこ</rt></ruby>の<ruby><rb>品</rb><rt>しな</rt></ruby>をとっておいたのですよ。そして妃には、わたしが<ruby><rb>背中</rb><rt>せなか</rt></ruby>に子どもをしばりつけて、遠くへいくようにもうしつけました。二度とここへはもどってこないと<ruby><rb>約束</rb><rt>やくそく</rt></ruby>させたうえでね。だって、あなたが妃のことをひどくおこっていると思いましたからね。」

と、いいました。

それをきいて、王さまはいいました。

「青空のつづくかぎり、どこまでもわたしはまいります。かわいい<ruby><rb>妻</rb><rt>つま</rt></ruby>と子にめぐりあうまでは、<ruby><rb>飲</rb><rt>の</rt></ruby>み<ruby><rb>食</rb><rt>く</rt></ruby>いもいたしますまい。それまでに、ふたりがなくなるか、うえ<ruby><rb>死</rb><rt>じ</rt></ruby>にでもしなければ、おそらくめぐりあうことができましょうから。」

それから、王さまは七年ばかりも、あちこちと歩きまわって、けわしい岩のがけも、ほら<ruby><rb>穴</rb><rt>あな</rt></ruby>も、どこからどこまでさがしてみました。しかし、ふたりはどこにも見つかりません。それで、とうとう王さまも、きっと、ふたりは力がつきて、<ruby><rb>死</rb><rt>し</rt></ruby>んでしまったのだろう、と思いました。

王さまは、このあいだじゅう、ずうっとのみもしなければ、食べもしなかったのですが、それでも<ruby><rb>神</rb><rt>かみ</rt></ruby>さまが生かしておいてくださいました。

さいごに、王さまは、とある大きな森のなかへはいりました。そしてその森のなかで、小さな家を見つけますと、その家には「ここには、だれでもただで住めます」と、書いた<ruby><rb>看板</rb><rt>かんばん</rt></ruby>がかかっていました。そのとき、家のなかから白いおとめがでてきて、王さまの手をとって、家のなかへ<ruby><rb>案内</rb><rt>あんない</rt></ruby>しました。そして、

「よくいらっしゃいました、王さま。」

と、いいました。それから、王さまに、

「どこからいらっしゃいました。」

と、たずねました。

「あちこちと歩きだしてから、もうぼつぼつ七年になります。<ruby><rb>妻</rb><rt>つま</rt></ruby>と子どもをさがしているのですが、どうしても見つからないのです。」

と、王さまはこたえました。

<ruby><rb>天使</rb><rt>てんし</rt></ruby>は王さまに食べものと<ruby><rb>飲</rb><rt>の</rt></ruby>みものをあげましたが、王さまはそれをことわって、ただすこしやすませてもらいたい、と、いいました。王さまは、ねようと思って、横になりました。そして、じぶんの顔にハンカチをかけました。

そのとき、天使は、お<ruby><rb>妃</rb><rt>きさき</rt></ruby>さまと子どものいるへやにはいっていきました。この子のことを、お妃さまはいつも〈かなしご〉と、よんでおりました。天使はお妃さまにむかって、

「お子さんをつれて、でていらっしゃいませ。<ruby><rb>殿</rb><rt>との</rt></ruby>さまがおいでになりましたよ。」

と、いいました。

そこで、お<ruby><rb>妃</rb><rt>きさき</rt></ruby>さまは、王さまのねているところへいきました。そのとき、王さまの顔からハンカチがおちました。それを見て、お妃さまがいいました。

「かなしごや、あなたのおとうさまにハンカチをひろっておあげなさい。もとのようにお顔にかけてあげるのよ。」

子どもはハンカチをひろって、もとどおり王さまの顔にかけました。王さまは、うとうとしながら、この話をきいていたのですが、もういちど、こんどは、わざとそのハンカチをおとしました。男の子はじれったくなって、お<ruby><rb>妃</rb><rt>きさき</rt></ruby>さまにいいました。

「おかあさま、ぼくのおとうさまの顔にハンカチをかけるなんて、へんじゃないの。だって、ぼくには、この<ruby><rb>世</rb><rt>よ</rt></ruby>のなかにおとうさまっていないんでしょう。ぼくが、天にましますわれらの父よ、っておいのりをならったとき、ぼくのおとうさまは天にいらっしゃるんだって、神さまなんだって、おかあさまはおっしゃったじゃないの。こんな山男みたいな人、ぼく知りゃあしない。おとうさまじゃないや。」

王さまはこれをきくと、おきあがって、

「あなたはどなたですか。」

と、お妃さまにたずねました。

「あたくしは、あなたの<ruby><rb>妻</rb><rt>つま</rt></ruby>でございます。そしてこれが、あなたの子どもの〈かなしご〉でございます。」

と、お<ruby><rb>妃</rb><rt>きさき</rt></ruby>さまがこたえました。

すると、王さまは、お妃さまの<ruby><rb>血</rb><rt>ち</rt></ruby>のかよっている、ほんとうの手を見て、

「わたしの<ruby><rb>妻</rb><rt>つま</rt></ruby>は<ruby><rb>銀</rb><rt>ぎん</rt></ruby>の手をしていたはずだ。」

と、いいました。

そこで、お妃さまはこたえました。

「おめぐみぶかい<ruby><rb>神</rb><rt>かみ</rt></ruby>さまが、ほんとうの手をもとのようにはやしてくださったのでございます。」

そして、<ruby><rb>天使</rb><rt>てんし</rt></ruby>がおへやにいって、銀の手をもってきて、王さまに見せました。そこで、王さまははじめて、これがじぶんのかわいい<ruby><rb>妻</rb><rt>つま</rt></ruby>であり、子どもであることを知ったのでした。

王さまはふたりにキッスして、心からよろこびました。そして、

「これで、おもい石がわたしの<ruby><rb>胸</rb><rt>むね</rt></ruby>からおちた。」

と、いいました。

そこで、神さまのお<ruby><rb>使</rb><rt>つか</rt></ruby>いの<ruby><rb>天使</rb><rt>てんし</rt></ruby>は、もういちどみんなにごちそうをだしました。

それから、三人そろって、王さまの年とったおかあさまのところへかえっていきました。

どこもかしこも、大よろこびでした。王さまとお<ruby><rb>妃</rb><rt>きさき</rt></ruby>さまは、もういちど<ruby><rb>婚礼</rb><rt>こんれい</rt></ruby>の式をあげました。そして、ふたりは<ruby><rb>一生</rb><rt>いっしょう</rt></ruby>をおわるまで、たのしくくらしました。