むかし、あるところに、ひとりのまずしい女がおりました。この女があるときひとりの男の子を生みましたが、その子は頭に（１）〈<ruby><rb>福</rb><rt>ふく</rt></ruby>の<ruby><rb>皮</rb><rt>かわ</rt></ruby>〉をかぶって生まれてきました。それで、この子は十四になったら、王さまのお<ruby><rb>姫</rb><rt>ひめ</rt></ruby>さまをおよめさんにもらうだろう、という<ruby><rb>予言</rb><rt>よげん</rt></ruby>をしたものがありました。

それからまもなくのこと、王さまがこの村にやってきました。けれども、それが王さまだとは、だれひとり<ruby><rb>夢</rb><rt>ゆめ</rt></ruby>にも知りませんでした。王さまは、なにかかわったことはないかと、村の人たちにたずねました。すると、みんなはこたえて、こういいました。

「さいきん、<ruby><rb>福</rb><rt>ふく</rt></ruby>の<ruby><rb>皮</rb><rt>かわ</rt></ruby>をかぶった子どもが生まれました。こういう子どもは、なにをやってもいい<ruby><rb>運</rb><rt>うん</rt></ruby>にめぐまれているものです。じっさい、その子についても、十四になったら、王さまのお<ruby><rb>姫</rb><rt>ひめ</rt></ruby>さまをおよめさんにもらうだろう、という<ruby><rb>予言</rb><rt>よげん</rt></ruby>をしたものもあるんですよ。」

王さまはその予言のことをきいて、ひどく<ruby><rb>腹</rb><rt>はら</rt></ruby>をたてました。しかし、もともと<ruby><rb>腹黒</rb><rt>はらぐろ</rt></ruby>い人でしたから、その子のおとうさんとおかあさんのところへいって、いかにもしんせつそうなふりをして、こういいました。

「どうだろう、あんたがたはまずしいようだが、その子どもをわたしにくれないかね。わたしがめんどうをみてやるよ。」

はじめのうちは、おとうさんもおかあさんもことわりました。けれども、その見知らぬ人が子どもをもらうかわりにといって、たくさんのお<ruby><rb>金</rb><rt>かね</rt></ruby>をさしだしたものですから、ふたりは、

（これは<ruby><rb>福</rb><rt>ふく</rt></ruby>の子だ。どっちみち、いい<ruby><rb>運</rb><rt>うん</rt></ruby>にめぐりあうにちがいない。）

と、考えて、とうとう<ruby><rb>承知</rb><rt>しょうち</rt></ruby>してしまいました。そして、子どもを王さまにわたしたのです。

王さまはその子を<ruby><rb>箱</rb><rt>はこ</rt></ruby>のなかにいれました。そして、それをもって馬をすすめていきますと、そのうちに、とあるふかい川にでました。すると、王さまはその箱を川のなかにほうりこんでしまいました。そして、

（これで、思いもよらないやつに<ruby><rb>姫</rb><rt>ひめ</rt></ruby>をやらなくてもすんだわけだ。）

と、心のなかで思いました。

ところが、その<ruby><rb>箱</rb><rt>はこ</rt></ruby>はしずまないで、<ruby><rb>小舟</rb><rt>こぶね</rt></ruby>のように、ぷかぷかうかんでいきました。そして、なかには水一てきはいりませんでした。

こうして、箱は王さまの<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>から二マイルほどはなれている<ruby><rb>水車小屋</rb><rt>すいしゃごや</rt></ruby>のところまでながれていって、そこの<ruby><rb>堰</rb><rt>せき</rt></ruby>にひっかかって、とまりました。

<ruby><rb>運</rb><rt>うん</rt></ruby>よく、そこに立っていた<ruby><rb>粉</rb><rt>こな</rt></ruby>ひきの<ruby><rb>小僧</rb><rt>こぞう</rt></ruby>がそれを見つけて、<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">とび</span><ruby><rb>口</rb><rt>ぐち</rt></ruby>でもってひきよせました。<ruby><rb>小僧</rb><rt>こぞう</rt></ruby>は、すばらしい<ruby><rb>宝</rb><rt>たから</rt></ruby>ものを見つけたと思いました。ところが、<ruby><rb>箱</rb><rt>はこ</rt></ruby>をあけてみますと、どうでしょう、なかには、きれいな男の子がはいっているではありませんか。男の子は、みるからに元気よく、ぴちぴちしていました。

<ruby><rb>小僧</rb><rt>こぞう</rt></ruby>はこの子を<ruby><rb>粉</rb><rt>こな</rt></ruby>ひきの<ruby><rb>夫婦</rb><rt>ふうふ</rt></ruby>のところへつれていきました。すると、粉ひきの夫婦には子どもがなかったものですから、ふたりは、

「この子は、<ruby><rb>神</rb><rt>かみ</rt></ruby>さまからさずかったのだ。」

と、いいました。

夫婦はこの子をだいじにそだてました。やがて、子どもは大きくなって、りっぱな<ruby><rb>若者</rb><rt>わかもの</rt></ruby>になりました。

あるひどい<ruby><rb>嵐</rb><rt>あらし</rt></ruby>のとき、王さまがこの<ruby><rb>水車小屋</rb><rt>すいしゃごや</rt></ruby>にたちよったことがありました。王さまは粉ひきの夫婦にむかって、この大きな子どもはおまえたちの子どもか、とたずねました。

「いいえ、これはすて子でございます。」

と、夫婦はこたえていいました。

「じつは、いまから十四年ほどまえに、<ruby><rb>箱</rb><rt>はこ</rt></ruby>にいれられて、<ruby><rb>堰</rb><rt>せき</rt></ruby>にながれつきましたのを、<ruby><rb>粉</rb><rt>こな</rt></ruby>ひきの<ruby><rb>小僧</rb><rt>こぞう</rt></ruby>が水からひきあげたのでございます。」

それをきいて、王さまは、これこそ、むかしじぶんが川になげこんだ<ruby><rb>福</rb><rt>ふく</rt></ruby>の子にちがいない、と気がつきました。そこで、

「これ、おまえたち、この子どもに<ruby><rb>妃</rb><rt>きさき</rt></ruby>のところへ<ruby><rb>手紙</rb><rt>てがみ</rt></ruby>をとどけさせてはくれまいか。ほうびには<ruby><rb>金貨</rb><rt>きんか</rt></ruby>を二<ruby><rb>枚</rb><rt>まい</rt></ruby>つかわすが。」

と、いいました。

「かしこまりました。」

<ruby><rb>夫婦</rb><rt>ふうふ</rt></ruby>のものはこうこたえて、子どもにしたくをするようにいいつけました。

王さまはお妃さまに手紙を書きました。ところがその手紙には、

「この手紙をもった子どもが<ruby><rb>城</rb><rt>しろ</rt></ruby>へついたら、ただちに<ruby><rb>殺</rb><rt>ころ</rt></ruby>して、うめてしまえ。それも、わしがもどらぬうちに、すっかりかたづけてしまえ。」

と、書いてあったのです。

男の子はこの手紙をもってでかけましたが、とちゅうで道にまよってしまって、日がくれてから、とある大きな森のなかにはいりこみました。

まっくらやみのなかに、ポツンと小さなあかりが見えました。そこで、男の子はそれをめあてに歩いていきますと、小さな家のまえにでました。

家のなかへはいってみますと、おばあさんがたったひとり<ruby><rb>炉</rb><rt>ろ</rt></ruby>ばたにすわっていました。おばあさんは男の子のすがたを見ますと、びっくりして、いいました。

「おまえはどこからきたのだい。で、これからどこへいくんだね。」

「ぼくは<ruby><rb>水車小屋</rb><rt>すいしゃごや</rt></ruby>からきたんです。」

と、男の子はこたえました。

「お<ruby><rb>妃</rb><rt>きさき</rt></ruby>さまのところへ<ruby><rb>手紙</rb><rt>てがみ</rt></ruby>をとどけにいくとこなんです。だけど、森のなかで道にまよっちゃったから、今夜はここにとめてもらいたいんです。」

「かわいそうに。」

と、おばあさんはいいました。

「おまえは、どろぼうのうちにまよいこんだんだよ。いまにみんながかえってくれば、おまえは<ruby><rb>殺</rb><rt>ころ</rt></ruby>されちまうよ。」

「どんなやつがきたって、ぼくはこわかあありません。ぼくはもうくたびれちゃって、これいじょう、ひと足も歩けないんです。」

男の子はこういうと、こしかけの上に手足をのばして、そのまま、ぐうぐうねこんでしまいました。

それからまもなく、どろぼうたちがかえってきました。どろぼうたちはぷんぷん<ruby><rb>腹</rb><rt>はら</rt></ruby>をたてて、そこにねている<ruby><rb>小僧</rb><rt>こぞう</rt></ruby>は、いったいどこのどいつだ、とたずねました。

「ああ、そりゃあ、<ruby><rb>罪</rb><rt>つみ</rt></ruby>のない子どもだよ。」

と、おばあさんがいいました。

「森んなかで道にまよってたから、かわいそうになって、わたしがとめてやったんだよ。お<ruby><rb>妃</rb><rt>きさき</rt></ruby>さまのとこへ手紙をもっていくんだとさ。」

さっそく、どろぼうたちは<ruby><rb>手紙</rb><rt>てがみ</rt></ruby>の<ruby><rb>封</rb><rt>ふう</rt></ruby>を切って、読んでみました。すると、この子がお<ruby><rb>城</rb><rt>しろ</rt></ruby>へつきしだい、ただちに<ruby><rb>命</rb><rt>いのち</rt></ruby>をとってしまえ、と書いてあるではありませんか。なさけ知らずのどろぼうたちも、これを見ると、さすがにかわいそうになりました。

そこで、どろぼうのかしらはその手紙をやぶいて、べつに手紙を書きました。それには、この子どもがお城へつきしだい、ただちにお<ruby><rb>姫</rb><rt>ひめ</rt></ruby>さまと<ruby><rb>結婚</rb><rt>けっこん</rt></ruby>させるように、と書いておきました。

どろぼうたちは、あくる朝まで、男の子をこしかけの上にしずかにねかせておいてやりました。そしてつぎの朝になって、男の子が目をさましたとき、みんなは男の子に手紙をわたして、お<ruby><rb>城</rb><rt>しろ</rt></ruby>へいく道をおしえてやりました。

お<ruby><rb>妃</rb><rt>きさき</rt></ruby>さまはこの手紙をうけとって、それを読みますと、なかに書いてあるとおり、すぐにりっぱな<ruby><rb>婚礼</rb><rt>こんれい</rt></ruby>のしたくをいいつけました。こうして、お<ruby><rb>姫</rb><rt>ひめ</rt></ruby>さまは<ruby><rb>福</rb><rt>ふく</rt></ruby>の子のおよめさんになったのです。福の子は心のやさしい、美しい<ruby><rb>若者</rb><rt>わかもの</rt></ruby>でしたから、お姫さまは心から<ruby><rb>満足</rb><rt>まんぞく</rt></ruby>して、ふたりでたのしくくらしていました。

しばらくたって、王さまがお<ruby><rb>城</rb><rt>しろ</rt></ruby>へかえってきました。王さまは、<ruby><rb>予言</rb><rt>よげん</rt></ruby>のとおりに、<ruby><rb>福</rb><rt>ふく</rt></ruby>の子がお姫さまをおよめさんにしているのを見ますと、

「これはどうしたことだ。わしは手紙に、まるでちがった<ruby><rb>命令</rb><rt>めいれい</rt></ruby>を書いておいたはずだが。」

と、いいました。

すると、お妃さまはその手紙を王さまにわたして、

「ごじぶんで、なかに書いてあることをお読みになってごらんなさいませ。」

と、いいました。

王さまはその<ruby><rb>手紙</rb><rt>てがみ</rt></ruby>を読んで、はじめて、それがじぶんの書いたのとすりかえられたものであることに気がつきました。そこで、王さまは<ruby><rb>福</rb><rt>ふく</rt></ruby>の子に、じぶんのたのんだ手紙はどうなったのか、どうしてまた、かわりにべつの手紙をもってきたのか、と、たずねました。

「わたしはなんにも知りません。」

と、<ruby><rb>福</rb><rt>ふく</rt></ruby>の子はこたえていいました。

「わたしが森のなかでねた<ruby><rb>晩</rb><rt>ばん</rt></ruby>に、きっとすりかえられたにちがいありません。」

王さまはかんかんにおこって、いいました。

「そうやすやすと、おまえにうまくやられてたまるものか。わしのむすめがほしいものは、<ruby><rb>地獄</rb><rt>じごく</rt></ruby>から<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>の頭の<ruby><rb>金</rb><rt>きん</rt></ruby>の<ruby><rb>髪</rb><rt>かみ</rt></ruby>の<ruby><rb>毛</rb><rt>け</rt></ruby>を三本とってこなければならんのだ。わしののぞみのものをもってくれば、むすめはそのままおまえの<ruby><rb>妻</rb><rt>つま</rt></ruby>にしておいてよろしい。」

王さまとしては、これでこの<ruby><rb>若僧</rb><rt>わかぞう</rt></ruby>を<ruby><rb>追</rb><rt>お</rt></ruby>いはらうことができると思ったのです。

ところが、<ruby><rb>福</rb><rt>ふく</rt></ruby>の子はこたえました。

「おのぞみの<ruby><rb>金</rb><rt>きん</rt></ruby>の<ruby><rb>髪</rb><rt>かみ</rt></ruby>の<ruby><rb>毛</rb><rt>け</rt></ruby>は、かならずとってまいります。<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>なんか、すこしもこわくはありません。」

こうして、福の子はわかれをつげて、<ruby><rb>旅</rb><rt>たび</rt></ruby>にでかけました。

<ruby><rb>福</rb><rt>ふく</rt></ruby>の子がずんずん歩いていきますと、やがて、とある大きな町にきました。町の門のところで、<ruby><rb>番人</rb><rt>ばんにん</rt></ruby>が、おまえはどんな<ruby><rb>職</rb><rt>しょく</rt></ruby>をこころえているか、どんなことを知っているか、と福の子にたずねました。すると、福の子は、

「なんでも知ってるよ。」

と、こたえました。

「そいつはありがたいな。」

と、番人はいいました。

「じつは、この町の<ruby><rb>井戸</rb><rt>いど</rt></ruby>から、いままでは<ruby><rb>酒</rb><rt>さけ</rt></ruby>がわきでていたんだが、そいつがいまではすっかりかれちまって、水さえもでないしまつなんだ。どうしたわけだか、おしえてもらえないかね。」

「おしえてあげるよ。だが、わたしがかえってくるまで、<ruby><rb>待</rb><rt>ま</rt></ruby>っていたまえよ。」

と、福の子はいいました。

こういって、福の子はずんずん歩いていきました。やがて、またべつの町の門のまえにきました。ここでもまた、<ruby><rb>門番</rb><rt>もんばん</rt></ruby>が、おまえはどんな<ruby><rb>職</rb><rt>しょく</rt></ruby>をこころえているか、どんなことを知っているか、と、たずねました。

「なんでも知ってるよ。」

と、福の子はこたえました。

「そいつはありがたいぞ。じつは、この町に一本の木があるんだが、いままではその木に<ruby><rb>金</rb><rt>きん</rt></ruby>のリンゴがなっていたのに、いまじゃ葉っぱ一<ruby><rb>枚</rb><rt>まい</rt></ruby>でないありさまなんだ。どういうわけだか、ひとつおしえてもらいたいね。」

「おしえてあげるよ。だが、わたしがかえってくるまで<ruby><rb>待</rb><rt>ま</rt></ruby>っていたまえ。」

<ruby><rb>福</rb><rt>ふく</rt></ruby>の子はこういって、またさきへいきました。そのうちに、とある大きな川のところにでましたが、この川はどうしてもわたらなければなりません。ここでも<ruby><rb>渡</rb><rt>わた</rt></ruby>し<ruby><rb>守</rb><rt>もり</rt></ruby>が、おまえはどういう<ruby><rb>職</rb><rt>しょく</rt></ruby>をこころえているか、なにを知っているか、と、福の子にたずねました。

「なんでも知ってるよ。」

と、福の子はこたえました。

「そいつはうれしいな。」

と、<ruby><rb>渡</rb><rt>わた</rt></ruby>し<ruby><rb>守</rb><rt>もり</rt></ruby>がいいました。

「おれは、年がら年じゅういったりきたりして、人をわたしてばかりいるんだが、どうしてかわりがこないのか、そのわけをおしえてもらいたい。」

「おしえてあげるよ。だが、わたしがかえってくるまで<ruby><rb>待</rb><rt>ま</rt></ruby>っていたまえ。」

と、福の子はいいました。

この川をわたりますと、いよいよ<ruby><rb>地獄</rb><rt>じごく</rt></ruby>の入り口が見つかりました。地獄のなかはまっ黒で、すすけていました。<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>はちょうどるすでしたが、鬼のおかあさんが大きな<ruby><rb>安楽</rb><rt>あんらく</rt></ruby>いすにこしかけていました。

「なんの用だい。」

と、<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>のおかあさんは<ruby><rb>福</rb><rt>ふく</rt></ruby>の子にたずねました。けれども、このひとは、そんなに<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">たち</span>がわるいようには見えませんでした。

「ぼくは、鬼の頭の<ruby><rb>金</rb><rt>きん</rt></ruby>の<ruby><rb>髪</rb><rt>かみ</rt></ruby>の<ruby><rb>毛</rb><rt>け</rt></ruby>が三本ほしいんです。でないと、およめさんをぼくのものにしておけないんですもの。」

と、福の子はこたえました。

「そりゃあまた、たいへんなのぞみだね。」

と、<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>のおかあさんがいいました。

「鬼がかえってきて、おまえを見つけようもんなら、おまえは、たちまちやっつけられちまうよ。だが、おまえがかわいそうだから、なんとかおまえをたすけてやるようにするよ。」

鬼のおかあさんはこういって、福の子をアリのすがたにかえてしまいました。そして、

「わたしのスカートのひだのなかにはいこんでいな。そうしていりゃ、だいじょうぶだよ。」

と、いいました。

ええ、と、福の子はこたえていいました。

「それでけっこうなんですが、まだ三つほど知りたいことがあるんです。いままでお<ruby><rb>酒</rb><rt>さけ</rt></ruby>のわきでていた<ruby><rb>井戸</rb><rt>いど</rt></ruby>が、すっかりかれてしまって、水一てきでないというのは、どうしてなんですか。いままで<ruby><rb>金</rb><rt>きん</rt></ruby>のリンゴがなっていたのに、いまでは葉っぱ一<ruby><rb>枚</rb><rt>まい</rt></ruby>でないというのは、どうしてなんですか。それから、<ruby><rb>渡</rb><rt>わた</rt></ruby>し<ruby><rb>守</rb><rt>もり</rt></ruby>が年がら年じゅういったりきたりして、ひとをわたしているのに、かわりの人がさっぱりこないというのは、どうしてなんですか。」

「そいつはむずかしい<ruby><rb>問題</rb><rt>もんだい</rt></ruby>だね。」

と、<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>のおかあさんがいいました。

「だがまあ、うごかずにじっとしておいで。そして、わたしが鬼の頭から<ruby><rb>金</rb><rt>きん</rt></ruby>の<ruby><rb>髪</rb><rt>かみ</rt></ruby>の<ruby><rb>毛</rb><rt>け</rt></ruby>を三本ひきぬくときに、鬼がなんていうか、よく気をつけてきいているんだよ。」

日がくれてから、鬼がかえってきました。鬼はうちのなかへはいるかはいらないうちに、なかの空気がすんでないことに気がつきました。

「くさいぞ、くさいぞ、人間の<ruby><rb>肉</rb><rt>にく</rt></ruby>くさいぞ。なんだかへんだぞ。」

と、<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>がいいました。

それから、鬼はへやのすみからすみまでのぞいてさがしまわりましたが、なんにも見つかりませんでした。それを見て、鬼のおかあさんが鬼をしかりつけて、いいました。

「たったいま、そうじしたばっかりだよ。せっかくひとが、すっかりかたづけておいたのに、またおまえがごちゃごちゃにしてしまう。おまえの<ruby><rb>鼻</rb><rt>はな</rt></ruby>にゃ、しょっちゅう人間の肉のにおいがくっついているんだよ。さあ、すわって<ruby><rb>夕</rb><rt>ゆう</rt></ruby>はんでも食べな。」

<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>はごはんを食べたりお<ruby><rb>酒</rb><rt>さけ</rt></ruby>をのんだりしてしまいますと、つかれがでてきて、頭をおかあさんのひざの上にのせました。そして、シラミをすこしとってくれ、といいました。



しばらくすると、<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>はうとうとしてきて、やがて、ぐうぐういびきをかきはじめました。そのようすを見て、鬼のおかあさんは<ruby><rb>金</rb><rt>きん</rt></ruby>の<ruby><rb>髪</rb><rt>かみ</rt></ruby>の<ruby><rb>毛</rb><rt>け</rt></ruby>を一本つかんで、ぐいとひきぬいて、じぶんのそばにおきました。

「おう、いてえ。なにをするんだい。」

と、<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>がさけびました。

「いまね、いやな<ruby><rb>夢</rb><rt>ゆめ</rt></ruby>を見たんだよ。」

と、鬼のおかあさんがこたえました。

「それで、思わずおまえの<ruby><rb>髪</rb><rt>かみ</rt></ruby>の<ruby><rb>毛</rb><rt>け</rt></ruby>をつかんだのさ。」

「いったい、どんな夢を見たんだい。」

と、鬼がたずねました。

「ある町の<ruby><rb>市場</rb><rt>いちば</rt></ruby>の<ruby><rb>井戸</rb><rt>いど</rt></ruby>の夢だったよ。いままでは<ruby><rb>酒</rb><rt>さけ</rt></ruby>がわきでていたのに、それがかれちまって、水さえもでなくなっちまったんだよ。どうしたわけなんだろうね。」

「へへん、あいつらにわかってたまるもんか。」

と、<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>はこたえました。

「その井戸のなかの石の下に、ヒキガエルが一ぴきいるのさ。そいつを<ruby><rb>殺</rb><rt>ころ</rt></ruby>しさえすりゃあ、また酒がわいてくるんだ。」

鬼のおかあさんは、また鬼の頭のシラミをとりはじめました。そのうちに、鬼はまたもやねむりこんで、<ruby><rb>窓</rb><rt>まど</rt></ruby>もふるえるような、ものすごい<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">いびき</span>をかきはじめました。そこで、<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>のおかあさんは、鬼の頭から二本めの<ruby><rb>髪</rb><rt>かみ</rt></ruby>の<ruby><rb>毛</rb><rt>け</rt></ruby>をひきぬきました。

「うわあ。なにをするんだい。」

鬼はかんかんにおこって、どなりました。

「わるく思わないでおくれ。<ruby><rb>夢</rb><rt>ゆめ</rt></ruby>を見てやったことなんだから。」

と、鬼のおかあさんはこたえました。

「こんどは、どんな夢を見たんだ。」

と、鬼がたずねました。

「ある王さまの国にはえている、くだものの木の<ruby><rb>夢</rb><rt>ゆめ</rt></ruby>なんだがね、その木にはいままでずうっと<ruby><rb>金</rb><rt>きん</rt></ruby>のリンゴがなっていたのさ。それが、いまじゃ葉っぱ一<ruby><rb>枚</rb><rt>まい</rt></ruby>でやしないんだよ。どうしたわけなんだろうね。」

「へへん、あいつらにわかってたまるもんかい。」

と、鬼はこたえていいました。

「その木の<ruby><rb>根</rb><rt>ね</rt></ruby>っこをネズミがかじっているからさ。そのネズミを<ruby><rb>殺</rb><rt>ころ</rt></ruby>しちまや、また金のリンゴがなるようになる。だけど、このままネズミがかじっているようだと、いまにその木はすっかりかれちまわあ。ところでおっかさん、もう<ruby><rb>夢</rb><rt>ゆめ</rt></ruby>を見るのはやめにして、おれをねかしてくれよ。こんど、おれのねているじゃまをしたら、横っつらをぶんなぐるぜ。」

<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>のおかあさんはうまく鬼をなだめて、またシラミをとりはじめました。そのうちに、鬼はまたもやねむりこんで、ぐうぐうものすごいいびきをかきはじめました。

そこで、鬼のおかあさんは、鬼の頭から三本めの<ruby><rb>金</rb><rt>きん</rt></ruby>の<ruby><rb>髪</rb><rt>かみ</rt></ruby>の<ruby><rb>毛</rb><rt>け</rt></ruby>をつかんで、ひきぬきました。

鬼はびっくりしてとびあがり、わめきながら、おかあさんにらんぼうしようとしました。けれども、おかあさんはもういちど鬼をなだめて、いいました。

「こんないやな<ruby><rb>夢</rb><rt>ゆめ</rt></ruby>を見たんだもの、しかたがないじゃないか。」

「いったい、どんな夢を見たんだい。」

と、<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>はたずねました。やっぱり、鬼もききたかったのです。

「<ruby><rb>渡</rb><rt>わた</rt></ruby>し<ruby><rb>守</rb><rt>もり</rt></ruby>の夢なんだがね、その渡し守は、かわりがこないものだから、年がら年じゅういったりきたりして、ひとをわたさなければならないって、ぶつぶつもんくをいってるのさ。どういうわけなんだろうねえ。」

「へーん、ばかな<ruby><rb>野郎</rb><rt>やろう</rt></ruby>だなあ。」

と、<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>はいいました。

「だれかがやってきて、むこうへわたしてくれといったら、そいつの手に<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">さお</span>をにぎらせちまやいいんだ。そうすりゃ、こんどはそいつがひとをわたさなけりゃならなくなって、じぶんは<ruby><rb>自由</rb><rt>じゆう</rt></ruby>になれるんだ。」

こうして、鬼のおかあさんは<ruby><rb>金</rb><rt>きん</rt></ruby>の<ruby><rb>髪</rb><rt>かみ</rt></ruby>の<ruby><rb>毛</rb><rt>け</rt></ruby>も三本ぬいてしまいましたし、それに三つの<ruby><rb>問題</rb><rt>もんだい</rt></ruby>のこたえも話させてしまいましたので、こんどは、このばけものをそのままそっとねかせておいてやりました。それで、<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>は<ruby><rb>夜</rb><rt>よ</rt></ruby>のあけるまで、ぐっすりねこみました。

鬼がふたたびでかけてしまいますと、鬼のおかあさんはスカートのひだからアリをとりだして、この<ruby><rb>福</rb><rt>ふく</rt></ruby>の子をもとの人間のすがたにもどしてやりました。

「そら、この三本の<ruby><rb>金</rb><rt>きん</rt></ruby>の<ruby><rb>髪</rb><rt>かみ</rt></ruby>の<ruby><rb>毛</rb><rt>け</rt></ruby>をやるよ。」

と、鬼のおかあさんがいいました。

「それから、おまえの三つの<ruby><rb>問題</rb><rt>もんだい</rt></ruby>にたいして、鬼がなんていったか、よくきいていたろうね。」

「ええ、きいてましたよ。よくおぼえておきます。」

と、福の子はこたえました。

「これで、おまえをたすけてやったわけだから、ぼつぼつでかけたらどうだい。」

と、鬼のおかあさんがいいました。

福の子は鬼のおかあさんに、こまっているところをたすけてもらったお<ruby><rb>礼</rb><rt>れい</rt></ruby>をくりかえしいって、<ruby><rb>地獄</rb><rt>じごく</rt></ruby>をたちさりました。そして、なにもかもが、じつにうまくいきましたので、福の子は大よろこびでした。

<ruby><rb>渡</rb><rt>わた</rt></ruby>し<ruby><rb>守</rb><rt>もり</rt></ruby>のところまできますと、渡し守は<ruby><rb>約束</rb><rt>やくそく</rt></ruby>のへんじをきかしてくれ、といいました。

「まずわたしを、むこうへわたしてくれ。」

と、福の子はいいました。

「そうすれば、どうしたらおまえが<ruby><rb>自由</rb><rt>じゆう</rt></ruby>になれるかをおしえてやるよ。」

むこう岸へつきますと、<ruby><rb>福</rb><rt>ふく</rt></ruby>の子は<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>のいったことをそのままおしえてやりました。

「こんどだれかがやってきて、むこうへわたしてくれといったら、その男の手にさおをにぎらせてしまや、それでいいんだよ。」

福の子はずんずん歩いていきました。やがて、<ruby><rb>実</rb><rt>み</rt></ruby>のならなくなった木のはえている町へきますと、ここでも<ruby><rb>番人</rb><rt>ばんにん</rt></ruby>が、福の子のへんじを<ruby><rb>待</rb><rt>ま</rt></ruby>っていました。そこで福の子は、<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>からきいたとおりのことを話してやりました。

「その木の<ruby><rb>根</rb><rt>ね</rt></ruby>っこをかじっているネズミを<ruby><rb>殺</rb><rt>ころ</rt></ruby>しなさい。そうすれば、また<ruby><rb>金</rb><rt>きん</rt></ruby>のリンゴがなるよ。」

これをききますと、番人は福の子にありがとうございます、といって、お<ruby><rb>礼</rb><rt>れい</rt></ruby>のしるしに、<ruby><rb>金貨</rb><rt>きんか</rt></ruby>を山とつんだ二ひきのロバをくれました。ロバは福の子のあとからついてきました。

いちばんおしまいに、<ruby><rb>井戸</rb><rt>いど</rt></ruby>のかれてしまった町にきました。ここでも福の子は、<ruby><rb>番人</rb><rt>ばんにん</rt></ruby>に、

「この井戸の中の石の下に、ヒキガエルが一ぴきいるんだよ。そいつをさがしだして、<ruby><rb>殺</rb><rt>ころ</rt></ruby>しなさい。そうすれば、またまえのようにお<ruby><rb>酒</rb><rt>さけ</rt></ruby>がいくらでもわきでてくるよ。」

と、鬼がいったとおりに話してきかせました。

番人はお<ruby><rb>礼</rb><rt>れい</rt></ruby>をいって、こんどもまた、<ruby><rb>金貨</rb><rt>きんか</rt></ruby>をつんだ二ひきのロバをくれました。

こうして、<ruby><rb>福</rb><rt>ふく</rt></ruby>の子はようやく、およめさんの<ruby><rb>待</rb><rt>ま</rt></ruby>っている家にかえりつきました。およめさんは、福の子にもういちどあえたばかりか、なにもかもがうまくいったことをきいて、心からよろこびました。

<ruby><rb>福</rb><rt>ふく</rt></ruby>の子は、王さまのおのぞみの、<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>の<ruby><rb>金</rb><rt>きん</rt></ruby>の<ruby><rb>髪</rb><rt>かみ</rt></ruby>の<ruby><rb>毛</rb><rt>け</rt></ruby>を三本もって、王さまのまえにでました。王さまは<ruby><rb>金貨</rb><rt>きんか</rt></ruby>を<ruby><rb>背中</rb><rt>せなか</rt></ruby>につんだ四ひきのロバを見て、すっかり<ruby><rb>満足</rb><rt>まんぞく</rt></ruby>して、いいました。

「さて、これで<ruby><rb>条件</rb><rt>じょうけん</rt></ruby>はすっかりととのったわけだ。わしのむすめは、おまえの<ruby><rb>妻</rb><rt>つま</rt></ruby>にしてよろしい。だがな、むこどの、このたくさんの金貨はどこで手にいれたのかね。じつにすばらしい<ruby><rb>宝</rb><rt>たから</rt></ruby>ものだが。」

「わたしはある川をわたりました。この金貨は、そこからとってまいりましたのです。その川の岸には、<ruby><rb>砂</rb><rt>すな</rt></ruby>のかわりに、こういうものがいっぱいございます。」

と、<ruby><rb>福</rb><rt>ふく</rt></ruby>の子はこたえました。

「わしにもとってこられるかな。」

王さまはほしくてたまらなくなって、こうたずねました。

「いくらでも、おのぞみなだけ。」

と、福の子はこたえました。

「その川には<ruby><rb>渡</rb><rt>わた</rt></ruby>し<ruby><rb>守</rb><rt>もり</rt></ruby>がおりますから、そのものに川をわたしておもらいなさいませ。川むこうへまいりますと、いくつふくろがありましても、すぐいっぱいになってしまいます。」

<ruby><rb>欲</rb><rt>よく</rt></ruby>のふかい王さまは、おおいそぎででかけました。

あの川のところまできますと、王さまは渡し守を手でまねきよせて、むこう岸へわたしてくれ、といいました。<ruby><rb>渡</rb><rt>わた</rt></ruby>し<ruby><rb>守</rb><rt>もり</rt></ruby>がやってきて、王さまにおのりなさい、といいました。ふたりがむこう岸へついたとたん、渡し守は王さまの手にさおをにぎらせるがはやいか、じぶんは<ruby><rb>陸</rb><rt>りく</rt></ruby>にとびあがって、にげていってしまいました。

王さまは、じぶんのおかした<ruby><rb>罪</rb><rt>つみ</rt></ruby>の<ruby><rb>罰</rb><rt>ばつ</rt></ruby>として、それからはずうっと<ruby><rb>渡</rb><rt>わた</rt></ruby>し<ruby><rb>守</rb><rt>もり</rt></ruby>をしなければなりませんでした。

（１）子どもが生まれたとき、<ruby><rb>大網膜</rb><rt>だいもうまく</rt></ruby>の<ruby><rb>一部</rb><rt>いちぶ</rt></ruby>がやぶれないで、そのまま子どもの頭にのこっていることがあります。むかしは、これを<ruby><rb>幸運</rb><rt>こううん</rt></ruby>のしるしだと考えて、〈<ruby><rb>福</rb><rt>ふく</rt></ruby>の<ruby><rb>皮</rb><rt>かわ</rt></ruby>〉とよんだわけです。