Soranoha

歌をうたう骨

うたをうたうほね

グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール、グリム ヴィルヘルム・カール

むかし、ある国で、イノシシがお百姓ひゃくしょうさんの畑をあらしたり、家畜かちくを殺ころしたり、人間をきばで八つざきにしたりするので、たいへんこまったことがありました。

王さまは、だれでもこのわざわいから国をすくってくれるものには、たくさんのほうびをつかわす、と約束やくそくしました。ところが、そのけものはものすごく大きくて、力が強いので、だれひとりそのけもののすんでいる森に近づこうとするものはありませんでした。

とうとうしまいに、王さまは、このイノシシをつかまえるか、殺すかしたものには、じぶんのひとりむすめを妻つまにやろう、というおふれをだしました。

さて、この国にふたりの兄弟きょうだいが住んでおりました。あるまずしい男のむすこたちでしたが、このふたりが名のってでて、このたいへんな冒険ぼうけんをやってみよう、ともうしでました。にいさんのほうは、ずるがしこい男で、思いあがった気持ちからこの冒険をやろうとしたのです。しかし、弟のほうはむじゃきな、おめでたい男なので、すなおな気持ちからやろうとしたのでした。

王さまは、ふたりにいいました。

「おまえたちは、それぞれ反対はんたいのがわから森にはいっていくがよい。そのほうが、いっそうたしかにけものを見つけることができよう。」

そこで、にいさんは西のほうから、弟は東のほうから森のなかへはいっていきました。弟がしばらく歩いていきますと、むこうからひとりの小人こびとがやってきました。小人は手に一本の黒い槍やりをもっていましたが、弟にむかって、

「おまえは、罪つみのない、いい人間だから、この槍をあげよう。この槍をもって、安心あんしんしてイノシシにむかっていきなさい。イノシシはおまえにわるいことをなんにもしやしないよ。」

と、いいました。

弟は小人こびとにお礼れいをいいました。そして、その槍やりを肩かたにかついで、なにものもおそれずに、ずんずん森のおくへはいっていきました。まもなく、弟はそのけものを見つけました。イノシシは弟めがけて、まっしぐらにとびかかってきました。弟はイノシシにむかって槍やりをつきだしました。と、イノシシはやみくもにそれにつっかかり、ぐさりとつきささって、心臓しんぞうがまっぷたつになってしまいました。

そこで、弟はこの怪物かいぶつを肩かたにかついで、こいつを王さまのところへもっていこうと思いながら、かえり道につきました。

弟が森の反対はんたいがわからでてきますと、森のはいり口のところに一軒けんのうちがあって、そこでおおぜいの人たちが、おどったり、お酒さけをのんだりして、大さわぎをしていました。

ところで、にいさんのほうは、イノシシはにげっこないんだから、まず酒でものんで元気をつけてやれ、と考えて、このうちにはいりこんでいたのでした。

ところがそのとき、弟がえものをかついで森からでてきたのです。それを見ますと、にいさんは弟がねたましくなって、胸むねのうちによくない気持ちがむらむらとわきおこってきました。そこで、にいさんは弟によびかけました。

「おい、まあ、はいれよ。ひとやすみして、いっぱいのんで、元気をつけていけよ。」

弟は、わるだくみがあろうとは、夢ゆめにも知りません。それで、うちのなかにはいっていって、しんせつな小人こびとが槍やりをくれて、その槍でイノシシを退治たいじしたことを、すっかりにいさんに話しました。

にいさんは、日がくれるまで弟をひきとめておいて、それから、ふたりでいっしょにでかけました。

ところが、ふたりがくらやみのなかを、とある小川にかかっている橋はしのところまできたときです。にいさんは弟をさきにいかせて、弟がちょうど川のまんなかにさしかかったところを見はからって、ガンとひとつ、うしろから弟をなぐりつけました。弟は川のなかへおっこちて、死しんでしまいました。

にいさんは弟の死がいを橋の下にうめました。それから、イノシシをかついで、じぶんが殺ころしてきたような顔をして、すまして王さまのところにもってでました。そしてそのほうびとして、にいさんはお姫ひめさまを妻つまにもらいました。

弟は、いつまでたってもかえってきませんでしたが、にいさんは、

「弟は、イノシシのために八つざきにされたのでしょう。」

と、もうしました。それをきいて、だれもかれもがそうとばかり思いこみました。

けれども、神かみさまのまえには、どんなことでもかくしておくことはできないものです。ですから、このひどいおこないも、いつかは明るみにでないはずはありません。

それから、何年もたってからのことでした。あるとき、ひとりのヒツジ飼かいがヒツジのむれを追おって、この橋はしの上をとおりかかりました。ヒツジ飼いは、橋の下の砂すなのなかに、雪のように白い骨ほねがひとつあるのを見つけて、これはいい笛ふえの口になるぞ、と思いました。そこで、ヒツジ飼いはおりていって、その骨をひろいました。そうして、その骨をけずって、じぶんの角笛つのぶえの口にしました。

ところが、その笛をヒツジ飼かいがはじめてふいてみますと、どうでしょう。おどろいたことに、小さな骨がひとりでに歌をうたいだしたではありませんか。

ああ もし ヒツジ飼かいさん

あなたがふくのはわたしの骨ほね

わたしはあにきに殺ころされて

橋はしの下にうめられた

あにきは わたしのイノシシと

お姫ひめさまがほしかった

「ひとりでに歌をうたうなんて、まったくもって、ふしぎな笛ふえだなあ。」

と、ヒツジ飼かいはいいました。

「こいつは、王さまにお目にかけなくっちゃ。」

ヒツジ飼いがそれをもって、王さまのまえにでますと、角笛つのぶえはまたまた歌をうたいはじめました。王さまには、その歌の意味がよくわかりました。そこで、さっそく、橋はしの下の地面じめんをほりかえさせてみますと、殺された弟のがい骨こつがのこらずでてきました。

こうなっては、わるもののにいさんも、じぶんのやったことをみとめないわけにはいきません。にいさんは、ふくろのなかにぬいこまれて、生きたまま水のなかにしずめられてしまいました。

いっぽう、殺された弟の骨ほねは墓地ぼちへはこばれて、りっぱなお墓はかのなかにうめられました。

底本 / Source edition

底本:「グリム童話集(1)」偕成社文庫、偕成社
1980(昭和55)年6月1刷
2009(平成21)年6月49刷
※表題は底本では、「歌をうたう骨《ほね》」となっています。
入力:sogo
校正:チエコ
2022年1月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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書誌 / Bibliography
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グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール、グリム ヴィルヘルム・カール「歌をうたう骨」(新字新仮名)、底本『グリム童話集(1)』偕成社文庫、偕成社、1980年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 059836_001091, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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