Soranoha

赤ずきん

あかずきん

グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール、グリム ヴィルヘルム・カール

むかしむかし、あるところにちっちゃな、かわいい女の子がおりました。その子は、ちょっと見ただけで、どんな人でもかわいくなってしまうような子でしたが、だれよりもいちばんかわいがっていたのは、この子のおばあさんでした。おばあさんは、この子の顔を見ると、なんでもやりたくなってしまって、いったいなにをやったらいいのか、わからなくなってしまうほどでした。

あるとき、おばあさんはこの子に、赤いビロードでかわいいずきんをこしらえてやりました。すると、それがまたこの子にとってもよくにあいましたので、それからは、もうほかのものはちっともかぶらなくなってしまいました。それで、この子は、みんなに「赤ずきんちゃん」「赤ずきんちゃん」とよばれるようになりました。

ある日、おかあさんが赤ずきんちゃんをよんで、いいました。

「赤ずきんちゃん、ちょっとおいで。ここにおかしがひとつと、ブドウ酒しゅがひとびんあるでしょう。これをね、おばあさんのところへもっていってちょうだい。おばあさんは病気びょうきで、よわっていらっしゃるけれど、こういうものをあがると、きっと元気になるのよ。じゃ、暑あつくならないうちに、いってらっしゃい。それからね、そとへでたら、おぎょうぎよく歩いていくのよ。横道よこみちへかけだしていったりするんじゃありませんよ。そんなことをすれば、ころんで、びんをこわしてしまって、おばあさんにあげるものが、なんにもなくなってしまうからね。それから、おばあさんのおへやにはいったら、いちばんさきに、おはようございますって、あいさつするのをわすれちゃだめよ。そうして、はいるといっしょに、そこらじゅうをきょろきょろ見まわしたりするんじゃありませんよ。」

「だいじょうぶよ。」

と、赤ずきんちゃんはおかあさんにいって、約束やくそくのしるしに指きりをしました。

ところで、おばあさんのうちは、歩いて、村から半時間もかかる森のなかにありました。赤ずきんちゃんが森のなかへはいりますと、オオカミがひょっこりでてきました。でも、赤ずきんちゃんは、オオカミがわるいけだものだということをちっとも知りませんでした。ですから、べつにこわいとも思いませんでした。

「こんにちは、赤ずきんちゃん。」

と、オオカミがいいました。

「こんにちは、オオカミさん。」

「こんなにはやくから、どこへいくの。」

「おばあさんのとこよ。」

「まえかけの下にもっているのは、なあに。」

「おかしとブドウ酒しゅ。きのう、おうちで焼やいたのよ。おばあさんが病気びょうきで、よわっているでしょう。これをあがると、からだに力がつくからよ。」

「おばあさんのおうちはどこなの、赤ずきんちゃん。」

「もっともっと森のおくで、まだ十五分ぐらいかかるわ。大きなカシの木が三本立っているその下に、おばあさんのおうちがあるのよ。まわりには、クルミの生いけ垣がきがあるわ。あなた、知っているでしょう。」

と、赤ずきんちゃんはいいました。

オオカミは腹はらのなかで考えました。

(わかいやわらかそうな小むすめめ、こいつはあぶらがのってて、うまそうだ。ばあさんよりゃうまかろう。よし、なんとかくふうをして、両方ともごちそうになってやれ。)

そこで、オオカミは、しばらくのあいだ赤ずきんちゃんとならんで歩いていきましたが、やがて、

「赤ずきんちゃん。まあ、そこらじゅうにさいているきれいな花を見てごらんよ。きみは、なんだって、まわりをながめてみないんだい。ほら、小鳥ことりがあんなにかわいい声で歌をうたっているんだぜ。だけど、それもきみの耳にはまるではいらないみたいじゃないか。きみは、学校へでもいくように、まっすぐまえばかりむいて歩いているね。森のなかは、こんなにたのしいってのになあ。」

と、いいました。

いわれて、赤ずきんちゃんは目をあげてみました。すると、お日さまの光が木と木のあいだからもれてきて、あっちでもこっちでもダンスをしています。それから、あたりいちめんきれいなお花がいっぱいです。それを見て、赤ずきんちゃんは、

(おばあさんに、つんだばかりの花で花たばをこしらえて、もってってあげたら、きっとおよろこびになるわ。まだこんなにはやいんだから、だいじょうぶ、時間までにはいかれるわ。)

と、思いました。

そして、横道よこみちにそれて、いろんな花をさがしながら、森のおくへはいっていきました。そうして、花をひとつおるたびに、もっとさきへいったら、もっときれいな花があるような気がするのでした。

こうして、花から花をさがして歩いているうちに、だんだん森のおくへおくへとはいりこみました。

ところが、オオカミのほうは、そのあいだに、まっすぐおばあさんの家へかけていって、トントンと戸をたたきました。

「どなたですかね。」

「赤ずきんよ。おかしとブドウ酒しゅをもってきたの。あけてちょうだい。」

「取とっ手てをおしておくれ。」

と、おばあさんが大きな声でいいました。

「おばあちゃんはね、からだがよわっていて、おきられないんだよ。」

オオカミが取っ手をおしますと、戸がいきおいよくあきました。オオカミはなんにもいわずに、いきなりおばあさんの寝床ねどこのところへいって、おばあさんをひと口にのみこんでしまいました。

それから、おばあさんの着物きものをきて、おばあさんのずきんをかぶって、おばあさんの寝床ねどこに横になって、寝床のまわりにあるカーテンをひいておきました。

いっぽう、赤ずきんちゃんは、あいかわらず花をさがして、かけまわっていました。そして、あつめるだけあつめて、これいじょうもう一本ももてなくなったとき、やっとおばあさんのことを思いだしました。そこで、いそいでおばあさんのところへいくことにしました。

赤ずきんちゃんが家のまえまできてみますと、おばあさんの家の戸があいています。それで、赤ずきんちゃんはへんだと思いながら、おへやにはいりました。すると、なんとなく、なかのようすがいつもとちがっているような気がします。赤ずきんちゃんは、

(あら、どうしたんでしょう。きょうは、なんだかきみがわるいわ。いつもなら、おばあさんのおうちへくれば、とってもたのしいのに。)

と、思いました。

それから、大きな声で、

「おはようございます。」

と、よんでみましたが、なんのへんじもありません。

そこで、寝床ねどこのところへいって、カーテンをあけてみました。すると、そこにはおばあさんが横になっていましたが、ずきんをすっぽりと顔までかぶっていて、いつもとちがった、へんなかっこうをしています。

「ああら、おばあさん、おばあさんのお耳は大きいのねえ。」

「おまえのいうことが、よくきこえるようにさ。」

「ああら、おばあさん、おばあさんのお目めは大きいのねえ。」

「おまえがよく見えるようにさ。」

「ああら、おばあさん、おばあさんのお手ては大きいのねえ。」

「おまえがよくつかめるようにさ。」

「でも、おばあさん、おばあさんのお口はこわいほど大きいのねえ。」

「おまえがよく食べられるようにさ。」

オオカミはこういいおわるかおわらないうちに、いきなり寝床ねどこからとびだして、かわいそうな赤ずきんちゃんを、ぱっくりとひとのみにしてしまいました。

オオカミは、おなかがいっぱいになりますと、また寝床にもぐりこんで、ねむってしまいました。そうして、ものすごいいびきをかきだしました。ちょうどそのとき、狩人かりゅうどが家のまえをとおりかかりました。そして、

(ばあさんが、おっそろしいいびきをかいてるが、どうしたのかな。見てやらにゃなるまい。)

と、思いました。

そこで、狩人かりゅうどは、へやのなかへはいりました。そして、寝床ねどこのまえまでいってみますと、そこにはオオカミがねているではありませんか。

「この野郎やろう、とうとう見つけたぞ。よくも長いあいださわがせやがったな。」

と、狩人かりゅうどはいいました。

そして、すぐさま鉄砲てっぽうをむけようとしましたが、そのときふと狩人は、オオカミがばあさんをのんでいるかもしれない、そして、もしかしたら、ばあさんの命いのちはまだたすかるかもしれないぞ、と、思いつきました。それで鉄砲をうつのはやめにして、そのかわり、はさみをだして、ねむっているオオカミのおなかを、ジョキジョキ切りはじめました。

ふたはさみばかり切りますと、赤いかわいいずきんが、ちらと見えてきました。もうふたはさみばかり切りますと、女の子がピョンととびだしてきました。そして、

「ああ、びっくりしたわ。オオカミのおなかのなかって、まっくらねえ。」

と、大きな声でいいました。

それから、おばあさんもまだ生きていて、オオカミのおなかのなかからでてきました。でも、おばあさんはよわりきって、やっと息いきをしていました。

赤ずきんちゃんは、すばやく大きな石をたくさんもってきて、それをオオカミのおなかのなかにつめこみました。

やがて、オオカミは目をさまして、とびだそうとしましたが、石があんまりおもたいので、たちまちその場ばにへたばって、死しんでしまいました。

これを見て、三人は大よろこびです。狩人かりゅうどは、オオカミの毛皮けがわをはいで、それをうちへもってかえりました。

おばあさんは、赤ずきんちゃんのもってきてくれたおかしを食べ、ブドウ酒しゅをのみました。それで、またすっかり元気になりました。

でも、赤ずきんちゃんは、

(これからもう二度と、ひとりっきりで、森のなかの横道よこみちにはいっていくようなことはよそうっと。おかあさんがいけないとおっしゃったんですもの。)

と、考えました。

底本 / Source edition

底本:「グリム童話集(1)」偕成社文庫、偕成社
1980(昭和55)年6月1刷
2009(平成21)年6月49刷
入力:sogo
校正:チエコ
2020年12月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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書誌 / Bibliography
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グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール、グリム ヴィルヘルム・カール「赤ずきん」(新字新仮名)、底本『グリム童話集(1)』偕成社文庫、偕成社、1980年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 059835_001091, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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