Soranoha

ハワイの色

ハワイのいろ

中谷 宇吉郎

ハワイは美しいところである。一番驚くのは、パイナップル畑の土の色であって、本当に真赤な色をしている。日本でいう赤土などとは、まるでちがっていて、文字どおりに真赤である。あの土を採ってきたら、そのまま油画の赤絵具に使えそうな色なのである。

こういう赤土はシンガポールでも前に見たことがある。その時も、熱帯の土地に特有な植物の鮮やかな緑と、目に痛いような真赤な土との激しい対照に、特殊な美しさを感じた記憶がある。

パイナップルの葉は、鮮やかな緑というよりも、白緑びゃくろくがかった浅い緑である。それで赤土との対照も、それほど激しくは感ぜられない。しかしとにかく、日本には無い色の世界を現出している。

パイナップル畑よりももっと驚くのは、家々の庭や、垣根などに咲いている花の色である。もちろんいろいろな色があるが、とくに真紅の花が、目のさめるような色をしている。それはただ赤いというばかりでなく、輝いた色なのである。濃い緑の葉蔭から、この真紅の花がのぞいていると、それが光り輝いて見えるのである。

ハワイといえば、常夏の国ということになっている。事実、ほとんど一年中海水浴ができるところであるから、文字どおりに、常夏の国である。しかし真夏でも、いわゆる熱帯地方の暑さではない。享楽しうる程度の暑さである。この程度の気温と、日射とが、花の色を出すのに、一番適しているのかもしれない。

ハワイの気象状態については、いま一つ著しい特徴がある。それは空気がひどく澄んでいる点である。このころ雨や雪がどうしてできるかということが、気象学界の大きい問題になっている。それには大気中にあるコロイド的の微粒子、即ち凝結核が、大きい役割を果している。それで、この凝結核の研究が、この方面では、現在流行の課題になっている。

ところが、大陸では、どこでも人間生活の影響、即ち工業や燃焼物の影響が効いていて、大気は著しく汚染されている。その点、ハワイは、太平洋の真ん中にある小島なので、清浄な大気の研究には、もってこいのところなのである。大気の汚染は広い範囲にわたるもので、アフリカの埃が米本土に飛ぶことがしばしばある。

それで、この数年来、ハワイの上空で、大気中の凝結核の研究が為されている。その結果によると、凝結核の数は著しく少なく、世界中で、最も「空気のきれいな」ところであることが確かめられた。

空気のきれいなことと、花の美しいこととの間にどういう関係があるかは、まだよくわかっていないであろう。しかし何か密接な関係があっても良さそうな気がする。

底本 / Source edition

底本:「中谷宇吉郎随筆選集第三巻」朝日新聞社
1966(昭和41)年10月20日第1刷発行
1966(昭和41)年10月30日第2刷発行
底本の親本:「百日物語」文藝春秋新社
1956(昭和31)年5月20日発行
初出:「西日本新聞」
1955(昭和30)年9月
入力:砂場清隆
校正:木下聡
2021年7月27日作成
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書誌 / Bibliography
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中谷 宇吉郎「ハワイの色」(新字新仮名)、底本『中谷宇吉郎随筆選集第三巻』朝日新聞社、1966年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 059808_001569, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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