ある大きな森のはずれに、ひとりの<ruby><rb>貧乏</rb><rt>びんぼう</rt></ruby>な木こりが、おかみさんと、ふたりの子どもといっしょに住んでいました。ふたりの子どもは、男の子がヘンゼル、女の子はグレーテルといいました。この木こりは、ふだんでもろくに食べるものがありませんでしたが、ある年、国じゅうに<ruby><rb>大</rb><rt>だい</rt></ruby><span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">ききん</span>がおこったため、こんどは、まい日のパンさえ食べることができなくなりました。木こりは、<ruby><rb>晩</rb><rt>ばん</rt></ruby>に<ruby><rb>寝床</rb><rt>ねどこ</rt></ruby>へはいってからも、あれやこれやと考えると、<ruby><rb>心配</rb><rt>しんぱい</rt></ruby>で心配でねむることもできず、ねがえりばかりうっていました。そしてそのあげくに、ため<ruby><rb>息</rb><rt>いき</rt></ruby>をつきつき、おかみさんにいいました。

「これからさき、おれたちはどうなるんだ。かわいそうな、あの子らを、どうやってくわせていったもんだろう。おれたちだけでも、くうものがないんだからなあ。」

「じゃ、おまえさん、こうしたらどう。」

と、おかみさんがこたえました。

「あしたの朝、うんとはやく、子どもたちを森のなかへつれだして、いちばん木のたてこんでいるとこまでつれていくんだよ。そしたら、そこで、たき火をおこして、ふたりにパンをひときれずつやっておいてさ、わたしたちゃしごとにでかけて、ふたりはそのままおいてきぼりにしちまうんだよ。そうすりゃ、かえり道なんかわかりっこないんだから、それでやっかいばらいというわけさ。」

「そいつあ、いけねえよ、おめえ。」

と、木こりはいいました。

「そんなこたあ、おれにゃあできねえ。子どもらを森のなかにすててくるなんて、とてもそんな気にゃあなれねえ。そんなことをしようもんなら、すぐに森のけだものがとびだしてきて、あのふたりをずたずたにひきさいちまわあな。」

「おまえさんは、なんてばかなんだい。」

と、おかみさんはいいました。

「そんなことをいってりゃ、わたしたちゃ四人とも、ひぼしになって、<ruby><rb>死</rb><rt>し</rt></ruby>んじまうじゃないか。まあ、<ruby><rb>棺</rb><rt>かん</rt></ruby>おけの板でもけずっとくがいいさ。」

おかみさんはこういって、それからも、なんのかんのとうるさくいいたてますので、とうとう、木こりも<ruby><rb>承知</rb><rt>しょうち</rt></ruby>してしまいました。

「だが、やっぱり子どもらがかわいそうだなあ。」

と、木こりはいいました。

ふたりの子どもたちは、おなかがすいてねむれませんので、いま、<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">まま</span>母がおとうさんに話していたことを、のこらずきいてしまいました。グレーテルはしくしく<ruby><rb>泣</rb><rt>な</rt></ruby>きだして、

「あたしたち、もうだめね。」

と、ヘンゼルにむかっていいました。

「しっ、だまって、グレーテル。」

と、ヘンゼルはいいました。

「だいじょうぶだよ。ぼくがきっとうまくやってみせるから。」

やがて、おとうさんとおかあさんがねてしまいますと、ヘンゼルはそっとおきあがり、じぶんの<ruby><rb>上着</rb><rt>うわぎ</rt></ruby>をきました。それから、くぐり戸をあけて、こっそりとおもてにでていきました。ちょうど、お月さまが明るくてっていて、うちのまえにしいてある白い小石が、まるで<ruby><rb>銀貨</rb><rt>ぎんか</rt></ruby>のように、きらきらひかっていました。ヘンゼルはそこにかがみこんで、その小石を<ruby><rb>上着</rb><rt>うわぎ</rt></ruby>のポケットにいっぱいつめられるだけつめこみました。それから、うちにもどって、グレーテルに、

「もうだいじょうぶだよ。ゆっくりおやすみ。ぼくたちには、<ruby><rb>神</rb><rt>かみ</rt></ruby>さまがついていてくださるよ。」

と、いいました。そして、じぶんも、また<ruby><rb>寝床</rb><rt>ねどこ</rt></ruby>のなかにはいりました。

<ruby><rb>夜</rb><rt>よ</rt></ruby>があけると、まだお日さまがのぼらないうちに、もうおかみさんがやってきて、ふたりの子どもをたたきおこしました。

「さあ、おきるんだよ。なんてなまけものなんだい、おまえたちは。みんなで森へいって、たきぎをひろうんだよ。」

こういって、おかみさんはふたりにパンをひときれずつやりながら、

「これはお昼のおべんとうだよ。だから、お昼にならないうちに、食べるんじゃないよ。あとは、もうなんにもないんだからね。」

と、いいきかせました。

パンは、ふたつともグレーテルがまえかけの下にしまいました。だって、ヘンゼルはポケットにいっぱい小石をつめこんでいましたからね。それから、みんなで森にでかけました。すこしいくと、ヘンゼルは立ちどまって、うちのほうをふりかえってみました。それからも、なんべんもなんべんも立ちどまっては、ふりかえってみました。それを見て、おとうさんがいいました。

「ヘンゼル、なにをそんなに立ちどまって、ながめているんだ。ぼんやりしないで、足もとに気をつけろよ。」

「ああ、おとうさん。」

と、ヘンゼルはいいました。

「ぼくの白ネコを見てるんですよ。あいつ、<ruby><rb>屋根</rb><rt>やね</rt></ruby>の上にのぼって、ぼくにさようならって、いおうとしてるんですよ。」

すると、おかみさんが、

「ばかだね、あれはおまえのネコなんかじゃないよ。えんとつに朝日があたってるんじゃないか。」

と、いいました。

けれども、ヘンゼルは小ネコなんかを見ていたのではありません。立ちどまるたびに、あのぴかぴかひかる小石を、ポケットからとりだしては、道みちおとしていたのでした。

みんなが、森のまんなかまできたとき、おとうさんは、

「おい、ヘンゼルにグレーテル、おまえたちはたきぎをあつめておいで。寒くないように、おとうさんが火をたいてやるからな。」

と、いいました。

そこで、ヘンゼルとグレーテルは、<ruby><rb>小枝</rb><rt>こえだ</rt></ruby>を山ほどもたくさんあつめてきました。小枝の山に火がついて、ぱあっともえあがると、おかみさんがいいました。

「じゃ、おまえたちはこのたき火のそばにすわって、やすんでおいで。わたしたちはもっとおくへはいっていって、木を切ってくるからね。しごとがおわったら、もどってきて、いっしょにつれてかえってやるよ。」

ヘンゼルとグレーテルはたき火のそばにすわって、あたたまっていました。お昼になると、めいめい、もらった小さなパンを食べました。そのあいだじゅう、ずうっと、木を切るおのの音がきこえていましたので、おとうさんはすぐ近くにいるものとばかり思っていました。ところがそれは、おので木を切る音ではなくて、おとうさんが<ruby><rb>枯</rb><rt>か</rt></ruby>れ<ruby><rb>木</rb><rt>き</rt></ruby>をしばっておいた<ruby><rb>枝</rb><rt>えだ</rt></ruby>が、風にゆられて、あっちにぶっつかり、こっちにぶっつかる音だったのです。

こうしてふたりは、いつまでもおとなしくすわっているうちに、だんだんくたびれてきて、いまにもまぶたがくっつきそうになりました。そして、とうとう、ぐっすりとねむりこんでしまいました。やっと目がさめたときには、もう、まっくらな夜になっていました。グレーテルはしくしく<ruby><rb>泣</rb><rt>な</rt></ruby>きだしました。そして、にいさんに、

「どうしたら、あたしたち、森からでられる？」

と、いいました。

けれども、ヘンゼルは小さい妹をなぐさめて、

「もうちょっとお<ruby><rb>待</rb><rt>ま</rt></ruby>ちよ。お月さまがでてくれば、きっと道がわかるから。」

と、いいました。

そのうちに、まんまるいお月さまがのぼりました。それで、ヘンゼルは妹の手をとって、おとしておいた小石をたよりに、歩いていきました。小石は、あたらしい<ruby><rb>銀貨</rb><rt>ぎんか</rt></ruby>みたいにぴかぴかひかって、ふたりに道をおしえてくれました。ふたりは、ひと<ruby><rb>晩</rb><rt>ばん</rt></ruby>じゅう歩きつづけて、<ruby><rb>夜</rb><rt>よ</rt></ruby>のあけるころに、やっとおとうさんの家にかえってきました。ふたりはトン、トン、戸をたたきました。おかみさんがあけてみますと、ヘンゼルとグレーテルでしたので、

「しょうのない子どもたちだねえ。いつまで森のなかでねこんでいるんだい。おまえたちは、もう、うちにかえってくるのがいやになったのかと思ってたとこさ。」

と、いいました。

けれども、おとうさんのほうは、ふたりをおきざりにしてきたのが、気になって気になってしかたがありませんでしたので、ふたりがかえってきたのを心からよろこびました。

それからまもなく、またくらしがこまって、どうにもならなくなりました。子どもたちは、ある<ruby><rb>晩</rb><rt>ばん</rt></ruby>、おかあさんが<ruby><rb>寝床</rb><rt>ねどこ</rt></ruby>のなかでおとうさんにむかって、こういっているのをききました。

「また、なにもかも食べつくしちまって、あとはパンが半きれのこってるだけだよ。それを食べちまえば、もうおしまいさ。どうしたって、子どもたちを<ruby><rb>追</rb><rt>お</rt></ruby>っぱらうよりほかないよ。こんどは、どうしてもかえり道がわからないように、もっと森のおくまでつれていこうよ。そうでもしなくっちゃ、わたしたちはたすかりようがないもの。」

おとうさんのほうはひどく<ruby><rb>心配</rb><rt>しんぱい</rt></ruby>して、

（それなら、おれのさいごのぶんは、子どもたちとわけて食べるほうがましだ。）

と、思いました。

ところが、おかみさんは木こりのいうことなどは、まるで耳にもいれません。ただ、がみがみどなったり、ののしったりするばかりでした。いったんやりだしたことは、どうしてもあとをつづけなければならないものです。この木こりも、さいしょにおかみさんのいうことをきいてしまったものですから、こんども、おかみさんのいうなりにしなければならなくなりました。

ところで、子どもたちはまだ目がさめていて、この話をぜんぶきいていました。おとうさんとおかあさんがねてしまいますと、ヘンゼルはそっとおきあがりました。また、このまえのときのように、おもてへいって、小石をひろおうと思ったのです。ところが、こんどは、おかみさんが戸にかぎをかけてしまったものですから、ヘンゼルはおもてへでることができませんでした。それでも、ヘンゼルは小さい妹をなぐさめて、いいました。

「<ruby><rb>泣</rb><rt>な</rt></ruby>くんじゃないよ、グレーテル。いいから、ぐっすりおやすみ。<ruby><rb>神</rb><rt>かみ</rt></ruby>さまは、きっとぼくたちをたすけてくださるよ。」

あくる朝はやく、おかみさんがやってきて、子どもたちを<ruby><rb>寝床</rb><rt>ねどこ</rt></ruby>からつれだしました。ふたりはパンをひときれずつもらいましたが、それはこのまえのときのよりももっと小さいものでした。ヘンゼルは、森へいく道みち、それをポケットのなかで小さくちぎりました。そして、ときどき立ちどまっては、パンくずを<ruby><rb>地</rb><rt>じ</rt></ruby>べたにおとしていきました。

「ヘンゼル、おまえは、なんだってそう立ちどまっちゃ、うしろをふりむいてばかりいるんだ。」

と、おとうさんがいいました。

「さっさと歩きな。」

「ぼくのハトを見ているんですよ。ほら、あいつ、<ruby><rb>屋根</rb><rt>やね</rt></ruby>の上にとまって、ぼくにさよならっていおうとしているんですもの。」

と、ヘンゼルはこたえました。

「ばかだね。」

と、おかみさんがいいました。

「あれはハトなんかじゃないよ。朝日がえんとつにあたって、ひかってるんじゃないか。」

それでも、ヘンゼルは、すこしずつパンくずをおとしていって、とうとうすっかりおとしきってしまいました。

おかみさんは子どもたちを、もっともっと森のおくへ、生まれてからまだきたこともないほど森のおくまで、つれていきました。そこで、こんども、どんどん火をおこしました。そして、おかみさんは、

「おまえたちはここにおいで。くたびれたら、すこしねてもいいよ。わたしたちはおくへいって、木を切ってるからね。夕がた、しごとがおわったら、ここへもどってきて、いっしょにつれてかえってやるよ。」

と、いいました。

お昼になると、グレーテルはじぶんのパンをヘンゼルにもわけてやって、ふたりで食べました。だって、ヘンゼルはじぶんのパンを道にまいてきてしまいましたからね。食べおわると、ふたりはねむりました。

やがて、<ruby><rb>晩</rb><rt>ばん</rt></ruby>になりましたが、このかわいそうな子どもたちのところへは、だれもきませんでした。ふたりは、まっくらな夜になってから、やっと目がさめました。ヘンゼルは小さい妹をなぐさめて、

「グレーテル、お月さまがでるまで<ruby><rb>待</rb><rt>ま</rt></ruby>っておいで。お月さまがでりゃ、ぼくがおとしておいたパンくずが見えるからね。それについていけば、だいじょうぶ、うちにかえれるさ。」

と、いいました。

お月さまがのぼると、ふたりはでかけました。けれど、いくらさがしても、パンくずはどこにも見あたりません。それもそのはずです。森や野原をとびまわっている、何千ともしれない鳥たちが、きれいにひろってしまったんですからね。ヘンゼルはグレーテルに、

「道はきっと見つかるよ。」

と、いいましたが、どうしても見つかりませんでした。

ふたりはひと<ruby><rb>晩</rb><rt>ばん</rt></ruby>じゅう歩いて、そのつぎの日も朝から晩まで歩きつづけましたが、それでも、森のそとにでることはできませんでした。それに、おなかがすいてたまりません。なにしろ、<ruby><rb>地</rb><rt>じ</rt></ruby>べたにはえている<ruby><rb>野</rb><rt>の</rt></ruby>イチゴを、二つ三つ口にしただけなんですからね。それで、ふたりはくたびれきって、もうどうにも歩くことができなくなりました。そこで、一本の木の下に横になって、そのまま、ぐっすりねむってしまいました。

こうして、ふたりがおとうさんの家をでてから、もう三日めの朝になりました。ふたりはまた歩きだしましたが、ますます森のおくへまよいこむばかりでした。このようすでは、もしだれかが、たすけにきてくれなければ、ふたりはつかれはてて、<ruby><rb>死</rb><rt>し</rt></ruby>ぬよりほかはありません。

ちょうどお昼ごろのことでした。雪のようにまっ白な、美しい一<ruby><rb>羽</rb><rt>わ</rt></ruby>の<ruby><rb>小鳥</rb><rt>ことり</rt></ruby>が、木の<ruby><rb>枝</rb><rt>えだ</rt></ruby>にとまって、それはそれは美しい声で歌をうたっていました。ふたりは思わず立ちどまって、うっとりときいていました。小鳥はうたいおわると、はばたきをして、ふたりのさきにたって、とんでいきました。ふたりがその<ruby><rb>小鳥</rb><rt>ことり</rt></ruby>のあとについていきますと、やがて、かわいいうちのまえにでました。小鳥はそのうちの<ruby><rb>屋根</rb><rt>やね</rt></ruby>にとまりました。ふたりがそのすぐそばまで近づいてみますと、おどろいたことには、そのかわいいうちはパンでつくってあって、屋根はおかしでできているではありませんか。おまけに、<ruby><rb>窓</rb><rt>まど</rt></ruby>はすきとおるようなおさとうです。

「さあ、食べようよ。」

と、ヘンゼルはいいました。

「ごちそうになるんだ。ぼくは屋根をすこし食べるぜ。グレーテル、おまえは窓を食べるといいよ。あれはあまいから。」

ヘンゼルは手をぐっと高くのばして、屋根をすこしかきとり、どんな<ruby><rb>味</rb><rt>あじ</rt></ruby>がするか、食べてみました。グレーテルは窓ガラスにからだをくっつけて、ポリポリかじりだしました。すると、へやのなかからかすかな声がしました。

ポリポリ　モリモリ　かじるぞかじる

わたしのうちをかじるな　だれだ

子どもたちは、

風だよ　風だよ

天の子だよ

と、こたえておいて、おかまいなしに、どんどん食べました。ヘンゼルは、<ruby><rb>屋根</rb><rt>やね</rt></ruby>がとってもおいしかったので、大きいのをひとつそっくりかきとりました。グレーテルも、まるい<ruby><rb>窓</rb><rt>まど</rt></ruby>ガラスを一<ruby><rb>枚</rb><rt>まい</rt></ruby>そっくりはずして、すわりこんで、食べはじめました。

そのとき、ふいに戸があいて、なかからよぼよぼに年をとった、ばあさんが、つえにすがって、よちよちでてきました。ヘンゼルとグレーテルは、びっくりして、両手にかかえていたごちそうを、思わずとりおとしてしまいました。ばあさんは頭をゆすりながら、

「おお、かわいい子どもたちだ。ここまでだれにつれてきてもらったんだね。さあ、さあ、なかへおはいり。いつまでもここにおいで。そうすりゃ、<ruby><rb>心配</rb><rt>しんぱい</rt></ruby>なことはなんにもないからね。」

と、いいました。

ばあさんはふたりの手をとって、小さいうちのなかへつれていきました。へやのなかへはいると、ばあさんは、ミルクだの、さとうのついたおかしだの、リンゴだの、クルミだの、おいしそうなごちそうを、テーブルの上にいっぱいならべました。ごちそうを食べおわると、かわいい、きれいなふたつのベッドに白い<ruby><rb>敷布</rb><rt>しきふ</rt></ruby>をかけてもらって、ふたりはそのなかに横になりました。ふたりは、まるで<ruby><rb>天国</rb><rt>てんごく</rt></ruby>にでもいるような気持ちでした。

このばあさんは、見たところは、いかにもしんせつそうでしたが、ほんとうはわるい<ruby><rb>魔法使</rb><rt>まほうつか</rt></ruby>いで、子どもたちがくるのを<ruby><rb>待</rb><rt>ま</rt></ruby>ちかまえていたのでした。それで、ふたりをおびきよせるために、パンの家もこしらえたというわけです。ばあさんは、子どもならだれでもつかまえたがさいご、その子を<ruby><rb>殺</rb><rt>ころ</rt></ruby>して、<ruby><rb>煮</rb><rt>に</rt></ruby>て、食べてしまうのです。ですから、そういう日は、ばあさんにとってはおまつりのようにたのしい日になるのでした。

<ruby><rb>魔法使</rb><rt>まほうつか</rt></ruby>いというものは、赤い目をしていて、遠くのほうは見えません。そのかわり、けもののように<ruby><rb>鼻</rb><rt>はな</rt></ruby>がよくきくので、人間がそばへくると、すぐにそれをかぎつけます。ヘンゼルとグレーテルが近くへきたときも、いじわるそうにわらって、

「あのふたりはつかまえたぞ。にげようったって、にがすもんか。」

と、あざけるようにいったのでした。

つぎの朝はやく、まだ子どもたちが目をさまさないうちに、ばあさんはもうおきだしました。そして、ふたりが、まんまるの、赤いほっぺたをして、かわいらしく、すやすやとねむっているすがたを見ますと、

「こいつは、いいごちそうにならあね。」

と、つぶやきました。

それから、ばあさんはやせこけた手でヘンゼルをつかまえると、小さい<ruby><rb>小屋</rb><rt>こや</rt></ruby>のなかにつれていって、<ruby><rb>格子戸</rb><rt>こうしど</rt></ruby>をピシャンとしめてしまいました。ですから、ヘンゼルがいくらわめいても、なんにもなりませんでした。それから、ばあさんはグレーテルのところへいって、ゆりおこしました。そして、

「さっさとおきるんだ、なまけものめ。水をくんできて、おまえのにいさんに、なんかうまいものでもこしらえてやんな。あいつは、そとの<ruby><rb>小屋</rb><rt>こや</rt></ruby>にいるがな、せいぜいふとらせてやるんだ。ふとったところで、このあたしがごちそうになるのさ。」

と、どなりつけました。

グレーテルは、わあっとはげしく<ruby><rb>泣</rb><rt>な</rt></ruby>きだしました。でも、いまとなっては、どうしようもありません。グレーテルは、わるい<ruby><rb>魔法使</rb><rt>まほうつか</rt></ruby>いのいうとおりのことをしなければなりませんでした。

こうして、かわいそうなヘンゼルは、いちばんじょうとうのごちそうをもらいましたが、それにひきかえ、グレーテルのほうは、ザリガニの<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">こうら</span>をもらったきりでした。まい朝まい朝、ばあさんは<ruby><rb>小屋</rb><rt>こや</rt></ruby>のところへいって、

「ヘンゼル、指をだしな。ぼつぼつ、ふとってきたかどうか、さわってみるんじゃ。」

と、わめきました。

いわれて、ヘンゼルは、食べのこしの<ruby><rb>骨</rb><rt>ほね</rt></ruby>を一本、ばあさんのほうへつきだしました。ところが、ばあさんは目がかすんでいましたので、骨とは気がつかずに、それをヘンゼルの指だとばかり思いこみました。そして、ヘンゼルはどうしてふとらないのかと、ふしぎでふしぎでなりませんでした。

それから、四週間たちましたが、ヘンゼルはあいかわらずちっともふとりません。それで、ばあさんもかんしゃくをおこして、もうこれいじょう、がまんができなくなりました。

「やい、グレーテル。」

と、ばあさんは小さい妹にむかってどなりつけました。

「とんでって、水をくんできな。ヘンゼルのやつめ、やせていようと、ふとっていようと、あしたは、あいつをぶち<ruby><rb>殺</rb><rt>ころ</rt></ruby>して、<ruby><rb>煮</rb><rt>に</rt></ruby>てしまうんだ。」

ああ、かわいそうに、小さい妹は、水をくみにやらされたとき、どんなになげきかなしんだことでしょう。そして、ほおの上を、どんなにたくさんの<ruby><rb>涙</rb><rt>なみだ</rt></ruby>がながれおちたことでしょう。

「ああ、<ruby><rb>神</rb><rt>かみ</rt></ruby>さま、どうかあたしたちをおたすけください。」

と、グレーテルは大声にさけびました。

「こんなことなら、いっそのこと、森のなかでけものに食べられるほうがよかったわ。だって、そんなら、おにいさんといっしょに<ruby><rb>死</rb><rt>し</rt></ruby>ねたんですもの。」

「うるさい。さわぐんじゃない。いくらわめいたって、なんにもなりゃしないんだぞ。」

と、ばあさんはいいました。

つぎの朝はやく、グレーテルはおもてへでて、水をいっぱいいれたおかまをつるし、火をたきつけさせられました。

「さきにパンを<ruby><rb>焼</rb><rt>や</rt></ruby>くんだ。」

と、ばあさんはいいました。

「かまどには、もう火がはいっているし、それに、パン<ruby><rb>粉</rb><rt>こ</rt></ruby>もねってあるんだから。」

ばあさんは、かわいそうなグレーテルを、パン焼きかまどのほうへつきとばしました。かまどからは、もう、ほのおがめらめらともえでています。

「なかにはいこんで、火がよくまわっているかどうか、見るんだ。よかったら、パンをいれるからな。」

と、<ruby><rb>魔法使</rb><rt>まほうつか</rt></ruby>いはいいました。

もしグレーテルがなかにはいったら、ばあさんはかまどのふたをしめてしまうつもりでした。そうすれば、グレーテルはなかで<ruby><rb>焼</rb><rt>や</rt></ruby>き<ruby><rb>殺</rb><rt>ころ</rt></ruby>されてしまいます。そこで、ばあさんはグレーテルをも、ぺろりと食べてしまう<ruby><rb>腹</rb><rt>はら</rt></ruby>だったのです。

「どうやってなかにはいるんですか。」

と、グレーテルはいいました。

「ばかやろう。かまどの口は、こんなに大きいじゃないか。ほれみろ、このわしだってはいれるくらいだ。」

ばあさんは、こういいながら、よちよち歩いていって、かまどのなかに頭をつっこみました。このときとばかり、グレーテルは、どんとばあさんをつきとばしましたから、ばあさんはかまどのずっとおくのほうへとびこんでしまいました。グレーテルはすばやく、<ruby><rb>鉄</rb><rt>てつ</rt></ruby>の戸をバタンとしめて、かけ<ruby><rb>金</rb><rt>がね</rt></ruby>をかけました。ううっ、と、ばあさんはほえだしました。それはそれはものすごいうなり声でした。けれども、グレーテルはどんどんかけていきました。こうして、ばちあたりの<ruby><rb>魔法使</rb><rt>まほうつか</rt></ruby>いは、むごたらしく<ruby><rb>焼</rb><rt>や</rt></ruby>け<ruby><rb>死</rb><rt>し</rt></ruby>んでしまったのです。

グレーテルはすぐにヘンゼルのところへとんでいって、小屋の戸をあけるなり、

「にいちゃん、あたしたち、たすかったわ。<ruby><rb>魔法使</rb><rt>まほうつか</rt></ruby>いのばあさんは、<ruby><rb>死</rb><rt>し</rt></ruby>んじゃったのよ。」

と、さけびました。

戸があいたとたんに、ヘンゼルは、鳥がかごからとびだすように、ぱっととびだしてきました。そのとき、ふたりは、どんなにうれしかったことでしょう。たがいに<ruby><rb>首</rb><rt>くび</rt></ruby>にだきついて、そこらじゅうをかけまわっては、キッスをしあいました。

いまはもう、こわいものはなんにもありません。ふたりは、<ruby><rb>魔法使</rb><rt>まほうつか</rt></ruby>いのうちのなかにずんずんはいっていきました。うちのなかには、<ruby><rb>真珠</rb><rt>しんじゅ</rt></ruby>や<ruby><rb>宝石</rb><rt>ほうせき</rt></ruby>のいっぱいつまった<ruby><rb>箱</rb><rt>はこ</rt></ruby>が、あっちのすみにも、こっちのすみにも、ごろごろしていました。

「これは、小石なんかよりずっといいや。」

と、ヘンゼルはいいながら、ポケットというポケットに、つまるだけつめこみました。すると、グレーテルも、

「あたしもすこし、おみやげにもっていこうっと。」

と、いって、まえかけにいっぱいいれました。

「だけど、もういこうよ。」

と、ヘンゼルはいいました。

「ぼくたち、はやく<ruby><rb>魔法使</rb><rt>まほうつか</rt></ruby>いの森からでるんだ。」

ふたりが二、三時間歩いていきますと、大きな川のほとりにでました。

「これじゃ、むこうへいけやしない。」

と、ヘンゼルがいいました。

「<ruby><rb>橋</rb><rt>はし</rt></ruby>らしいものがなんにもないもの。」

「このへんは、<ruby><rb>小舟</rb><rt>こぶね</rt></ruby>もとおらないのね。」

と、グレーテルはこたえました。

「でも、あそこに、白いカモが一<ruby><rb>羽</rb><rt>わ</rt></ruby>およいでいるわ。たのんだら、きっとわたしてくれるわよ。」

そこで、グレーテルはカモにむかってよびかけました。

かわいい　かわいい小ガモさん

ここにきたのは　ヘンゼルにグレーテル

だけどわたれる橋がありません

あなたの白いお<ruby><rb>背中</rb><rt>せなか</rt></ruby>に

のせてわたしてちょうだいな

小ガモはすぐにきてくれました。そこで、ヘンゼルがまずその背中にのって、それから、小さい妹にもいっしょにのるようにいいました。けれども、グレーテルは、

「いいえ、そんなにのっちゃ、この小ガモさんにはおもすぎるわ。ひとりずつ、つれてってもらいましょうよ。」

と、いいました。

しんせつな小ガモは、そのとおり、ひとりずつはこんでくれました。こうして、ふたりがぶじにむこう岸にわたって、それから、すこし歩いていきますと、だんだん、見おぼえのある森にきたような気がしてきました。そして、とうとう遠くのほうに、おとうさんのうちが見えはじめました。そのとたんに、ふたりはいっさんにかけだしました。へやのなかへとびこんで、いきなりおとうさんの<ruby><rb>首</rb><rt>くび</rt></ruby>にかじりつきました。

この木こりは、子どもたちを森のなかにすててきてからというものは、ただのいっときも、たのしい気持ちになったことはありませんでした。おかみさんのほうは、すでに<ruby><rb>死</rb><rt>し</rt></ruby>んでいました。

グレーテルがまえかけをふるいますと、<ruby><rb>真珠</rb><rt>しんじゅ</rt></ruby>や<ruby><rb>宝石</rb><rt>ほうせき</rt></ruby>がへやじゅうにころがりでました。つづいて、ヘンゼルもポケットに手をつっこんで、つぎからつぎへと、真珠や宝石をつかみだしては、そこらじゅうにばらまきました。

こうして、<ruby><rb>心配</rb><rt>しんぱい</rt></ruby>なことは、すっかりなくなってしまいました。それからは、みんなで、ほんとうにたのしく、なかよくくらしました。

これで、わたしのお話はおしまいです。ほら、ほら、そこをハツカネズミが一ぴき走っていきますよ。だれでもあのハツカネズミをつかまえた人は、あれで大きな、大きな<ruby><rb>毛皮</rb><rt>けがわ</rt></ruby>のずきんをこしらえてもかまいませんよ。