Soranoha

わらと炭と豆

わらとすみとまめ

グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール、グリム ヴィルヘルム・カール

ある村に、ひとりのまずしいおばあさんが住んでいました。おばあさんは豆まめをひとさらあつめて、煮にようと思いました。そこで、おばあさんはかまどに火をおこす用意よういをしました。そして、火がはやくもえつくように、ひとつかみのわらに火をつけました。

おばあさんが豆をおなべにあけるとき、知らないまに、ひとつぶだけおばあさんの手からすべりおちました。その豆は、床ゆかの上のわらのそばに、ころころところがっていきました。すると、すぐそのあとから、まっかにおこっている炭すみがかまどからはねだして、このふたりのところへやってきました。

すると、わらが口をきいて、いいました。

「おまえさんたち、どこからきたんだね。」

炭がこたえました。

「おれは、うまいぐあいに、火のなかからとびだしてきたんだよ。こうでもしなかったら、まちがいなしにおだぶつさ。もえて、灰はいになっちまうにきまってるもの。」

こんどは、豆まめがいいました。

「あたしもぶじににげてきたわ。あのおばあさんにおなべのなかへいれられようものなら、ほかのお友だちとおんなじように、なさけようしゃもなく、どろどろに煮にられてしまうところだったのよ。」

「おれだって、にたりよったりのめにあってるのさ。」

と、わらがいいました。

「おれの兄弟きょうだいたちは、みんなあのばあさんのおかげで、火をつけられて、煙けむりになっちまったんだ。ばあさんたら、いっぺんに六十もつかんで、みんなの命いのちをとっちまったのさ。おれだけは、運うんよくばあさんの指のあいだからすべりおちたからいいけどね。」

「ところで、おれたちはこれからどうしたらいいだろう。」

と、炭すみがいいました。

「あたし、こう思うのよ。」

と、豆まめがこたえました。

「あたしたちは運よく死しなずにすんだんですから、みんなでなかよしのお友だちになりましょうよ。そして、ここでもう二度とあんなひどいめにあわないように、いっしょにそとへでて、どこかよその国へでもいきましょう。」

この申もうし出では、ほかのふたりも気にいりました。そこで三人は、つれだってでかけました。

やがて、三人は、とある小さな流ながれのところにやってきました。見ると、橋はしもなければ、わたし板もありません。三人は、どうしてわたったものか、とほうにくれてしまいました。

わらがうまいことを思いついて、いいました。

「おれが横になって、ねころんでやろう。そうすれば、おまえさんたちは橋をわたるように、おれのからだの上をわたっていけるというもんだ。」

こういって、わらはこっちの岸からむこうの岸まで、からだを長ながとのばしました。すると、炭すみは生まれつきせっかちだったものですから、このできたばかりの橋の上を、むてっぽうに、ちょこちょこかけだしました。ところが、まんなかまできて、足の下で水がざあざあながれる音をききますと、どうにもこわくなって、そこに立ちすくんでしまいました。もうひと足もすすむことができないのです。

そのうちに、わらはもえだして、ふたつに切れて、流ながれのなかへおっこちました。炭もあとから足をすべらせて、水のなかへおちました。そして、ジュウッといって、命いのちをうしなってしまいました。

豆まめは用心ぶかく、まだこっちの岸にのこっていましたが、このできごとを見ますと、おかしくって、わらわずにはいられませんでした。ところが、そのわらいがいつまでたってもとまりません。豆はあんまりひどくわらったものですから、とうとう、パチンとはじけてしまいました。

ですから、もしもこのとき、旅たびまわりをしている仕立屋したてやさんが、運うんよく、この流れの岸べでやすんでいなかったなら、豆まめもほかのふたりとおなじように、死しんでしまうところでした。

仕立屋したてやさんは、なさけぶかい人でしたから、さっそく針はりと糸とをとりだして、豆のからだをぬいあわせてやりました。豆は仕立屋さんに、あつくあつくお礼れいをいいました。けれども、仕立屋さんがつかったのは黒い糸でしたので、それからというものは、どの豆にも黒いぬいめがついているのです。

底本 / Source edition

底本:「グリム童話集(1)」偕成社文庫、偕成社
1980(昭和55)年6月1刷
2009(平成21)年6月49刷
※表題は底本では、「わらと炭《すみ》と豆《まめ》」となっています。
入力:sogo
校正:チエコ
2020年7月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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TEI
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書誌 / Bibliography
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グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール、グリム ヴィルヘルム・カール「わらと炭と豆」(新字新仮名)、底本『グリム童話集(1)』偕成社文庫、偕成社、1980年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 059747_001091, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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