あるお<ruby><rb>金持</rb><rt>かねも</rt></ruby>ちのうちで、そのうちのおくさんが<ruby><rb>病気</rb><rt>びょうき</rt></ruby>になりました。おくさんは、もういよいよじぶんはだめだと感じましたので、ひとりむすめの小さい女の子をまくらもとによびよせて、こういいました。

「あのね、いつまでも<ruby><rb>神</rb><rt>かみ</rt></ruby>さまを<ruby><rb>信</rb><rt>しん</rt></ruby>じて、すなおな心でいるんですよ。そうすれば、神さまは、いつもおまえのそばについていてくださるからね。おかあさんもおまえを<ruby><rb>天国</rb><rt>てんごく</rt></ruby>から見まもっていて、おまえのそばをはなれませんよ。」

おかあさんはこういって、目をつぶりました。そして、そのまま、この<ruby><rb>世</rb><rt>よ</rt></ruby>をさってしまったのです。

女の子は、まい日、おかあさんのお<ruby><rb>墓</rb><rt>はか</rt></ruby>のところへいっては、<ruby><rb>泣</rb><rt>な</rt></ruby>いてばかりいました。でも、神さまを<ruby><rb>信</rb><rt>しん</rt></ruby>じて、すなおな心でいました。

やがて、冬になりますと、雪がそのお墓の上に白い<ruby><rb>布</rb><rt>ぬの</rt></ruby>をひろげました。それから、春になって、お日さまがその布をとりのけるようになったころ、お金持ちのうちには、またべつのおくさんがきました。

こんどのおくさんは、じぶんのむすめをふたりつれてきました。そのむすめたちは、顔だけは白くてきれいでしたが、心のなかときたら、ひねくれていて、まっ黒でした。ですから、かわいそうな<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">ままむすめ</span>の女の子にとっては、それからは、つらい日がまい日つづくことになりました。

「このあほうなガチョウむすめったら、うちんなかにすわりこんでいるよ。」

と、<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">まま</span>母やそのむすめたちが口ぐちにいいました。

「ごはんが食べたかったら、だれだってじぶんでかせぐんだよ。さあ、さっさといって、<ruby><rb>女中</rb><rt>じょちゅう</rt></ruby>といっしょにおはたらき。」

こういうと、みんなは、女の子のきていたきれいな<ruby><rb>着物</rb><rt>きもの</rt></ruby>をぬがせて、そのかわりに、ネズミ色の古ぼけたうわっぱりをきせて、木ぐつをはかせました。

「ちょいと、この<ruby><rb>高慢</rb><rt>こうまん</rt></ruby>ちきなお<ruby><rb>姫</rb><rt>ひめ</rt></ruby>さまをごらんよ。ずいぶんおめかししたこと。」

みんなはこうはやしたてながら、大わらいをして、女の子を<ruby><rb>台所</rb><rt>だいどころ</rt></ruby>につれていきました。

それからというものは、まい日まい日、女の子はつらいしごとをしなければなりませんでした。朝は日のでるまえにおきだして、水をはこび、火をもやし、<ruby><rb>煮</rb><rt>に</rt></ruby>ものをし、せんたくをしました。

ところが、そういうつらいしごとがあるうえに、ねえさんたちは、つぎからつぎへと、いろんなことを考えだしては、女の子をいじめたり、ののしったりするのです。そして、わざと<ruby><rb>豆</rb><rt>まめ</rt></ruby>つぶを<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>のなかにぶちまけては、女の子がいやでもすわって、それをひろいださなければならないようにしむけるのでした。

一日じゅうはたらいたあとで、どんなにくたびれきっていても、<ruby><rb>晩</rb><rt>ばん</rt></ruby>には、<ruby><rb>寝床</rb><rt>ねどこ</rt></ruby>にはいらずに、かまどのそばの<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>のなかに横にならなければなりませんでした。ですから、この子はいつもほこりだらけで、よごれたかっこうをしていましたので、みんなはこの子のことを、「灰かぶり」「灰かぶり」とよびました。

ある日のこと、おとうさんが<ruby><rb>市</rb><rt>いち</rt></ruby>へでかけることになりました。それで、おとうさんは、ふたりのきょうだいに、

「おみやげにはなにがほしいね。」

と、たずねました。

「きれいな<ruby><rb>着物</rb><rt>きもの</rt></ruby>よ。」

と、ひとりがいいました。

「あたしは<ruby><rb>真珠</rb><rt>しんじゅ</rt></ruby>と<ruby><rb>宝石</rb><rt>ほうせき</rt></ruby>。」

と、もうひとりがいいました。

「ところで、<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶり、おまえはなにがほしいな。」

と、おとうさんがききました。

「おとうさん、それじゃ、おとうさんがかえっていらっしゃるとき、いちばんさきにおとうさんのぼうしにさわった木の<ruby><rb>小枝</rb><rt>こえだ</rt></ruby>を、おってきてちょうだい。」

さて、おとうさんは、ふたりのままむすめのおみやげに、きれいな<ruby><rb>着物</rb><rt>きもの</rt></ruby>と、それに、<ruby><rb>真珠</rb><rt>しんじゅ</rt></ruby>と<ruby><rb>宝石</rb><rt>ほうせき</rt></ruby>とを買いました。

それから、馬にのってかえってきました。やがて、とある青あおとした<ruby><rb>木立</rb><rt>こだち</rt></ruby>に、さしかかりました。すると、一本のハシバミの<ruby><rb>小枝</rb><rt>こえだ</rt></ruby>にぶっつかって、ぼうしがおちてしまいました。そこで、おとうさんはその枝をおって、もってかえりました。

うちにかえると、おとうさんは、ふたりのままむすめに、めいめいのほしがっていたものをやりました。それから、<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶりには、ハシバミの小枝をやりました。

灰かぶりはおとうさんにお<ruby><rb>礼</rb><rt>れい</rt></ruby>をいって、おかあさんのお<ruby><rb>墓</rb><rt>はか</rt></ruby>のところへいき、その<ruby><rb>小枝</rb><rt>こえだ</rt></ruby>をお墓の上にうえました。そして、<ruby><rb>泣</rb><rt>な</rt></ruby>いて泣いて泣きじゃくりましたので、<ruby><rb>涙</rb><rt>なみだ</rt></ruby>がはらはらとこぼれおちて、その小枝にふりかかりました。おかげで、小枝はずんずん大きくなって、美しい木になりました。

<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶりは、まい日三度、その木の下へいって、泣きながら、おいのりをしました。すると、そのたびに、一<ruby><rb>羽</rb><rt>わ</rt></ruby>の白い<ruby><rb>小鳥</rb><rt>ことり</rt></ruby>がその木の上にとんできては、灰かぶりがほしいというものを、なんでもおとしてくれました。

さて、お話かわって、この国の王さまが大きな<ruby><rb>宴会</rb><rt>えんかい</rt></ruby>をもよおすことになりました。その宴会は、三日もつづくことになっていました。そして、その宴会には、国じゅうの美しいむすめたちが、ひとりのこらずまねかれていました。つまり、その人たちのなかから、<ruby><rb>王子</rb><rt>おうじ</rt></ruby>の花よめになる人をさがしだそうというわけだったのです。

ふたりのまま子のきょうだいは、じぶんたちもその<ruby><rb>宴会</rb><rt>えんかい</rt></ruby>にでられることになっているときかされて、大よろこびでした。それで、<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶりをよびつけて、

「さあ、あたしたちの<ruby><rb>髪</rb><rt>かみ</rt></ruby>をすいておくれ。くつもみがいておくれ。それから、しめ<ruby><rb>金</rb><rt>がね</rt></ruby>で<ruby><rb>胸</rb><rt>むね</rt></ruby>をぎゅっとしめておくれ。あたしたちは、王さまの宴会によばれて、お<ruby><rb>城</rb><rt>しろ</rt></ruby>へいくんだからね。」

灰かぶりは、ねえさんたちのいうとおりにしてやりました。けれども、<ruby><rb>泣</rb><rt>な</rt></ruby>きました。むりもありません、灰かぶりだって、いっしょにいって、おどりたかったのですもの。それで、まま母に、

「あたしもいかせてください。」

と、おねがいしてみました。

「なにをいってるの、<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶり。そのほこりだらけの、きたならしいかっこうで<ruby><rb>宴会</rb><rt>えんかい</rt></ruby>へいこうっていうのかい。だいいち、<ruby><rb>着物</rb><rt>きもの</rt></ruby>もくつもないのに、おどろうっていうの。」

と、まま母はいいました。

でも、灰かぶりがしきりにおねがいしましたので、まま母もとうとう、

「それじゃ、灰のなかに、おさらに一ぱいぶんのお<ruby><rb>豆</rb><rt>まめ</rt></ruby>がぶちまけてあるから、それを二時間のうちにひろいなさい。そうしたら、いっしょにつれてってやるよ。」

と、いいました。



女の子はうら口から<ruby><rb>庭</rb><rt>にわ</rt></ruby>へでて、大きな声でよびました。

「<ruby><rb>飼</rb><rt>か</rt></ruby>いバトちゃんに、山バトちゃん、それから、お空の下の<ruby><rb>小鳥</rb><rt>ことり</rt></ruby>ちゃん、みんなでここへとんできて、あたしのお<ruby><rb>豆</rb><rt>まめ</rt></ruby>ひろいの、お手つだいをしてちょうだい。

いいお豆は　つぼのなか

いけないお豆は　<ruby><rb>餌</rb><rt>え</rt></ruby>ぶくろに。」

その声をききつけて、たちまち、白い小バトが二<ruby><rb>羽</rb><rt>わ</rt></ruby>、<ruby><rb>台所</rb><rt>だいどころ</rt></ruby>の<ruby><rb>窓</rb><rt>まど</rt></ruby>からはいってきました。つづいて山バトが、いく羽もいく羽もはいってきました。そのうちに、バタバタ、バタバタ、<ruby><rb>羽</rb><rt>はね</rt></ruby>の音をたてながら、空の下の鳥が一羽のこらずあつまってきて、<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>のまわりにおりたちました。

小バトたちはかわいい頭をさげて、こつこつこつとやりだしました。すると、ほかの鳥たちも、みんな、こつこつこつとやりだしました。そして、いいほうの<ruby><rb>豆</rb><rt>まめ</rt></ruby>つぶはひとつのこらず、おさらのなかにひろいいれました。

こうして、一時間たつかたたないうちに、みんなは灰のなかからすっかり豆つぶをひろいだして、またおもてへとびだしていきました。

そこで、女の子は大よろこびで、おさらをまま母のところへもっていきました。そして、これで<ruby><rb>宴会</rb><rt>えんかい</rt></ruby>へつれていってもらえるものとばかり思っていました。ところがまま母は、

「だめだめ、<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶり。おまえなんか<ruby><rb>着物</rb><rt>きもの</rt></ruby>もないじゃないか。それにおどりなんてできやしないよ。みんなのわらいものになるだけさ。」

と、いうのです。

それをきいて、女の子がわっと<ruby><rb>泣</rb><rt>な</rt></ruby>きだしますと、まま母は、

「それじゃ、一時間のうちに、<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>のなかから、お<ruby><rb>豆</rb><rt>まめ</rt></ruby>をふたつのおさらにいっぱいひろいだせたら、いっしょにつれてってやるよ。」

と、いいました。

でも、<ruby><rb>腹</rb><rt>はら</rt></ruby>のなかでは、

（そんなことは、とてもできっこないさ。）

と、思っていたのです。

まま母がふたさらぶんのお<ruby><rb>豆</rb><rt>まめ</rt></ruby>を<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>のなかにぶちまけてしまいますと、女の子はうら口から<ruby><rb>庭</rb><rt>にわ</rt></ruby>へでて、大きな声でよびました。

「<ruby><rb>飼</rb><rt>か</rt></ruby>いバトちゃんに、山バトちゃん、それから、お空の下の<ruby><rb>小鳥</rb><rt>ことり</rt></ruby>ちゃん、みんなでここへとんできて、あたしのお豆ひろいの、お手つだいをしてちょうだい。

いいお豆は　つぼのなか

いけないお豆は　<ruby><rb>餌</rb><rt>え</rt></ruby>ぶくろに。」

その声をききつけて、たちまち、白い小バトが二<ruby><rb>羽</rb><rt>わ</rt></ruby>、<ruby><rb>台所</rb><rt>だいどころ</rt></ruby>からはいってきました。つづいて、山バトが、いく羽もいく羽もはいってきました。そのうちに、バタバタ、バタバタ、<ruby><rb>羽</rb><rt>はね</rt></ruby>の音をたてながら、空の下の小鳥が一羽のこらずあつまってきて、灰のまわりにおりたちました。

小バトたちはかわいい頭をさげて、こつこつこつとやりだしました。すると、ほかの鳥たちも、みんなこつこつこつとやりだしました。そして、いいほうの豆つぶは、ひとつのこらずおさらのなかにひろいいれました。

こうして、三十分とはたたないうちに、みんなは<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>のなかからすっかり<ruby><rb>豆</rb><rt>まめ</rt></ruby>つぶをひろいだして、またおもてへとびだしていきました。そこで女の子は大よろこびで、おさらをまま母のところにもっていきました。そして、こんどこそ、<ruby><rb>宴会</rb><rt>えんかい</rt></ruby>へつれていってもらえるものと思っていました。ところが、まま母は、

「なにをしたって、おまえはだめだよ。おまえなんかいっしょにつれていけやしない。だって、<ruby><rb>着物</rb><rt>きもの</rt></ruby>もなけりゃ、おどりもできないじゃないか。おまえをつれていったりすれば、わたしたちがはじをかくにきまっているよ。」

こういいおわると、まま母はくるりとむこうをむいて、<ruby><rb>高慢</rb><rt>こうまん</rt></ruby>ちきなふたりのむすめをつれて、さっさといってしまいました。

うちにだれもいなくなりますと、<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶりはおかあさんのお<ruby><rb>墓</rb><rt>はか</rt></ruby>のハシバミの木の下へいって、大きな声でよびかけました。

ねえ　ハシバミさん　ゆれてうごいて

<ruby><rb>金</rb><rt>きん</rt></ruby>と<ruby><rb>銀</rb><rt>ぎん</rt></ruby>とをおとしてちょうだいな

すると、いつもの鳥が、金と銀の糸で<ruby><rb>織</rb><rt>お</rt></ruby>った着物と、<ruby><rb>絹糸</rb><rt>きぬいと</rt></ruby>と銀の糸でぬいとりした<ruby><rb>上</rb><rt>うわ</rt></ruby>ぐつとをおとしてくれました。女の子は、おおいそぎで着物をきかえて、<ruby><rb>宴会</rb><rt>えんかい</rt></ruby>へでかけていきました。

でも、ねえさんたちにも、まま母にも、これが<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶりだとはわかりません。たぶん、どこかよその国のお<ruby><rb>姫</rb><rt>ひめ</rt></ruby>さまだろうと思っていました。<ruby><rb>金</rb><rt>きん</rt></ruby>の<ruby><rb>着物</rb><rt>きもの</rt></ruby>をきた<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶりはそれほど美しく見えたのです。

三人は、これが灰かぶりだとは<ruby><rb>夢</rb><rt>ゆめ</rt></ruby>にも考えてみませんでした。いまごろ、あの灰かぶりはうちで、きたないもののなかにすわって灰のなかから<ruby><rb>豆</rb><rt>まめ</rt></ruby>でもさがしているだろうと思っていたのです。

<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶりのすがたを見ますと、<ruby><rb>王子</rb><rt>おうじ</rt></ruby>はさっそくむかえにでて、その手をとって、いっしょにおどりはじめました。そして、ほかのものとはだれともおどろうとはしませんでした。ですから、王子はいちどとった灰かぶりの手を、いつまでもはなしませんでした。だれかほかのものがやってきて、灰かぶりといっしょにおどりたいといっても、王子は、

「このひとはぼくの<ruby><rb>相手</rb><rt>あいて</rt></ruby>だよ。」

と、いって、ことわりました。

おどっているうちに、日がくれましたので、<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶりはうちにかえろうとしました。すると王子は、

「ぼくがいっしょにおくっていってあげよう。」

と、いいだしました。

というわけは、王子は、この美しいむすめがどこのむすめなのか、知りたかったのです。でも、灰かぶりは王子のそばをうまくすりぬけて、ハト<ruby><rb>小屋</rb><rt>ごや</rt></ruby>にとびこみました。

王子がそとで<ruby><rb>待</rb><rt>ま</rt></ruby>っていますと、やがて、灰かぶりのおとうさんがでてきました。そこで、王子はおとうさんに、いまよそのむすめがこのハト<ruby><rb>小屋</rb><rt>ごや</rt></ruby>にとびこんだ、と、おしえてやりました。その話をきいて、おとうさんは、

（いまはいったのなら、それは<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶりのはずだが。）

と、思いました。

そこで、おとうさんはおのと<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">なた</span>をもってこさせて、ハト小屋をまっぷたつにたたきわってみました。でも、なかにはだれひとりおりません。

それから、みんながうちのなかへはいってきますと、灰かぶりはいつものよごれた<ruby><rb>着物</rb><rt>きもの</rt></ruby>をきて、灰のなかにねころんでいました。そして<ruby><rb>豆</rb><rt>まめ</rt></ruby>ランプがひとつ、<ruby><rb>煙出</rb><rt>けむだ</rt></ruby>しのなかでぼんやりともっていました。つまりそれは、こういうわけだったのです。灰かぶりは、ハト小屋のなかにとびこみましたが、すばやく小屋のうしろからとびだして、あのハシバミの木の下へかけていったのでした。そこで、きれいな<ruby><rb>着物</rb><rt>きもの</rt></ruby>をぬいで、お<ruby><rb>墓</rb><rt>はか</rt></ruby>の上におきますと、いつもの鳥がそれをどこかへもっていってしまったのでした。いっぽう、灰かぶりは、それから、ネズミ色のいつものうわっぱりをきて、<ruby><rb>台所</rb><rt>だいどころ</rt></ruby>へはいって、灰のなかにもぐりこんでいたのです。

そのつぎの日にも、また<ruby><rb>宴会</rb><rt>えんかい</rt></ruby>がもよおされました。おとうさんとおかあさんと、それに、ふたりのねえさんたちがでかけてしまいますと、灰かぶりは、さっそく、ハシバミの木のところへいって、よびかけました。

ねえ　ハシバミさん　ゆれてうごいて

<ruby><rb>金</rb><rt>きん</rt></ruby>と<ruby><rb>銀</rb><rt>ぎん</rt></ruby>とをおとしてちょうだいな

すると、いつもの鳥が、きのうよりも、ずっとずっとりっぱな<ruby><rb>着物</rb><rt>きもの</rt></ruby>をなげおとしてくれました。<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶりがこの着物をきて、<ruby><rb>宴会</rb><rt>えんかい</rt></ruby>の<ruby><rb>席</rb><rt>せき</rt></ruby>にあらわれますと、だれもかれもがその美しさにあっとおどろいてしまいました。

ところで、<ruby><rb>王子</rb><rt>おうじ</rt></ruby>は、灰かぶりのくるのをずっと<ruby><rb>待</rb><rt>ま</rt></ruby>っていました。ですから、灰かぶりのすがたを見ますと、すぐにその手をとって、灰かぶりとばかりおどりつづけました。だれかほかのものがやってきて、灰かぶりといっしょにおどりたいといっても、王子は、

「これはぼくの<ruby><rb>相手</rb><rt>あいて</rt></ruby>だよ。」

と、いって、ことわりました。

そのうちに、日がくれましたので、<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶりはうちにかえろうとしました。すると、王子はあとからついていって、灰かぶりがどこのうちにはいるか見ようとしました。

ところが、灰かぶりは、王子のそばからすばやくにげだして、うちのうしろの<ruby><rb>庭</rb><rt>にわ</rt></ruby>のなかにとびこみました。

庭には美しい大きな木が一本はえていて、それには、まことにみごとなナシの<ruby><rb>実</rb><rt>み</rt></ruby>がなっていました。<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶりはリスのようにすばしこく、この木によじのぼって、たちまち、<ruby><rb>枝</rb><rt>えだ</rt></ruby>と枝とのあいだにかくれてしまいました。そのため、<ruby><rb>王子</rb><rt>おうじ</rt></ruby>には、灰かぶりがどこへいってしまったのやら、わからなくなりました。

でもそこで<ruby><rb>待</rb><rt>ま</rt></ruby>っていますと、やがて、<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶりのおとうさんがやってきました。そこで、おとうさんに、<ruby><rb>王子</rb><rt>おうじ</rt></ruby>はいいました。

「よそのむすめが、ぼくのところからにげだして、あのナシの木の上にとびあがってしまったらしい。」

それをきいて、おとうさんは、

（木の上にとびあがったのなら、それは<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶりのはずだが。）

と、思いました。

そこで、おのをもってこさせて、その木を切りたおしました。けれども、木の上にはだれもいませんでした。

それから、みんなが<ruby><rb>台所</rb><rt>だいどころ</rt></ruby>にはいってきますと、灰かぶりは、いつものように、灰のなかにねころんでいました。

じつをいうと、それはこういうわけなのです。つまり、灰かぶりは木のむこうがわにとびおりて、ハシバミの木の上のいつもの鳥に、きれいな<ruby><rb>着物</rb><rt>きもの</rt></ruby>をかえしておいて、じぶんは、ネズミ色のいつものうわっぱりにきかえていたのでした。

三日めにも、おとうさんとまま母が、ねえさんたちをつれてでかけてしまいますと、<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶりは、またおかあさんのお<ruby><rb>墓</rb><rt>はか</rt></ruby>のところへいって、ハシバミの木によびかけました。

ねえ　ハシバミさん　ゆれてうごいて

<ruby><rb>金</rb><rt>きん</rt></ruby>と<ruby><rb>銀</rb><rt>ぎん</rt></ruby>とをおとしてちょうだいな

すると、いつもの鳥が<ruby><rb>着物</rb><rt>きもの</rt></ruby>をなげおとしてくれました。ところが、その着物ときたら、目もさめるように美しくて、きらびやかで、それこそ、まだだれもきたことのないようなものでした。それに、<ruby><rb>上</rb><rt>うわ</rt></ruby>ぐつはぜんぶ<ruby><rb>金</rb><rt>きん</rt></ruby>でできているというすばらしさです。

ですから、<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶりがこの着物をきて、<ruby><rb>宴会</rb><rt>えんかい</rt></ruby>の<ruby><rb>席</rb><rt>せき</rt></ruby>へあらわれたときには、だれもかれもが、ただただおどろきあきれるばかりで、なんといったらいいのか、わからないくらいでした。

<ruby><rb>王子</rb><rt>おうじ</rt></ruby>は、灰かぶりとばかり、ずっとおどりつづけました。だれかがやってきて、灰かぶりといっしょにおどりたいといっても、王子は、

「このひとはぼくの<ruby><rb>相手</rb><rt>あいて</rt></ruby>だよ。」

と、いって、ことわりました。

そのうちに、日がくれましたので、<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶりはかえろうとしました。もちろん、王子はあとからついていくつもりでした。ところが、灰かぶりがあんまりすばやくにげてしまいましたので、とうとう、あとからついていくことができませんでした。

でも、王子は、きょうは<ruby><rb>計略</rb><rt>けいりゃく</rt></ruby>をめぐらして、<ruby><rb>階段</rb><rt>かいだん</rt></ruby>じゅうにチャンというべたべたする<ruby><rb>薬</rb><rt>くすり</rt></ruby>をぬらせておきました。そのため、灰かぶりが階段にとびおりたとたん、左の上ぐつがべったりとチャンにくっついて、そのままあとにのこってしまいました。

王子がそのくつをとりあげてみますと、それはちっちゃくて、きれいで、ぜんぶ金でできていました。

そのつぎの朝、<ruby><rb>王子</rb><rt>おうじ</rt></ruby>はそのくつをもって、あの<ruby><rb>金持</rb><rt>かねも</rt></ruby>ちの男のところへいきました。そして、

「この<ruby><rb>金</rb><rt>きん</rt></ruby>のくつがぴったり足にあう女を、ぼくは<ruby><rb>妻</rb><rt>つま</rt></ruby>にしたいのだ。」

と、いいました。

それをきいて、ふたりのきょうだいはよろこびました。だって、ふたりともきれいな足をしていましたからね。

まず、ねえさんのほうが、そのくつをもってへやのなかにはいり、ためしてみようとしました。まま母もそのそばに立っていました。

ところが、足の指が大きすぎるために、どうしてもはいりません。だいいち、くつぜんたいが小さすぎます。そのようすを見て、まま母はほうちょうをわたしながら、

「足の指なんか、切ってしまいなさいよ。お<ruby><rb>妃</rb><rt>きさき</rt></ruby>さまになれば、もう足で歩くこともなくなるからね。」

と、いいました。

むすめは足の指を切りおとして、くつのなかに、むりやりに足をおしこみました。そして、いたいのをやっとがまんしながら、へやをでて、<ruby><rb>王子</rb><rt>おうじ</rt></ruby>のところへいきました。

そこで、王子はこのむすめを花よめとして馬にのせ、いっしょにそこをでかけました。ところが、ふたりは、あのお<ruby><rb>墓</rb><rt>はか</rt></ruby>のそばをとおっていかなければなりませんでした。すると、ハシバミの木にとまっていた二<ruby><rb>羽</rb><rt>わ</rt></ruby>のハトが、

ちょいとうしろを見てごらん

ちょいとうしろを見てごらん

くつのなかは<ruby><rb>血</rb><rt>ち</rt></ruby>がいっぱい

だってくつがちいちゃすぎるもの

ほんとのよめさん　うちにいる

と、よびかけました。

こういわれて、<ruby><rb>王子</rb><rt>おうじ</rt></ruby>がむすめの足もとを見ますと、なるほど、血がそとまでながれでています。

王子はすぐさま馬のむきをかえて、にせの花よめを、またうちへつれていきました。そして、

「このむすめはほんものではないから、もうひとりのきょうだいにくつをはかせてみなさい。」

と、いいました。

そこで、こんどは、妹のほうがへやのなかにはいりました。うまいぐあいに、足の指はくつのなかにはいりましたが、<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">かかと</span>が大きすぎます。そのようすを見ますと、まま母がほうちょうをわたして、いいました。

「かかとのすこしぐらい、切ってしまいなさいよ。お<ruby><rb>妃</rb><rt>きさき</rt></ruby>さまになれば、もう足で歩くこともなくなるからね。」

むすめはかかとをすこし切りとって、くつのなかに、足をむりやりにおしこみました。そして、いたいのをやっとがまんしながら、へやをでて、<ruby><rb>王子</rb><rt>おうじ</rt></ruby>のところへいきました。

そこで、王子はこのむすめを花よめとして馬にのせ、いっしょにでかけていきました。ふたりがハシバミの木のそばをとおりかかりますと、木の<ruby><rb>枝</rb><rt>えだ</rt></ruby>にハトが二<ruby><rb>羽</rb><rt>わ</rt></ruby>とまっていて、

ちょいとうしろを見てごらん

ちょいとうしろを見てごらん

くつのなかは<ruby><rb>血</rb><rt>ち</rt></ruby>がいっぱい

だってくつがちいちゃすぎるもの

ほんとのよめさん　うちにいる

と、うたいました。

いわれて、王子がむすめの足を見おろしますと、なるほど、くつから血がながれでて、しかも、白いくつしたが上のほうまでまっかにそまっています。

そこで、王子はすぐさま馬のむきをかえて、にせの花よめをまた家へつれていきました。

「このむすめもほんものではない。もう、ほかにむすめはないのかね。」

と、王子はいいました。

「ございません。」

と、お<ruby><rb>金持</rb><rt>かねも</rt></ruby>ちの男がいいました。

「もっとも、なくなりました<ruby><rb>家内</rb><rt>かない</rt></ruby>がのこしていったむすめがひとりおりますが、これは<ruby><rb>発育</rb><rt>はついく</rt></ruby>もおくれておりまして、いつも<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>だらけのきたないかっこうをしております。とても、花よめになれるようなものではございません。」

すると、<ruby><rb>王子</rb><rt>おうじ</rt></ruby>は、

「そのむすめをここへつれてきなさい。」

と、いいました。

ところが、まま母は、

「まあ、とんでもないことでございます。とてもきたなすぎて、こちらへつれてまいれるようなものではございません。」

と、もうしました。

けれども、王子がどうしても見たいというので、とうとう灰かぶりがよびだされることになりました。それで、灰かぶりは、まず両手と顔とをきれいにあらいました。それから、でてきて、王子のまえでおじぎをしました。

王子は灰かぶりに<ruby><rb>金</rb><rt>きん</rt></ruby>のくつをわたしました。そこで、灰かぶりは<ruby><rb>足台</rb><rt>あしだい</rt></ruby>にこしかけて、おもたい木ぐつから足をぬきだして、<ruby><rb>上</rb><rt>うわ</rt></ruby>ぐつにいれてみました。ところが、どうでしょう。くつはぴったりと灰かぶりの足にあっています。

それから、灰かぶりは立ちあがりました。王子がその顔を見ますと、それこそ、じぶんといっしょにおどった、あの美しいむすめではありませんか。それで、王子は思わず大きな声をだして、

「これがほんとうの花よめだ。」

と、いいました。

まま母とふたりのきょうだいは、びっくりしました。そして、くやしさのあまり、まっさおになりました。

けれども<ruby><rb>王子</rb><rt>おうじ</rt></ruby>は、そんなことにはおかまいなく、<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶりを馬にのせて、いっしょにでかけました。ふたりがハシバミの木のそばをとおりかかりますと、二<ruby><rb>羽</rb><rt>わ</rt></ruby>の白いハトが声をそろえて、

ちょいとうしろを見てごらん

ちょいとうしろを見てごらん

くつのなかには<ruby><rb>血</rb><rt>ち</rt></ruby>がないよ

くつはちいちゃすぎないもの

こんどは　ほんとの花よめつれていく

と、うたっていました。ハトは、こううたってから、二羽ともまいおりてきて、<ruby><rb>灰</rb><rt>はい</rt></ruby>かぶりの<ruby><rb>肩</rb><rt>かた</rt></ruby>の上にとまりました。一羽は右に、一羽は左に。そして、そのまま、ずっとそこにとまっていました。

いよいよ灰かぶりと王子との<ruby><rb>婚礼</rb><rt>こんれい</rt></ruby>がおこなわれることになりました。そのとき、にせの花よめになった、ふたりのきょうだいがやってきて、さかんにおせじをふりまきました。こうして、ふたりは灰かぶりのしあわせを、わけてもらおうと思ったのです。

花よめ、花むこが<ruby><rb>教会</rb><rt>きょうかい</rt></ruby>へいくときには、ねえさんのほうは右がわに、妹のほうは左がわにつきそって歩いていきました。すると、二<ruby><rb>羽</rb><rt>わ</rt></ruby>のハトがとんできて、きょうだいの目玉を、ひとつずつ、つつきだしてしまいました。

それから、式がすんででてきたときには、ねえさんのほうは左がわに、妹のほうは右がわにつきそっていました。すると、二羽のハトが、きょうだいのもうひとつずつのこっている目玉をつつきだしました。

こんなわけで、ふたりのきょうだいは、いじわるをしたり、にせの花よめになったりしたばちがあたって、<ruby><rb>一生</rb><rt>いっしょう</rt></ruby>目が見えませんでした。