Soranoha

三枚のヘビの葉

さんまいのヘビのは

グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール、グリム ヴィルヘルム・カール

むかしむかし、ひとりのまずしい男がおりました。その男は、じぶんのたったひとりのむすこさえも、やしなえないようになってしまいました。そこで、むすこがいいました。

「おとうさん、だいぶくらしもくるしくなってきましたね。わたしはおとうさんの重荷おもにになるばかりです。いっそ、家をでて、じぶんでなんとかしてパンをかせぐようにしたいと思います。」

そこで、おとうさんはむすこのしあわせをいのって、胸むねのつぶれるようなかなしい思いで、むすことわかれました。

ちょうどそのころ、ある強い国の王さまが戦争せんそうをはじめました。若者わかものはこの王さまにつかえて、戦場せんじょうにでかけました。若者が敵てきのまえまできたとき、ちょうどたたかいがはじまりました。そのあぶないことといったらありません。鉄砲てっぽうのたまが、豆まめのようにバラバラふってきて、味方みかたのものはあっちでもこっちでも、ばったばったとたおれるありさまです。そのうちに、隊長たいちょうまでも戦死せんししてしまいました。ですから、のこったものたちはあわててにげだしました。そのとき、若者がすすみでて、みんなに勇気ゆうきをつけて、大声によばわりました。

「おれたちの生まれた国をほろぼすな。」

それをきいて、ほかのものたちも若者わかもののあとにしたがいました。若者は敵てきのなかにとびこんで、さんざんに敵をやっつけました。王さまは、たたかいに勝かつことができたのはこの若者ひとりのおかげだったときいて、若者をだれよりもとりたてて、たくさんの宝たからものをあたえたうえ、国いちばんの家来けらいにしました。

王さまには、ひとりのお姫ひめさまがありました。お姫さまはたいへん美しいかたでしたが、ただ、ひどくかわっていました。なにしろ、このお姫さまが結婚けっこんしようと思う相手あいての人は、もしもお姫さまがさきに死しんだばあい、お姫さまといっしょに生きうめにされてもかまわないと約束やくそくできる人でなければだめだという、かたい誓ちかいをたてていたのですからね。

「あたしを心のそこからすいているのなら、あたしが死んだのち、どうして命いのちがいりましょう。」

と、お姫さまはいうのでした。

そのかわり、お姫ひめさまもおんなじことをするつもりでした。つまり、もしご主人しゅじんのほうがさきに死ねば、お姫さまもいっしょにお墓はかのなかへはいる気でいたのです。いままでのところは、このかわった誓ちかいをききますと、お姫さまに結婚けっこんをもうしこもうと思っていた人も、みんなおそれをなしてしまうのでした。

ところがこの若者わかものは、お姫さまの美しさにすっかり心をうばわれてしまって、ほかのことはなんにも考えず、お姫さまをいただきたい、と、王さまのもとにねがいでました。

「おまえは約束やくそくしなければならぬことがあるのだが、それも知っているのかね。」

と、王さまがたずねました。

「もしもわたくしがお姫ひめさまよりあとまで生きておりましたら、お姫さまといっしょに墓はかのなかへはいらなければなりません。」

と、若者わかものはこたえていいました。

「しかし、お姫さまをすきに思うわたくしの気持ちは、そのようなことはものともいたしませぬほどにふかいのでございます。」

これをきいて、王さまは承知しょうちしました。やがて、ご婚礼こんれいの式が、たいそうりっぱにおこなわれました。

それから、ふたりは、しばらくのあいだ、なに不足ふそくなく、しあわせにくらしておりました。ところがあるとき、ふと、わかいお妃きさきさまがおもい病気びょうきにかかりました。どんな医者いしゃでも、お妃さまの病気をなおすことはできませんでした。

こうして、とうとうお妃さまがなくなりますと、わかい王さまは、まえにいやいやながらした約束やくそくのことを思いだしました。すると、生きたままお墓はかのなかにはいるのが、たまらなくこわくなってきました。といって、いまさらのがれる道もありません。なにしろ、王さまが門という門を番兵ばんぺいですっかりかためさせてしまったのですから、この運命うんめいからのがれることはとてもできなかったのです。

いよいよ、お妃きさきさまのなきがらを王家おうけのお墓はかにほうむる日がきました。わかい王さまは、いっしょにお墓のなかへつれていかれました。やがて、門にかんぬきがさされ、錠じょうがおろされました。

お棺かんのそばに、机つくえがひとつありました。その上にあかりが四つと、パンのかたまりが四つ、それにブドウ酒しゅが四本のせてありました。これだけのたくわえがおしまいになれば、わかい王さまはうえ死じにするほかはありません。

わかい王さまはかなしみにうちしずんで、そこにすわっていました。くる日もくる日も、パンをほんのひと口食べ、ブドウ酒をほんのひとしずくのむだけでした。それでもやっぱり、じぶんの死ぬときが、刻一刻こくいっこくとせまってくるのがわかりました。

こうして、わかい王さまがぼんやりまえのほうを見つめていたときです。墓穴はかあなのすみのほうから一ぴきのヘビがはいだしてきて、お妃きさきさまのなきがらのほうへ近よっていきました。わかい王さまは、ヘビがなきがらをかじりにきたのだろうと思いましたので、剣けんをぬいて、いいました。

「わたしの生きているかぎりは、妃のからだにはふれさせぬぞ。」

こういって、わかい王さまはそのヘビを三つに切りすてました。しばらくすると、もう一ぴき、べつのヘビがすみからはいだしてきました。けれども、まえのヘビが三つに切られて、そこに死しんでいるのを見ますと、そのままひきかえしていきました。けれども、すぐにもどってきました。みれば、こんどは、みどりの葉を三枚まい、口にくわえています。

そのヘビは、三つに切られているまえのヘビのからだを、ちゃんともとのようにおしつけて、傷口きずぐちの上にその葉を一枚まいずつのせました。と、きれぎれになっていたからだの部分ぶぶんが、たちまちつなぎあわさったかと思うと、ヘビはピクピクうごきだして、生きかえったではありませんか。そして、ヘビは二ひきそろっていってしまいました。

葉は地面じめんにおちたままになっていました。

ふしあわせな王さまは、このありさまをすっかり見ていましたが、いまヘビを生きかえらせたこの葉のもっているふしぎな力が、もしかしたら人間にもききはしないだろうかと、ふと思いつきました。そこで、わかい王さまはその葉をひろいあげ、一枚まいを死しんだ人の口の上におき、あとの二枚を目の上にのせてみました。と、どうでしょう、葉っぱをのせたとたんに、はやくも血ちが血管けっかんのなかをめぐりだして、それがまっさおな顔にのぼって、ふたたび顔に赤みがさしてきたではありませんか。お妃きさきさまはそれから息いきをして、目をぱっちりとあけて、いいました。

「あらまあ、あたしはどこにいるのでしょう。」

「おまえはわたしのそばにいるのだよ。」

と、わかい王さまはこたえました。

そして、いままでのできごとをのこらずものがたって、じぶんがお妃さまを生きかえらせたことを話しました。それから、わかい王さまはお妃さまにブドウ酒しゅとパンをすこしずつやりました。

やがて、もとのようにからだに力がつきますと、お妃さまは立ちあがりました。そうして、ふたりで扉とびらのところへいって、ドンドンたたいて、大声にさけびました。番兵ばんぺいがそれをききつけて、王さまにもうしあげました。

王さまはじぶんでおりてきて、扉とびらをあけました。すると、ふたりが元気なじょうぶなすがたで立っています。王さまはふたりといっしょによろこびあいました。これで、苦労くろうはすっかりなくなってしまったわけです。

さて、あの三枚まいのヘビの葉は、わかい王さまがもってきて、ひとりの家来けらいにわたして、いいました。

「これはたいせつにして、いつも肌身はだみはなさずもっていてくれ。またどんなことで、これがわたしたちの役やくにたつかもしれぬからな。」

ところで、お妃きさきさまのほうは、生きかえってからというもの、心のなかがすっかりかわってしまったのです。じぶんの夫おっとを愛あいする気持ちなどは、お妃さまの胸むねのなかからあとかたもなくきえてしまったようでした。

しばらくたったとき、わかい王さまは海をこえて、じぶんの年とったおとうさまのところへいこうと思いたちました。そこで、お妃きさきさまとふたりで船ふねにのりこみました。ところが、ひどいことに、お妃さまは、わかい王さまがまごころからじぶんをかわいく思っていてくれるということも、またそのおかげで死しなずにすんだということも、すっかりわすれてしまって、船頭せんどうがすきになってしまったのです。

そしてある日、お妃さまは、わかい王さまが横になってねむっているのを見すまして、その船頭をよびよせました。そして、じぶんはねむっている王さまの頭をつかみ、船頭せんどうには両足をつかませて、ふたりでわかい王さまを海のなかへほうりこんでしまいました。こういうひどいことをしてから、お妃きさきさまは船頭にいいました。

「さあ、これからひきかえして、わかい王さまはとちゅうでなくなったともうしあげよう。あたしはおとうさまに、おまえのことをうんとほめたてて、あたしとおまえが夫婦ふうふになって、やがては、おまえが王さまの位くらいにつけるようにしてあげるよ。」

ところが、あの忠義者ちゅうぎものの家来けらいが、このようすをのこらず見ていたのです。家来は、ひとに気づかれないように、親船おやぶねからそっと小舟こぶねをおろすと、すぐさまそれにのりこんで、主人しゅじんのあとを追おってこいでいきました。うらぎりものたちののっている船は、そのままいってしまいました。

忠義な家来は、死しんだわかい王さまをすくいあげますと、肌身はだみはなさずもっていた、あの三枚まいのヘビの葉を、わかい王さまの両方の目と口の上にのせました。すると、そのおかげで、わかい王さまはふたたび生きかえりました。

わかい王さまと忠義ちゅうぎな家来けらいは、ふたりで、夜を日についで、力のかぎりこぎました。ですから、小舟はとぶように走って、ほかのものよりもさきに、年とった王さまのもとへつきました。王さまはふたりきりでかえってきたのを見ますと、ふしぎに思って、どうしたのかとたずねました。王さまはむすめのやったというひどいおこないのことをききますと、

「わしには、あれがそのようなひどいことをしたとは信しんじられん。しかし、まもなく、ほんとうのことがわかろう。」

王さまはこういって、ふたりに、ひとに見られないへやにはいって、だれにも気づかれないようにしろ、といいつけました。

それからまもなく、親船おやぶねがかえってきました。この人でなしの女は、いかにもかなしそうな顔つきをして、王さまのまえにやってきました。

王さまはいいました。

「どうしておまえはひとりでかえってきたのだね。おまえの夫おっとはどこにいる。」

「ああ、おとうさま。」

と、わるものの女がこたえていいました。

「あたしは、ほんとうにかなしい思いをしながら、もどってまいりました。夫は、航海こうかいのあいだに、きゅうに病気びょうきになりまして、死しんでしまいました。もしこの感心な船頭せんどうが手をかしてくれませんでしたら、あたしはとんだめにあうところでした。この人は夫の最期さいごのときに、いあわせましたから、なにもかもすっかりお話しすることができます。」

「わしが死んだものを生きかえらせてみせよう。」

王さまはこういって、あのへやをあけて、ふたりにでてくるようにいいつけました。女は夫のすがたをひと目見るなり、まるでかみなりにうたれたようにひざをついて、

「どうかおゆるしください。」

と、おねがいしました。

王さまはいいました。

「ゆるすことはできん。この男は、おまえといっしょに死しぬかくごをして、おまえの命いのちをすくったのだ。それなのにおまえは、この男のねているときをねらって、殺ころしたではないか。おまえは、じぶんにふさわしいむくいをうけねばならん。」

こうして、女は、手つだいをした男といっしょに、穴あなをあけた舟ふねにのせられて、海につきだされました。ふたりは、まもなく波間なみまにしずんでしまいました。

底本 / Source edition

底本:「グリム童話集(1)」偕成社文庫、偕成社
1980(昭和55)年6月1刷
2009(平成21)年6月49刷
※表題は底本では、「三|枚《まい》のヘビの葉」となっています。
入力:sogo
校正:チエコ
2020年6月27日作成
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書誌 / Bibliography
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グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール、グリム ヴィルヘルム・カール「三枚のヘビの葉」(新字新仮名)、底本『グリム童話集(1)』偕成社文庫、偕成社、1980年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 059743_001091, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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