Soranoha

十二人兄弟

じゅうににんきょうだい

グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール、グリム ヴィルヘルム・カール

むかしむかし、あるところに、王さまとお妃きさきさまとがおりました。ふたりはたいそうなかよくくらしていました。十二人のお子さんがありましたが、みんなそろいもそろって男の子ばかりでした。

さて、あるとき、王さまがお妃きさきさまにむかっていいました。

「こんど生まれる子どもが、もし女の子だったら、十二人の男の子はみんな殺ころしてしまおう。そして、その女の子の財産ざいさんがたくさんになって、この国がその子ひとりだけのものになるようにしてやろう。」

王さまは、ほんとうに、十二のお棺かんまでもこしらえさせました。そのなかには、すでにかんなくずもつめてあって、ひとつひとつに、死人しにんのための小さなまくらまでもいれてありました。王さまはこれをひとつのへやにはこびこませて、かぎをかけました。そして、そのかぎをお妃さまにわたして、このことはだれにもいってはならぬ、といいわたしました。

けれども、お妃さまは、それからというものは、一日じゅうすわったきりで、かなしみにしずんでおりました。ですから、いつもお妃きさきさまのそばにばかりくっついているすえっ子の、ベンジャミンという子が、お妃さまにむかってたずねました。この子は、聖書せいしょから名をとってベンジャミンとよばれていたのです。

「おかあさま、どうしてそんなにかなしんでいらっしゃるの。」

「ぼうや、ぼうやにはそのわけを話してあげることができないのよ。」

と、お妃さまはいいました。

けれども、ベンジャミンはいつまでもうるさくせがみます。それで、とうとう、お妃さまは立っていってそのへやをあけ、もうかんなくずまでつまっている十二のお棺かんを見せてやりました。

「かわいいベンジャミン、このお棺はね、おまえのおとうさまが、おまえと十一人のおにいさまたちのためにこしらえさせたものなのよ。というのは、もしこんど、女の子が生まれれば、おまえたちはみんな殺ころされて、このなかにいれられて、ほうむられてしまうことになっているのよ。」

こう話しながら、お妃きさきさまはさめざめと泣なきました。すると、男の子はおかあさまをなぐさめて、いいました。

「泣かないでよ、おかあさま。ぼくたち、みんなでたすけあって、にげてしまうから。」

すると、お妃さまはいいました。

「十一人のおにいさまたちといっしょに、森へにげておいきなさい。そして、森のなかでいちばん高い木を見つけて、だれかひとりがかならずそこにのぼって、見はりをしているようになさい。そうして、このお城しろの塔とうのほうをよく見ているんですよ。もしも男の子が生まれれば、白い旗はたをかかげますからね。そうしたら、みんなでかえっていらっしゃい。でも、もし女の子が生まれたら、赤い旗をかかげますよ。そしたら、できるだけはやくおにげなさい。ああ、どうか神かみさまがおまえたちをおまもりくださいますように。あたしはまい晩ばんおきていて、おまえたちのためにおいのりをしていますよ。冬は、みんなが火にあたれるように、夏は、暑あつさにくるしまないようにね。」

こうして、お妃きさきさまが子どもたちのためにおいのりをすませますと、みんなは森へでかけていきました。みんなはかわるがわる見はりにたち、いちばん高い木の上にすわって、塔とうのほうをながめていました。

十一日たって、ベンジャミンの番ばんになりました。見ると旗があがりました。しかし、それは白い旗ではなくて、赤い血ちの旗です。みんなが殺ころされることにきまったというあいずです。にいさんたちはこのことをききますと、かんかんにおこって、いいました。

「ぼくたちは、女の子ひとりのために、死しななければならないっていうのか。ようし、かならずこの復讐ふくしゅうはしてやるぞ。女の子は見つけしだい、かたっぱしから赤い血ちをながさせてやる。」

それから、十二人の兄弟きょうだいたちは、森のおくへおくへとはいっていきました。いつのまにか、森のまんなかのいちばんくらいところまできました。すると、そこに魔法まほうをかけられた小さな小屋こやがたっていました。家のなかには、だれもいませんでした。そこで、みんなはいいました。

「ぼくたちはここに住むことにしよう。それから、おい、ベンジャミン、おまえはいちばん小さいし、それに力もいちばんよわい。おまえはうちにのこって、うちのなかのしごとをやっていておくれ。ぼくたちほかのものは、みんなそとへいって食べものをとってくるから。」

こうして、にいさんたちは森のなかへはいって、ウサギだの、野ジカだの、小鳥ことりだの、かわいいおすのハトだの、食べられるものはなんでもうって、それをベンジャミンのところにもってきました。ベンジャミンの役やくめは、それを料理りょうりして、おにいさんたちのぺこぺこのおなかをいっぱいにしてあげることでした。

それから十年というあいだ、兄弟きょうだいたちはこの小屋こやでいっしょにくらしましたが、みんなはそれほど長いとも思いませんでした。

さて、兄弟たちのおかあさまになる、お妃きさきさまの生んだ女の子は、いまではすっかり大きくなりました。気だてのやさしい、美しいお姫ひめさまでした。ひたいの上には、金きんの星をひとつつけていました。

ある日のこと、せんたくものがたくさんありましたが、お姫さまがふと見ますと、そのなかに男もののシャツが十二枚まいあります。それで、ふしぎに思って、お妃さまにたずねてみました。

「この十二枚のシャツはだれのもの。おとうさまのにしては小さすぎますもの。」

すると、お妃きさきさまは心もおもく、こうこたえました。

「姫や、これはねえ、おまえの十二人のおにいさまたちのですよ。」

「その十二人のおにいさまって、どこにいらっしゃるの。あたし、おにいさまのことなんて、まだいちどもきいたことないわ。」

と、お姫ひめさまはいいました。

すると、お妃きさきさまはこたえました。

「どこにいるかごぞんじなのは、神かみさまばかりよ。きっと、ひろい世よのなかを、あっちこっちとまよい歩いているでしょう。」

それから、お妃さまはあのへやにむすめをつれていって、扉とびらをあけて、かんなくずと、死人しにんのためのまくらまでもはいっている十二のお棺かんを見せました。

「このお棺はね、おまえのおにいさまたちのものにきまっていたのよ。でも、おまえの生まれるまえに、みんなこっそりにげていってしまったの。」

と、お妃きさきさまがいいました。

こういって、お妃さまは、あのときのことをのこらず話してきかせました。

それをきいて、お姫ひめさまはいいました。

「おかあさま、泣なかないで。あたしがいって、おにいさまたちをさがしてきますから。」

そこで、お姫さまはその十二枚まいのシャツをもって、お城しろをでますと、まっすぐ大きな森のなかへはいっていきました。お姫さまは、その日一日じゅう歩きつづけて、日のくれるころ、魔法まほうのかけられているあの小屋こやのまえにきました。お姫さまが小屋のなかにはいっていきますと、ひとりの男の子がいて、

「きみは、どこからきたの。そして、どこへいくの。」

と、たずねました。

男の子は女の子があんまり美しくて、おまけに、お姫ひめさまのきるような着物きものをき、ひたいには金きんの星をつけているので、びっくりしました。

すると、お姫さまはこたえていいました。

「あたしは王女おうじょです。いま十二人のおにいさまたちをさがしているところです。おにいさまたちを見つけだすまでは、青いお空のはてまでもいってみるつもりです。」

こういって、お姫さまはおにいさまたちの十二枚まいのシャツを見せました。

そこで、ベンジャミンはこれがじぶんの妹だとわかりましたので、

「ぼくがベンジャミンだよ。おまえのいちばん小さいにいさんだよ。」

と、いいました。

これをきいたとたん、お姫ひめさまはあまりのうれしさに、わっと泣なきだしました。ベンジャミンも泣きました。そして、ふたりはなつかしさのあまりだきあって、キッスをしあいました。それから、ベンジャミンがいいました。

「でもねえおまえ、まだ安心あんしんできないんだよ。なぜって、ぼくたちは、女の子にあったら、だれでもかまわないから殺ころしてしまおうって約束やくそくがしてあるんだもの。だってそうだろう。ぼくたちは女の子のために、国を追おわれてしまったんだからね。」

それをきいて、お姫ひめさまはいいました。

「十二人のおにいさまたちをおたすけできるのなら、あたし、よろこんで死しぬわ。」

「いけない、いけない。」

と、ベンジャミンはこたえました。

「おまえを死しなせたりするものか。とにかく、十一人のにいさんたちがかえってくるまで、このおけの下にかくれておいで。にいさんたちがかえってきたら、ぼくがうまく話をするからね。」

お姫ひめさまはいわれたとおりにしました。やがて、夜になりますと、ほかのにいさんたちが狩かりからかえってきました。食事しょくじのしたくは、ちゃんとできていました。みんながテーブルについて、食べているとき、にいさんたちがベンジャミンにたずねました。

「なにかかわったことはないかい。」

すると、ベンジャミンが、

「にいさんたちはなんにも知らないの。」

と、いいました。

「うん。」

と、にいさんたちはこたえました。

そこで、ベンジャミンはことばをつづけて、

「にいさんたちは森へいって、ぼくはうちにのこっていたんだけど、ぼくのほうがずっといろんなことを知ってるよ。」

と、いいました。

「じゃあ、話してくれよ。」

と、にいさんたちは口ぐちにいいたてました。

「それなら、ぼくたちがいちばんはじめにあう女の子だけは殺ころさないって約束やくそくしてくれる?」

と、ベンジャミンがいいました。

「いいよ、いいよ。」

と、みんな声をそろえていいました。

「その子だけはゆるしてやろう。だから、さあ、話してくれよ。」

そこで、ベンジャミンがいいました。

「妹がここにいるんだよ。」

こういって、ベンジャミンがおけをあげますと、りっぱな着物きものをきて、ひたいに金きんの星をつけたお姫ひめさまがあらわれました。それは、世よにも美しく、やさしい上品じょうひんなすがたでした。みんなは大よろこびで、お姫さまの首くびにだきついて、キッスをしました。そして、心のそこから妹をかわいいと思いました。

〔図〕fig59635_01.png

それからは、お姫さまはベンジャミンといっしょにうちにいて、ベンジャミンのしごとの手つだいをしました。十一人のにいさんたちは森にはいって、けものや、シカや、鳥や、小バトなどをつかまえてきました。これがみんなの食べものになりました。それをいろいろに料理りょうりするのが、ベンジャミンと妹の役やくめなのです。

妹は煮にたきをするたきぎや、野菜やさいがわりにつかう草葉くさばをさがしてきたり、おなべを火にかけたりしました。そうして、十一人のにいさんたちがかえってくるころには、いつでも食事しょくじのしたくができているようにしておきました。そればかりか、妹はうちのなかをきれいにかたづけたり、寝床ねどこに白いきれいな敷布しきふをきちんとかけたりしました。ですから、にいさんたちはいつも満足まんぞくしきって、妹といっしょになかよくくらしていました。

あるときのことです。ふたりはうちにおいしいごちそうをこしらえておきました。みんながあつまりますと、それぞれ席せきについて、食べたりのんだりしました。みんなは大よろこびでした。

ところで、この魔法まほうをかけられている小屋こやには小さな庭にわがあって、そのなかにユリのような花が十二さいていました。この花は、またの名をシュトデンテンともいいます。妹は、この十二の花をおりとって、食事しょくじのあとでにいさんのひとりひとりにこの花をひとつずつあげようと思いました。こうして、にいさんたちによろこんでもらおうと思ったのです。ところが、どうしたというのでしょう、妹が花をおりとったとたん、十二人のにいさんたちのすがたは十二羽わのカラスにかわってしまって、みんなは森のはるかかなたへととびさってしまったではありませんか。しかもそれといっしょに、うちも庭にわも、あとかたもなくきえうせてしまったのです。

かわいそうに、女の子はおそろしい森のなかにひとりぼっちになってしまいました。あたりを見まわしますと、そばにひとりのおばあさんが立っていました。おばあさんは、

「これ、これ、おまえはいったいなにをしたのだね。どうして、十二の白い花をそっとしておかなかったのだい。あれは、おまえのにいさんたちだったのさ。にいさんたちは、いまじゃカラスになっちまって、もう永久えいきゅうにかわることはないよ。」

と、いいました。

女の子は泣なくなくいいました。

「ほんとうに、にいさんたちをたすける方法ほうほうはないんでしょうか。」

「だめだねえ。」

と、おばあさんはいいました。

「その方法は、たったひとつあるにはあるけど、むずかしすぎるから、とてもそれでにいさんたちをすくうことはできなかろうよ。なにしろ、七年というあいだ、おまえはひと言こともしゃべらずにとおさなければならないんだからね。口をきいてもいけないし、わらってもいけない。もしもおまえが、たったひとことでも口をきこうものなら、そうしてまた、七年にほんの一時間だけたりなくっても、なにもかもがむだになってしまうのさ。しかも、そのたったひとことのために、おまえのにいさんたちは殺ころされてしまうんだよ。」

これをきいて、女の子は心のなかでいいました。

(あたし、きっと、にいさんたちをたすけてみせるわ。)

それから、女の子は歩いていきました。一本の高い木を見つけますと、その上にすわって、糸をつむぎはじめました。でも、もちろん、口もきかなければ、わらいもしませんでした。

さて、あるときのこと、ひとりの王さまがこの森で狩かりをしました。王さまは一ぴきの猟犬りょうけんをつれていましたが、その犬が女の子ののぼっている木のところへ走ってきて、そのまわりをとびはねては、しきりに木の上にむかってほえたてました。

そこで、王さまが近よってみますと、おどろいたことに、ひたいに金きんの星をつけた美しいお姫ひめさまが、木の上にすわっているではありませんか。お姫さまのあまりの美しさに、王さまはうっとりとして、じぶんの妃きさきになる気はないかとよびかけました。お姫さまはなんともへんじをしませんでしたが、ほんのちょっとうなずいてみせました。

それを見た王さまは、じぶんでその木にのぼって、お姫さまを木からおろしました。それから、じぶんの馬にのせて、いっしょにお城しろへつれかえりました。

やがて、ご婚礼こんれいの式が、めでたく、りっぱにとりおこなわれました。けれども、花よめはひとことも口をききませんし、わらいもしませんでした。

ふたりはいく年かのあいだたのしいくらしをつづけました。ところが、王さまのおかあさまは、もともとたちのよくないひとでしたので、ぼつぼつわかいお妃きさきさまのわる口をいいはじめました。そして、王さまにこうつげ口をしました。

「おまえがつれてきたのは、いやしい身分みぶんのむすめですよ。かげでは、こっそりどんなわるいことをしているか、わかったものではありません。口がきけないにしても、いちどぐらいはわらいそうなものです。とにかく、わらわない人は、心のよくない人ですよ。」

王さまは、さいしょのうちは、そんなことを信しんじようとはしませんでした。けれども、年よりがいつまでもそのことをいいはりますし、それに、いろいろとわるいことをお妃きさきさまのせいにしますので、とうとう、王さまもいいまかされてしまって、お妃さまに死刑しけいをいいわたしました。

こうして、お城しろの庭にわで大がかりな火がたかれました。この火のなかで、お妃さまが焼やき殺ころされることになったのです。王さまは二階かいの窓まどぎわに立って、涙なみだながらにこのありさまをながめていました。だって、王さまはいまでもなお、お妃さまがかわいくてならなかったのですもの。

いよいよ、お妃さまが柱はしらにしばりつけられました。火がはやくも赤い舌したをチョロチョロさせて、お妃さまの着物きものをなめはじめました。

ちょうどそのとき、七年という年月のさいごの瞬間しゅんかんがすぎさったのです。と、空にバタバタという羽はねの音がして、十二羽わのカラスがとんできて、地面じめんにまいおりました。そして、その足が地面にふれたかと思うと、たちまち、十二人のにいさんたちのすがたになりました。みんなは、妹のおかげですくわれたのです。にいさんたちはすぐさま火をかきちらし、ほのおをもみけして、かわいい妹をたすけだして、キッスをしたり、だきしめたりしました。

さて、いまこそ、お妃きさきさまは口をひらいて、話すことができるのです。そこで、どうしていままでひとことも口をきかず、またいちどもわらわなかったか、そのわけを王さまに話しました。王さまは、お妃さまになんの罪つみもないことをきいて、それはそれはよろこびました。そして、この人たちは、死しぬまで、みんないっしょになかよくくらしました。

心のよくないまま母のほうは、裁判さいばんにかけられて、煮にえくりかえった油あぶらと、毒どくヘビのいっぱいはいっているたるにいれられて、むざんな死にかたをしました。

底本 / Source edition

底本:「グリム童話集(1)」偕成社文庫、偕成社
1980(昭和55)年6月1刷
2009(平成21)年6月49刷
※表題は底本では、「十二|人《にん》兄弟《きょうだい》」となっています。
入力:sogo
校正:チエコ
2020年6月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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TEI
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プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール、グリム ヴィルヘルム・カール「十二人兄弟」(新字新仮名)、底本『グリム童話集(1)』偕成社文庫、偕成社、1980年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 059635_001091, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite