Soranoha

うまい商売

うまいしょうばい

グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール、グリム ヴィルヘルム・カール

あるお百姓ひゃくしょうさんが、牝牛めうしを市場いちばへ追おっていって、七ターレルで売ってきました。かえり道に、池のはたをとおらなければなりませんでした。まだ池までこないうちに、もう遠くのほうから、カエルたちが「アク、アク、アク」と、ないているのがきこえてきました。

「まったく、うるさくがなりたてやあがる。」

と、お百姓ひゃくしょうさんはひとりごとをいいました。

「おらのもらった金かねは七ジーベンだぞ。八アクトじゃねえや。」

お百姓さんは水ぎわまできますと、カエルたちにむかって、

「てめえたちゃ、なんてばかだ! わからねえのかよ。七ターレルだぞ。八じゃねえんだ。」

と、どなりました。

それでも、カエルたちは、やっぱり「アク、アク、アク」と、なきつづけています。

「ようし、ほんとにしねえんなら、てめえたちの目のまえで勘定かんじょうしてみせてやらあな。」

こういって、お百姓ひゃくしょうさんはポケットから金かねをとりだして、二十四グロッシェンずつで一ターレルと、合計ごうけい七ターレルをかぞえあげてみせました。

〔図〕fig59518_01.png

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けれども、カエルたちは、そんな勘定かんじょうにはおかまいなしに、またもや、「アク、アク、アク」と、なきたてました。

「ええい。」

と、お百姓さんはすっかり腹はらをたててどなりつけました。

「これでも気がすまねえんなら、てめえたちで勘定しろい。」

そして、カエルたちのいる水のなかへ、金をそっくりほうりこみました。お百姓さんはそのまま立っていました。カエルたちが勘定かんじょうをすまして、金をかえしてくれるまで、待まっているつもりだったのです。ところが、カエルたちはがんこで、ひっきりなしに、「アク、アク、アク」と、なきたてるばかりです。そして、金などはなげかえしてもくれませんでした。

お百姓ひゃくしょうさんはなおしばらく待まっていましたが、そのうちに日がくれてきましたので、うちへかえらなければならなくなりました。そこで、カエルたちを口ぎたなくののしって、どなりました。

「やい、やい、水んなかのバチャバチャ野郎やろうの、でか頭の、ぐりぐり目玉め。てめえたちゃ、ばかでっかい口をしてやがって、耳もいたくなるほどギャア、ギャア大さわぎしゃあがるくせして、七ターレルの勘定かんじょうもできねえじゃねえか。てめえたちの勘定がすむまで、おらがここで待まってるとでも思ってんのか。」

こういいすてて、お百姓ひゃくしょうさんは歩きはじめました。しかし、カエルたちは、あいかわらずそのうしろから、「アク、アク、アク」と、ないていました。で、お百姓さんはぷんぷん腹はらをたてて、うちへかえりました。

それからしばらくして、お百姓さんはまた牝牛めうしを一頭とう買いました。お百姓さんはそいつを殺ころして、さて、どのくらいになるだろうかと、胸むねで計算けいさんをしてみました。肉にくをうまく売れば、牝牛めうし二頭ぶんぐらいの金にはなるでしょうし、それにまだ皮かわものこるというものです。そこで、お百姓さんは肉をかついで町へでかけました。町の門のまえまできますと、犬がひとかたまりになってかけてきました。みれば、大きな猟犬りょうけんが先頭せんとうにたっています。そいつが肉のまわりをとびまわって、くんくんかぎながら、「ワス、ワス、ワス、ワス」と、ほえたてました。

ところが、犬がいつまでたってもなきやまないので、お百姓ひゃくしょうさんは犬にむかっていいました。

「よしよし、わかった、わかった。おめえ、この肉がちっとばかしほしいもんだから、『ワス、ワス(すこしの意味)』っていってんだな。だがな、おめえにこいつをくれちまったら、おらのほうがうまくいかねえでの。」

けれども、犬はやっぱり「ワス、ワス」とへんじをするばかりです。

「おめえ、ほんとに肉にくをみんなくっちまわねえか。そこらにいるおめえのなかまのことも、うけあえるか。」

「ワス、ワス。」

と、犬がいいました。

「ようし、おめえがそんなにまでいうんなら、おめえにまかせんべえ。おら、おめえをようく知ってる。おめえの奉公ほうこうさきも、ちゃあんとわかってる。だがな、いいか、三日たったら、きっと金かねをもらうぞ。約束やくそくをまもらなかったら、ただではおかねえぞ。とにかく、おめえがおれんとこへ金をもってきさえすりゃいいんだ。」

それから、お百姓ひゃくしょうさんは肩かたから肉をおろして、また、いまきた道をひきかえしました。犬どものほうは、たちまち肉をめがけておどりかかって、「ワス、ワス」と、大声にほえたてました。

お百姓さんはそれを遠くのほうできいて、ひとりごとをいいました。

「ほほう、あいつら、みんなちっとばかしほしがってやがる。だが、でっかいやつが、おらにうけあってるだ。」

三日たちますと、お百姓さんは、今夜は金かねが手にへえるぞと、考えて、ほくほくしていました。ところが、だれも金をはらいにはやってきませんでした。

「もう、だれも信用しんようできねえ。」

と、お百姓ひゃくしょうさんはいいました。

とうとう、がまんができなくなって、お百姓さんは町の肉屋にくやへでかけていき、金かねをはらってくれとねじこみました。肉屋はじょうだんだとばかり思っていましたが、お百姓さんはいいました。

「じょうだんごとじゃあねえ。おら、金をもらうだ。三日めえに、おめえさんとこのでっかい犬が、ぶち殺ころした牝牛めうしを、まるごともってこなかったかね。」

肉屋にくやはおこって、そこにあったほうきの柄えをつかむと、いきなりお百姓ひゃくしょうさんをたたきだしてしまいました。

「だが、待まてよ。世よのなかにゃあ、まだ道理どうりってものがあらあな。」

お百姓さんはこういうと、王さまのお城しろへでかけていって、うったえごとをきいてください、と、ねがいでました。お百姓さんは、王さまのまえにつれだされました。王さまはお姫ひめさまといっしょにすわっていましたが、お百姓さんを見ますと、どんなめにあったのかと、たずねました。

「ああ、犬とカエルがおらのものをとりましたで。そいから、肉屋のやつは、金のかわりにおらに棒ぼうをくらわしたでごぜえます。」

こういって、お百姓ひゃくしょうさんは、ことのしだいをくわしく話しました。それをきいたお姫ひめさまは、大きな声でわらいだしました。すると、王さまはお百姓さんにいいました。

「いまここで、おまえのもうすことがただしいとはきめられぬが、そのかわり、おまえにはわしのむすめをよめにやろう。むすめは生まれてからまだいちどもわらったことがない。それがいま、おまえをわらったのだ。わしは、むすめをわらわせたものに、むすめをやると約束やくそくしてあるのだ。おまえは、幸運こううんのお礼れいを神かみさまにもうすがよい。」

「いやあ、お姫ひめさまなんぞいりませんや。うちにゃ、たったひとりのかかあがいますだが、あいつひとりでもおおすぎまさあ。うちへけえりゃ、あっちのすみにもこっちのすみにも、かかあが立ってるような気がしますだ。」

と、お百姓さんはこたえました。

すると、王さまはおこって、

「おまえは礼儀れいぎを知らぬやつだ。」

と、いいました。

「でもなあ、王さま。」

と、お百姓さんはこたえました。

「牛からは、牛肉ぎゅうにくしかとることはできねえでごぜえますでな。」

「待まて。」

と、王さまがまたいいました。

「おまえには、べつのほうびをつかわすことにする。いまはさがって、三日たったら、もういちどまいれ。そのとき、五百つかわそう。」

お百姓ひゃくしょうさんがお城しろの門のまえまできますと、番兵ばんぺいがいいました。

「おまえはお姫ひめさまをわらわせたな。なにかそうとうのごほうびをいただいたろう。」

「うん、そのとおりだ。」

と、お百姓さんはこたえました。

「五百くださるってえことだ。」

「おいおい、おれにもちっとわけてくんなよ。おまえ、そんなにたくさんの金かねをもって、どうするんだ。」

「おめえのこったから、二百やらあ。三日たったら、王さまのところへ名のってでて、それだけもらいな。」

と、お百姓ひゃくしょうさんがいいました。

ひとりのユダヤ人がその近くにいて、この話をきいていました。ユダヤ人は、すぐにお百姓さんのあとを追おっていって、いいました。

「すばらしいことになりましたなあ。おまえさんは、なんてしあわせものなんだろう。わたしが両替りょうがえして、小銭こぜににかえてあげましょう。ターレルのような大きな金じゃ、しようがないでしょうから。」

「ユダ公こうかい。」

と、お百姓さんはいいました。

「おめえにゃ、まだ三百のこってら。いますぐ、小銭こぜにで三百くんな。あと三日たちゃ、王さまんとこで、それだけはらってくださらあ。」

ユダヤ人はちょっとしたもうけにほくほくして、質しつのわるいグロッシェン貨かでこの金額きんがくをもってきました。グロッシェン貨なら、三枚まいでも、質のいい金かねの二枚ぶんの値ねうちしかないのです。

三日たったところで、王さまのいいつけどおり、お百姓ひゃくしょうさんは王さまのまえにでました。

「この男の上着うわぎをはぎとれ。」

と、王さまがいいました。

「五百つかわすのだ。」

「あの、もうし。」

と、お百姓さんはいいました。

「その五百は、もうおらのもんではござりません。二百は番兵ばんぺいにくれてやりました。あとの三百は、ユダヤ人が両替りょうがえしてくれましただ。法律ほうりつのうえからいや、おらのものは一文いちもんもねえでござります。」

そこへ、番兵とユダヤ人がやってきて、お百姓ひゃくしょうさんからうまくせしめたつもりの金かねを、いただきたい、ともうしでました。そのため、ふたりはまちがいなくその数だけうたれました。番兵はじいっとがまんしていました。もうまえから、この味あじを知っていたからです。けれども、ユダヤ人はひいひい泣なきわめいて、

「ああ、いたっ。これが約束やくそくのターレル金貨きんかですかい。」

と、いいました。

王さまは、お百姓ひゃくしょうさんをわらわずにはいられませんでした。そして、いままでの腹はらだたしさもすっかりきえてしまって、こういいました。

「おまえは、ほうびをもらわぬうちに、なくしてしまったから、わしがうめあわせをしてやろう。わしの宝たからぐらへはいって、ほしいだけ金かねをもってくるがよい。」

お百姓ひゃくしょうさんはすぐさまとんでいって、大きなポケットへ、はいるだけぎゅうぎゅうにつめこみました。それから、茶店ちゃみせへいって、金をすっかりかぞえてみました。

ユダヤ人は、お百姓さんのあとからそっとついていって、お百姓さんがひとりでぶつぶついっているのをききました。

「王さまのとんちきめ、やっぱりおらをだましゃあがった。こんなに金をくれなきゃ、おらの金がいくらあるだか、ちゃんとわかるになあ。これじゃ、手あたりしだいにねじこんだやつが、いくらになるのか、見当けんとうもつきゃあしねえ。」

「とんでもねえ。」

と、ユダヤ人はひとりごとをいいました。

「あの野郎やろう、王さまのことを、あんなにひどくいってやがる。ちょいと走ってって、おとどけしてこよう。そうすりゃ、このおれはごほうびがもらえるし、あいつは罰ばつをくらうだろう。」

王さまは、お百姓ひゃくしょうさんのいったことをききますと、かんかんに腹はらをたてました。そして、ユダヤ人にむかって、おまえいって、そのふとどきものをひきつれてこい、といいつけました。

そこで、ユダヤ人はお百姓さんのところへかけつけました。

「おまえさん、ぐずぐずしないで、いますぐ王さまのところへいくんだよ。」

「どうすりゃええか、おらのほうがよく知ってら。」

と、お百姓さんがこたえました。

「まず、おらにあたらしい着物きものをこせえさせてくんねえ。なあ、そうだろ、ポケットにこんなにたくさんの金かねをもってる男がよ、古いおんぼろ服ふくのまんまでいかれもしねえじゃねえか。」

ユダヤ人は、お百姓ひゃくしょうさんがほかの上着うわぎをきないうちは、とてもつれていくことができないとみてとりました。それに、王さまのいかりがしずまったら、じぶんはほうびももらえなくなりますし、お百姓さんは罰ばつをうけないでもすむかもしれません。そう思いますと、気が気でなくなりました。そこで、

「おまえさんは友だちだから、ちょっとのあいだだけ、おれがきれいな上着をかしてやろう。人間てのは、なんでも愛あいの気持ちでやるものさ。」

と、いいました。こういわれますと、お百姓ひゃくしょうさんも承知しょうちしました。そこで、ユダヤ人の上着をきて、いっしょにでかけました。王さまは、ユダヤ人のつげ口したわる口のことをいいたてて、お百姓さんをしかりつけました。

「あれまあ。」

と、お百姓ひゃくしょうさんはいいました。

「ユダヤ人なんかのいうことはうそばっかりでごぜえます。あいつらの口からは、ほんとのことはひとことだってでたことはごぜえません。だいいち、ここにいる野郎やろうなども、おらがこいつの上着うわぎをきているなんていいたててますだ。」

「なんだと。」

と、ユダヤ人はさけびました。

「その上着がおれのじゃないと? そいつは、おまえが王さまのまえにでられるように、つい、気やすい気持ちからかしてやったもんじゃあないか。」

それをきいて、王さまは、

「ユダヤ人は、わしかこの百姓ひゃくしょうか、どっちかひとりをだましたにちがいない。」

と、いって、またまた、さっきのターレル金貨きんかを、さらにいくつかユダヤ人にくらわせました。

お百姓さんのほうは、いい上着をきて、ポケットにたんまり金かねをいれて、うちへかえりました。そして、

「こんどは、うまくあてたもんだ。」

と、いいました。

底本 / Source edition

底本:「グリム童話集(1)」偕成社文庫、偕成社
1980(昭和55)年6月1刷
2009(平成21)年6月49刷
※表題は底本では、「うまい商売《しょうばい》」となっています。
※誤植を疑った箇所を、「グリム童話集(1)」偕成社文庫、偕成社、1989(平成元)年5月26刷の表記にそって、あらためました。
入力:sogo
校正:チエコ
2020年1月24日作成
2023年9月6日修正
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TEI
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プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール、グリム ヴィルヘルム・カール「うまい商売」(新字新仮名)、底本『グリム童話集(1)』偕成社文庫、偕成社、1980年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 059518_001091, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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