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        <title type="main" xml:lang="ja">旅の仲間</title>
        <title type="reading" xml:lang="ja-Hira">たびのなかま</title>
        <author><persName xml:lang="ja"><surname>アンデルセン</surname><forename>ハンス・クリスチャン</forename><idno type="aozora-person-id">000019</idno></persName><persName xml:lang="ja-Hira"><surname>アンデルセン</surname><forename>ハンス・クリスチャン</forename></persName><persName xml:lang="ja-Latn"><surname>Andersen</surname><forename>Hans Christian</forename></persName></author>
        <respStmt><resp>翻訳者</resp><persName xml:lang="ja"><surname>矢崎</surname><forename>源九郎</forename><idno type="aozora-person-id">001891</idno></persName><persName xml:lang="ja-Hira"><surname>やざき</surname><forename>げんくろう</forename></persName><persName xml:lang="ja-Latn"><surname>Yazaki</surname><forename>Genkuro</forename></persName></respStmt>
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        <bibl><title>マッチ売りの少女　（アンデルセン童話集Ⅲ）</title><publisher>新潮文庫、新潮社</publisher><date>1967（昭和42）年12月10日</date><note type="input-edition">1981（昭和56）年5月30日21刷</note><note type="proof-edition">1982（昭和57）年3月5日22刷</note></bibl>
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      <classDecl><taxonomy xml:id="ndc"><bibl>日本十進分類法 (Nippon Decimal Classification), as recorded by <title>青空文庫</title> in its 分類番号 field.</bibl></taxonomy><taxonomy xml:id="aozora-orthography"><bibl><title>青空文庫</title> 文字遣い種別: the orthographic style Aozora Bunko records for the transcription.</bibl></taxonomy></classDecl>
      <refsDecl xml:id="source-spans"><p>A note of type source-span has an xml:id of the form source-START-END, giving the extent in UTF-8 bytes of the decoded primary text identified in sourceDesc. <ptr target="https://w3id.org/soranoha/ns/tei"/></p></refsDecl>
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      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-566-794">かわいそうに、ヨハンネスは、たいそう悲しんでいました。むりもありません。おとうさんが重い病気で、もう、たすかるのぞみがなかったのですからね。この小さな</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-794-812"><rb>部屋</rb><rt>へや</rt></ruby><seg source="#source-812-1051">には、ヨハンネスとおとうさんのほかには、だれもいませんでした。テーブルの上のランプは、いまにも、燃えきってしまいそうでした。もう、夜もすっかりふけていました。</seg></p>
      <p>「おまえはいい子だったね、ヨハンネス」と、病気のおとうさんは言いました。「世の中へ出ても、きっと、神さまがたすけてくださるよ」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-1242-1523">こう言って、おとうさんは思いつめた目つきで、やさしくヨハンネスを見つめました。それから、深い息をつくと、それなり死んでしまいました。見たところでは、まるで、眠っているとしか見えません。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-1523-2197">ヨハンネスは、わっと泣き出しました。いまは、この世の中に、おとうさん・おかあさんもいなければ、ねえさんや妹も、にいさんや、弟も、だれひとりいないのです。ああ、かわいそうなヨハンネス！　ベッドの前にひざをついて、死んだおとうさんの手にキスをしました。そして、さめざめと泣いて、あつい涙をたくさん流しました。けれども、そうしているうちに、いつのまにか、両方の目がふさがって、とうとう、ベッドのかたい足に、頭をもたせかけたまま、眠りこんでしまいました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-2197-2763">すると、ヨハンネスは、ふしぎな夢を見ました。夢の中では、お日さまとお月さまとが、自分におじぎをするのです。それから、おとうさんが、またもとのように、元気になっているのです。そして、何かうれしいときによく笑う、あの、いつもの、おとうさんの笑い声が聞えるのです。長い、きれいな髪の毛に、金のかんむりをかぶった、美しい少女が、ヨハンネスに手をさしのべました。すると、おとうさんが、</seg></p>
      <p>「すばらしいお嫁さんをもらったもんだな。世界一きれいだよ」と言いました。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-2873-3211">そのとたんに、目がさめて、楽しかった夢は、消えうせてしまいました。おとうさんは、やっぱり死んでいて、ベッドの中につめたく、横たわっています。あたりを見まわしても、ほかには、だれひとりいません。ああ、かわいそうなヨハンネス！</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-3211-3235">つぎの週に、お</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-3235-3259"><rb>葬式</rb><rt>そうしき</rt></ruby><seg source="#source-3259-3301">をしました。ヨハンネスは、お</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-3301-3316"><rb>棺</rb><rt>かん</rt></ruby><seg source="#source-3316-3628">のすぐうしろについていきました。あんなに自分をかわいがってくれた、大好きなおとうさんの顔を見るのも、いよいよ、きょうかぎりです。やがて、人々がお棺の上に、土を投げかける音がしました。でも、まだ、お棺のいちばん</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-3628-3664"><seg source="#source-3628-3634">はし</seg></hi><seg source="#source-3664-3960">は見えています。けれども、シャベルで、土をもう一すくいして投げかけると、それも見えなくなりました。ヨハンネスは、悲しくて悲しくてたまりません。あんまり悲しいので、いまにも、胸がはりさけそうでした。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-3960-4316">お墓のまわりで、みんなが讃美歌をうたいはじめました。その歌が、心の中までしみとおるようにひびきましたので、ヨハンネスの目には、涙がうかんできました。ヨハンネスは泣きました。でも、泣いたために、かえって、悲しみが、いくらかまぎれました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-4316-4459">お日さまが、緑の木々を、明るく照らしていました。まるで、こんなふうに、言っているようでした。</seg></p>
      <p>「そんなに悲しんではいけないよ、ヨハンネス。まあ、ごらん。お空があんなにきれいに、青々としているだろう。あの上に、いま、おまえのおとうさんはいるのだよ。そうして、おまえがいつも<hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-4723-4771"><seg source="#source-4723-4735">しあわせ</seg></hi>でいられるようにと、神さまにお願いをしているのだよ」</p>
      <p>「ぼくは、いつまでも、よい人でいます」と、ヨハンネスは言いました。</p>
      <p>「そうして、いつかは、天国のおとうさんのところへ行きます。ああ、おとうさんに、また会えたら、どんなにうれしいでしょう。ぼくには、おとうさんにお話ししてあげることが、いっぱいあるんです。おとうさんも、きっとまた、この世の中に生きていたときと同じように、ぼくにいろんなものを見せてくださったり、天国のすばらしいことを、たくさんお話ししてくださるでしょう。ああ、そうなったら、どんなにうれしいかしれません」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-5554-5683">ヨハンネスは、そのときのありさまを、心の中に思いうかべてみました。すると、涙がまだ、</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-5683-5698"><rb>頬</rb><rt>ほお</rt></ruby><seg source="#source-5698-6450">をつたわり落ちているというのに、思わず知らず、にっこりとほほえみました。小鳥たちは、トチノキのこずえにとまって、ピーチク、ピーチク、さえずっていました。お葬式にきているのに、小鳥たちがこんなにうれしそうにしていたのには、ちゃんと、わけがあったのです。というのも、小鳥たちは、死んだおとうさんが、いまは天国で、自分たちの羽よりも、ずっと大きなつばさを持っているということや、また、おとうさんはこの世の中でよいことをした人でしたから、いまではしあわせになっているということを、すっかり知っていたからです。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-6450-6732">ヨハンネスは、小鳥たちが、緑の木々を離れて、遠い世界へとんでいくのを見ると、自分もいっしょにとんでいきたくなりました。でも、それよりさきに、おとうさんのお墓の上に立てるように、大きな木の</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-6732-6762"><rb>十字架</rb><rt>じゅうじか</rt></ruby><seg source="#source-6762-7202">をつくりました。ヨハンネスは、夕方、それを持って、お墓へ行きました。ところが、どうでしょう。お墓には、きれいに砂がもってあって、そのうえ、花まで飾ってあるではありませんか。これは、よその人たちが、しておいてくれたのです。というのは、死んだおとうさんは、みんなにたいそう好かれていたからでした。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">あくる朝早く、ヨハンネスは、小さなつつみをこしらえました。そして、おとうさんの、のこしてくれた五十ターレルと、いくつかのシリング銀貨を、みんな、帯の中へしまいこみました。いよいよ、これから、広い世の中へ出ていこうというのです。でも、出かけるまえに、まず、おとうさんのお墓におまいりして、「主の祈り」をとなえました。そして、こう言いました。</p>
      <p>「おとうさん、さようなら。ぼくは、いつまでもよい人間でいますよ。だから、ぼくがしあわせになれるように、神さまにお願いしてくださいね」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">ヨハンネスが野原を歩いていくと、どの花もどの花も、暖かなお日さまの光をあびて、それはそれは美しく、いきいきとしていました。風にゆられながら、みんなは、うなずいてみせました。そのようすは、まるで、「よく来ましたね。ここは青々としていて、きれいでしょう」と言っているようでした。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-8330-8680">ヨハンネスは、もう一度、うしろをふりむいて、古い教会にお別れをつげました。この教会で、ヨハンネスは、赤んぼうのとき、洗礼をうけたのです。日曜日ごとに、いつも、おとうさんといっしょに、この教会へ行っては、讃美歌をうたったものでした。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-8680-8821">そのとき、ふと見ると、塔のてっぺんの小窓のところに、赤いとんがり帽子をかぶった、小さな教会の</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-8821-8845"><rb>妖精</rb><rt>ようせい</rt></ruby><seg source="#source-8845-9456">が立っていました。妖精は、お日さまの光が目にあたらないように、手をひたいにかざしています。ヨハンネスは、さようなら、というつもりで、妖精にむかって頭をさげました。すると、ちっぽけな妖精のほうでも、赤い帽子をふったり、手を胸にあてて、幾度も幾度も、キスを投げたりしてくれました。こうして、ヨハンネスがしあわせでいるように、そしてまた、楽しい旅をすることができるように、願っていることを、見せようとしたのです。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-9456-10043">大きな、すばらしい世の中へ出ていったら、さぞかし、たくさんの、美しいものが見られるだろうなあ、と、ヨハンネスは思いました。そこで、さきへさきへと、ずんずん歩いていきました。とうとう、今までに一度も来たことのない、遠いところまで来てしまいました。通りすぎる町も、見たことがありませんし、出会う人たちも、だれひとり見知った人はいません。もう、ヨハンネスは、遠い、よその国へ来てしまったのです。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-10043-10417">さいしょの晩は、野原のまん中の、かれ草の山の上で、眠りました。それよりほかには、寝床がなかったのです。けれども、この寝床は、とってもすてきでした。どんな王さまだって、こんなすてきな、寝床はもっていらっしゃらないだろう、と、ヨハンネスは思いました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-10417-10726">小川の流れている、広い広い野原、かれ草の山、見わたすかぎり広がっている青い空。なんとすばらしい寝室ではありませんか。赤だの白だの、小さな花の咲いている、緑の草原は、しきものです。ニワトコの茂みと、野バラの</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-10726-10750"><rb>生垣</rb><rt>いけがき</rt></ruby>は、花たばです。顔をあらうのには、きれいな、つめたい水の流れている小川がありました。そこでは、アシがおじぎをして、「おやすみ」とか、「おはよう」と言っていました。お月さまは、青い天井に高くかかっている、大きな大きなランプです。このランプなら、カーテンを燃やす心配はありません。ですから、ヨハンネスは、安心して、眠ることができました。そして、ほんとうにぐっすりと眠ったので、あくる朝、目がさめたときには、もうお日さまが高くのぼって、小鳥たちがまわりで歌をうたっていました。</p>
      <p>「おはよう、おはよう。まだ起きないの？」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-11519-12082">鐘の音が、教会からひびいてきました。きょうは、ちょうど、日曜日だったのです。人々はお説教を聞きに、教会へ行きました。ヨハンネスも、みんなのあとからついていって、いっしょに讃美歌をうたい、神さまのお言葉を聞きました。そうしていると、小さいときに洗礼をうけて、それからもたびたび、おとうさんといっしょに讃美歌をうたった、あのなつかしい教会にいるような気がしてなりませんでした。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-12082-12585">教会のうらの墓地には、ずいぶんたくさんのお墓がありました。中には、草がぼうぼうに生えているお墓も、いくつかありました。それを見ると、ヨハンネスは、おとうさんのお墓を思い出しました。おとうさんのお墓も、いつかは、こんなふうになってしまうかもしれません。だって、いまは、自分で草をとったり、おそうじをしてあげることができないのですから。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">そこで、ヨハンネスは、地べたにすわりこんで、草をぬいたり、たおれている木の十字架を立てなおしたり、風のためにお墓から吹きとばされた花輪を、もとのところへおいたりしました。心の中では、「もしかしたら、だれかが、おとうさんのお墓を、こういうようにしてくれるかもしれない。ぼくには、いま、自分でしてあげることができないんだもの」と思っていました。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-13100-13166">墓地の門の前に、ひとりの年とったこじきが、</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-13166-13196"><rb>松葉杖</rb><rt>まつばづえ</rt></ruby><seg source="#source-13196-13444">にすがって、立っていました。ヨハンネスは、持っていたシリング銀貨を、のこらずやりました。それから、気もはればれとして、元気よく、また広い世の中へと歩いていきました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-13444-14034">夕方から、おそろしくひどい天気になりました。ヨハンネスは、どこかにとまるところはないかと思って、いそいで歩いていきました。ところが、まもなく、まっ暗になってしまいました。それでも、やっとのことで、丘の上にたった一つ、ぽつんと立っているお堂に、たどりつきました。ありがたいことに、とびらが、すこしあいていました。ヨハンネスは、そこから中にはいって、あらしがやむまで、ここで待つことにしました。</seg></p>
      <p>「このすみっこに、腰かけるとしよう」と、ヨハンネスは言いました。「すっかりくたびれちゃった。すこし、休まなくちゃいけない」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-14219-14554">こう言いながら、ヨハンネスは、そこにひざまずき、手を合せて、夜のお祈りをとなえました。それから、いつのまにか、眠りこんで、夢を見ていました。外では、そのあいだも、いなずまがピカピカ光り、かみなりがゴロゴロ鳴っていました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-14554-15009">ヨハンネスが、目をさましたときは、もう、ま夜中でした。あらしは、とっくにすぎさっていて、お月さまが、窓から、ヨハンネスのところまで、明るくさしこんでいました。お堂のまん中に、ふたのしてない、お棺がおいてあって、その中に、死んだ人がはいっていました。この人は、まだお葬式をしてもらっていなかったのです。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-15009-15791">ヨハンネスは、それを見ても、心の正しい子供でしたから、ちっともこわくはありませんでした。それに、死んだ人は、なんにもわるいことはしないということも、よく知っていました。わたしたちにめいわくをかけたりするのは、生きている、わるい人たちだけなのですからね。ところが、そういうよくない、生きている人間がふたり、死んだ人のお棺のそばに立っていました。このふたりは、ほんとうによくないことをしようとしていました。死んだ、このかわいそうな人を、お棺の中に、そっと寝かしておかないで、お堂の外へほうり出してしまおうとしていたのです。</seg></p>
      <p>「どうして、そんなことをするんですか？」と、ヨハンネスはたずねました。「わるいことじゃありませんか。その人を、どうかそこに、休ませておいてあげてください」</p>
      <p>「ばかやろう」と、ふたりのひどい男は、言いました。「こいつは、おれたちをだましたんだぞ。おれたちから、金をかりておきゃあがって、返しもしねえうちに、死んじまやがったんだ。おれたちにゃ、一円だってはいりゃしねえ。だから、その<hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-16357-16399"><seg source="#source-16357-16366">かたき</seg></hi>をとってやろうってのよ。こいつを、イヌみたいに、お堂の外へおっぽり出しちまうんだ」</p>
      <p>「ぼくには、五十ターレルしかありませんが」と、ヨハンネスは言いました。「でもこれは、おとうさんがのこしてくれた、お金のぜんぶなんです。もしおじさんたちが、そのかわいそうな死んだ人を、そっとしておいてあげると、約束してくださるんなら、このお金をあげましょう。ぼくは、お金がなくったって、平気です。ぼくには、こんなにじょうぶで、強い手足があるんですもの。それに、神さまは、いつだって、ぼくをたすけてくださるんです」</p>
      <p>「ふん、そうか。おめえが、こいつの借りをはらおうってんなら、おれたちゃ、なんにもしねえよ。約束すらあ」と、そのひどい男たちは言って、ヨハンネスの出したお金をうけとると、こいつは、なんて人のいいこぞうだ、と、笑いながら、行ってしまいました。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-17500-17766">ヨハンネスは、死んだ人を、お棺の中にもう一度ちゃんと寝かせて、手をくみあわせてやりました。それから、さようならをいって、心も楽しく、大きな森の中を、ずんずん歩いていきました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-17766-18263">あたりを見ると、木の枝のあいだからもれてくる、お月さまの光の中で、かわいらしい、小さな妖精たちが、いかにも楽しそうに、あそんでいます。妖精たちは、ヨハンネスがやさしい、よい子供だということを知っていましたので、さわいだり、逃げたりしないで、そのままあそんでいました。妖精の姿を見ることができないのは、わるい人たちだけなんですよ。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-18263-18449">妖精たちの中には、指の大きさくらいしかないのもいました。みんな、長い金色の髪の毛を、金のくしでかきあげていました。見れば、</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-18449-18470"><rb>小人</rb><rt>こびと</rt></ruby><seg source="#source-18470-19102">たちは、ふたりずつに別れて、木の葉や、高い草の上にたまっている、大きな露のしずくの上で、玉乗りあそびをしていました。ときどき、しずくがころがり落ちると、その上に乗っている小人たちも、長い草のくきのあいだに、ころがり落ちました。すると、ほかの小人たちは、きゃっきゃっと笑って、大さわぎをしました。なんて、おもしろおかしいんでしょう！　妖精たちは、歌もうたいました。それは、ヨハンネスが小さいころにおぼえた、美しい歌でした。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-19102-19426">銀のかんむりをかぶった、きれいな大きいクモが、生垣から生垣へとわたり歩いて、長いつり橋をかけたり、御殿をつくったりしていました。その上にきれいな露がおりて、それが、明るいお月さまの光をうけると、まるで、光りかがやく</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-19426-19453"><rb>水晶</rb><rt>すいしょう</rt></ruby><seg source="#source-19453-19848">のように見えました。こうして、お日さまがのぼるまで、みんなは、楽しくあそびつづけました。けれども、お日さまがのぼるといっしょに、小さな妖精たちは、花のつぼみの中にはいってしまいました。橋だの、御殿だのは、風に吹かれて、大きなクモの巣のように、空にとび散りました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-19848-19961">ヨハンネスが、ちょうど森から出たときです。うしろのほうから、大きな声で、</seg></p>
      <p>「おーい、旅の人。どこへ行くのかね？」とさけぶ、男の声が聞えました。</p>
      <p>「広い世の中へ！」と、ヨハンネスは答えました。「ぼくは、おとうさんもおかあさんもない、あわれなものなんです。でも、神さまが、きっと、たすけてくださるんです」</p>
      <p>「わたしも、広い世の中へ出たいんだよ」と、その知らない男は言いました。「どうだね、ふたりで仲間になって、行かないかね？」</p>
      <p>「ええ、いいですよ」と、ヨハンネスは言いました。それから、ふたりは、いっしょに歩いていきました。ふたりとも、よい人たちでしたから、すぐに、仲よしになりました。けれども、ヨハンネスは、旅の仲間が、自分よりもずっと<hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-20798-20840"><seg source="#source-20798-20807">りこう</seg></hi><seg source="#source-20840-21013">なのに、すぐ気がつきました。この人は、いままでに、ほとんど世界じゅうを歩きまわっていて、なんでも知っているのです。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-21013-21201">お日さまは、もう、高くのぼっていました。そこで、ふたりは、とある大きな木の下に、腰をおろして、朝御飯を食べようとしました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-21201-21468">すると、そこへ、ひとりのおばあさんがやってきました。見れば、まあ、なんという年よりでしょう！　それこそ、もうよぼよぼで、腰もすっかりまがっているのです。それでも、おばあさんは、</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-21468-21483"><rb>杖</rb><rt>つえ</rt></ruby><seg source="#source-21483-21737">にすがって、背中には、森の中で集めてきた、まきを一たば、しょっていました。前にからげた前かけの中からは、シダとヤナギの枝でつくった、大きなむちが三本、のぞいていました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-21737-22096">おばあさんは、ふたりのそばまで来たとき、つるりと足をすべらせて、ころびました。いたいっ、と、おばあさんは、大きな声をあげました。むりもありません。ころんだ拍子に、片方の足をくじいてしまったのですもの。ほんとうに、気の毒なおばあさんです。</seg></p>
      <p>「ふたりで、このおばあさんを、うちまで連れていってあげましょうよ」と、すぐに、ヨハンネスが言い出しました。ところが、旅の仲間は、はいのうを開いて、小さな箱をとり出しました。そして、こう言うのです。</p>
      <p>「この中に、<hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-22410-22458"><seg source="#source-22410-22422">こうやく</seg></hi>がはいっているんだよ。これをおばあさんの足にぬってやれば、すぐになおるんだよ。そうすれば、おばあさんは、もとのように元気になって、ひとりで歩いて帰れるんだよ」それから、おばあさんにむかって、言いました。「おばあさん、足をなおしてあげるかわりに、その前掛けの中にある、三本のむちをくださいよ」</p>
      <p>「そりゃ、高すぎますよ」と、おばあさんは言って、みょうなふうに頭をふりました。そのむちは、どうしても、やりたくなかったのです。そうかといって、足をくじいたまま、こうしてたおれているのも、いやです。それで、おばあさんは、しかたなく、そのむちをわたすことにしました。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-23290-23658">おばあさんは、くじいた足に、こうやくをぬってもらうと、すぐに立ちあがって、前よりも元気に歩いていきました。もちろん、そうなったのも、こうやくのおかげです。といっても、このこうやくは、どこのくすり屋ででも、買えるというわけのものではありません。</seg></p>
      <p>「そんなむちを、どうするんですか？」と、ヨハンネスは旅の仲間にたずねました。</p>
      <p>「これで、きれいな花たばが三つできるよ」と、旅の仲間は言いました。「わたしは、こういうものが好きでね。かわりものだからさ」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-23959-24039">それから、ふたりは、また、かなり歩いていきました。</seg></p>
      <p>「あっ、天気がわるくなってきますよ」と、ヨハンネスは、言いながら、むこうの空を指さしました。「あんなにおそろしい黒雲が、むくむくと出てきましたよ」</p>
      <p>「いやいや、あれは雲じゃない。山だよ。しかも、山も山、大きな、りっぱな山なんだよ。てっぺんにのぼれば、雲の上に出て、すがすがしい空気がすえるんだ。まったくすばらしいよ。あしたは、きっと、あの山をこえて、もっとさきの広い世の中へ、行ってるだろう」と、旅の仲間は言いました。山は、見かけほど近くはありませんでした。ふたりが、山のふもとまで行くのに、まる一日かかってしまいました。山には、黒々とした森が、空にむかって、まっすぐつき立っていました。それから、町くらいもありそうな、ものすごく大きな岩もありました。こんな山をのぼるのは、さぞかし、骨がおれるにちがいありません。そこで、ヨハンネスと旅の仲間は、まず、宿屋にはいりました。ここで、ゆっくり休んで、あしたの山のぼりのために、元気をつけておこうと思ったのです。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-25324-25816">宿屋の一階にある大きな酒場には、大ぜいの人が集まっていました。それというのも、人形芝居をする男が来ていたからです。ちょうどいま、人形つかいが、小さな舞台をこしらえおわったところでした。みんなは、芝居を見物しようとして、ぐるりと、そのまわりに、腰をおろしていました。いちばん前の、しかもいちばんいい席には、でっぷりとした、肉屋の</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-25816-25840"><rb>親方</rb><rt>おやかた</rt></ruby><seg source="#source-25840-26085">が、腰かけていました。おとなりには、親方の大きなブルドッグがすわって、みんなと同じように、目玉をぐりぐりやっていました。おまけに、いまにもかみつきそうな顔をして。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-26085-26145">さて、芝居がはじまりました。王さまとお</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-26145-26163"><rb>妃</rb><rt>きさき</rt></ruby><seg source="#source-26163-26816">さまの出てくる、おもしろい芝居でした。おふたりは、頭に金のかんむりをかぶり、長いすそをうしろにひいて、それは美しい玉座に腰をおろしていました。おふたりは、たいへんなお金持でしたから、こんなりっぱなかっこうをしていることができたのです。ガラスの目をした、大きな八の字ひげのある、すてきにかわいらしい木の人形が、ドアというドアのところに立っていました。そして、あたらしい空気を部屋の中に入れるために、ドアをあけたり、しめたりしていました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-26816-27445">芝居のすじは、たいそうおもしろいもので、悲しいところなどは、すこしもありませんでした。ところが、お妃さまが立ちあがって、床を歩こうとしたときです。あの大きなブルドッグめは、いったい、なにを考えたというのでしょう。ふとった肉屋の親方がおさえなかったものですから、いきなり、舞台の上にとびあがって、お妃さまのほっそりした腰に、がぶりとかみついたのです。メリメリッという音がしました。いやはや、なんともおそろしいことです！</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-27445-27855">かわいそうに、人形つかいは、びっくりぎょうてん。こわれたお妃さまのことを、心からなげき悲しみました。なぜって、このお妃さまは、この人の持っている人形の中で、いちばんきれいな人形なのでしたから。それなのに、いま、このにくらしいブルドッグめが、頭をかみ切ってしまったのです。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-27855-28110">ところが、人々が、みんな行ってしまうと、ヨハンネスの旅の仲間が、その人形を、もとのようになおしてあげましょう、と言い出しました。そして、あの小さな箱をとり出して、人形に</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-28110-28158"><seg source="#source-28110-28122">こうやく</seg></hi><seg source="#source-28158-28340">をぬってやりました。そら、前にも、かわいそうなおばあさんが足をくじいたとき、ぬって、なおしてやった、あのこうやくですよ。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-28340-28757">それをぬったとたんに、人形は、もとどおりになりました。いやいや、それどころか、今度は、ひとりで、手足を動かすことができるようにさえなりました。これなら、もう、だれも、糸であやつってやる必要はありません。この人形は、ただ話すことができないだけで、あとは、生きている人間と、なんの</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-28757-28799"><seg source="#source-28757-28766">かわり</seg></hi><seg source="#source-28799-29125">もなくなりました。人形芝居の親方は、心からよろこびました。だって、そうでしょう。この人形は、ひとりで踊れるんですからね。もうこれからは、手で持っていなくてもいいわけです。こんなまねのできる人形は、ほかにはありません。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-29125-30201">やがて、夜がふけました。宿屋の人たちは、みんな、寝床にはいりました。すると、どこかで、だれかが、深いため息をついています。しかも、そのため息が、いつまでもいつまでもつづくのです。そこで、みんなは、もう一度起きあがって、だれだろうと、見に行きました。人形芝居の親方は、どうも、そのため息が、自分の小さな舞台のほうから、聞えてくるような気がしました。そこで、行ってみると、木の人形たちは、王さまをはじめ、王さまをまもっている兵隊たちまで、みんなかさなりあって、横になっています。この人形たちが、大きなガラスの目で、どこともなく、じいっと見つめながら、あんなあわれなため息をついているのでした。なぜって、みんなも、お妃さまと同じように、ちょっとこうやくをぬってもらって、ひとりで動くことができるようになりたかったのです。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-30201-30314">お妃さまは、すぐにひざをついて、りっぱな金のかんむりを高くささげながら、</seg></p>
      <p>「これをさしあげますから、どうか、わたしの夫と家来たちに、くすりをぬってやってくださいませ」と、たのみました。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-30481-30786">それを聞くと、この芝居の舞台と、ぜんぶの人形を持っている男は、かわいそうになって、思わず、涙ぐみました。この人は、心の底から、人形たちがかわいそうになったのです。そこで、さっそく、旅の仲間にむかって、</seg></p>
      <p>「四つか五つでけっこうですから、この中のいちばんきれいな人形に、くすりをぬってやってください。そうすれば、あしたの晩、芝居をやって、もうけたお金は、のこらず、あなたにさしあげます」と、申し出ました。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-31085-31123">ところが、旅の仲間は、</seg></p>
      <p>「あなたが腰にさげている、そのサーベルをください。ほかには、なんにもいりません」と、答えました。そして、サーベルをもらうと、旅の仲間は、六つの人形にこうやくをぬってやりました。すると、人形たちは、みるみるうちに、踊り出しました。その踊りのかわいらしいことといったら、人間の娘たちまでが、それを見ていた、ほんとうの人間の娘たちまでが、いっしょに踊りだしたくらいです。すると、今度は、<ruby type="furigana" rend="right" source="#source-31693-31717"><rb>御者</rb><rt>ぎょしゃ</rt></ruby><seg source="#source-31717-32196">と料理女も踊り出しました。つづいて、下男と女中たちも、見ていたお客さんたちも、みんな踊りはじめました。そればかりではありません。じゅうのうと、火ばしまでも、踊り出したのです。けれども、じゅうのうと、火ばしは、さいしょに一はねしたとたんに、ひっくりかえってしまいました。いやもう、なんともいえない、ゆかいな晩でした。――</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-32196-32873">あくる朝、ヨハンネスと旅の仲間は、みんなに別れをつげて、高い山をのぼりはじめました。大きなモミの木の森を通って、ずいぶん高くのぼっていきました。やがて、下のほうに見える教会の塔は、いちめんの緑にかこまれて、小さな赤いイチゴのようになりました。山の上からは、まだ行ったこともない、何マイルも何マイルも遠くのほうまで、見わたすことができました。こんなに美しい世界の、こんなにたくさんのすばらしいものを、いっぺんに見たことは、まだ一度もありませんでした。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-32873-33089">お日さまは、すがすがしい青い空から、それはそれは暖かく照っていました。かりゅうどたちが、山の中で吹いている角笛のひびきも、聞えてきました。その</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-33089-33110"><rb>音色</rb><rt>ねいろ</rt></ruby><seg source="#source-33110-33349">は、たとえようもないほど美しくて、心にしみ入るようでした。ヨハンネスの目には、ひとりでに、よろこびの涙が浮んできました。そして、思わず知らず、こう言いました。</seg></p>
      <p>「ああ、おなさけ深い神さま。ぼくは、あなたにお礼のキスをいたします。あなたは、ぼくたちみんなに、こんなに親切で、この世の中の、ありとあらゆる美しいものをくださったんですもの」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-33612-33788">旅の仲間も、手をあわせて、立っていました。そして、暖かなお日さまの光をあびながら、森や町をながめわたしていました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-33788-34375">そのとき、頭の上で、びっくりするほど美しい声がしました。見ると、大きな白いハクチョウが一羽、空をとんでいます。姿が美しいばかりか、そのうたう歌声は、いままで、どんな鳥からも聞いたことがないくらいでした。ところが、その歌声が、だんだん弱ってきました。と思っているうちに、ハクチョウは頭をたれて、ゆっくりと、ふたりの足もとに落ちてきました。そして、それなり、この美しい鳥は死んでしまいました。</seg></p>
      <p>「この鳥のつばさは、こんなに白くて大きいし、それに、こんなにきれいだから、二枚そろっていれば、きっと、お金になる。これを持っていこう。それそれ、サーベルをもらっておいたのが、こんなとき、役にたつだろう」と、旅の仲間は言いながら、死んだハクチョウのつばさを二枚、さっと切り落して、それを持っていきました。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-34830-35312">ふたりは、それからも山をこえて、何マイルも何マイルも旅をつづけました。とうとう、大きな町が、むこうのほうに見えてきました。何百という、たくさんの塔が、お日さまの光をあびて、銀のようにかがやいています。町のまん中には、赤い金の屋根をいただいた、りっぱな大理石の御殿がありました。そこに、この国の王さまが住んでいたのです。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-35312-35501">ヨハンネスと旅の仲間は、すぐに、町の中へはいっていかないで、町はずれの、とある宿屋によりました。町中を歩くとき、きちんとした</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-35501-35549"><seg source="#source-35501-35513">かっこう</seg></hi><seg source="#source-35549-35725">でいられるように、ここで身なりをととのえておこうと思ったのです。宿屋の主人は、ふたりにむかって、こんな話をしました。</seg></p>
      <p>「この国の王さまは、たいへんおやさしい、よい方で、どんな人をも苦しめるようなことはなさいません。それなのに、お嬢さまといったら、ほんとになさけない話ですが、それはひどいお姫さまなんですよ。おきれいなことは、たしかに、おきれいです。お姫さまくらいお美しくて、人の心をまよわすような方は、どこにもいませんでしょう。でも、そんなことが、なんになりましょう。と申しますのも、お姫さまは、ほんとうは、たちのわるい魔女なんですからね。りっぱな王子さまがたが、大ぜい命をなくされたのも、みんな、この方のためなんです。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-36480-37346">お姫さまには、どんな人が結婚を申しこんでも、さしつかえないことになっています。その人が、王子さまであっても、たとえ、こじきであっても、そんなことはかまいません。だれでもよろしいのです。ただ、その人は、お姫さまのお出しになる三つのなぞを、うまくとかなければなりません。もし、うまくとければ、お姫さまをお嫁さんにして、お姫さまのおとうさまが、おなくなりになったあとは、この国の王さまになれるというわけです。しかし、なぞがうまくとけない場合は、たいへんでして、その人は、その場で首をくくられるか、切られるかしてしまうのです。お姫さまは、お美しいのに、こんなにもひどい方なんですよ。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-37346-37621">お年よりの王さまは、このことを、たいそう悲しんでいらっしゃいます。けれども、そんなひどいことをしてはいけないと、お姫さまにおっしゃれないわけがあるんです。じつは、王さまは、以前に、</seg></p>
      <p>『おまえのところへ結婚を申しこんでくるものについては、なにも口を出さんことにする。おまえの好きなようにしなさい』と、お姫さまにおっしゃったことがあるものですからね。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-37869-38333">王子さまが、方々からおいでになって、お姫さまをもらおうと思って、なぞをとこうとなさいます。けれども、そのたびに、いつもうまくいかないで、首をくくられるか、切られるかしてしまうんです。むろん、そんなときには、町の人たちは、前もって王子さまがたに、結婚の申しこみをするのはおよしなさいと、とめはするんですがね。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-38333-38605">お年よりの王さまは、たびたび、こういう悲しい出来事が起るのを、心からなげいていらっしゃいます。年に一度は、かならず、兵隊たちといっしょに、一日じゅう、神さまのまえにひざまずいて、</seg></p>
      <p>『姫が、どうか、よい人間になってくれますように』と、お祈りをなさいます。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">しかし、そうなさっても、やっぱりお姫さまは、もとのままで、少しもおかわりになりません。町のおばあさんたちは、ブランデーを飲むときには、まず、まっ黒にしてから飲みます。そのくらい、みんなは、悲しんでいるんですよ。しかし、それ以上は、どうすることもできないのです」</p>
      <p>「ひどいお姫さまだなあ！」と、ヨハンネスは言いました。「そんなお姫さまこそ、ほんとうに、むちで打ってやるといい。そうすれば、すこしはよくなるかもしれない。もしぼくが、お年よりの王さまだったら、うんと、ひどいめにあわせてやるんだがなあ！」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-39466-39861">そのとき、おもてで、人々が、ばんざい、ばんざい、とさけぶ声が、聞えてきました。見れば、お姫さまのお通りです。なるほど、お姫さまは、たいそう美しい方です。そのため、だれもかれもが、お姫さまがひどい方であることも忘れて、ばんざい、ばんざい、とさけんでいるのでした。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-39861-40709">白い絹の着物を着た、十二人の美しい少女たちが、手に金のチューリップを持ち、まっ黒なウマに乗って、おそばにしたがっていました。お姫さまはと見れば、ダイヤモンドとルビーで、キラキラとかざりたてた、雪のようにまっ白なウマに乗っていました。お姫さまの乗馬服は、金の糸で織ってありました。手に持っているむちは、お日さまの光のようにさえ思われました。頭にいただいている金のかんむりは、まるで、夜空にきらめく星のようでした。がいとうは、何千もの、きれいなチョウの羽を集めて、ぬいあわせたものでした。それでも、お姫さまのほうが、こんな着物よりも、まだまだずっと美しかったのです。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-40709-41503">ヨハンネスは、お姫さまを一目見たとたん、まるで顔から血がしたたっているように、まっかになりました。ひとことも、口をきくことができません。このお姫さまこそ、おとうさんが死んだ晩に見た、夢の中の、あの、金のかんむりをかぶった、美しい少女にそっくりです。お姫さまがあんまり美しいので、ヨハンネスは、たちまち、大好きになりました。みんなの話だと、このお姫さまは、なぞをうまくとくことのできない人たちの、首をくくらせたり、切らせたりする、わるい魔女だということです。でも、そんなことは、うそにちがいない、と、ヨハンネスは心に思いました。</seg></p>
      <p>「そうだ。だれでも、お姫さまに結婚の申しこみをすることができるという話だ。たとえ、どんなに貧しいこじきでも。よし、ぼくも、これから御殿へ出かけよう。だって、もう、じっとしてはいられないもの」と、ヨハンネスは言いました。</p>
      <p>「そんなことは、およしなさい。きっと、ほかの人たちと、同じようなめに会いますよ」と、みんなは、口をそろえて言って聞かせました。旅の仲間も、あきらめるようにすすめました。けれども、ヨハンネスは、</p>
      <p>「ぜったいに、うまくいきます」と言って、靴や着物にブラシをかけたり、顔や手をあらって、きれいなブロンドの髪の毛に、くしを入れたりしました。それから、たったひとりで、町の中へはいって、御殿をさして行きました。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">ヨハンネスが、御殿のとびらを、トントンとたたくと、お年をとった王さまが、「おはいり」と、言いました。――ヨハンネスがとびらをあけると、お年よりの王さまが、長いガウンを着、ししゅうをしたスリッパをはいて、出てきました。頭には金のかんむりをいただいて、片手に、しゃくを持ち、もう一方の手には、金のたからの玉を持っていました。</p>
      <p>「ちょっとお待ち」と、王さまは言って、金の玉をわきの下にかかえてから、ヨハンネスに手をさし出しました。けれども、ヨハンネスが、ぼくは、お姫さまに結婚の申しこみをしにきました、と言うのを聞くと、はらはらと涙をこぼして、思わず、しゃくも金の玉も、床に落してしまいました。それから、ガウンで目の涙をふきました。なんという、お気の毒な、お年よりの王さまでしょう。</p>
      <p>「それだけはよしなさい」と、王さまは言いました。「おまえも、ほかのものたちと同じように、ひどいめに会いますぞ。まあ、これを見てごらん」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-43654-43836">こう言って、王さまは、ヨハンネスを、お姫さまの庭に連れていきました。見れば、身の毛もよだつような、おそろしい光景です！</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-43836-44528">木という木には、お姫さまに結婚を申しこんで、なぞを、うまくとくことのできなかった王子が、三人、四人と、つるされているのです。風が吹いてくるたびに、がいこつが、カタカタと鳴っているではありませんか。小鳥たちさえも、こわがって、この庭の中へは、はいってこようとしないのです。花は、どれもこれも、人間の骨にゆわえつけてあります。植木ばちには、人間の頭の骨が植わっていて、歯をむき出しています。ほんとうに、なんということでしょう。これが、お姫さまの庭なんですからね。</seg></p>
      <p>「わかったかね」と、お年よりの王さまは言いました。「おまえも、ここにいるほかの人たちと、同じめに会うことになるのだよ。だから、どうか、やめておくれ。おまえに、もしものことがあったら、わしは、ますます悲しくなって、いっそう不幸になるのだよ」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-44887-44994">ヨハンネスは、やさしいお年よりの王さまの手にキスをして、言いました。</seg></p>
      <p>「だいじょうぶ、うまくいきますよ。ぼくは、美しいお姫さまが大好きなのです」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-45107-45673">そのとき、お姫さまが、侍女たちを連れて、ウマに乗って、中庭へはいってきました。王さまとヨハンネスは、お姫さまをむかえて、あいさつしました。お姫さまは、ほんとうに美しい方です。いま、ヨハンネスにむかって、やさしく手をさしのべました。ヨハンネスは、前よりももっと、お姫さまが好きになりました。このお姫さまが、みんなの言うように、たちのわるい魔女だとは、どうしても考えられません。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-45673-45721">みんなは、広間へはいりました。</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-45721-45745"><rb>小姓</rb><rt>こしょう</rt></ruby><seg source="#source-45745-46104">たちが、砂糖づけのくだものだの、コショウのはいったクルミ菓子だのを持ってきました。しかし、お年よりの王さまは、悲しすぎて、なんにも食べることができませんでした。もっとも、クルミ菓子は、お年よりの王さまにとっては、すこしかたすぎましたがね。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-46104-46676">ヨハンネスは、あくる朝、もう一度、御殿へ来るように言われました。そのときには、裁判官と顧問官が、みんな集まって、ヨハンネスがどんな答えをするか、聞くわけなのです。うまくなぞがとければ、あと、もう二度、御殿へ来ることになっていました。といっても、いままでのところでは、さいしょのときに、なぞがとけたものは、ひとりもありませんでした。第一回めで、みんな、命をなくしてしまったのです。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-46676-47350">ヨハンネスは、自分がどうなるかということなどは、まるで考えてもみませんでした。それどころか、心から楽しそうに、いまはただ、美しいお姫さまのことばかり考えているのでした。そして、神さまが、きっとおたすけくださるものと、思っていました。でも、どういうふうにして、助けてくださるのかということは、さっぱりわからないのです。そこで、そのことは、考えないことにしました。ヨハンネスは、大通りを、小おどりしながら、旅の仲間の待っている宿屋に帰っていきました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-47350-47733">ヨハンネスは、お姫さまがとっても親切にしてくれたことや、びっくりするほど美しい方だったということを、くりかえしくりかえし、話しました。そして、あしたが待ち遠しくてなりませんでした。あしたは、いよいよ、御殿へ行って、なぞをといて、自分の運をためすのです。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-47733-47852">ところが、旅の仲間は、頭をふって、いかにも悲しそうなようすで、言うのでした。</seg></p>
      <p>「わたしは、おまえさんが大好きだよ。だから、もっといっしょにいたいんだが、ああ、もう、別れなければならないのか。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">かわいそうなヨハンネスさん。わたしは、泣きたいよ。だが、今夜は、きっと、ふたりでいっしょにすごす、さいごの晩になるんだから、おまえさんのよろこびをぶちこわしたくはない。ゆかいに、うんと楽しくすごそうよ。あした、おまえさんが出かけてしまったら、思いきり泣けるんだからね」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-48429-48741">町の人たちは、すぐに、だれかがまた、お姫さまに結婚を申しこんだことを知りました。それで、町じゅうが、深い悲しみにつつまれました。芝居小屋はしまってしまうし、菓子屋のおかみさんたちは、砂糖菓子の子ブタに、黒い</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-48741-48765"><rb>喪章</rb><rt>もしょう</rt></ruby><seg source="#source-48765-49148">をまきつけました。王さまと牧師さんたちは、教会でひざまずいて、神さまにお祈りをしました。ほんとうに、どこもかしこも、悲しみでいっぱいでした。むりもありません。ヨハンネスが、いままでの人たちよりも、うまくやるだろうとは、だれにも考えられませんでしたからね。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-49148-49303">夕方になると、旅の仲間は、大きなはちに、ポンスをいっぱい、作りました。そして、ヨハンネスにむかって、</seg></p>
      <p>「さあ、ゆかいにやろうよ。お姫さまのために、かんぱいしようじゃないか」と、言いました。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-49434-49683">ヨハンネスは、ポンスを二はい飲むと、どうにも眠たくなって、目をあけていることができなくなりました。そして、とうとう、眠りこんでしまいました。旅の仲間は、ヨハンネスを</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-49683-49701"><rb>椅子</rb><rt>いす</rt></ruby><seg source="#source-49701-49787">から、そっとだきあげて、ベッドの中に寝かしてやりました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-49787-50455">やがて、夜がふけて、あたりはまっ暗になりました。すると、旅の仲間は、ハクチョウから切りとってきた、あの大きな二つのつばさをとり出して、自分の肩に、しっかりとゆわえつけました。それから、いつか、足をくじいたおばあさんからもらった、三本のむちの中で、いちばん大きいのを、ポケットに入れました。それから、旅の仲間は、窓をあけて、御殿をさして、町の上をとんでいきました。御殿につくと、お姫さまの寝室の窓のすぐ下のすみっこに、ちぢこまってかくれました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-50455-50530">町じゅうが、しーんと、しずまりかえっていました。</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-50530-50551"><rb>時計</rb><rt>とけい</rt></ruby><seg source="#source-50551-51241">が、十二時十五分前をうちました。と、窓があいて、お姫さまが、長いまっ白ながいとうを着て、大きな黒いつばさをつけて、とび出しました。お姫さまは、町をこえて、大きな山のほうへむかって、とんでいきました。旅の仲間は、自分のからだが、よそから見えないようにしていました。それで、お姫さまには見つからずに、すぐそのあとを追いかけて、お姫さまのからだを、むちで打ちました。打ったところからは、血が流れ出ました。ああ、なんとおそろしい空の旅でしょう！　風のために、お姫さまの</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-51241-51289"><seg source="#source-51241-51253">がいとう</seg></hi><seg source="#source-51289-51483">はあおられて、まるで、大きな帆のように、あっちへもこっちへもひろがりました。それをすかして、お月さまの光が、ぼんやり見えました。</seg></p>
      <p>「まあ、ひどいあられだこと！　ひどいあられだこと！」と、お姫さまは、むちで打たれるたびに言いました。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-51635-51970">でも、お姫さまは、むちで打たれるくらい、しかたがありません。それでも、とうとう、山につきました。山につくと、お姫さまは、トントンと山をたたきました。すると、かみなりの鳴るような、すさまじい音がして、山がさっと開きました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-51970-52572">お姫さまは、中へはいっていきました。旅の仲間も、すぐあとにつづいて、はいりました。よそからは、からだが見えないようにしていましたから、だれも、旅の仲間に気がついたものはありませんでした。お姫さまと、旅の仲間は、大きな、長い廊下を通っていきました。廊下のかべは、ふしぎな光をはなっていました。それもそのはず、何千とも知れない光グモが、かべをはいあがったり、おりたりして、火のように光っていたからです。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-52572-53028">やがて、ふたりは、金と銀とでつくられた、大きな広間に出ました。ヒマワリほどもある、赤や青の大きな花が、かべにかがやいていました。けれども、この花をつむことは、だれにもできません。なぜなら、くきと見えたのは、じつは、見るもおそろしい、毒のあるヘビでしたし、また、花と思われたのは、そのヘビの口からはき出す</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-53028-53070"><seg source="#source-53028-53037">ほのお</seg></hi><seg source="#source-53070-53327">だったのです。天井では、ホタルがピカリピカリと光り、空色のコウモリが、うすいつばさを、バタバタうっていました。そのありさまは、なんともいいようのない、ふしぎな光景でした。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-53327-53414">広間のまん中に、玉座がありましたが、それは、四つのウマの</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-53414-53462"><seg source="#source-53414-53426">がいこつ</seg></hi><seg source="#source-53462-53977">の上にのっていました。くつわは、まっかな火のクモでできていました。玉座はといえば、乳色のガラスでできていました。クッションは、たがいにしっぽをかみあっている、小さな黒ネズミたちです。玉座の上には、バラのように赤いクモの巣の、天がいがありました。それには、見るもかわいらしい、小さな緑のハエがちりばめてあって、宝石のようにキラキラしていました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-53977-54244">その玉座には、ひとりの年とった魔法使いが、みにくい頭にかんむりをかぶり、手には、しゃくを持って、すわっていました。魔法使いは、お姫さまのひたいにキスをして、自分のそばのりっぱな</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-54244-54262"><rb>椅子</rb><rt>いす</rt></ruby><seg source="#source-54262-54300">に、腰をおろさせました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-54300-54692">やがて、音楽がはじまりました。大きな黒いキリギリスが、ハーモニカを吹き鳴らしました。フクロウは、たいこがないので、かわりに、自分のおなかをたたきました。なんておかしなコンサートでしょう。ちっぽけな黒い小人が、ずきんに鬼火をつけて、広間の中を踊りまわりました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-54692-54937">そうしているあいだも、旅の仲間の姿は、だれにも見えませんでした。ほんとうは、玉座のすぐうしろに立っていて、なにもかも、のこらず見たり、聞いたりしていたのでした。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-54937-55242">そのうちに、宮中の役人たちが出てきました。見れば、たいそうきれいで、じょうひんなようすをしています。しかし、ほんとうにものを見ることができる人ならば、その役人たちがなんであるか、すぐにわかるはずです。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-55242-55293">じつは、この役人たちは、ほうきの</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-55293-55323"><seg source="#source-55293-55296">え</seg></hi><seg source="#source-55323-55673">に、キャベツの頭が、くっついているだけだったのです。魔法使いが、それに命をふきこんで、ししゅうをした着物をきせてやっていたのです。けれども、そんなことは、どうだってかまいません。ただ、にぎやかに飾りたてるためのものだったのですから。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-55673-55897">それからも、踊りは、しばらくつづきました。そのあとで、お姫さまは魔法使いに、またあたらしく、結婚を申しこみに来た人のあることを話しました。そして、</seg></p>
      <p>「あしたの朝、その人が御殿へ来たら、どんなことを心に思っていて、たずねてみましょうか？」と、ききました。</p>
      <p>「いいかい。おまえに、いいことを教えてやろう」と、魔法使いは言いました。「なにか、ごくやさしいことを考えていなさい。そういうことは、あんがい思いつかんもんでな。そうだ、おまえの靴のことでも考えていなさい。まず、あたりっこないね。そうしたら、すぐ首を切らせなさい。だが、あすの晩、わしのところへ来るときには、忘れずに、そいつの目玉を持ってくるんじゃよ。もう、目玉が食いたくてたまらんからのう」</p>
      <p>「はい、目玉は、忘れずに持ってまいります」と、お姫さまは、ていねいにおじぎをして、言いました。魔法使いが山を開いてやると、お姫さまは、御殿を目ざして、とんで帰りました。旅の仲間も、すぐそのあとを追いかけて、お姫さまをむちで、打って打って、打ちのめしました。なんてひどいあられなんだろう、と、お姫さまは、深いため息をつきつき、大いそぎでとんで帰って、窓から寝室の中へはいりこみました。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-57217-57438">いっぽう、旅の仲間は、ヨハンネスがまだ眠っている宿屋にとんで帰りました。つばさをはずすと、くたびれきっていましたので、すぐに寝床にはいりました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-57438-57602">あくる朝、ヨハンネスは、ずいぶん早くから目をさましました。旅の仲間も起きあがって、こんなことを言いました。</seg></p>
      <p>「ゆうべは、みょうな夢を見ましたよ。それが、お姫さまと、お姫さまの靴の夢なんでね。だから、ヨハンネスさんや、『お姫さまは、ご自分の靴のことを、考えていらっしゃるんじゃありませんか』と、きいてごらんなさいよ」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-57913-58140">もちろん、これは、旅の仲間が、山の魔法使いから、自分の耳で、じかに聞いたことなのです。しかし、ヨハンネスには、そのことは、なんにも言いませんでした。</seg></p>
      <p>「ぼくは、なんて言うか、まだきめてないんです」と、ヨハンネスは言いました。</p>
      <p>「あなたが夢でごらんになったことは、きっと、ほんとうのことにちがいありません。だって、ぼくは、神さまが、きっと助けてくださると信じているんですもの。だけど、あなたともお別れですね。もしも、ぼくがやりそこなったら、もうこれっきり、お会いできないんですからね」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-58639-58794">そこで、ふたりは、キスをしあいました。それから、ヨハンネスは、町へはいって、御殿をさして行きました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-58794-58974">大きな広間は、人でいっぱいでした。裁判官たちは、ひじかけ椅子に腰かけて、頭のうしろに、カモのやわらかいわた毛のつまった</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-58974-59016"><seg source="#source-58974-58983">ふとん</seg></hi><seg source="#source-59016-59171">をあてていました。それというのも、この人たちは、いろんなことを、どっさり考えなければなりませんからね。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-59171-59480">お年よりの王さまは、立ちあがって、白いハンカチで、目の涙をふきました。まもなく、お姫さまがはいってきました。きょうはまた、お姫さまは、きのうよりもずっと美しく見えます。そして、そこにいる人々に、あいそよく</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-59480-59528"><seg source="#source-59480-59492">あいさつ</seg></hi>してから、ヨハンネスに手をさし出して、「おはようございます」と、言いました。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">いよいよ、ヨハンネスは、お姫さまが何を考えているか、言いあてることになりました。お姫さまは、やさしくやさしく、ヨハンネスを見つめました。ところが、たったひとこと、「くつ」という言葉が、ヨハンネスの口から出ると、お姫さまの顔の色は、たちまち、雪のようにまっ白になって、からだじゅうが、ぶるぶるふるえだしました。もう、どうすることもできません。ヨハンネスは、みごとに言いあてたのです。</p>
      <p>「みごとじゃ。よくやったのう！」お年よりの王さまは、どんなによろこんだことでしょう。あんまりうれしすぎて、つい、トンボ返りをうちました。それを見ていた人たちは、だれもかれも、王さまと、それから、はじめてうまく言いあてたヨハンネスとにむかって、さかんに拍手を送りました。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-60623-60979">旅の仲間も、うまくいったことを聞いて、たいそうよろこびました。ヨハンネスは、すぐに手をあわせて、神さまにお礼を申しあげました。神さまは、これからの二回も、きっと助けてくださるでしょう。つぎの日も、また、なぞをとくことになっていました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-60979-61773">その晩も、ゆうべとそっくり同じでした。ヨハンネスが眠ってしまうと、旅の仲間は、お姫さまのあとを追いかけて、山までとんでいくあいだじゅう、ゆうべよりももっと強く、むちでお姫さまを打ちました。今夜は、はじめから、むちを二本持っていったのです。そして、やっぱり、だれにも姿を見られずに、なにからなにまで、のこらず聞いてしまいました。今度は、お姫さまは、手袋のことを考えることになりました。そこで、旅の仲間は、またそれを夢で見たことにして、ヨハンネスに話してやりました。ですから、ヨハンネスは今度も、うまく言いあてることができました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-61773-62078">御殿では、みんな大よろこびです。役人たちは、きのう、王さまがなさったように、きょうは、みんなで、トンボ返りをうちました。けれども、お姫さまだけは、ソファに横になったきり、口をきこうともしませんでした。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-62078-62575">さあ、ヨハンネスは、はたして、三度めも、うまく言いあてることができるでしょうか。もしもうまくいけば、美しいお姫さまをもらうばかりか、お年よりの王さまがなくなったあとは、この国ぜんぶを受けつぐことになるのです。そのかわり、もしもしくじれば、命をなくしてしまうのです。おまけに、美しい青い目を、あの魔法使いに食べられてしまうのです。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-62575-62937">その晩も、ヨハンネスは、早く寝床にはいって、夜のお祈りをとなえました。それから、ぐっすりと眠りました。いっぽう、旅の仲間は、背中につばさをゆわえつけ、腰にサーベルをさげて、そして今夜は、むちを三本とも持って、御殿をさしてとんでいきました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-62937-63003">今夜は、まっ暗やみでした。おまけに、ひどい</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-63003-63045"><seg source="#source-63003-63012">あらし</seg></hi><seg source="#source-63045-63365">になりました。屋根のかわらは吹きとばされ、がいこつのぶらさがっている庭の木々は、風が吹くたびに、アシのようにゆれ動きました。いなずまは、ひっきりなしにピカピカ光り、かみなりは一晩じゅう、ゴロゴロ鳴りつづけました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-63365-63551">そのうちに、窓があいて、お姫さまがとび出しました。見れば、顔の色は、死んだ人のように青ざめています。けれども、このくらいの</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-63551-63593"><seg source="#source-63551-63560">あらし</seg></hi><seg source="#source-63593-64147">なら、まだたいしたことはない、といった顔つきで、このすさまじいあらしをも、鼻さきで笑っていました。お姫さまの白いがいとうは、風に吹かれて、大きな船の帆のように、空にパタパタひるがえりました。旅の仲間は、三本のむちで、お姫さまを打ちのめしました。血がぼたぼた地面にしたたり落ちました。お姫さまは、やっとの思いでとんでいきました。それでも、どうにか、山にたどりつきました。</seg></p>
      <p>「ひどいあられが降って、おそろしいあらしですわ」と、お姫さまは言いました。「こんなお天気に外へ出たことは、いままで一度もありません」</p>
      <p>「なあに、いいことだって、たんとあるだろうさ」と、魔法使いは言いました。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-64457-64594">お姫さまは魔法使いに、ヨハンネスが二度めも、ちゃんと言いあてたことを話しました。そして、</seg></p>
      <p>「もし、あしたも、うまく言いあてれば、あの男の勝ちになって、あたしは、あなたのところへ来られなくなりますし、いままでのように、魔法を使うこともできなくなります」と、言って、たいそう悲しみました。</p>
      <p>「今度こそ、言いあてさせるものか。よし、そいつの思いもおよばないことを考え出してやろう。それでも、だめなら、そいつは、わしよりえらい魔法使いにちがいない。まあ、そりゃあそうとして、ゆかいにさわごうじゃないか」と、魔法使いは言って、お姫さまの手をとりました。それから、ふたりは、広間にいる小人や鬼火たちといっしょに、ぐるぐる踊りまわりました。赤いクモも、元気よく、かべをとびあがったり、とびおりたりしました。ですから、火の花が、火花を散らしているように見えました。フクロウは<hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-65595-65637"><seg source="#source-65595-65604">たいこ</seg></hi><seg source="#source-65637-65810">をたたき、コオロギは口笛を吹き、黒いキリギリスはハーモニカを吹き鳴らしました。いやはや、じつにゆかいな舞踏会です！</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-65810-66091">それから、みんなは、さんざん踊りぬきました。もうぼつぼつ、お姫さまは、御殿へ帰らなければなりません。このくらいで帰らないと、御殿の人たちが、お姫さまのいないのに、気がついてしまいます。</seg></p>
      <p>「御殿まで送っていってやるよ。そうすれば、そのあいだだけでも、いっしょにいられるからね」と、魔法使いが言いました。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-66264-66680">そこで、ふたりは、すさまじいあらしの中へ、とび出していきました。旅の仲間は、ふたりの背中を、三本のむちで、力いっぱい、打ちのめしました。さすがの魔法使いも、こんなにひどくあられの降る中を、とんだことはありませんでした。御殿の上まで来ると、魔法使いは、お姫さまに別れをつげて、</seg></p>
      <p>「わしの頭のことを考えていなさい」と、そっと、ささやきました。それでも、旅の仲間には、その声が、はっきりと聞きとれました。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-66865-67683">お姫さまは、窓からそっと、寝室の中へすべりこみました。魔法使いのほうは、ひき返そうとしました。ところが、そのときです。旅の仲間は、魔法使いの長い、まっ黒なひげをつかんだかと思うと、いきなりサーベルを引きぬいて、そのみにくい頭を、首のつけ根のところから、切り落してしまいました。とうとう、魔法使いは、一度も、旅の仲間の姿を見ることができませんでした。旅の仲間は、魔法使いのからだを、湖の中へほうりこんで、さかなのえさにしました。頭だけは、水でよくあらってから、絹のハンカチにつつんで、宿屋に持って帰りました。それから、寝床にはいって眠りました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-67683-67787">あくる朝、旅の仲間は、ヨハンネスにハンカチのつつみをわたしながら、</seg></p>
      <p>「お姫さまが、『あたしは、なにを考えていますか？』と、きくまでは、このつつみをほどいてはいけませんよ」と、言いました。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-67966-68101">御殿の大きな広間には、大ぜいの人たちが、ぎっしりつめかけていました。まるで、赤ダイコンを</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-68101-68137"><seg source="#source-68101-68107">たば</seg></hi><seg source="#source-68137-68179">にしたみたいなありさまです。</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-68179-68209"><rb>顧問官</rb><rt>こもんかん</rt></ruby><seg source="#source-68209-68620">たちは、椅子に腰かけて、やわらかなふとんを頭のうしろにあてていました。お年よりの王さまは、あたらしい着物を着ていました。金のかんむりと、しゃくとは、ピカピカにみがいてあって、たいそうりっぱに見えました。ところが、お姫さまはというと、顔の色はすっかり青ざめています。しかも、お</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-68620-68644"><rb>葬式</rb><rt>そうしき</rt></ruby><seg source="#source-68644-68727">に出かけるときのような、まっ黒な着物を着ているのです。</seg></p>
      <p>「あたしは、いま、なにを考えていますか？」と、お姫さまは、ヨハンネスにたずねました。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-68855-69580">そこで、ヨハンネスは、ハンカチのつつみをほどきました。ところが、どうでしょう。ほどいたとたん、だれよりもさきに、自分のほうがびっくりしてしまいました。なにしろ、おそろしい魔法使いの首が、ころがり出たんですからね。あまりのものすごさに、だれもかれもが、ふるえあがりました。お姫さまは、石の像のように、じっとしたまま、ひとことも口をきくことができません。それでも、とうとう、立ちあがって、ヨハンネスに手をさし出しました。とにかく、ヨハンネスは、ぴたりと言いあててしまったのですからね。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-69580-69687">お姫さまは、だれの顔も見ないで、深いため息をつきながら、言いました。</seg></p>
      <p>「あたしは、あなたの奥さまになりますわ。今夜、結婚式をあげましょう」</p>
      <p>「よかった、よかった。では、そういうことにいたそう」と、お年よりの王さまは言いました。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-69922-70311">人々は、ばんざい、ばんざい、とさけびました。軍楽隊は、音楽をかなでながら、通りを行進しました。教会の鐘が鳴りわたりました。菓子屋のおかみさんたちは、砂糖菓子の子ブタから、黒い喪章を、またはずしました。いまは、町じゅうに、よろこびがみちあふれていましたから。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-70311-70823">おなかにカモとニワトリをつめて、まる焼きにしたウシが、三頭も、広場のまん中に持ち出されました。だれでも、それを一きれずつ、切りとっていいのです。ふんすいからは、すばらしくおいしいブドウ酒がほとばしり出ました。パン屋で一シリングのパンを買うと、大きなこむぎパンを六つも、おまけにくれました。それも、ほしブドウ入りの、上等のこむぎパンをです。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-70823-71421">夜になると、町じゅうにイルミネーションがつきました。兵隊たちは、お祝いの大砲をうちました。子供たちは、かんしゃく玉を鳴らしてあそびました。御殿では、にぎやかな宴会が開かれて、食べたり、飲んだり、かんぱいしたり、とんだり、はねたりで、たいへんな騒ぎです。おじょうひんな紳士がたと、美しいお嬢さんたちが、ひとりのこらず、手をとりあってダンスをしました。みんなのうたう声は、遠くのほうまで聞えました。</seg></p>
      <div type="layout" source="#source-71421-71774" style="padding-inline-start: 2em">
        <p><seg source="#source-71456-71509">そうら、そらそら、きれいなむすめ、</seg></p>
        <p><seg source="#source-71509-71553">みんなでそろって、踊ろうよ。</seg></p>
        <p><seg source="#source-71553-71603">さあさ、たいこを鳴らしておくれ。</seg></p>
        <p><seg source="#source-71603-71659">かわいい、この子よ、くるっとまわれ。</seg></p>
        <p><seg source="#source-71659-71700">トントントンと、踊ろうよ、</seg></p>
        <p><seg source="#source-71700-71738">靴のかかとのとれるまで。</seg></p>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-71778-72179">けれども、お姫さまは、まだ、魔女のままでした。ですから、ヨハンネスが、ちっとも好きになれません。旅の仲間は、それに気がつきました。そこで、ハクチョウのつばさからぬきとった、三枚の羽と、水ぐすりの少しはいっている小さなびんとを、ヨハンネスにわたして、こう言いました。</seg></p>
        <p>「水をいっぱい入れた大きなたらいを、花嫁さんのベッドのそばに、置いておかせなさい。そして、お姫さまがベッドにはいろうとしたら、ちょっと押してごらん。そうすれば、お姫さまは水の中へ落ちるから。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">そこでだね、水の中には、前もって、羽と、水ぐすりとを入れておいて、その中にお姫さまを、三度ほど、しずめなさい。そうすれば、魔法の力がとけて、お姫さまは、おまえさんが好きになるよ」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-72738-73664">ヨハンネスは、旅の仲間の言うとおりにしました。お姫さまは、水の中につけられると、大声にさけびたてました。けれども、みるみるうちに、大きな黒いハクチョウになって、目をぎらぎらさせながら、ヨハンネスの手の下で、もがきはじめました。二度めに水から出てきたときには、黒いハクチョウは、もう、まっ白になっていました。ただ、首のまわりにだけ、黒い輪がついていました。ヨハンネスは、まごころこめて、神さまにお祈りをしながら、もう一度ハクチョウを水につけました。と、その瞬間、ハクチョウは、世にも美しいお姫さまの姿にかわったではありませんか。お姫さまは、前よりも、ずっとずっときれいでした。そして、美しい目に、涙をいっぱいためて、</seg></p>
        <p>「魔法をといてくださって、ありがとうございました」と、ヨハンネスにお礼を言いました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-73792-74086">あくる朝、お年よりの王さまは、ご家来をみんな連れてきました。お祝いを申しあげに来る人たちは、いつまでもいつまでもつづきました。いちばんおしまいに、旅の仲間が来ました。見れば、手に杖を持ち、背中に</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-74086-74134"><seg source="#source-74086-74098">はいのう</seg></hi><seg source="#source-74134-74232">をしょっています。ヨハンネスは、くりかえしくりかえしキスをして、</seg></p>
        <p>「どこへも行かないでください。いつまでも、ぼくといっしょにいてください。だって、ぼくが、こんなにしあわせになれたのも、みんな、あなたのおかげなんですから」と、言いました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-74489-74590">ところが、旅の仲間は、頭をふって、しずかに、やさしく言いました。</seg></p>
        <p>「いやいや、わたしの時はおわったのだよ。わたしは、おまえさんに、かりていたものを返しただけなのさ。おまえさん、いつか、死んだ男を、わるいやつらが、ひどいめに会わそうとしていたのを、おぼえているかね。あのとき、おまえさんは、持っているものをみんな、そいつらにやって、死んだ男がお墓の中で、しずかに休むことができるようにしてやったね。その死んだ男が、じつは、このわたしなんだよ」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-75153-75242">こう言いおわると、旅の仲間の姿は消えてしまいました。――</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-75242-75740">ご婚礼のお祝いは、まる一月もつづきました。ヨハンネスとお姫さまは、おたがいに心から愛しあいました。お年よりの王さまは、それからのちも、それはそれは楽しい日々をすごしました。かわいらしい、小さなお孫さんたちを、ひざの上であそばせたり、しゃくをおもちゃにさせたりしました。いっぽう、ヨハンネスは、この国じゅうの王さまになっていました。</seg></p>
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        <note type="source-attribution" source="#source-75748-75981"><seg type="source-line">底本：「マッチ売りの少女　（アンデルセン童話集※［＃ローマ数字3、1-13-23］）」新潮文庫、新潮社</seg><lb/><seg type="source-line" style="padding-inline-start: 3em">1967（昭和42）年12月10日発行</seg><lb/><seg type="source-line" style="padding-inline-start: 3em">1981（昭和56）年5月30日21刷</seg></note>
        <note type="transcriber-note" source="#source-75981-76297"><seg type="source-line">入力：チエコ</seg><lb/><seg type="source-line">校正：木下聡</seg><lb/><seg type="source-line">2020年11月27日作成</seg><lb/><seg type="source-line">青空文庫作成ファイル：</seg><lb/><seg type="source-line">このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫（https://www.aozora.gr.jp/）で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。</seg></note>
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      </div>
      <note type="parser-completion" n="true">The n attribute is true when no parser diagnostic of error severity was raised for this source. What the converter could not interpret is recorded in the interpretation-problem and parser-diagnostic notes.</note>
      <note type="source-decoding">windows-31j</note>
      <note type="source-span" xml:id="parser-source-0">{
  "coordinate_system": "decoded_utf8",
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}</note>
      <note type="parser-diagnostic" subtype="warning" n="bouten-target-ambiguous" source="#parser-source-0">bouten_target_ambiguous</note>
      <note type="source-span" xml:id="parser-source-1">{
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  "end_line": 79,
  "line": 79,
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}</note>
      <note type="parser-diagnostic" subtype="warning" n="bouten-target-ambiguous" source="#parser-source-1">bouten_target_ambiguous</note>
      <note type="source-span" xml:id="parser-source-2">{
  "coordinate_system": "decoded_utf8",
  "end": 35549,
  "end_line": 94,
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}</note>
      <note type="parser-diagnostic" subtype="warning" n="bouten-target-ambiguous" source="#parser-source-2">bouten_target_ambiguous</note>
      <note type="source-span" xml:id="parser-source-3">{
  "coordinate_system": "decoded_utf8",
  "end": 51289,
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  "line": 131,
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}</note>
      <note type="parser-diagnostic" subtype="warning" n="bouten-target-ambiguous" source="#parser-source-3">bouten_target_ambiguous</note>
      <note type="source-span" xml:id="parser-source-4">{
  "coordinate_system": "decoded_utf8",
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  "end_line": 136,
  "line": 136,
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}</note>
      <note type="parser-diagnostic" subtype="warning" n="bouten-target-ambiguous" source="#parser-source-4">bouten_target_ambiguous</note>
      <note type="source-span" xml:id="parser-source-5">{
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}</note>
      <note type="parser-diagnostic" subtype="warning" n="bouten-target-ambiguous" source="#parser-source-5">bouten_target_ambiguous</note>
      <note type="source-span" xml:id="parser-source-6">{
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      <note type="parser-diagnostic" subtype="warning" n="bouten-target-ambiguous" source="#parser-source-6">bouten_target_ambiguous</note>
      <note type="source-span" xml:id="parser-source-7">{
  "coordinate_system": "decoded_utf8",
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      <note type="parser-diagnostic" subtype="warning" n="bouten-target-ambiguous" source="#parser-source-7">bouten_target_ambiguous</note>
      <note type="source-span" xml:id="parser-source-8">{
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      <note type="parser-diagnostic" subtype="warning" n="bouten-target-ambiguous" source="#parser-source-8">bouten_target_ambiguous</note>
      <note type="source-span" xml:id="parser-source-9">{
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}</note>
      <note type="parser-diagnostic" subtype="warning" n="bouten-target-ambiguous" source="#parser-source-9">bouten_target_ambiguous</note>
      <note type="source-span" xml:id="parser-source-10">{
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}</note>
      <note type="parser-diagnostic" subtype="warning" n="bouten-target-ambiguous" source="#parser-source-10">bouten_target_ambiguous</note>
      <note type="source-span" xml:id="parser-source-11">{
  "coordinate_system": "decoded_utf8",
  "end": 74134,
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      <note type="parser-diagnostic" subtype="warning" n="bouten-target-ambiguous" source="#parser-source-11">bouten_target_ambiguous</note>
    </back>
  </text>
</TEI>