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        <title type="main" xml:lang="ja">お墓の中の坊や</title>
        <title type="reading" xml:lang="ja-Hira">おはかのなかのぼうや</title>
        <author><persName xml:lang="ja"><surname>アンデルセン</surname><forename>ハンス・クリスチャン</forename><idno type="aozora-person-id">000019</idno></persName><persName xml:lang="ja-Hira"><surname>アンデルセン</surname><forename>ハンス・クリスチャン</forename></persName><persName xml:lang="ja-Latn"><surname>Andersen</surname><forename>Hans Christian</forename></persName></author>
        <respStmt><resp>翻訳者</resp><persName xml:lang="ja"><surname>矢崎</surname><forename>源九郎</forename><idno type="aozora-person-id">001891</idno></persName><persName xml:lang="ja-Hira"><surname>やざき</surname><forename>げんくろう</forename></persName><persName xml:lang="ja-Latn"><surname>Yazaki</surname><forename>Genkuro</forename></persName></respStmt>
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        <bibl><title>マッチ売りの少女　（アンデルセン童話集Ⅲ）</title><publisher>新潮文庫、新潮社</publisher><date>1967（昭和42）年12月10日</date><note type="input-edition">1981（昭和56）年5月30日21刷</note><note type="proof-edition">1982（昭和57）年3月5日22刷</note></bibl>
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      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-578-794">家の中は、ふかい悲しみで、いっぱいでした。心の中も、悲しみで、いっぱいでした。四つになる、いちばん下の男の子が、死んだのです。この子は、ひとり</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-794-815"><rb>息子</rb><rt>むすこ</rt></ruby><seg source="#source-815-976">でした。おとうさんと、おかあさんにとっては、大きなよろこびであり、また、これから先の希望でもあったのです。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-976-1090">この子には、ねえさんがふたり、ありました。上のねえさんは、ちょうどこの年、</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-1090-1123"><rb>堅信礼</rb><rt>けんしんれい</rt></ruby><seg source="#source-1123-1497">を、受けることになっていました。ふたりとも、おとなしくて、かわいらしい娘たちでした。けれども、死んだ子供というものは、だれにとっても、いちばんかわいいものです。それに、この子は末っ子で、ひとり息子だったのです。ほんとうに、悲しい、つらいことでした。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-1497-1832">ねえさんたちは、若い心をいためて、悲しみました。おとうさんとおかあさんが、なげき悲しんでいるのを見ると、いっそう悲しくなりました。おとうさんは、深くうなだれていました。おかあさんは、大きな悲しみにうちまかされていました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-1832-2599">おかあさんは、夜も昼も、病気の坊やにつききりで、看病したり、だいてやったりしたものでした。おかあさんは、この子が、自分の一部だということを、はっきりと感じました。坊やが死んで、お棺に入れられ、お墓の中にうめられるなどということは、おかあさんにとっては、どうしても考えることができませんでした。神さまだって、まさか、この子をお取りあげになるようなことはなさるまい、と、おかあさんは思ったのです。それなのに、その坊やが、とうとう、死んでしまったのです。おかあさんは、あまりの悲しさに、われを忘れてこう言いました。</seg></p>
      <p>「神さまは、ごぞんじないのですね。神さまは、なさけを知らない<hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-2689-2731"><seg source="#source-2689-2698">しもべ</seg></hi><seg source="#source-2731-2848">を、この世におつかわしになったのです。なさけしらずのしもべたちは、自分かってな</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-2848-2896"><seg source="#source-2848-2860">ふるまい</seg></hi>をして母親の祈りを、聞いてはくれないのです」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-2964-3500">おかあさんは、悲しみのあまり、神さまを見うしなってしまいました。すると、暗い考えが、死の考えが、しのびよってきました。人間は、土の中で土にかえり、それとともに、すべてはおわってしまう、という、永遠の死の考えです。こういう考えにつきまとわれては、もう、なに一つ、たよるべきものもありません。おかあさんは、底しれない絶望のふちへ、深く深くしずんでいきました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-3500-4120">いちばん苦しいときには、おかあさんは、泣くことさえできませんでした。もう、娘たちのことも、考えませんでした。おとうさんの涙が、自分のひたいの上に落ちてきても、目をあげて、おとうさんを見ようともしませんでした。おかあさんは、死んだ坊やのことばかり思いつづけていたのです。いまのおかあさんは、ただひとえに、坊やの思い出を、坊やの言ったむじゃきな言葉を、一つ一つ、呼びもどそうとするために生きているようなものでした。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-4120-4141">いよいよ、お</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-4141-4165"><rb>葬式</rb><rt>そうしき</rt></ruby><seg source="#source-4165-4468">の日がきました。それまでというもの、おかあさんは、一晩も眠ったことがありませんでした。その日の明けがた、おかあさんは、くたびれすぎて、つい、うとうとしました。そのあいだに、みんなは、坊やのお棺を、離れの</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-4468-4486"><rb>部屋</rb><rt>へや</rt></ruby><seg source="#source-4486-4686">に運んでいって、そこで、ふたを打ちつけました。もちろん、それは、くぎを打つ音が、おかあさんに聞えないように、というためだったのです。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-4686-4874">おかあさんは、目をさますといっしょに、起きあがって、坊やを見ようとしました。すると、おとうさんが、涙を浮べて、言いました。</seg></p>
      <p>「もう、ふたをしてしまったよ。一度は、そうしなければならないのだ」</p>
      <p>「神さまが、わたしに、こんなにつらくなさるのなら」と、おかあさんはさけびました。「人間が、よくなるはずはありません」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-5151-5219">おかあさんは、わっと、涙にかきくれました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-5219-5836">坊やのお棺は、お墓に運ばれました。希望をうしなったおかあさんは、娘のそばにすわって、ただぼんやりと、娘のほうを見ていました。でも、ほんとうに見ているのではありません。心の中で考えていることは、もう、のこった家族のことではありませんでした。おかあさんは、ただ、悲しみに身をまかせきっていました。ちょうど、かいとかじとをうしなった小船が、荒海にもてあそばれるように、おかあさんは、悲しみにもてあそばれていました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-5836-6531">こうして、お葬式の日はすぎました。それからは、おも苦しく悲しい日が、幾日も幾日もつづきました。家の人たちは、みんな、悲しみにしずんで、うるんだ目と、くもったまなざしとで、おかあさんを見つめるばかりでした。おかあさんをなぐさめようとしても、そんな言葉には、耳をもかたむけようとしないのです。それに、家の人たちにしても、いったい、どんななぐさめの言葉を言うことができたでしょう。みんなの心は、あまりにも悲しすぎて、なぐさめの言葉を口にすることもできなかったのです。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-6531-6839">おかあさんは、まるで、眠りというものを、忘れてしまったようでした。しかも、その眠りだけが、おかあさんのからだを強くし、おかあさんの心の中に、平和を呼びもどすことのできる、いちばんいいお友だちでしたのに。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-6839-7039">おかあさんは、みんなにすすめられて、ようやく、寝床に横になりました。そして、まるで眠っている人のように、じっと横になっていました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-7039-7623">ある晩のことです。おとうさんは、おかあさんのね息を、しばらく、うかがっていました。今夜は、おかあさんは、気持よく、ぐっすりと眠っているようです。そこで、おとうさんは、両手を合せて、お祈りをすますと、自分も横になって、すぐに、ぐっすりと寝こんでしまいました。ですから、そのあとで、おかあさんが寝床から起き出して、着物を着、そっと、家をぬけ出していったのには、すこしも気がつきませんでした。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-7623-8171">いま、おかあさんが、行こうとしているところは、おかあさんが、夜となく昼となく、思いつづけているところ、つまり、かわいい坊やのはいっているお墓だったのです。おかあさんは、家の庭を通りぬけて、畑へ出ました。畑からは、町の外側を通っている、細い道が、墓地まで通じています。おかあさんは、だれにも見られませんでした。おかあさんのほうでも、だれの姿をも見かけませんでした。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-8171-8350">その晩は、お星さまのキラキラかがやいている、美しい夜でした。やっと、九月になったばかりで、空気はまだおだやかでした。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-8350-9300">おかあさんは、墓地にはいって、小さなお墓のそばへ行きました。そのお墓は、かおりのよい、一つの大きな花たばのように見えました。おかあさんは、そこにすわって、顔をお墓に近づけました。まるで、あつい地面の中に、かわいらしい坊やの姿が見えるはずだとでもいうようです。すると、坊やのほほえみが、ありありと思い出されてきました。病気の床に寝ていたときでさえも、坊やが見せた、あのかわいらしい目つき。あの目つきは、とうてい忘れられるものでありません。それから、おかあさんが、寝ている坊やの上に、からだをかがめて、自分では動かすことのできなくなった、小さな手をとってやると、坊やの目は、あんなにも、ものを言いたそうに、かがやいたではありませんか。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-9300-9599">いま、おかあさんは、坊やの寝床のそばにすわっていたときと、同じような気持で、お墓のそばにすわっていました。でも、あのときとはちがって、いまは、涙がとめどもなくあふれ出て、お墓の上に流れおちました。</seg></p>
      <p>「おまえは、子供のところへおりていきたいのだね」という声が、すぐそばでしました。その声は、はっきりと、低くひびいて、おかあさんの心の中までも、しみ入りました。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-9838-10179">目をあげて見ると、そばに、大きな喪服を着た人が立っています。ずきんを、まぶかにかぶっていますが、その下から顔も見えました。きびしい顔つきですが、いかにも、たよりになりそうです。その目は、若者の目のように、かがやいていました。</seg></p>
      <p>「坊やのところへ！」と、おかあさんは答えました。その声には、絶望しきって、お願いするひびきが、こもっていました。</p>
      <p>「わしについてくる勇気があるかな」と、その人は、たずねました。「わしは、死神だが」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-10474-10572">そこで、おかあさんは、はいというように、うなずいてみせました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-10572-10776">と、とつぜん、空の星という星が、満月のようにかがやきはじめました。お墓の上の花も、色とりどりの美しさにかがやきました。地面が風にゆれる</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-10776-10824"><seg source="#source-10776-10788">うすぎぬ</seg></hi><seg source="#source-10824-11357">のように、静かに、静かにしずんでいきました。おかあさんもしずんでいきました。そのとき、死神は、黒いマントを、おかあさんのまわりにひろげました。あたりは、まっ暗な夜になりました。それは、死のやみ夜でした。おかあさんは、墓ほりのシャベルでも、とどかないくらい、深いところまでしずんでいきました。墓地は、頭の上のほうに、ちょうど天井みたいに横たわっていました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-11357-11620">マントのはしが、わきへのけられました。見ると、おかあさんは、いつのまにか、気持のよい広々とした、りっぱな広間の中にきています。まわりにはぼんやりと、うす明りがさしています。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-11620-11722">気がついてみると、目の前に、死んだ坊やがいるではありませんか。その</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-11722-11749"><rb>瞬間</rb><rt>しゅんかん</rt></ruby><seg source="#source-11749-12565">、おかあさんは、坊やをしっかりと胸にだきしめました。坊やはおかあさんに、かわいらしくほほえみかけました。見れば、前よりも、ずっと大きくなっています。おかあさんは、思わず大きな声を出しました。でも、その声は、すこしもひびきませんでした。なぜなら、美しいふくよかな音楽が、おかあさんのすぐそばで鳴ったかと思うと、今度は、ずっと遠くで、それからまた近くで、というふうに、たえず鳴りひびいていたからです。おかあさんは、いままでに、こんなにも楽しい音楽を聞いたことがありませんでした。その音楽は、この広間を大きな永遠の国からへだてている、まっ黒な、あつい</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-12565-12607"><seg source="#source-12565-12574">とばり</seg></hi><seg source="#source-12607-12663">のむこうから、ひびいてくるのでした。</seg></p>
      <p>「大好きなおかあさん！　ぼくのおかあさん！」と、いう坊やの声がしました。それこそ、かたときも忘れたことのない、かわいい坊やの声です。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-12863-13060">おかあさんは、かぎりない幸福を感じて、坊やにキスの雨をふらせました。すると、坊やは、まっ黒なとばりのほうを指さして、言いました。</seg></p>
      <p>「地の上は、こんなにきれいじゃないねえ。ごらんよ、おかあさん。みんな見えるでしょ。あれは、幸福というものだよ」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-13227-13775">けれども、おかあさんには、なんにも見えません。坊やが、指さしたところにも、まっ暗な暗やみのほかは、なんにも見えないのです。おかあさんは、この世の目でもって、ものを見ていたのでした。神さまが、おそばへお召しになった、坊やのようには、ものを見ることができなかったのです。それでも、音楽だけは聞えました。でも、信じなければならない言葉は、ひとことも聞えなかったのです。</seg></p>
      <p>「おかあさん。ぼくは、いまは、とぶこともできるんだよ」と、坊やは言いました。「元気のいい子たちといっしょに、みんなで、神さまのところへとんでいくの。ぼく、とっても行きたいんだけど、でも、おかあさんが、いまみたいに泣くと、おかあさんのところから、離れることができなくなっちゃうんだよ。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">でも、ぼく、神さまのところへ、とっても、とっても行きたいの。行ってもいいでしょ。おかあさんだって、もうじき、ぼくのところへ来るんだものね」</p>
      <p>「いいえ、いいえ、ここにいておくれ。ここにいておくれ！」と、おかあさんは言いました。「ほんの、もうすこしのあいだだけでも。もう一度だけでいいから、おまえの顔を見せておくれ。キスをさせておくれ。おかあさんの腕に、しっかりとだかれておくれ」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-14768-14860">おかあさんは、坊やにキスをして、しっかりとだきしめました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-14860-15096">そのとき、上のほうから、おかあさんの名前を呼ぶ声が、聞えてきました。その声には、悲しいひびきがこもっていました。いったい、それは、なんだったのでしょうか？</seg></p>
      <p>「ほら、おかあさん」と、坊やは言いました。「おとうさんが、ああして、おかあさんを呼んでるじゃないの」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-15248-15433">それから、すこしすると、今度は、深いため息が聞えてきました。なんだか、すすり泣いている、子供の口からもれてくるようです。</seg></p>
      <p>「ああ、ねえさんたちだ」と、坊やが言いました。「おかあさん。ねえさんたちのこと、忘れちゃいないね」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-15582-16103">言われて、おかあさんは、この世にのこしてきた人たちのことを、思い出しました。と、きゅうに、心配になってきました。前のほうを見ると、人のかげが、ひっきりなしに、ふわふわと通りすぎていきます。なかには、たしかに見おぼえのある、かげも、いくつかあります。そういうかげは、死の広間を、ふわふわと通りすぎて、黒いとばりのほうへ行き、そこで姿を消しました。</seg></p>
      <p>「もしかしたら、おとうさんと、娘たちが来たのかしら。いいえ、そんなことはないわ。だって、みんなの呼び声や、ため息は、まだ上のほうから聞えるもの」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-16321-16458">おかあさんは、死んだ坊やのために、もうすこしで、みんなのことを忘れてしまうところでした。</seg></p>
      <p>「おかあさん、いま、天国の鐘が鳴っているよ」と、坊やは言いました。「おかあさん、いま、お日さまが、のぼってくるよ」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-16631-16882">そのとき、一すじの強い光が、おかあさんのほうに流れてきました。――坊やはいなくなりました。おかあさんのからだは、だんだん、上へ上へと、ひきあげられていきました。――</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-16882-17292">と、きゅうに、寒くなりました。頭をあげてみると、おかあさんは、墓地の中の坊やのお墓の上に、たおれているではありませんか。神さまは、夢の中で、おかあさんの足のささえとなり、おかあさんの考えの光となってくださったのです。おかあさんは、すぐに、ひざまずいて、お祈りをしました。</seg></p>
      <p>「ああ、神さま！　永遠の魂を、かってに、わたくしのそばに、引きとめようとしましたことを、どうか、おゆるしくださいませ。そしてまた、わたくしには、生きている人たちへの、義務がありましたのに、それを忘れましたことも、どうか、おゆるしくださいませ」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-17657-17782">こう、お祈りをしますと、おかあさんの心は、すっかり軽くなったような気がしました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-17782-17910">そのとき、お日さまがあらわれました。一羽の小鳥が、頭の上で、さえずりはじめました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-17910-18392">やがて、教会の鐘が、朝のお祈りのために鳴り出しました。あたりは、こうごうしい気分でいっぱいになりました。おかあさんの心の中も、こうごうしい気持で、いっぱいになりました。おかあさんは、神さまを知ることができました。義務をも、知ることができました。いまは、あこがれで、胸をいっぱいにふくらませて、いそいで家にかえりました。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-18392-18779">おかあさんは、寝ているおとうさんの上に、身をかがめました。おとうさんは、おかあさんのま心こめた暖かいキスで、目をさましました。ふたりは、心を開いて、胸にしまっていることを話しあいました。おかあさんは、一家の主婦として、強く、やさしくなりました。おかあさんの</seg><ruby type="furigana" rend="right" source="#source-18779-18800"><rb>唇</rb><rt>くちびる</rt></ruby><seg source="#source-18800-18859">からは、なぐさめの泉が、わき出ました。</seg></p>
      <p>「神さまのみ心が、いつも、いちばんよいものです」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-18933-18989">すると、おとうさんがたずねました。</seg></p>
      <p>「おまえは、いったいどこで、それほどの力と、それほどの心のなぐさめを、きゅうに、もらってきたんだね？」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-19144-19275">おかあさんは、おとうさんにキスをし、それから、娘たちにもキスをして、こう言いました。</seg></p>
      <p>「神さまからいただきましたの。お墓の中の、坊やのおかげで」</p>
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        <note type="source-attribution" source="#source-19370-19603"><seg type="source-line">底本：「マッチ売りの少女　（アンデルセン童話集※［＃ローマ数字3、1-13-23］）」新潮文庫、新潮社</seg><lb/><seg type="source-line" style="padding-inline-start: 3em">1967（昭和42）年12月10日発行</seg><lb/><seg type="source-line" style="padding-inline-start: 3em">1981（昭和56）年5月30日21刷</seg></note>
        <note type="transcriber-note" source="#source-19603-19918"><seg type="source-line">入力：チエコ</seg><lb/><seg type="source-line">校正：木下聡</seg><lb/><seg type="source-line">2020年1月24日作成</seg><lb/><seg type="source-line">青空文庫作成ファイル：</seg><lb/><seg type="source-line">このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫（https://www.aozora.gr.jp/）で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。</seg></note>
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      <note type="parser-completion" n="true">The n attribute is true when no parser diagnostic of error severity was raised for this source. What the converter could not interpret is recorded in the interpretation-problem and parser-diagnostic notes.</note>
      <note type="source-decoding">windows-31j</note>
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</TEI>