Soranoha

復員

ふくいん

坂口 安吾

四郎は南の島から復員した。帰つてみると、三年も昔に戦死したことになつてゐるのである。彼は片手と片足がなかつた。

家族が彼をとりまいて珍しがつたのも一日だけで翌日からは厄介者にすぎなかつた。知人も一度は珍しがるが二度目からはうるさがつてしまふ。言ひ交した娘があつた。母に尋ねると厄介者が女話とはといふ顔であつた。すでに嫁入して子供もあるのだ。気持の動揺も鎮つてのち、例によつて一度は珍しがつてくれるだらうと訪ねてみることにした。

女は彼を見ると間の悪い顔をした。折から子供が泣きだしたのでオムツをかへてやりながら「よく生きてゐたわね」と言つた。彼はこんな変な気持で赤ン坊を眺めたことはない。お前が生きて帰らなくとも人間はかうして生れてくるぜと言つてゐるやうに見える。けれども女の間の悪さうな顔で、彼は始めてほのあたゝかいものを受けとめたやうな気がして、満足して帰つてきた。

底本 / Source edition

底本:「新潮 第百十五巻第四号」新潮社
2018(平成30)年4月7日
底本の親本:「朝日新聞」朝日新聞大阪本社
1946(昭和21)年11月4日
初出:「朝日新聞」朝日新聞大阪本社
1946(昭和21)年11月4日
入力:尾形ななか
校正:きゅうり
2018年9月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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書誌 / Bibliography
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坂口 安吾「復員」(新字旧仮名)、底本『新潮 第百十五巻第四号』新潮社、2018年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 059166_001095, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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