Soranoha

飢餓の中から

きがのなかから

中野 鈴子

腹は凹んで皮ばかりのようだ

口はほせからツバも出ない

目はかすんでものが見えぬ

三分作なのに地主はおしかけて来た

来年の年貢をよこせと

そして 手をあわせて拝むわたしらを尻目にかけ

一粒のこらず かっさらって行った

毎日毎晩

わたしらは夢中で外へ這い出た

キョロキョロになって吹雪の中をかけまわった

木の根をむしった

草の芽をかんだ

見つけ次第

犬猫を殺し奪い合って食った

腹がキリキリした

ゲイゲイ吐いた

いまは 一匹の犬猫も見えぬ

一つの木ノ芽もない

娘らは小娘のからだで女郎に売られて行った

その金は借金取がおさえた

息子らは満州へ×いやられた

たくさんの息子らと一しょに箱づめにされ

そして停車場へかけつけたわたしらを

ホームへも入れなかった

さし出す息子らのかおを押しこめ

汽車の窓を閉じた

わたしらは地面に頭をおしつけて泣きくずれた

じたばた踏んだ

おお もはや

村中には

息子も娘も犬猫も木ノ芽もない

そして

腹がひっついてしまい目が見えぬ

だが

このままでいると思うか

なるほどヒョウも降った

雨も降り過ぎた

けれども自作農は七分作だぞ

わたしは肥料が買えなかったのだ

去年もおととしも

このままでは

来年もさらいねんもズッとキキンだぞ

おお わたしらの胸は煮えかえる

わたしらを飢えにさらし

戦争を企て………

そいつらはなにか!

満蒙もう事変とは何か!

わたしらはスッパ抜いたぞ

わたしらは起ち上がる

起ち上がり

奴らを×しかえす

しぼりかえす

わたしらは 心をあわせ

打って一丸となり

奴らめがけて

やり抜いて見せるぞ

ひもじい腹

かすむ目

こごえる寒さ

その中で

わたしの闘こころ志はたぎる

底本 / Source edition

底本:「中野鈴子全詩集」フェニックス出版
1980(昭和55)年4月30日初版発行
底本の親本:「プロレタリア文学 第一巻第五号」日本プロレタリア作家同盟出版部
1932(昭和7)年4月25日発行
初出:「プロレタリア文学 第一巻第五号」日本プロレタリア作家同盟出版部
1932(昭和7)年4月25日発行
※初出時の署名は「一田アキ」です。
入力:津村田悟
校正:夏生ぐみ
2018年11月24日作成
2021年5月28日修正
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
/works/058799_001637/tei
プレーンテキスト / Plain text
/works/058799_001637/plaintext
書誌 / Bibliography
/works/058799_001637/

中野 鈴子「飢餓の中から」(新字新仮名)、底本『中野鈴子全詩集』フェニックス出版、1980年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 058799_001637, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite