Soranoha

文学の本筋をゆく

ぶんがくのほんすじをゆく

佐藤 春夫

文学の本筋をゆく

坂口安吾選集

佐藤春夫

坂口安吾の文学はいささか奇矯で反俗的なところはあつても、文学としては少しも病的なものではなく、高邁な精神をひそめたすぐれたものと思ふ。その点、太宰治のどこまでも頽廃的でいぶしのかかつたセンチメンタルなものよりわたくしは坂口の文学の方が文学の本筋だと思つてゐる。

坂口は世俗的などんな先入観念にも煩はされるところなくぢかに人間を見た。そのため人間の心理は彼は可なり深く知るところである。それ故、彼の文学は、創作とばかりは限らず、雑感随筆のたぐいまで、その囚はれないものの見方、濶達な人がらがよく出てゐて、おもしろい。太宰のものが現代青年のものであるのに対比して坂口の文学は将来のおとなの文学だとも思へる。

わたくしは素直に人智の進歩発達を信じて年来、文学の常識も年々に健全な発達を遂げてゐると見てゐるものであるが、一般の読者が太宰の文学に堪能してこれを卒業したころになつて、坂口文学の真価がもう一度見直され、やがて正常に理解され愛読されるものとなるのを疑はない。その日までしばらく坂口の文学を保存して置くものとして、この六巻の選集は貴重なものである。

この度の発売の巻中では彼の歴史小説中の白眉といふべき信長は宛然作者の自画像のおもかげのあるのは最も面白い。

底本 / Source edition

底本:「定本 佐藤春夫全集 第25巻」臨川書店
2000(平成12)年6月10日初版発行
底本の親本:「読売新聞 夕刊」
1956(昭和31)年8月1日発行
初出:「読売新聞 夕刊」
1956(昭和31)年8月1日発行
入力:えんどう豆
校正:夏生ぐみ
2018年9月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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書誌 / Bibliography
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佐藤 春夫「文学の本筋をゆく──坂口安吾選集」(新字旧仮名)、底本『定本 佐藤春夫全集 第25巻』臨川書店、2000年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 058684_001763, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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