Soranoha

『言林』改訂版の序

『げんりん』かいていばんのじょ

新村 出

旧版の『言林』は、昭和二十四年(一九四九年)の早春に出たのであったが、幸にして一般文化界、殊に教育界や読書界に普及し歓迎されて、編著および発行に従事協力しあったわれわれが均しく喜んでやまなかった所であった。しかし、出版以来すでにいつしか八年の星霜を経て、その間、文化界における諸般の実質ならびに形式上の発展と改進、とりわけ国語教育の方面の漸進的、いなむしろ躍進的とも称したい程度の革新により、原始の『言林』の漢字面において根本的に改訂をほどこさねばならなくなった。これは、学校教育者からの要望を主として、あちこち本辞典の利用者からの忠言でもあったのである。従って、この書をして時代後れの恨みなからしめるためには、出来るだけすみやかに、何をおいても漢字の字体を時様に改めねばならなくなった。まして、新語、新釈語、新外来語、新術語等々の増加に対しても、時運に応ずる適当な処置をとる必要を痛感したと同時に、旧版の分における不備や欠点などを補修してゆくべき義務をもこのさい果すに努める時機が到来したことを省慮したのであった。

しかるに幸にも、旧版『言林』刊行以来、編集に終始一貫絶大な協力をされた溝江八男太翁をはじめ、優秀な若い編集者が、今日の改訂のために全国書房にとどまり旧に倍する努力を加え、よりよき辞書を世におくるために多大の労苦をささげられたる事を私は深く感銘する。更にまたこの種辞典の改訂には想像以上の歳月と莫大な資金を要すべきこと勿論なるが、全国書房社長田中秀吉氏の文化に対する熱意と友情のために岡野清豪氏及び岡崎真一氏が並々ならぬ助力をおしまれなかった美挙を聞き、ひそかにその翼賛を多とした次第である。

言の葉の林のこのまみどりしてももちどり鳴く春は来にけり(昭和三十二年正月十五日)

底本 / Source edition

底本:「新村出全集第九巻」筑摩書房
1972(昭和47)年11月30日発行
初出:「言林」全国書房
1957(昭和32)年5月改訂版
※表題は、「改訂版の序」に辞書名を補い、底本編集時に与えられたものです。
入力:フクポー
校正:きゅうり
2019年4月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

この表示について / About this rendering

記録は下にリンクした署名済みの TEI ファイルです。このページはそれを読むための一つの形です。読みが複数ある箇所は一つだけを本文に示し、もう一方は語の title に残しています。 / The record is the signed TEI file linked below. This page is one way of reading it. Where the text has more than one reading, the page shows one of them and keeps the other on the word itself, in its title text.

リリース / Release
913b24012e1626b47bebf5a14fd31773728229efdb088f1ceb934717c1ac800c
TEI
/works/058501_001938/tei
プレーンテキスト / Plain text
/works/058501_001938/plaintext
書誌 / Bibliography
/works/058501_001938/

新村 出「『言林』改訂版の序」(新字新仮名)、底本『新村出全集第九巻』筑摩書房、1972年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 058501_001938, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite