Soranoha

美

び

高村 光太郎

美

〔私は美術のことに〕

高村光太郎

私は美術のことに從つてゐる者なので、この世の美について常に心を用ゐざるを得ない。そして世人の普通考へてゐるやうな眼や感情に、ただ奇麗に見える事物を直ちに美なりとする考へ方を、もう一歩深めてもらひたいと熱望してゐる。

美とは決してただ奇麗な、飾られたものに在るのではない。事物ありのままの中に美は存するのである。美は向うにあるのではなく、こちらにあるのである。芋蟲は身ぶるひの出る程いやだといふ人達が、蠶はおこさまと言つて吾が子のやうに愛しいつくしむ。それを莊子のやうに、利のあるところに愛ありと解するのは誤であつて、事物に深く親しみ、事物を深く觀察するところから自然とその美を感ずるに至る好例なのである。戰場にある軍人が多く歌俳句を好むやうになるのは一切を洗ひ流した魂がおのづから深い美を萬物に求めるからであらう。美を淺い、うはべなものと思はないやうにしたい。

底本 / Source edition

底本:「高村光太郎全集第五卷」筑摩書房
1957(昭和32)年12月10日初版第1刷発行
1995(平成7)年2月20日増補版第1刷発行
初出:「令女界 第十八巻第十二号」宝文社
1939(昭和14)年12月1日発行
※〔〕付きの副題は、作品の冒頭をとって、ファイル作成時に加えたものです。
※初出時の表題は「美について」です。
入力:岡村和彦
校正:nickjaguar
2019年3月29日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
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書誌 / Bibliography
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高村 光太郎「美──〔私は美術のことに〕」(旧字旧仮名)、底本『高村光太郎全集第五卷』筑摩書房、1957年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 058184_001168, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite