Soranoha

新刊紹介

しんかんしょうかい

伊藤 野枝

伝説の時代 タマス、ブルフインチ著
野上彌生子訳
 定価弐円 尚文堂発行

七百頁に近い大部なもので、全部四十一章に別れてゐて古代希臘ギリシア羅馬ローマの神話東方北方の伝説が残らず集まって「集まって」はママゐる。

訳しぶりが如何にも自由で平易でちつともギコチないところがなくて読んで行くうちに、やさしいお母さんのお話でも聞いてゐるやうな気持になる暖か味を感ずる。活き〱した自由な拘束のない古代の神々や英雄ののんびりした、何処となくせまらぬ、動作がはつきり浮んで来る。そしてせゝこましい自分達のいまの生活と遠くかけはなれた、それ等の物語りがよんで行くものゝ心持を、だん〱にその純なところに引き込んで行く。

装幀も気のきいた、気もちのいゝものだ。中にはさんだ写真版にも、ロセツチのパンドーラなどのいゝのがあるが、それよりも、章の初めにはさんだ挿画がこの物語りの本の挿画にする為めに集められたかのやうに、しつくりと、あてはまつてゐて、すこしもいやな感がしない。すこしも目障りにならない。兎とに角かく全体として、念の入つた、ちつともいゝかげんでなく何処までも注意のとゞいてゐる点がうれしい。

それに、おしまひに神話の系譜や索引までも丁寧につけてあるのは、あくまでも行き届いた仕方だと感心した。この大部な面倒な仕事を家事の忙しいあひまで、立派に完成せられた、訳者の忍耐と、努力には本当に敬服の他はない。

[『青鞜』第三巻第九号、一九一三年九月号]

底本 / Source edition

底本:「定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代」學藝書林
2000(平成12)年5月31日初版発行
底本の親本:「青鞜 第三巻第九号」
1913(大正2)年9月号
初出:「青鞜 第三巻第九号」
1913(大正2)年9月号
※〔〕付きの副題は、作品の冒頭をとって、ファイル作成時に加えたものです。
※「読んで」と「よんで」、「気持」と「気もち」の混在は、底本通りです。
入力:酒井裕二
校正:かな とよみ
2022年2月25日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
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プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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伊藤 野枝「新刊紹介──〔伝説の時代〕」(新字旧仮名)、底本『定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代』學藝書林、2000年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 057049_000416, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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