Soranoha

書簡 大杉栄宛

しょかん おおすぎさかえあて

伊藤 野枝

宛先 東京市麹町区三番町六四 第一福四萬館

発信地 千葉県夷隅郡御宿 上野屋旅館

停車場を出ると、前の支店でしばらく休んで、それから宿に帰へりました。帰つてからも室へやにゆくのが何んだかいやなので、帳場で話をして、それから室にはいると直ぐあの新聞を読んで、中央公論を読んで仕舞ひました。思つたほど何んでもなかつたので、すつかりつまらなくなつて室中を見まはしました。何も彼も出かけた時のままになつてゐます。座蒲団が二つ、それからたつた今まであなたが着てゐらしつた浴衣。それを見てゐると急にさびしくなりました。

枕を引きよせてもう何にも考へまいと思つて横になると、五時頃まで眠りました。それから起されてお湯にはいつて、子供を寝かして、御飯をすませて、今煙草を一本のんだところです。それから菊池(幽芳)さんに手紙を書かうと思つてペンをとりますと、先まづやつぱりあなたに書きたいので書き初めたのです。今時分は四谷(堀保子)のお宅にでもゐらつしやるのでせうね。

あなたが行つてお仕舞ひになると、私の気持もさびしく閉ぢ、天気も曇つて風が出てまゐりました。潮の遠鳴りが一層聞えます。でも、大変静かな、落ちついた気持でゐられます。この分では仕事もずん〱進むでせう。

[『大杉栄全集』第四巻、大杉栄全集刊行会、一九二六年九月]

底本 / Source edition

底本:「定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代」學藝書林
2000(平成12)年5月31日初版発行
底本の親本:「大杉栄全集 第四巻」大杉栄全集刊行会
1926(大正15)年9月8日
入力:酒井裕二
校正:雪森
2016年1月4日作成
青空文庫作成ファイル:
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書誌 / Bibliography
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伊藤 野枝「書簡 大杉栄宛──(一九一六年五月七日 一信)」(新字旧仮名)、底本『定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代』學藝書林、2000年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 057003_000416, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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