## 岩魚

――宋青磁浮紋双魚鉢――

五月のあかるい昼さがり

あまりに生の時間が重いので

私はひとり青磁の鉢を見ている

空いろの底に

二匹の岩魚が見えたりかくれたり

すぎる風に水がゆれると

岩魚の背もかすかに紅いろに光る

また　水底をよぎる遠い宋時代の雲

ながい時間のかげりをひいて

愁いの淵に岩魚は　ねむり

時に目を醒まして　はねると

いつのまにか蒼天をおよいでいる

## 鮭

白い皿の上の

鮭の切身

午前九時の青い太陽の

投影する北国の水の中

おいつめられたあいつが

きゆうといつて息たえた時

あいつの鱗は全部虹色に光つた

午前九時になると

いつでも　あいつの亡霊が

白い皿の海を

いつたりきたりする

## すずめ

ながい間

雀は小さい卵をあたためていた

熱つぽい胸毛をひやすために

初夏の夕暮れに飛びたつた

岸辺の

青い風のふいている竹藪の梢にとまり

風にゆれながら

しばらくは羽毛をくしけずり

羽虫をふるい落した

それから　きりつと威厳をつくつて

菫いろに暮れてゆく山脈をながめ

遠くまで光る川をながめ

うす紅いろにかがやく雲をながめ

それから　首をかしげて

卵の中で鳴いているひよこたちの

かすかな声をきいていた

## 落日

小綬鶏は人道をよけて通る

ひよこをおおぜいひきつれ

ひくい声でしかりながら

ばらばらに散開しておおいそぎで通る

向うに深い竹やぶがある

その中の

夕日のゆれる陽だまりで

小綬鶏たちはたがいに呼びあつてかたまる

ぽとつと　ひとつ桐の花が落ちてくる

やがて日がしずみかかる

何百本とある青い竹の幹の一つ一つに

ちかちかと黄いろい灯がともつて消える

## 西瓜畑

昨日まで

ごろごろころがつていた　西瓜畑に

今日は

何にもない

未知の人に盗まれたのだ

原つぱと空ばかりがあつた

白い雲が往つたり来たりして

西瓜を探している

一人の若い女がやつてきた

女は西瓜のことなど知りはしない

充実した腰をふりながら

のぼせた顔をして

すたすたと　未知の世界へ行つた

やがて女も消えた

原つぱがあつて　その上に空があつた

## 遠い友よ

風のなか

まひるの山の峠で出あつた

あなたよ

こかげの岩かげで

二人はしばらく　蝉の声に

耳をかたむけ

遠い雲をみていたつけ

あなたはのぼり道　私は下り

あのひとときの出会い

みじかい対話

あかるい　イメージ

風のなか「さようなら」

桔梗が一本ゆれていたつけ

あなたは　やがて

白い夏帽子に真昼の陽をうけ

蝶のように

すすきのかげに消えていつた

## 石の思想

広い河原にいつて

石の間にもぐり込むのがすきだ

石たち自らの追憶　その二十億年は

昨日のようだ

二十億年前の　青い蝶が

ほら　石原をよこぎつてゆくのが見える

石たちの上を　時間がゆつくりゆつくり

あるいている

ほら　一匹のバツタが

しだいに　巨視像となつて

永劫の空に映し出される

光り　かげり　また光る　雲たち

廻転しながらいつか無の中に消える地球

ぼくも　石たちも　バツタも

やがて　消滅するために

今は

ちからいつぱい光つている