## めぎつね

野狐の背中に

雪がふると

狐は青いかげになるのだ

吹雪の夜を

山から一直線に

走つてくる　その影

凍る村々の垣根をめぐり

みかん色した人々の夢のまわりを廻つて

青いかげは　いつの間にか

鶏小屋の前に坐つている

二月の夜あけ前

とき色にひかる雪あかりの中を

山に帰つてゆく雌狐

狐は　みごもつている

## 黄昏いろのきつね

山からおりて来た狐が

村の土橋のあたりまでくると

その辺の空気が狐いろになつた

残照のうすらあかりの中で

狐がたそがれいろになつたのだ

葦がさやさやと鳴つた

風は村の方角から吹いている

狐は一本のほそい

あるかないかの影になつて

村の方へ走つた

かくて

狐はまた一羽白い鶏を襲つた

## おぎつね

黄昏どきの冬山は静かだ

一匹の雄狐が

枯木の三叉にのぼつている

はがれた皮だけのように

うすつぺらになつている

狐は鉄のにおいをぷんぷんさして

山すそから登つてくる見えない狩人の姿を

ちやんと見ていた

そいつの足音がいやらしい欲望の音である

のもしつているのだ

雄狐はゆつくり木からおりた

そして　月光いろの雌狐が待つている

四次元の寂寥の中へ消えていつた

## きつね

狐は知つている

この日当たりのいい枯野に

自分が一人しかいないのを

それ故に自分が野原の一部分であり

全体であるのを

風になることも枯草になることも

そうしてひとすじの光にさえなることも

狐いろした枯野の中で

まるで　あるかないかの

影のような存在であることも知つている

まるで風のように走ることも　光よりも早く

走ることもしつている

それ故に　じぶんの姿は誰れにも見えない

のだと思つている

見えないものが　考えながら走つている

考えだけが走つている

いつのまにか枯野に昼の月が出ていた

## 老いたきつね

冬日がてつている

いちめん

すすきの枯野に冬日がてつている

四五日前から

一匹の狐がそこにきてねむつている

狐は枯れすすきと光と風が

自分の存在をかくしてくれるのを知つている

狐は光になる　影になる　そして

何万年も前からそこに在つたような

一つの石になるつもりなのだ

おしよせる潮騒のような野分の中で

きつねは　ねむる

きつねは　ねむりながら

光になり、影になり、石になり雲になる

夢をみている

狐はもう食欲がないので

今ではこの夢ばかり見ているのだ

夢はしだいにふくらんでしまつて

無限大にひろがつてしまつて

宇宙そのものになつた

すなわち

狐はもうどこにも存在しないのだ

## 野狐（やこ）

さびれた白い村道を歩きながら

旅人はつぶやいた

「生きながら有限から抜け出そうなんて、

それはとうてい不可能なことだ」

すると、旅人の頭の中の

一匹の狐が答えた

「それはあなたが消滅して私になれば、

わけもないことです」

そこで旅人は狐になつた

道ばたの紅いスカンポの根をかじり

谷川におりて青いカジカを追いまわした

今はただ

一匹のやせ狐が

どこへゆくかもわからない

黄昏の村道を歩いている