Soranoha

たま襻

たまだすき

樋口 一葉

上の一

をかしかるべき世よを空蝉うつせみのと捨すて物ものにして今歳ことし十九年ねん、天てんのなせる麗質れいしつ、をしや埋木うもれぎの春はるまたぬ身みに、青柳あをやぎいと子こと名なのみ聞きゝても姿すがたしのばるゝ優やさしの人品ひとがら、それも其筈そのはず昔むかしをくれば系圖けいづの卷まきのこと長ながけれど、徳川とくがはの流ながれ末すゑつかた波なみまだ立たたぬ江戸時代えどじだいに、御用ごようお側そばお取次とりつぎと長銘ながめいうつて、席せきを八萬まん騎ぎの上坐じやうざに占しめし青柳右京あをやぎうきやうが三世さんぜの孫まご、流轉るてんの世よに生うまれ合あはせては、姫ひめと呼よばれしことも無なけれど、面影おもかげみゆる長襦袢ながじゆばんの縫ぬひもよう、母はゝが形見かたみか地赤ぢあかの色いろの、褪色あせて殘のこるも哀あはれいたまし、住すむ所ところは何方いづく、むかし思おもへば忍しのぶが岡おかの名なも悲かなしき上野うへのの背面うしろ谷中や かルビの「や か」はママのさとに形かたばかりの枝折門しをりもん、春はるは立たちどまりて御覽ごらんぜよ、片枝かたえさし出だす垣かきごしの紅梅こうばいの色いろゆかしと延のびあがれど、見みゆるは萱かやぶきの軒端のきばばかり、四邊あたりは廻めぐらす花園はなぞのに秋あきは鳴なかん虫むしのいろ〱、天然てんねんの籠中ろうちうに收おさめて月つきに聞きく夜よの心こゝろきゝたし、扨さてもみの虫むしの父ちゝはと問とへば、月毎つきごとの十二日ちに供そなゆる茶湯ちやとうの主ぬしが夫それ、母はゝも同おなじく佛檀ぶつだんの上うへにとかや、孤獨こどくの身みは霜しもよけの無なき花檀くわだんの菊きくか、添そへ竹だけの後見うしろみともいふべきは、大名だいみやうの家老職かろうしよく背負せおをてたちし用人ようにんの、何之進なにのしんが形見かたみの息せがれ松野雪三まつのせつざうとて歳とし三十五六、親おやゆづりの忠魂ちうこんみがきそへて、二代だいの奉仕ほうしたゆみなく、一町ちやう餘あまりなる我わが家いへより、雪ゆきにも雨あめにも朝夕てうせき二度どの機嫌きげんきゝ怠おこたらぬ心こゝろ殊勝しゆしようなり、妻つまもたずやと進すゝむる人ひとあれど、何なんの我わがこと措おき給たまへ夫それよりは孃ぢやうさまの上うへ氣きづかはしゝ、廿歳はたちといふも今いまの間まなるを、盛さかりすぎては花はなも甲斐かひなし、適當てきたうの聟君むこぎみおむかへ申し度たきものと、一意い專心せんしん主しうおもふ外ほかなにも無なし、主人しゆじん大事だいじの心こゝろに比くらべて世上せじやうの人ひとの浮薄ふはく浮佻ふてう、才さいあるは多おほし能のうあるも少すくなからず、容姿ようし學藝がくげいすぐれたればとて、大事だいじの御ご一生しやうを托たくすに足たる人ひと見渡みわたしたる世上せじやうに有ありや無なしや知しれたものならず、幸福かうふくの生涯しやうがいを送おくり給たまふ道みち、そも何なにとせば宜よからんかと、案あんじにくれては寐ねずに明あかす夜半よはもあり、嫁入時よめいりどきの娘むすめもちし母親はゝおやの心こゝろなんのものかは、疵きずあらせじとの心配しんぱい大方おほかたにはあらざりけり、雪三せつざうかくまで熱心ねつしんの聟撰むこゑらみも、糸子いとこは目めの前まへすぐる雲くもとも思おもはず、良人をつと持もたんの觀念くわんねん、何なにとして夢ゆめさら〱あらんともせず、樂たのしみは春秋はるあきの園生そのふの花はな、ならば胡蝶こてふになりて遊あそびたしと、取とりとめもなきこと言いひて暮くらしぬ、さるほどに今歳ことしも空むなしく春はるくれて衣ころもほすてふ白妙しろたへの色いろに咲さく垣根かきねの卯うの花はな、こゝにも一ツの玉川たまがはがと、遣水やりみづの流ながれ細ほそき所ところに影かげをうつして、風ぜかルビの「ぜか」はママなくても凉すゞしき夏なつの夕暮ゆふぐれ、いと子こ湯ゆあがりの散歩そゞろあるきに、打水うちみづのあと輕かろく庭下駄にはげたにふんで、裳もすそとる片手かたてはすかし骨ぼねの塗柄ぬりえの團扇うちわに蚊かを拂はらひつ、流ながれに臨のぞんで立たつたる姿すがたに、空そらの月つき恥はぢらひてか不圖ふとかゝる行ゆく雲くもの末すゑあたり俄にわかに暗くらくなる折をりしも、誰たれが思がもルビの「がも」はママひにか比ひす螢ほたる一ツ風かぜにたゞよひて只たゞ眼めの前まへ、いと子こ及およぶまじと知しりても只たゞは有あられず、ツト團扇うちわを高たかくあぐればアナヤ螢ほたるは空遠そらとほく飛とんで手元てもといかゞ緩ゆるびけん、團扇うちわは卯うの花はな垣がき越こえて落おちぬ、是こは何なにとせんと困かうじ果はてゝ、垣根かきねの際ひまよりさしのぞけば、今いましも雲足くもあしきれて新あらたに照てらし出いだす月つきの光ひかりに、目めと目め見合みあはして立たつたる人ひと、何時いつの間まに此所こゝへは來きて、今いままで隱かくれてゞも居ゐしものか、知しらぬことゝて取乱とりみだせし姿すがた見みられしか、見みられしに相違さうゐなしと、面かほ俄にわかにあつくなりて、夢現ゆめうつゝうつむけば、細ほそく清きよしき男をとこの聲こゑに、これは其方そなたさまのにや返上へんじやうせんお受取うけとりなされよと、垣かきごしにさし出いだす我わが團扇うちわ、取とらんと見みあぐれば恥はづかしゝ美少年びせうねん、引ひかんとする團扇うちわの先さき一寸ちよつと押おさへて、思おもひにもゆるは螢ほたるばかりと思おぼし召めすかと怪あやしの一言ひとこと、暫時しばしは糸子いとこわれか人ひとか、有無うむの間あいだに迷まよひし心こゝろ、本もとの心こゝろに歸かへりし時ときは、卯うの花垣はながきに照てる月つき高たかく澄すんで、流ながれにうつる影かげ我われ一人ひとりになりぬ、さるにても彼かの人ひとは誰たれならん、隣家となりは植木屋うへきやと聞きゝたるが、思おもひの外ほかの人品ひとがらかなと、其方そなたを眺ながめて佇立たゝずめば、風かぜに傳つたはる朗詠らうえいの聲こゑいとゞ床ゆかしさの數かずを添そへぬ糸子いとこ世よは果敢はかなきものと思おもひ捨すてゝ、盛さかりの身みに紅べに白粉おしろいよそほはず、金釵きんさ綾羅りようらなんの爲ための飾かざり、入いらぬことぞと顧かへりみもせず、過すぎし心こゝろに恥はづかしや、我われ迷まよひたりお姿すがた今いま一度ど見みまほしゝと延のび上あがれば、モシと扣ひかへらるゝ袂たもとの先さき、誰たれぞオヽ松野まつのか何なんとして此所こゝへは否いや何時いつの間まにと詞ことば有哉無哉うやむや支離滅裂しりめつれつ

上乃二

丸窓まるまどにうつる松まつのかげ、幾夜いくよ詠ながめて月つきも闇やみになるまゝにいと子この心こゝろその通とほり、打うちあけては問とひもならぬ、隣となりの人ひとの素性すじやう聞きゝたしと思おもふほど、意地いぢわろく誰たれも告つげぬのか夫それともに知しらぬのか、よもや植木屋うゑきやの息子むすこにてはあるまじく、さりとて誰たれ住替すみかはりし風説うはさも聞きかねば外ほかに人ひとの有ある筈はずなし、不審いぶかしさよの底そこの心こゝろは其人そのひと床ゆかしければなり、用ようもなき庭歩行にはあるきにありし垣根かきねの際きは、幾度いくたびか顧かへりみて思おもへば、さてもはした無なきことなり、氏うぢも知しらず素性すじやうも知しらず、心情こゝろだても何なにも知しれぬ人ひとに戀こふとは、我われながら淺あさましきことなり、定さだめなき世よに定さだめなき人ひとを頼たのむ、婦人をんなの身みはかなしと思おももひ「思おももひ」はママ絶たえて、松野まつのが忠節ちうせつの心こゝろより、我われ大事だいじと思おもふあまりに樣々さま〲の苦勞くらう心痛しんつう、大方おほかたならぬ志こゝろざしは知しるものから、夫それすら空そらふく風かぜと聞ききて、耳みゝにだに止とめんとせざりし身みが、何なんぞや跡あともかたも無なき戀こひに磯いその鮑あはびの只一人ひとりもの思おもふとは、心こゝろの問とはんもうら恥はづかし、人知ひとしらぬ心こゝろの惱なやみに、昨日きのふ一昨日をとゝひは雪三せつざうが訪問おとづれさへ嫌忌うるさくて、詞ことば多おほくも交かはさゞりしを、如何いかに聞きゝて如何いかばかり案あんじやしけん、氣きの毒どくのことしてけるよ、いで今日けふの日ひも暮くれなんとするを、例れいの足あしおとする頃ころなり、日頃ひごろくもりし胸むねの鏡かゞみすゞしき物語ものがたりに晴はらさばやとばかり、垣根かきねの近邊ほとりたちはなれて、見返みかへりもせず二三歩ほすゝめば遣水やりみづの流ながれおと清きよし、心こゝろこゝに定さだまつて思おもへば昨日きのふの我われ、彷彿はうふつとして何故なにゆゑに物ものおもひつる身みぞ、廣ひろき園生そのふは我わが爲ために四季しきの色いろをたゝかはし、雅みやびやかなる居間ゐまは我わが爲ために起居きゝよの自由じゆうあり、風かぜに鳴なる軒のきばの風鈴ふうりん、露つゆのしたゝる釣忍艸つりしのぶ、いづれをかしからぬも無なきを、何なにをくるしんでか、要えうなき胸むねは痛いためけん、愚おろかしさよと一人ひとり笑ゑみして、竹椽ちくえんのはしに足あしを休やすめぬ、晩風ばんぷう凉すゞしく袂たもとに通かよひて、空そらに飛とびかふ蝙蝠かはほりのかげ二つ三つ、夫それすら漸やうやく見みえず成なりゆく、片折戸かたをりどを靜しづかに音おとなふは聞きゝなれし聲音こはねなり、いと子こ厨くりやのかたに聲こゑをかけて、玉たまよ雪三せつざうが參まゐりたりと覺おぼゆるに、燈火ともしびとくと命令いひつけながら、ツト立たちて門かどの方かたうち見みやりしが、闇やみにもしるき白しろき手てを擧あげて、稚兒おさなごが母はゝよぶ樣やうに差さしまねぎつ、坐敷ざしきにも入いらではるかに待まてば、松野まつのは徐おもかろにルビの「おもか」はママ歩あゆみを進すゝめて、早はやく竹椽ちくえんのもとに一揖いつしふするを、糸子いとこかるく受うけて莞爾にこやかに、花莚はなむしろの半なかばを分わけつゝ團扇うちわを取とつて風かぜを送おくれば、恐おそれ多おほしと突つく手て慇懃いんぎんなり、此このほどはお不快ふくわいと承うけたまはりしが、最早もはや平日へいじつに返かへらせ給たまひしか、お年輩としごろには氣欝きうつの病やまひの出でるものと聞きく、例れいの讀書どくしよは甚はなはだわろし、大事だいじの御身おんみ等閑なほざりにおぼしめすなと、知しらねばこそあれ眞實まめやかなる詞ことばにうら耻はづかしく、面おもてすこし打うち赤あかめて、否いやとよ病氣びやうきは最もう癒なほりたり、心配しんぱいかけしが氣きの毒どくぞと我われ知しらず出でる侘わびの言葉ことばに、何なにごとの仰おほせぞ、主從しゆうじうの間あひだに氣きの毒どくなどゝの御懸念ごけねんある筈はずなし、お前まへさまのおん身みに御病氣ごびやうきその外ほか何事なにごとありても、夫それはみな小生おのれが罪つみなり、御兩親ごりやうしんさまのお位牌ゐはいさては小生おのれが亡なき兩親おやに對たいして雪三せつざう何なんの申譯まうしわけなければ、假令たとへ身みにかへ命いのちにかへても盡つくし參まゐらする心こゝろなるを、よしなき御遠慮ごゑんりよはお置おき下くだされたしと恨うらみ顏がほなり、これ程ほどまでに思おもひくるゝ、其心そのこゝろ知しらぬにも有あらぬを、この頃ごろの不愛想ぶあいさう我わが心こゝろの悶もだゆるまゝに、詞ことば交かはすが懶ものうくて、病氣びやうきなどゝ有ありもせぬ僞いつはりは何なにゆゑに云いひけん、空そらおそろしさに身みも打うちふるへて、腹はらたちしならば雪三せつざうゆるしてよ、隔へだつる心こゝろは微塵みぢんもなけれど、主しゆうの家來けらいの昔むかしは兎ともあれ、世話せわにこそなれ恩おんもなにもなき我わが身みが、常つね日ひごろ種々さま〲の苦勞くろうをかける上うへにこの間中あひだぢうよりの病氣びやうき、それ程ほどのことでも無なかりしを、何故なにゆゑか氣きが欝うさぎてルビの「うさ」はママ、心こゝろにも無なき所置しよちありしかもしれず、夫それがつひ氣きの毒どくにて言いひたるなれど、心こゝろに障さはらば二度どとは言いはじ、汝そなたに捨すてられて我われ何なにとしてか世よには立たつべき、心こゝろおさなければ目めにあまることも有あらん、腹立はらたゝしきことも多さはならんが、外ほかに寄よる邊べのなき身みなるを、妹いもととも娘むすめとも斷念あきらめて、教おしへ立たてられなば嬉うれしきぞと、松野まつのが膝ひざゆり動うごかして涙なみだぐめば、雪三せつざう身みを退しさりて頭かしらを下さげつゝ、分ぶんにあまりし仰おほせお答こたへの言葉ことばもなし、お心細こゝろぼそき御身おんみなればこそ、小生おのれ風情ふぜいに御叮嚀ごていねいのお頼たのみ、お前まへさま御存ごぞんじはあるまじけれど、徃昔そのかみの御身分ごみぶんおもひ出だされてお痛いたはしゝ、我われ後見うしろみまゐらする程ほどの器量きりやうなけれど、赤心まごゝろばかりはルビの「まごゝろ」はママ誰たれ人びとにまれ劣おとることかは、御心おこゝろやすく思召おぼしめせよ世よにも勝すぐれし聟君むこぎみ迎むかへ參まゐらせて花々はな〲しきおん身みにも今いまなり給たまはん、嗚呼をこがましけれど雪三せつざうが生涯しやうがいの企望のぞみはお前まへさま御ご一身しんの御幸福ごかうふくばかりと、言いひさして詞ことばを切きりつ糸子いとこが面おもてじつと眺ながめぬ、糸子いとこ何心なにごゝろなく見返みかへして、我われは花々はな〲しき身みにならんの願ねがひもなく、まして聟むこむかへんの嫁入よめいりせんのと、世よの人ひとめかしき望のぞみ少すこしもなし、只たゞ汝そなたさへ見捨みすてずは、御身おんみさへ厭いとはせ給たまはずは、我わが生涯しやうがいの幸福かうふくぞかしとて嫣然につことばかりうち笑ゑめば、松野まつのじり〱と膝ひざを進すゝめて、孃ぢやうさまは夫それほどまでに雪三せつざうを力ちからと覺おぼしめしてか、それとも一時じのお戯たはむれか、御本心ごほんしん仰おほせ聞きけられたしと問とひ誥つむるを、糸子いとこホヽと笑わらひて松野まつのが膝ひざに輕かるく手てを置おきつ、戯たはむれかとは問とふ丈だけも淺あさし、親おやとも兄あにともなく大切たいせつに思おもふものをと、無心むしんに言いへば忝かたじけなしと一ト言こと語尾ごびふるへて消きえぬ

(中の一)

洗あらひ髮がみの束髮そくはつに薔薇ばらの花はなの飾かざりもなき湯上ゆあがりの單衣ゆかたでたち、素顏すがほうつくしき夏なつの富士ふじの額ひたひつき眼めに殘のこりて、世よは荻をぎの葉はに秋風あきかぜふけど螢ほたるを招まねきし塗柄ぬりゑの團扇うちは、面影おもかげはなれぬ貴公子きこうしあり、駿河臺するがだいの紅梅町こうばいちやうにその名なも薫かほる明治めいぢの功臣こうしん、竹村子爵たけむらししやくとの尊稱そんしようは千軍万馬せんぐんまんばのうちに含ふくみし、つぼみの花はなの開ひらけるにや、夫それが次男じなんに緑みどりとて才識さいしき並ならび備そなはる美少年びせうねん、今歳ことしのなつの避暑へきしよには伊香保いかほに行ゆかんか磯部いそべにせんか、知しる人ひとおほからんは佗わびしかるべし、牛うしながら引入ひきいれる中川なかゞはのやどり手近てぢかくして心安こゝろやすき所ところなからずやと、打うちうめかれしをお出入でいりの槖駝師たくだし某それなるもの承うけたまはりて、拙郎やつがれが谷中やなかの茅屋ぼうおくせき入いれし水みづの風流みやびやかなるは無なきものから、紅塵千丈こうじんせんぢやうの市中まちなかならねば凉すゞしきかげもすこしはあり、足あしを運はこび給たまはゞ忍しのぶが岡おかの緑樹りよくじゆの朝あさつゆ、寐間着ねまきのまゝにも踏ふみ給たまふべし、螢名所ほたるめいしよの田畑たばたも近ちかかり、只たゞ天王寺てんわうじの近ちかき爲ために、蚊かはあまり少すくなからねど、吹ふき拂はらふに足たる風かげ十分じふゞんなり、兎とに角かく思おもひ立たたせ給たまへとて、紀きの守かみが迷惑氣めいわくげにも見みえず誘いざなふにぞ、夫それ好よからんとて夏なつのさし入いりより、別室はなれざしきを仮住かりずみに三月みつきばかりの日ひを消けしゝが、歸邸きていの今日けふの今いまも猶なほ殘のこる記臆きおくのもの二ツ、隣家となりに咲さける遲咲おそざききの「遲咲おそざききの」はママ卯うの花はな、都みやこめづらしき垣根かきねの雪ゆきの、凉すゞしげなりしを思おもひ出いづると共ともに、月つきに見合みあはせし花はなの眉まゆはぢて背そむけしえり足あしの美うつくしさ、返かへす團扇うちはに思おもひを寄よせし時とき憎にくからず打笑うちゑみし口元くちもとなんど、只たゞ眼めの先さきに沸わき來きたりて、我われ知しらず沈思瞑目ちんしめいもくすることもあり、さるにても何人なにびとの住家すまゐにや、人品ひとがらの高尚けだかかりしは、無下むげに賤いやしき種たねには有あるまじ、妻つまか娘むすめか夫それすらも聞きき知しらざりし口惜くちをしさよ、宿やどの主あるじは隣家となりのことなり、問とはば素性すじやうも知しるべきものと、空むなしくはなど過すごしけん、さりとて今更いまさら問とはんもうしろめたかるべしなんど、迷まよひには智惠ちゑの鏡かゞみも曇くもりはてゝや、五里りの夢中むちうに彷徨さまよひしが、流石さすがに定さだむる所ところありけん、慈愛じあひ二となき母君はゝぎみに、一日あるひしか〲と打明うちあけられぬ、さはいへど人妻ひとづまならば及およぶまじことなり確たしかめて後のち斷念だんねんせんのみ、浮うきたる戀こひに心こゝろを盡つくす輕忽あわつけしさよとも覺おぼさんなれど、父祖傳來ふそでんらいの舊交きうかうありとて、其人そのひとの心こゝろみゆる物ものならず、家格かかくに隨したがひ門地もんちを尊たつとび、撰えりに撰えりて取とる虫喰栗むしくひぐりも世よには多おほかり、藻もくずに埋うづもるゝ美玉びぎよく又またなからずや、哀あわれこの願ねがひ許容きよようありて、彼女かれが素性すじやう問とひ定さだめ給たまはりたし、曲まがりし刀尺さしに直すぐなる物ものはかり難がたく、惑まよひし眼めに邪正じやしやうは分わけ難がたし、鑑定かんていは一重ひとへに御眼鏡おめがねに任まかさんのみと、恥はじたる色いろもなく陳のべらるゝに、母君はゝぎみ一ト度たびは惘あきれもしつ驚おどろきもせしものゝ、斯かくまで熱心ねんしんの極きはまりには、何事なにごと引ひき出いでられんも知しるべからず、打明うちあけられしだけ殊勝しゆしようなり、萬よろつは母はゝが胸むねにあり任まかせたまへと子こ故ゆゑの闇やみに、ある夕暮ゆふぐれの墓參ぼさんの戻もどり、槖繩師うゑきや許がりくるまを寄よせて、入いりもせぬ鉢はちものゝ買上かひあげ、扨さては園内ゑんないの手入ていれを賞ほめなどして、逍遙そゞろあるきの端はしに若もし其人そのひと見みゆるやと、垣根かきねの隣となりさしのぞけど、園生そのふ廣ひろくして家いへ遠とほく、萱かやぶきの軒のきば半なかば掩おほふ大樹たいじゆの松まつの滴したたる如ごとき緑みどりの色いろの目めに立たちて見みゆるばか、聲こゑきくよすがも有あらざりければ、別亭はなれに澁茶しぶちやすゝりながら夫それとなき物語ものがたり、この四隣あたりはいづれも閑靜かんせいにて、手廣てびろき園生そのふ浦山うらやましきものなり、此隣このとなりは誰樣たれさまの御別莊ごべつさうぞ、松まつばかりにても見惚みとるゝやうなりとほゝ笑ゑめば、否いや別莊べつさうにはあらず本宅ほんたくにておはすなりと答こたふ、是これを話はなしの糸口いとぐちとして、見惚みとれ給たまふは松まつばかりならず、美うつくしき御主人ごしゆじん公こうなりといふ、然さればよなと思おもひながら、殊更ことさらに知しらず顏がほ粧よそほひつゝ、主人あるじは御婦人ごふじんなるにや、扨さては何某殿なにがしどのの未亡人びばうじんとか、さらずは妾おもひものなんどいふ人ひとか、別べつして與あたへられたる邸宅ていたくかと問とへば、否いや然しからず舊むかしをいはば三千石ごくの末流まつりうなりといふ、さらば旗下はたもとの娘御むすめごにや、親御おやごなどもおはさぬか、一人ひとり住ずみとは痛いたはしきことなりと、早はやくも其そのの「其そのの」はママ人ひと不憫ふびんになりぬ、此處こゝの主あるじも多辨はなしずきにや咳しわぶき勿躰もつたいらしくして長々なが〱と物語ものがたり出いでぬ、祖父そふなりし人ひとが將軍家しやうぐんけの覺おぼえ淺あさからざりしこと、今いま一足あしにて諸侯しよかうの列れつにも加くわへ給たまふべかりしを不幸ふかう短命たんめいにして病沒びやうぼつせしとか、或あるひは其頃そのころの威勢めをひは素晴すばらしきものにて、いまの華族くわぞく何なんとして足下あしもとへも依よらるゝ物ものでなしと、口くち濘すべらして遽あわたゞしく唇くちびるかむもをかし、夫それに比くらべて今いまの活計くらしは、火ひの消きえしも同おなじことなり、彼あれほどの地邸ぢやしきに公債こうさいも何なにほどかは持もちたまふならんが、夫それも孃ぢやうさまが身みじんまく丈だけ漸々やう〱なるべしと、我われ入いり立たツて見みし樣やうな話はなしなり、老爺ぢいは何なんとして其そのやうに委くわしく知しるぞと問とへば、否いや拙郎やつがれは皆目かいもく知しるはずなけれど、一昨年をとゞし病亡なくなりし孃ぢやうさまの乳母うばが、常日頃つねひごろ遊あそびに來きての話はなしなりといふ、お歳としは十九なれどまだまだ十六七としか見みえず、夫それから思おもへば松野まつのどのは大層たいそうに老ふけられたりと我われ一人ひとり呑込顏のみこみがほ、その松野殿まつのどのとかは娘御むすめごの何なにぞと問とはれて、成なるほどなるほど御存ごぞんじは無なき筈はずなりとて、更さらに松野まつのの爲ために頣おとがひしばらく働はたらかせぬ、さればこそ暮くれやすき、秋日あきのひの短時間たんじかんに、糸子いとこ主從しゆうじうは竹村夫人たけむらふじんが胸中きようちうの知己ちきとぞなれりける

(中の二)

心こゝろは變化へんくわするものなり、雪三せつざうが徃昔そのかみの心裏しんりを覗うかゞはゞ、糸子いとこに對たいする觀念くわんねんの潔白けつぱくなること、其名そのなに呼よぶ雪ゆきはものかは、主人しゆじん大事だいじの一ひト筋道すぢみち、振ふりむくかたも無なかりし物ものの、寄よる邊べなき御身おんみ憐あはれやとの情じやうやう〱長ちやうじては、我われ一人ひとりをば天あまが下したの頼たのもし人びとにして、一にも松野まつの二にも松野まつのと、隔へだてなく遠慮ゑんりよなく甘あまへもしつ㑃強すねもしつ、睦むつれよる心こゝろ愛あいらしさよと思おもひしが、そも〱流ながれに塵ちり一ツ浮うかびそめし初はじめにて、此心このこゝろ更さらに追おへども去さらず、澄すまさんと思おもふほど掻かきにごりて、眞如しんによの月つきの影かげは何處いづく、朦々朧々もう〱ろう〱の淵ふちふかく沈しづみて、目めに遮さへぎるは月つきを追おひ日ひに隨したがひて艶ゑんいよ〱艶ゑんならんとする雨後春山うごしゆんざんの花はなの顏かほばせ、妍けんます〱妍けんならんとする三五夜や中ちうの月つきの眉まゆいと子こが容姿ようしばかりなり、かゝりけれども猶なほ一片ぺん誠忠せいちうの心こゝろは雲くもともならず霞かすみとも消きえず、流石さすがに顧かへりみるその折々をり〱は、慚愧ざんぎの汗あせ背そびらに流ながれて後悔かうくわいの念ねん胸むねを刺さしつゝ、是こは魔神ましんにや見入みいれられけん、有あるまじき心こゝろなり、我われに邪心じやしんなきものと思おぼせばこそ、幼稚えうちの君きみを托たくし給たまひて、心こゝろやすく瞑目めいもくし給たまひけれ、亡主ばうしゆに何なんの面目めんぼくあらん、位牌ゐはいの手前てまへもさることなり、いでや一對いつつゐの聟君撰むこぎみえらみ參まゐらせて、今世こんせの主君きみにも未來みらいの主君きみにも、忠節ちうせつのほど顯あらはしたし、然しかはあれど氣遣きづかはしきは言葉ことばたくみに誠まこと少すくなきが今いまの世よの常つねと聞きく、誰人たれびとか至信ししんに誠實せいじつに、我わが愛敬けいあいする「愛敬けいあいする」はママ主君きみの半身はんしんとなりて、生涯しやうがいの保護者ほごしやとはなるべきにや、思おもへばいとも覺束おぼつかなきことなり、我われに主從しう〲の關係くわんけいなくば、我われ松野雪三まつのせつざうならずは、青柳あおやぎいと子こ孃ぢやうの手てを取とりて、生涯しやうがいの保護者ほごしやとならんもの天あめが下したに又またとはあるまじ、さりながら是こは叶かなふべきことならず、仮かりにもかゝる心こゝろを持もたんは、愛あいするならずして害がいするなり、いで今いまよりは虚心きよしん平氣へいきの昔むかしに返かへりて何なにごとをも思おもふまじと、斷念だんねんいさましく胸むねすゞしくなるは、青柳家あをやぎけの門かど踏ふまぬ時ときなり、糸子いとこが愛あいらしき笑顏ゑがほに喜よろこび迎むかへて、愛あひらしき言葉ことばかけらるゝ時ときには、道みちに背そむかば背そむけ世よの嗤笑ものわらひにならばなれ、君故きみゆへ捨すつる名な眞しんぞ惜をしからず、今日けふは思おもふ心こゝろもらさんか明日あすは胸むねの中うちうち明あけんかと、眞實まめなる人ひとほど戀こひは苦くるし、斯かかるおもひの幾筋いくすぢを撚より合あはされし身みなるものから、糸子いとこが心こゝろは春はるの柳やなぎ、そむかず靡なびかずなよ〱として、無邪氣むじやきの笑顏ゑがほいつも愛あいらしく、雪三せつざうよ菊塢きくうの秋草あきくさ盛さかりなりとかきくを、此程このほどすぐさず伴ともなひては給たまはらずやと掻口説かきくどきしに、何なんの違背ゐはいのある筈はずなく、お前まへさま御都合ごつがふにて何時いつにてもお供ともすべしと、松野まつのは答こたへぬ、秋雨あきさめはれて後のち一日今日けふはと俄にはかに思おもひ立たちて、糸子いとこ例れいの飾かざりなき粧よそほひに身支度みじたくはやく終をはりて、松野まつのが來くる間ままち遠どほしく雪三せつざうがもと我われより誘さそいぬ、と見みれば玄關げんくわんに見馴みなれぬ沓くつ一足そくあり、客來きやくらいにやあらん折をりわろかりと歩ほを返かへせしが、さりとも此處こゝまで來きしものを此このまま歸かへるも無益むやくしゝと、庭にはより廻めぐりて椽ゑんに上あがれば、客間きやくまめきたる所ところに話はなし聲ごゑす、徐やをら次つぎの間まにかいひそまりて聞きくともなしに耳みゝたつれば、客きやくはそも誰たれなるにや、青柳あをやぎといふこゑいと子と呼よぶ聲こゑ折々をり〱に交まじりぬ、さても何事なにごとを談だんずるにや、我われにも關係くわんけいあり氣げなるをと、襖ふすまに寄よりて靜しづかに聞きけば、斷續だんぞくして聞きこゆるもの語がたりの意味いみ明亮めいりやうにあらねども、大方おほかたは知しれ渡わたりぬ、聞きく人ひとありとは知しらぬものゝ詞ことばあまりは高たかからず、松野まつのに向むかひて坐ざしたるは竹村子爵たけむらしゝやくが家從かじゆうの何なにがし、主命しゆうめいに依よりて糸子いとこ縁談えんだんの申し込こみなるべし、其時そのとき雪三せつざう决然けつぜんとせし聲音こわねにて、折角せつかくの御懇望ごこんもうながら糸子いとこさま御儀おんぎ他家たけへ嫁かしたまふ御身おんみならねばお心こゝろ承うけたまはるまでもなし、雪三せつざう斷然だんぜんお斷ことはり申す御歸邸ごきていのうへ御前体ごぜんていよろしく仰おほせ上あげられたしといひ放はなてば、然さる仰おぼせあらんとは存ぞんぜしなり、然しからば聟君むこぎみとしては迎むかへさせ給たまはずやといふ、否いなとよ兎とに角かくに御身分柄ごみぶんがらつり合あはず、末すゑのほど覺束おぼつかなければと言いひかゝるを打うちけして、そは御懸念ごけねんが深ふかすぎずや、釣合つりあふとつり合あはぬは御心おこゝろの上うへのことなり、一應おういと子こさまの御心中ごしんちうお伺うかゞひ下くだされたし、其そのお答こたへ承うけたまはらずば歸邸きていいたし難がたし平ひらにお伺うかゞひありたしと押返おしかへせば、それ程ほどに仰おほせらるゝを包つゝむも甲斐かひなし、誠まことのこと申上あげん、糸子いとこさまには最もはや定さだまる人ひとおはすなりそれ故ゆゑのお斷ことはりぞと莞爾につこと笑えめば、家從かじゆうは少すこし身みを進すゝませて、始はじめて承うけたまはりたり何方いづかたへの御縁組ごえんぐみにや苦くるしからずは仰おほせきけられたしと雪三せつざうの面おもてキツと見みれば、糸子いとこも間あひの襖ふすまの際きはにぴつたりと身みを寄よせつあやしのことよと耳みゝそばだつれば、松野まつの例れいに似にぬ高調子たかてうしに然さらば聞きかし參まゐらせん御歸邸ごきていのうへ御主君ごしゆくん、殊ことに緑君みどりくんに御傳おつたへ願ねがひたし、糸子いとこが契約けいやくの良人をつととは、誰たれにもあらず、松野雪三まつのせつざう即すなはち斯かくいふ小生おのれ

下

戀こひは一方いつはうに強つよよく「強つよよく」はママ一方いつはうに弱よはきものと聞きくは僞いつはり何方いづれすてられぬ花紅葉はなもみぢの色いろはなけれど松野まつのの心こゝろ根ねあはれなり、然さりとて竹村たけむらの君きみが優やさしき姿すがた一度どは思おもひ絶たえもしたれ、淺あさからぬ御志みこゝろざしの忝かたじけなさよ、斯かく思おもふは我われに定操ていさうの無なければにや、脆もろき情こゝろのやる方かたもなし、扨さても松野まつのが今日けふの詞ことば、おどろきしは我われのみならず竹村たけむらの御使者おししやもいかばかりなりけん、立歸たちかへりて斯かく斯かくなりしとも申さんに、何なには置おきて御おんさげすみ恥はづかしゝ、睦むつましかりしも道理だうり、主從しうじゆうとは名なのみなりしならんなど、彼かの君きみに思おもはれ奉たてまつらん口惜くちをしさよ、是これも誰たれ故ゆゑ雪三せつざう故ゆゑなり、松野まつのが邪心じやしん一ツゆゑぞ、然しかはあれども御使者おししや歸路きろにつき給たまひし後のち、身みを投なげ出だしての詞ことば今いまも忘わすれ難がたし、御身おんみは竹村たけむらを床ゆかしと覺おぼすか、緑みどりどのとやら慕したはしく思おもひ給たまふか、さらばいか斗ばかり雪三せつざう憎にくしと覺おぼすなるべし、さりながら徃日いつぞやの御詞おんことばは僞いつはりなりしか、汝そちさへに見捨みすてずば我わが生涯しやうがいの幸福かうふくぞと、忝かたじけなき仰おほせ承うけたまはりてよりいとゞ狂くるふ心こゝろ止とめがたく、口くちにするは今日けふ始はじめてなれど、盡つくしたる心こゝろはおのづから御覽ごらんじしるべし、姿すがたむくつけく器量きりやう世よにおとりしとて厭いとはせ給たまはゞ、我われも男をとこのはしなり、聞きかれ參まゐらせずとて只たゞやはある、他人よその眺ながめの妬ねたましきよりはと、花はなに吹ふく嵐あらしのおそろしき心こゝろも我われ知しらず起おこらんにや、許ゆるさせたまへとて戀こひなればこそ忠義ちうぎに鍛きたへし、六尺しやくの大男おほおとこが身みをふるはせて打泣うちなきし、姿すがたおもへば扨さても罪つみふかし、六歳ろくさいのむかし」我われ兩親りやうしんに後おくれし以來いらい、延のびし背丈せたけは誰たれの庇護かげかは、幼稚えうちの折をりの心こゝろならひに、謹つゝしみもなく馴なれまつはりて、鈇石てつせきの心こゝろうごかせしは、搆かまへて松野まつのの咎とがならず我わが心こゝろのいたらねばなり、今いま我われ松野まつのを捨すてゝ竹村たけむらの君きみまれ誰たれにまれ、寄よる邊べを开所そこと定さだめなば哀あはれや雪三せつざうは身みも狂きやうすべし、我わが幸福かうふくを求もとむるとて可惜あたら忠義ちうぎの身み世よの嗤笑ものわらひにさせるゝことかは、さりとて是これにも隨したがひがたきを、何なにとして何なにとせば松野まつのが心こゝろの迷まよひも覺さめ、竹村たけむらの君きみへ我わが潔白けつぱくをも顯あかされん、何方いづれにまれ憎にくき人ひと一人ひとりあらば、斯かくまで胸むねはなやまじを、果敢はかなの身みやとうち仰あふげば空そらに澄すむ月影つきかげきよし、肘ひぢを寄よせたる丸窓まるまどのもとに何なんの咡さゝやきぞ風かぜに鳴なる荻をぎの友ともずり、我わが蔭かげごとか哀あはれはづかし、見渡みわたす花園はなぞのは夜よるの錦にしきを月つきにほこりて、轉まろぶ白玉しらたまの露つゆうるはしゝ、思おもへば誰たれも消きゆる世よなるを、我わが身み一ツなき物ものにせば、何方いづくに何なんの障さわりか有あるべき、我われ憂うき世よの厭いとはしきは今いまはじめたることならず、捨すてんは兼かねてよりの願ねがひなり、歎なげくべきことならずと嫣然につこと笑ゑみて靜しづかに取出とりいだす料紙りやうし硯すゞり、墨すみすり流ながして筆先ふでさきあらためつ、書かき流ながす文ふみ誰たれ〱が手てに落おちて明日あすは記念かたみと見みん名殘なごりの名筆めいひつ

底本 / Source edition

底本:「武蔵野 第二編」今古堂
1892(明治25)年4月17日
初出:「武蔵野 第二編」今古堂
1892(明治25)年4月17日
※表題は底本では、「たま※[#「ころもへん+攀」、U+897B]《だすき》」となっています。
※変体仮名は、通常の仮名で入力しました。
※「いと子」と「糸子」の混在は、底本通りです。
入力:万波通彦
校正:Juki
2019年2月22日作成
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リリース / Release
913b24012e1626b47bebf5a14fd31773728229efdb088f1ceb934717c1ac800c
TEI
/works/055662_000064/tei
プレーンテキスト / Plain text
/works/055662_000064/plaintext
書誌 / Bibliography
/works/055662_000064/

樋口 一葉「たま襻」(旧字旧仮名)、底本『武蔵野 第二編』今古堂、1892年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 055662_000064, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite