Soranoha

宮沢賢治の詩

みやざわけんじのし

中原 中也

彼は幸福に書き付けました、とにかく印象の生滅するまゝに自分の命が経験したことのその何の部分をだつてこぼしてはならないとばかり。それには概念を出来るだけ遠ざけて、なるべく生の印象、新鮮な現識を、それが頭に浮ぶまゝを、――つまり書いてゐる時その時の命の流れをも、むげに退けてはならないのでした。

彼は想起される印象を、刻々新しい概念に、翻訳しつつあつたのです。彼にとつて印象といふものは、或ひは現識といふものは、勘考さるべきものでも翫味さるべきものでもない、そんなことをしてはゐられない程、現識は現識のまゝで、惚れ惚れとさせるものであつたのです。それで彼は、その現識を、出来るだけ直接に表白出来さへすればよかつたのです。

要するに彼の精神は、感性の新鮮に泣いたのですし、いよいよ泣かうとしたのです。つまり彼自身の成句を以つてすれば、『聖ママしののめ』に泣いたのです。

そしてその気質としては、動物よりも植物を、夏よりも冬を愛し、――『鋼青』を『苹果』を、午前のみそれを愛したのです。

底本 / Source edition

底本:「新編中原中也全集 第四巻 評論・小説」角川書店
2003(平成15)年11月25日初版発行
底本の親本:「レツェンゾ」
1935(昭和10)年6月号
初出:「レツェンゾ」
1935(昭和10)年6月号
入力:村松洋一
校正:noriko saito
2014年9月11日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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書誌 / Bibliography
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中原 中也「宮沢賢治の詩」(新字旧仮名)、底本『新編中原中也全集 第四巻 評論・小説』角川書店、2003年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 055634_000026, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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