おまへの歯は よく切れるさうな
山々の皮膚が あんなに赤く
夕陽で爛らされた鐃鉢を
焦々して 摺り合せてゐる
おまへはもう 暗い部屋へ帰つておくれ
おまへの顎が、薄明を食べてゐる橋の下で
友禅染を晒すのだとかいふ黝い水が
産卵を終へた蜉蝣の羽根を滲ませる
おまへはもう 暗い部屋へ帰つておくれ
色褪せた造りものの おまへの四肢の花々で
貧血の柳らを飾つてやることはない
コンクリートの護岸堤は 思ひのままに白けさせよう
おまへはもう 暗い部屋へ帰つておくれ
ああ おまへの歯はよく切れるさうな
むだい きょうと
富永 太郎
おまへの歯は よく切れるさうな
山々の皮膚が あんなに赤く
夕陽で爛らされた鐃鉢を
焦々して 摺り合せてゐる
おまへはもう 暗い部屋へ帰つておくれ
おまへの顎が、薄明を食べてゐる橋の下で
友禅染を晒すのだとかいふ黝い水が
産卵を終へた蜉蝣の羽根を滲ませる
おまへはもう 暗い部屋へ帰つておくれ
色褪せた造りものの おまへの四肢の花々で
貧血の柳らを飾つてやることはない
コンクリートの護岸堤は 思ひのままに白けさせよう
おまへはもう 暗い部屋へ帰つておくれ
ああ おまへの歯はよく切れるさうな
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913b24012e1626b47bebf5a14fd31773728229efdb088f1ceb934717c1ac800c富永 太郎「無題 京都──富倉次郎に」(新字旧仮名)、底本『富永太郎詩集』現代詩文庫、思潮社、1975年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 055494_000678, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079