吾徒の術を修する法二あり。一は師に就いて口より口へ授かり、はたまた悟徹と示現とによつて過を知らんとす。また一の法は斯道の書を讀むにあれど、<ruby><rb>其</rb><rt>その</rt></ruby>文難解にして<ruby><rb>頗</rb><rt>すこぶ</rt></ruby>る<ruby><rb>晦澁</rb><rt>くわいじふ</rt></ruby>なれば、人もしここに理と眞とを求めんとすれば、其心まづ精緻にして根氣よく勤勉にして且つ細心ならざる<ruby><rb>可</rb><rt>べ</rt></ruby>からず。

ピエロ・ヸコ「哲學奧義解」

まだいかぬ――而もわが身は三日三晩のその間、燈火の薄暗い光のもとにライムンド・ルルリの祕法書を繙いてゐた。

どうもいかぬ、唯ちらちらする蘭引の<ruby><rb>滾</rb><rt>たぎ</rt></ruby>る音につれて、<ruby><rb>火蛇</rb><rt>ひへび</rt></ruby>の精の<ruby><rb>嘲笑</rb><rt>せゝらわらひ</rt></ruby>が聞えるばかり。彼はわが冥想を亂さうとして戯弄するのか。

或時は彼、わが鬚の中に爆發物を仕掛け、また或時は其<ruby><rb>弩</rb><rt>おほゆみ</rt></ruby>よりして、わが上衣の上に<ruby><rb>火矢</rb><rt>ひや</rt></ruby>を放つ。

また彼が其<ruby><rb>武具</rb><rt>ものゝぐ</rt></ruby>を磨き立ててゐる時は、爐の下の灰が、呪文書の紙の上、机に載せた墨汁の中に吹きつけて來る。

その時蘭引はいよいよ、ちらついてきて、<ruby><rb>滾</rb><rt>たぎ</rt></ruby>り<ruby><rb>嘯</rb><rt>うそぶ</rt></ruby>く其聲は、聖エロイ樣の火箸で鼻を<ruby><rb>撮</rb><rt>つま</rt></ruby>まれた鬼の泣聲によく似てゐる。

然しまだいかぬ――そしてわが身はもう三日三晩のその間、燈火の薄暗い光のもとにライムンド・ルルリの祕法書を繙いてゐよう。