Soranoha

お小姓児太郎

おこしょうこたろう

室生 犀星

一

髪結かみゆい弥吉は、朝のうちのお呼びで、明るい下り屋敷の詰所で、稚児ちご小姓児太郎の朝髪のみだれを撫なでつけていた。快よい髪弄かみいじりで睡ね不足の疲れが出て、うとうとと折柄膝ひざがしらを暖める日ざしに誘われながら、い睡ねむりをつづけていた。

頸くびすじが女のように白くたわわになり、梳すき手の揺れをつたえるごとに、弥吉の手ごたえを重くした。弥吉は、飽かずそれを眺めていたが、いかにも疲れ込んでいるらしい児太郎の様子が、それとなくお宿直とのいの、さまざまな取沙汰を思い出させた上、このように正体もなく居睡りをつづけていることが、軽い憎しみをさえ感じ出させた。生白い手をきちんと膝の上にかさね、それすら、ぐったりと、累かさね手の重みで感覚もないように見えた。お弓蔵近くの桜が白く晒さらされはじめ、詰所詰所では、うす睡い碁将棋の音も途絶えていた。

――或る日、ちょうど弥吉が奉公してから一と月ほどあと、児太郎は、自分の部屋へ弥吉を呼んだ。

「無聊ぶりょうだから盃をとらす……。」

そう言われて始めて弥吉は、詰所結いを望んで、児太郎の屋敷へ勤めたこと、鷹たか狩の、鞍くらヶ岳の池で始めて児太郎を見たことなどを話した。そのことも、何時いつの間にか児太郎にはわかっていたらしかった。行燈あんどんのかげで、静かに微笑わらってみせ、自分でわざと酒をついでやったりした。そういう情事になれている児太郎は、高ぴしゃに弥吉を眺め下ろしていた。「爪を剪きってくれい。」そう主人の命咐いいつけを酔った手つきで、白脛すねの投げ出されたときは、実際からだが震えるほど、ぞっと嬉しかった。「下手だの。お前のをお出し。」そういう主人を、弥吉は、あわてて手で遮さえぎった。

「勿体ない。」

「いや関わぬ。指を出せ。」

児太郎は、自分の白い手の上に、若者の指を乗せ、ポツンと深爪を剪っていたが、みな肉が切られ、あかいものが滲にじんで出た。弥吉は指頭をしたたる血と、それの痛みを怺こらえるため顔を歪ゆがめていた。

児太郎は、弥吉の苦しそうにしている様子をみると、惨酷にちかい微笑をうかべながら、しまいに興もなさそうに手をつき放した。――主君利治公の御寝所で、ある晩、肩揉もみをしていて、爪があたっていけない、どの爪だと、これも血のにじむ深爪を切られたことを思い出したのである。その自分が弥吉をこうするのは、べつに悪いことだとは思わなかった。

「弥吉、肩をあたれ。」

「はい。」

弥吉は、日頃思っている主人の、優肩やさがたに手を触れる快適さに身をふるわせ、肩につかまったが、爪さきが痛んで、指頭が立たなかった、「どうした、利かないじゃないか。」児太郎はそう叫ぶと、煩うるさそうに肩さきを振って、弥吉の手を払った。

「指さきが痛むというのか、これしきのことがなんだ。」

児太郎は、手を叩たたいて近侍を呼び、鞭むちを持たさせた。近侍がびくびくさし出した三尺なめしの鞭は、弥吉の、脊すじに向って激しく打ちのめされた。弥吉は、絶え入るような声で、あたりをのた打ち廻った。ふゆーと鳴る音がすると、からだじゅうの肉地が一どきに裂けるような痛みを感じた。怨うらめしげに児太郎を見あげると、その真赤な顔は、百万石の主君の寵愛ちょうあいをほしいままにしているだけ、わけても逆上のぼせ気味で美しかった。振り上げられた二の腕の鮮かな白さが、うめき声を上げながらも、なお執念しゅうねく目に残った。

「弥吉、いたむか。」

鞭を投げ出した児太郎は、そういうと、弥吉を抱き起した。ふしぎな発作のあとの、さらりとした児太郎の顔は、やや蒼褪あおざめ、凄艶せいえんとして震えて見えた。

「お怨うらめしゅうございます。」

弥吉は、あまりと云えば無理な主人だ。いっそ飛び蒐かかって白い喉笛のどぶえを食い切ってやろうかとまで、劇しい忿怒ふんぬにかられていた。

「弥吉、これを見い。」

児太郎は、くるっと脊後うしろ向きになると、肌を脱いでみせた。美しいふた峯の脊すじに、幾すじとない紫色を帯びた鞭の痕あとが、逡巡としてまざまざと残っていた。

弥吉は、一と目みるなり身ぶるいを感じた。そしてうつ向いて泪なみだぐんだ。児太郎は昂奮こうふんしていたが、こんどは落ちついていた。しばらくしてから、弥吉は、顔をあげると、

「もっとお打ち遊ばせ。」

そう微笑んで言った。児太郎は、頭を振って、きゅうに女のように笑うと、強う、弥吉の目をさし覗のぞいた。

「予がからだを自由にせい。よいか。」

児太郎は、寂しげな、しかも慣れた目付をしながら、それが常いつも女のような姿をしつらえているように、立って弥吉の肩をそっと打叩いた。弥吉は静かに女性にみることのできない、いわば歯がゆいような凜りんとした美しい顔をあげた。

「ついて来い。」

児太郎は、そのまま部屋へはいった。間もなく弥吉は、主人の×××××のである。

――弥吉は、それからそれへと考えているうち、児太郎の惨忍な性情が日増しに募っていることが感じられた。鞭打ちなどより、慄毛おぞげの立つような恐ろしい目に会ったりした。が、弥吉には、それが又不思議に、そうされるごとに、却かえって児太郎の美しさを滲しみ込むように体内に感じるのだった。そういう不思議な発作のあるごとに、児太郎の上気した、さっと鮮紅を帯びた頬ほおは、いつも弥吉を恍惚こうこつとさせた。それに何時いつの間にか慣れてしまったせいか、静かにしているときの主人より、凶暴なときの児太郎がかれの総すべてを刺戟しげきしたからである。

弥吉は、髪のほつれをすっかり仕あげると、居睡りをしていた児太郎はうっとり目をさました。

「つい睡って了しまった。ご苦労だった。」

弥吉は、髪道具を前に、きちんと隔って坐って、優しゅう疲れている児太郎の、それゆえなお美しく見える目をみつめていた。いつになく児太郎は上機嫌であった。そういう日は殿宵とのいの首尾もそれと察せられ、弥吉は、とうてい容れられない妬ねたましさに、じりじり心を苛立いらだてていた。

「今宵参っても苦しくないぞ。」

児太郎は、機嫌にまかせ、どうしたら彼ああいう目になるだろうと思われるくらい、艶つややかに光をうるませ、微笑んで自分でうなずいて見せた。が、弥吉は……対手あいてのそういう好意のあり過ぎるときに、ちょいと気持ちが沈んでならなかった。

「いえ、今宵は参りませぬ。ゆるりとお休みあそばせ。」

児太郎は、すぐ顔色を変え、声を尖とがらせたのである。

「なぜ参れないというのだ。匹夫ひっぷのくせに口が過ぎるぞ。」

「いえ、お疲れでございましょうと存じますので。」

弥吉は、恐る恐る、一つには児太郎を休ませるつもりだった。が、児太郎は、すぐ真赤になって怒り出した。

「無礼なことを云う奴だ。殿づとめするのを嫉やきおるか、たわけ。」

弥吉は、そうでない意味を言いあらわそうとすると、額口を扇子でぴしっと打叩かれ、巻きかえし打すえられた。弥吉は、そのまま縁側に手をついたなり、俯向うつむいてしまった。磨きをかけた縁板に、児太郎の小姓袴ばかまの銀縫いの影がちらついていた。口が過ぎたのだ。言わなければよかったと、後悔が正直一図な彼を流涙させた。

「汝等ごとき蛆うじ虫が分に過ぎた言い分だ。弥吉、面を擡あげい。」

「はい。」

児太郎は、そのとき故意わざと声を低め、やや微笑をふくんだ眼眸を弥吉にそそいで言った。

「そちにも予が殿づとめするのを苦しく思うか。」

弥吉は、揶揄からかうつもりで左そういう児太郎であるか、それとも本気でいうのか、確めようと眼をさしのぞいたまま、急には返事をしなかった。

「返事をせい。」

弥吉は、しかたなしに

「左様にございます。」

そう答えた。児太郎は、弥吉の苦しそうにしている眼を、自分が難題を持ちかけたためだと思い、興がった。

「嫉妬しっとの情は人間にあるものだ。そちもそれに駆られて居るのだろう、包まず言うたらよいぞ。」

「いえ、そのようなことは御座いません。」

「では予をそちは思わぬのか。」

児太郎は、また嚇かっとして睨にらまえた。弥吉はどう言っていいか分らなかった。どう言っても歪まげられて了しまうのが何時いつもの言葉癖ゆえ、黙ってうつ向いた。そして低い声で、うつ向いたまま答えた。

「左様なことはございません。御主人様を束の間も忘れたことはございません。」

児太郎は、それきり奥の間へ黙って這入はいってしまった。弥吉はぼんやり坐って、このごろは唯呵責かしゃくと折檻せっかんよりしか児太郎から受けない彼は、なおそこから脱け切れない自分を自分で呪のろうていた。ときには思い切って屋敷をぬけ出そうと心構えしても、やはり未練があった。そう言っても、これ以上勤めることは彼にとって日夜耐えがたい苦痛であったのである。弥吉は、檻おり詰めにされた優しいけだもののように、馴なれるに従って卑屈になっていた。

二

夏が過ぎ、水の澄み工合がきまると、町の諸方から刀研師とぎしが呼び出され、腰の物お手入れが始まりかけていた。児太郎の屋敷でも、あぶら引きを済ましておさめられた刀剣類のなかに、児太郎は、主馬寮しゅめりょうにいる父親がするように、十八歳のかれにしては老人くさいような坐り方をして、焼きと光とから玉走る刃がしらの匂いをかいでいた。

弥吉は、鐙櫃あぶみばこのほこりを鳥毛さいはいで、ぱたぱた払っていた。丸腰の、武家には珍らしい町人腰に前垂れをしめ、新しい手拭てぬぐいをあたまに着けている姿は、どこか、意気で、なよらしげに児太郎にはながめられた。実際、いつも女役のかれにとっては、ふしぎに対手に、×××××××最中は、かえって快感が多かった。弥吉の、何でもない後姿が、習慣のせいか、児太郎を刺戟した。重い刀剣類を朝からいじくり廻したため、手の平のあぶらが柄糸つかいとに吸い取られ、かさかさしているほど、目も疲れ込んでいた。

児太郎は鋭い一本の、研ぎの入った小柄に似たようなものの手入をすましかかったが、その薄手の刃がしらは、ナイフのように、ものの内部に刺し徹とおされる味いを、しらずしらず刺戟していた。

「弥吉。これは何か知っているか。」

児太郎は、その小柄こづかようなものを差し出して見せた。

「馬刺剣でございましょう。そのように思われます。」

「戦場で用立てるものかの。知っているか何どうじゃ。」

「馬斃たおれんとするとき、それを馬の尻につき立てて気附するものでしょう。」

弥吉は、そう答えたとき、なぜか、しまったという気がした。それは、児太郎の目のいろが粗暴な荒れ方をしながら、がちがち震えていたからである。

「よく知っているの。」

そう言って、凝然じっとして見戍みまもっている児太郎は、しだいに、その眼底に髣髴ほうふつする焦燥をありありと燃え立てさせた。弥吉は、からだの竦すくみを感じた。――三角に削り立てられた鋭利な馬刺剣は、四寸くらいの長さで、きらりとキッ先きを、畳の上に向けられ、いまにもぷっつりと畳目にさし徹されるような気がした。

「弥吉、これへ来い。」

その目いろは最早や疑いもなかったため、弥吉は、鐙櫃に、にわかにさいはいを入れはじめた。

「これを済してから参ることにいたしとうございます。最早、日脚もあの通りでございますから……。」

庭後の、植込みのあたまにうすら日がちらついたまま、間もなくその影をおさめようとしてい、踏石のまわりの土もいくらか夕湿りを催しかけ、褐色に沈んで見えた。

「いや、ならん。これへ来いと申したら来い。」

弥吉は、震えた。が、つぎの瞬間には、児太郎は、大きな弥吉のからだを羽掻はがい責めに抱きすくめ、馬刺剣は、その×××××××られた。弥吉が、小さい叫び声をあげたときには、児太郎は、馬刺剣を拭きながら立っていた。

弥吉は、つッ伏していたが、控え部屋へ手当をしに立って行った。一言も言わなかった。

児太郎は、蒼あおざめた顔をゆがめ、悪いことをしたときの窮屈な冷笑をうかべながら、馬刺剣を庭木の肌を目がけ投げつけた。李すもものいらいらした肌にぴいんと立ち、蜻蛉かげろうのように震え、やがて停った。児太郎は、病的にちかい目と手つきとから静まって、冷たい縁側にぺたりと坐った。弥吉は、とうとう来なかった。虫がひいひい啼ないている、あたりは暮れかけはじめていた。

「なぜ其方そちは逃げ出したのだ。それほど痛むか。」

児太郎は、ふたたび弥吉が部屋へはいってきたとき、そう言いながら、顔を歪ゆがめている弥吉を見戍った。その顔は卑屈にしびれ切って、眼底に微かすかな反抗がうずまいていた。

「無調法をお目に停らせると恐れ入りまするので、あちらへ参りましたのでございます。」

「ふむ。」

児太郎は、それきり何にも言わなかった。頭が静まると、次第に自分のしたことに、いつものような後悔が募り出すのを感じたのである。

「痛むか。」

「いえ。」

弥吉は、わざと元気に立ち働いて、部屋じゅうに散らばった物を片附けはじめた。が、ときどき苦しそうに腰部をさすりながら、児太郎を偸ぬすみ見た。その目の底に燃えるような憎念がたぎりぎらついていた。

「其方そのほう、斯様かような目に遭って無念に思わぬかな。」

「すこしも思いませぬ、よく御存じ上げて居りますから。」

「では、予が為することを先き以って存じていると言うのだな。」

「何となく感づくことがございます。」

そういう弥吉の目には、測り知れない例の憎念が、微笑んでいるに拘かかわらず、児太郎の目に停らぬ程度で現われていたのである。とうてい叶かなわない諦あきらめもあったが、それにしては消えがたい底強い光が潜んでいたのである。

「弥吉、殿勤めはつらいぞ。」

児太郎は、左そういうと後悔の念いを今はハッキリと面にあらわした。弥吉は、黙ってうつむいていた。

三

そのうち不思議にも、児太郎の乱行は、ぱたりと止やんだ。そのかわり殿宵の勤め泊りの声も、おかみからは下りなかった。夜は、ほの暗い行燈と虫声の繁い屋敷うちに、児太郎は端然と寂しく坐っていた。弥吉は、それを知ってから、なるべく児太郎に顔を合さぬようにした。

弥吉は、鞍ヶ岳の池のまわりで、そよりと立った鷹狩の、児太郎の可憐かれんな姿を、いまは何処どこにもみることができないのに気が附いた。ふしぎにお小姓は、長くて三年の器量といわれているだけに、もう児太郎の顔容は、その目つきばかりでなく、コワそうなうす青い髭ひげの芽生えからも落ちかかっていた。その何よりも荒れ沈んだ眼底には、しおらしゅう匂う色艶がいつの間にか掻かき消されていたのである。弥吉は、そういう児太郎の沈んだ姿を、下座敷のなかに、夜はいつも何ごとをか考え込んでいるのも見た。それと同時にふしぎに弥吉の心にも、何となく児太郎を慕う気が起らなくなっていた。呵責と折檻とから放されたような彼にとって、思いしずんでいる主人を時にはこころ宜よいまで復讐的な気分でながめていたのである。

或る晩、髪を上げてくれるようとのことで、弥吉は、そのうしろに立ち、鏡立てをした児太郎が静かに心沈むという風に、それを覗のぞき込んでいるのを、例によって、むしろ投げ遣やりな気もちでながめた。

「お上からのお召しも遠いようでございますのは、心がかりに思います。」

弥吉は、そう多少皮肉な気分で言って、しずかに髪の地に櫛くしをいれた。

「いや、そのうちにあろう。上は忙しくあらせられるからの。」

児太郎は、新参の大隅という、二つ年下の、鶯うぐいすのような声音こわねをしている小姓仲間を思い出した。それの出仕と同時に自分への沙汰のなくなったことを考えると、なよらしゅう立働いている大隅が憎くてならなかった。

「弥吉、そちは大隅をみたことがあるかどうだ。」

弥吉は、瘠やせてはいるが、今小姓仲間の孔雀くじゃくといわれている大隅を、そう言われて急に思い出した。なぜか児太郎とくらべものにならない気がした。

「ぞんじて居ります。」

「予といずれが際立ち居るか。つつまず申して呉くれ。」

弥吉は、すぐ返事ができなかった。そのため、立鏡にうつる自分の顔をわざと鏡の外側へずらせた。が、そのとき児太郎はそれを素早く見つけた。

「どうじゃ。」

「はい。」

児太郎は、その隙間すきまにぐさりと突き込んで言い放った。

「予の方が劣るか。」

弥吉は、こう言い乗せられると、益々ますますあわてて吃どもって、あいにく、喉のど絡まりをした声がかすれて出なかった。

児太郎は、立鏡を足で蹴り上げた。裏切りものめ、そう叫んだ児太郎は、髢かもじにかけた弥吉の手をとると、いきなり庭さきへ叩たたきつけた。起上ろうとするのを上から乗り寄せ、丁々と額ひたいを打った。弥吉は、唇を噛かみしだきながらも、手向いをしなかった。そして正面から児太郎の顔をゆっくり凝視みつめ、冷えわたるような笑みを漏もらした。

「児太郎様にくらべると、大隅さまはずっと立派に居られます。」

児太郎は、身うごきもせず、そう大胆に言い退のける弥吉の顔をむしろ呆然ぼうぜんとながめた。その口惜しさは一どきに頭を混乱させ逆上させた。はんたいに気持ちは落ちつき返っていた。

「そちでも左そう思うか。」

「はい。」

弥吉は、そのときどういう酷ひどい目に遭うかわからないと思ったが、却かえって冷然としている主人をみると、自分があまり急所を衝つきすぎたような気もした、一面から凋しおれている児太郎にたいする日頃の鬱憤うっぷんがいくらかずつ晴れてゆくのを快よく感じた。

「部屋へ下ってようございますか。」

曾かつて然そう言い出したことのない弥吉を、児太郎は自身にひきあてて、悲しげに打棄うちすてるような調子でしりぞけた。――弥吉は、部屋へかえると、通しをかけてあった大隅への奉公口の返事を、口入くちいれ業のある町家まちやをさして出かけて聞きに行った。どうせ浮いた髪結業だ。それにこの屋敷にいる気がしなかったからであった。

翌朝、弥吉が暇乞いに出かけると、児太郎は、黙って、それを許した。そのとき主人は最早や稚児袴を着けずに、わざとらしく鉄扇を持ち、座敷に坐り込んでいた。弥吉は、冷笑をふくんで、児太郎の屋敷を立ち出でた。

底本 / Source edition

底本:「書物の王国※[#丸8、1-13-8] 美少年」国書刊行会
1997(平成9)年10月15日初版第1刷発行
底本の親本:「室生犀星未刊行作品集1」三弥井書店
1986(昭和61)年
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:川山隆
校正:岡村和彦
2014年5月14日作成
2014年11月15日修正
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TEI
/works/055136_001579/tei
プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
/works/055136_001579/

室生 犀星「お小姓児太郎」(新字新仮名)、底本『書物の王国8 美少年』国書刊行会、1997年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 055136_001579, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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