Soranoha

織部という陶器

おりべというとうき

北大路 魯山人

私の独断によると、織部という陶器は、古田織部という茶人の意匠及び発明に始まるものではない。

古田織部より以前に、織部という陶器は産れておったのだ。もっとも、その当時は織部という名称はなかったろうから、なんとか外の名を言っていたのであろう。今日織部と言いならすところの陶器は、利休時代に有名であった古田織部が、やかましく好んだところから、遂に織部という名を成したのであろう。

織部という陶器を説明すると、それは素朴な絵を描いた陶器であって、それに萌黄色の釉が所々に付けられている純日本風のものである。中国にも朝鮮にも前例のないところのものである。そこで、この陶器に古田織部が感心して宣伝につとめたのであろう。

世間では織部の絵は、古田織部が子どもに描かせて、その幼稚な絵を瀬戸物にうつしたのだと言っているが、そんなこともあったかも知れないが、我々が初期織部と思うところの、所謂織部の絵は、その意匠千変万化して実に立派な意匠であると同時に、立派な絵であるとも言える。到底子どもの絵ではなく、概して写生画が多い。網を張ったところに、鳥の飛んでいる絵がある。これはこの陶器の生まれた美濃の山中で網を張って、鵜を獲るところを、写生したのであろう。また、草花を写生したのが最も多い。その他、手当り次第に目前に見るところのものを写していると同時に、得体の知れない全く人の意表に出ているものが図案の半ばを占めて、大いなる特色を発揮している。一見して徳川末期に産れた織部模様などとは、全然気の違うところのものが多い。土の作行もその通りである。

初期織部というものは、非常に精作なものであって、徳川末期に産れた織部のような杜撰な下品なものではない。織部の特色は、器体の精作なる点と、絵のうまいことと、絵が生でなくよく図案化されていること、写生がそのままでなく、よく省略されていること、そこに草色の丹礬釉がかかっていることである。そうして、純日本の香りの高いことなどが異彩であって、その類例が世界の何処にもないこと……などの状態によって、人がやかましく言うようになった。

しかし、徳川末期に織部を模倣する人が、勘違いをしたために、ずいぶんくだらない織部を生んだ。そこで鑑賞家の方にも誤認が出来て、織部というものは、くだらないやすっぽいものだと考えるに至った向きもある。

そういうふうに、今の一部の鑑賞家をして誤認せしめたが、元来、織部の織部たる所以のものは、遠く足利から織豊時代に産れているのであって、精作であり、鈍重であり、且つ温柔であり、しかも非常に雅味なものであって、絵唐津の色を美しくしたと見るべきものである。全く絵唐津を美しくしたものだと思えばいい。絵唐津のよさは、渋すぎて初学者にはわかりにくいが、織部の方は絵の種類も非常に多いし、青いところと白いところが美しく光っているので、言わば初学者にでも親しめるところのものだ。

この陶器は、瀬戸で産れていることだけは、従来から認識されて居ったが、その窯跡が発見されたのは、今から一年ばかり前(昭和五年頃)のことである。その窯跡から様様な破片が出た。それによって、初期織部の総ての作品を見ることが出来た。それには、今日まで我々の見たことのないものがたくさんあった。(昭和六年)

底本 / Source edition

底本:「魯山人陶説」中公文庫、中央公論新社
1992(平成4)年5月10日初版発行
2008(平成20)年11月25日12刷発行
底本の親本:「魯山人陶説」東京書房社
1975(昭和50)年3月
入力:門田裕志
校正:木下聡
2018年6月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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書誌 / Bibliography
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北大路 魯山人「織部という陶器」(新字新仮名)、底本『魯山人陶説』中公文庫、中央公論新社、1992年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 055070_001403, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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