Soranoha

納豆の茶漬け

なっとうのちゃづけ

北大路 魯山人

納豆の茶漬けは意想外に美味いものである。しかも、ほとんど人の知らないところである。食通間といえども、これを知る人は意外に少ない。と言って、私の発明したものではないが、世上これを知らないのはふしぎである。

納豆の拵え方

ここでいう納豆の拵こしらえ方とは、ねり方のことである。このねり方がまずいと、納豆の味が出ない。納豆を器に出して、それになにも加えないで、そのまま、二本の箸でよくねりまぜる。そうすると、納豆の糸が多くなる。蓮から出る糸のようなものがふえて来て、かたくて練りにくくなって来る。この糸を出せば出すほど納豆は美味くなるのであるから、不精をしないで、また手間を惜しまず、極力ねりかえすべきである。

かたく練り上げたら、醤油を数滴落としてまた練るのである。また醤油数滴を落として練る。要するにほんの少しずつ醤油をかけては、ねることを繰り返し、糸のすがたがなくなってどろどろになった納豆に、辛子を入れてよく攪拌する。この時、好みによって薬味(ねぎのみじん切り)を少量混和すると、一段と味が強くなって美味い。茶漬けであってもなくても、納豆はこうして食べるべきものである。

最初から醤油を入れてねるようなやり方は、下手なやり方である。納豆食いで通がる人は、醤油の代りに生塩を用いる。納豆に塩を用いるのは、さっぱりして確かに好ましいものである。しかし、一般にはふつうの醤油を入れる方が無難なものが出来上がるであろう。

お茶潰けのやり方

そこで以上のように出来上がったものを、まぐろの茶漬けなどと同様に、茶碗に飯を少量盛った上へ、適当にのせる。納豆の場合は、とりわけ熱飯がよい。煎茶をかけ、納豆に混和した醤油で塩加減が足りなければ、飯の上に醤油を数滴たらすのもいい。最初から納豆の茶漬けのためにねる時は、はじめから醤油を余計まぜた方がいい。元来、いい味わいを持つ納豆に対して、化学調味料を加えたりするのは好ましいやり方ではない。そうして飯の中に入れる納豆の量は、飯の四分の一程度がもっとも美味しい。納豆は少なきに過ぎては味がわるく、多きに過ぎては口の中でうるさくて食べにくい。

これはたやすいやり方で、簡単にできるものである。早速、秋の好ましいたべものとして、口福を満たさるべきではなかろうか。

納豆のよしあし

納豆には美味いものと不味いものとある。不味いのは、ねっても糸をひかないで、ざくざくとしている。それは納豆として充分に発酵していない未熟な品である。糸をひかずに豆がざくざくぽくぽくしている。充分にかもされている納豆は、豆の質がこまかく、豆がねちねちしていないものは、手をいかに下すとも救い難いものである。だから、糸をひかない納豆は食べられない。一番美味いのは、仙台、水戸などの小粒の納豆である。神田で有名な大粒の納豆も美味い。しかし、昔のように美味くなくなったのは遺憾である。豆が多くて、素人目にはよい納豆にはなっているが。

(昭和七年)

底本 / Source edition

底本:「魯山人味道」中公文庫、中央公論社
1980(昭和55)年4月10日初版発行
1995(平成7)年6月18日改版発行
2008(平成20)年5月15日改版14刷発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2012年10月13日作成
青空文庫作成ファイル:
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書誌 / Bibliography
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北大路 魯山人「納豆の茶漬け」(新字新仮名)、底本『魯山人味道』中公文庫、中央公論社、1980年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 054975_001403, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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