南欧の夜の更け行けば

空には清き星の数

銀河の影もたなびきて

風は香りて薫ばしき

月は折しも青く冴え

波も静けき海原に

俄に殺気みなぎりて

なびく異国の旗の影

沖の鴎も怪みて

水の上遠く飛び行けば

羽ばたきに散る水煙

銀月ゆらぐ春の海

<ruby><rb>東雲</rb><rt>シノノメ</rt></ruby>の空月落ちて

残星光失へば

彼方に霞む紅の

雲を破って朝の風

天気に響く万歳に

馬に鞭あて英雄の

後に残すや砂煙

パリをさして急ぎ行く

暗雲低くたなびきて

雨濛々と降りしきり

彼方此方に旗の影

殺気<ruby><rb>漲</rb><rt>ミナギ</rt></ruby>るワーテルロ

戦既におさまりて

屍積みし山の跡

流るゝ血汐河をなし

月物すごく照らすなり

沈み果てぬる勢は

西に傾く夕陽の

進退こゝに<ruby><rb>谷</rb><rt>キハ</rt></ruby>まりて

身を其艦に託したり

艦は次第に沖の浪

いよ〱高くセーヌ湾

おゝ紫の山影よ

おゝ緑なる島の影

なつかしの国フランスよ

我は南の島守に

いざ永しへに別れなん

噫々我が祖国いざさらば

天を仰げど答ふなし

海に叫べど云ふ非ず

まぶたを伝ふ一雫

彼の心や如何ならむ

山は次第にうすれ行き

夜のとばりはフランスの

姿をやがて隠したり

白波の音も悲しげに

見る〱空はかきくもり

月は雲間に消え行きて

空に星なく海暗く

天も悲しむ<ruby><rb>夜半</rb><rt>ヨハ</rt></ruby>嵐

月日は巡る小車の

しづのおだまきくりかへし

春は七度来れ共

セントヘレナに春ならず

さすが千古の英雄も

<ruby><rb>末期</rb><rt>マツゴ</rt></ruby>の風に敵しかね

諸行無常の鐘の音と

共に散りしぞあはれなる

雷鳴空にとゞろきて

波ごう〱とすさまじく

風雨天地にあれ狂ひ

<ruby><rb>鬼哭</rb><rt>キコク</rt></ruby>しう〱空暗し

（大正十三・一・七）