Soranoha

市立共同宿泊所

しりつきょうどうしゅくはくじょ

大江 鉄麿

とさつ場のようにむんむんとしたいきれ、悪臭がふんと鼻したにたれてくる。

ひとつひとつの寝台が継歯のように波立っている。

堂々と街ののど笛に背筋を暗く震わしている鉄筋コンクリトの四階建。

まるで寄生蟹のように茶溜小屋でうごめいている宿泊人の群、

どぶ酒くらったずくさい息をはきながら

遠く北海道の釧路のかんごく部屋からにげてきたという北海熊、朝鮮のはしから渡ってきた韓、十二のとしに九州から売られ歩いてきたやもめ源、白いめしが食えねえで津軽から追われてきた勝おじい

いたるところの郷々くにぐにからこの街へ裸一貫で流れ踏んでゆくおとこたち。

どろどろととけたように空気のしめった部屋

十しょくの光りが冷めたそうにおとこたちの胸板をてらしている

なかみのこみでたせんべ布団

ぎしぎしと骨をつきさすように鳴る寝台

じみじみとうごいて、とまりもののからだにくらいついて血をすすっているしらみ、

おちおちと朝までねいられない新米ども、

ここを根じろにしている市井のごろつきども。

火のような市街をよそにしんしんとした夜が共同宿泊所をつつむ

うつふせ死んだようにねいっているおとこたち

部屋部屋にメタンガスのような体臭を嗅ぎ、

薄っぽい乳汁のようないびきが、萎びたからだにおのれの心臓にきびしくうちたたきながら。

氷のかちかち凍ったくろい三百のあたま。

――今こよいもあそこに寝ているだろう友山本敏男におくる――

(一九三五年一月十日作 『詩精神』同年四月号に発表 一九三六年一月前奏社刊『一九三五年詩集』を底本)

底本 / Source edition

底本:「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)」新日本出版社
1987(昭和62)年6月30日初版
底本の親本:「一九三五年詩集」前奏社
1936(昭和11)年1月
初出:「詩精神」
1935(昭和10)年4月号
※本文末の編者による注記は省略しました。
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年5月25日作成
青空文庫作成ファイル:
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書誌 / Bibliography
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大江 鉄麿「市立共同宿泊所」(新字新仮名)、底本『日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)』新日本出版社、1987年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 054080_001632, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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